【完結】色づく想ひ    作:ワンダーS

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どうも、作者です。


個別:大神 26

 イヅモ神社にてミオとセツカが二人で暮らし始めてしばらくの時間が経過した。

 

 この頃にもなるとミオはセツカからイワレの制御、ワザの扱い方について学ぶことが多くなり、それと同時に割烹着を着た狐顔のシキガミからは家事を学び、ミオはめきめきとその能力を向上させていた。

 

 そして、とある日。

 ミオはセツカの前で身に着けたばかりのワザを披露しに神社の広間に来ていた。

 

 『…じゃあ、始めるね。』

 

 緊張した面持ちで、ミオは光り輝く水晶玉へとその手をかざす。

 

 ミオが現在実践しようとしているのは、占星術。

 極めれば未来を見る事すら出来る、扱いの難度で言えばイワレによるワザの中でも最上位に位置するそれを、ミオは今実践する。

 

 そんな柔らかな光に包まれるミオを、セツカはつぶさに見つめる。

 

 やがてワザの完了を告げる様に光が収まり、それを確認したミオは短く息を吐く。そして、その顔にやり切ったという笑みを浮かべた。

 

 『やった!

  せっちゃん、成功したよ!』

 

 『うむ、その様であるな。』

 

 歓喜の感情を爆発させている様子を見て、セツカもまた嬉しそうに頬を緩ませる。

 

 『それにしても、ミオ。 

  主、相変わらず呑み込みが早いのう。』

 

 というのも、セツカとて最初から万能であったわけでは無く、少しずつ身につけていった結果である。

 そんなセツカの習得スピードよりも遥かに速くミオは占星術を習得して見せた。

 

 生来の相性もあるのだろうが、これもミオの潜在能力の表れでもあるのだろう。

 

 『せっちゃんの教え方が上手なだけだよ。

  ウチ一人だったら、多分ここまで来るのにも苦労したと思うし。』

 

 『そう言ってくれると嬉しいがの。』

 

 すこし照れたように言いながら、セツカは改めてミオへ視線を向ける。

 成長した娘の姿に感慨深さを感じるとともに、けれどまだ足りないと感じる。

 

 セツカがミオにイワレについて学ばせているのも、ミオ本人の希望というよりかはセツカから誘っての事が多い。勿論、ミオ自身興味があるためそれを断ったことは無い。

 それは、これから先必要な力を身に着けてほしいというセツカの想いの表れでもあった。

 

 ミオは確実にカミへと至る。 

 それは出会った際、彼女を一目見た時点でセツカは確信していた。

 

 カミへ至るとは、決して良いことばかりではない。

 相応のリスク、業を背負うとも同義である。

 

 その中を生き抜くには、まだ足りないのだ。

 

 『んー、ウチ少し疲れちゃった。

  ちょっと部屋で休んでるね。』

 

 言いながら、ミオは体をほぐすように伸びをする。

 習得したと言ってもまだ使い慣れないワザだ、その分集中力も必要となる。

 

 『そうじゃな、体を休めることも大切じゃ。

  ゆっくりするのじゃぞ。』

 

 ぱたぱたと手を振るセツカに、ミオもまたそれを返しながら自室へと向かう。

 

 『…あれ?』

 

 自室に入ったところで、違和感に気が付きミオはそんな声を上げる。

 その視線は部屋にある机の上へと注がれていた。

 

 そこには出した覚えのないタロットカードが一枚だけ置いてあった。

 

 『片づけ忘れたのかな…。』

 

 いつの間にか置いていたのだろうかと、疑問に思いつつもミオはそれを仕舞おうとタロットを手に取った。

 

 『あ…。』

 

 タロットへと手が触れた瞬間、ミオへ触れた指先から膨大な情報が流れ込む。

 

 これから自らが辿る結末。

 それまでの残り時間。

 

 それら全てを強制的に理解させられる。

 

 『これ…ウチの…。』

 

 愕然とした様子で、ミオは断片的に呟く。

 当然だ、唐突にお前はこうなるのだと運命を突きつけられたのだから。

 

 呆然とするミオ。

 その手に握られたタロットには、不気味な死神が描かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 (満月の日まで、残り7日。)

 

 

 「やぁ、ミオさんや。

  今日も良い天気でございますね。」

 

 「…。」

 

 宿の一階の広間にて、椅子に座っているミオさんに気さくに声を掛けたつもりなのだが、彼女はぽかんととこちらを無言で見つめてくる。

 

 気まずい沈黙が、一瞬場を支配した。

 

 「…透君、恥ずかしいのは分かるけど、それでどうしていつも変な口調になるの?」

 

 「いや、途中までは呼び捨てにしようとはするんだけど、直前になるとやっぱり緊張して変な方向に逸れるんだ。」

 

 心の底から不思議そうに聞いてくる大神に、素に戻って理由を説明する。

 

 流石に大神も名前呼びされることに慣れてきたようで、初日に比べて落ち着いたものである。

 問題があるとすればこちらの方で。

 

 まだ自分の中で完璧には適応できておらず、けれど名前呼びに変えようとして、最初の一回はどうしても中途半端になってしまっている。

 

 「というか大神が…。」

 

 「ミーオ。」

 

 ツンとそう呼ばないと返事はしないとばかりに顔を背ける大神、もといミオに一瞬言葉を止めて、再度口を開く。

 

 「…ミオが適応早すぎるんだよ。

  違和感とか無いのか?俺に名前呼びされて。」

 

 問われたミオはふと考え込むように顎に指を当てた。

 

 「うーん、どうだろ。

  違和感というよりは嬉しいが大きいかも。なんだか距離が近くなった気がするし。」

 

 「その適応力が心底羨ましいよ。」

 

 それに比べて、どうして自分はすんなりと名前の一つ気楽に呼ぶことが出来ないのだろう。

 ただ、まぁ、一度呼んでしまえばこちらのものだ。

 

 「それで、ミオは何してたんだ?」

 

 今度は先ほどのような変な口調になる事も無く、いつも通りにミオへと話しかける。

 見た所神狐の姿も無いようだし、一人でずっと座っていたようだ。

 

 「ウチ…ちょっと昔の事を思い返してたの。」

 

 「昔の…。」

 

 思わぬ答えに、少々驚いた。

 

 「あ、昔って言ってもせっちゃんと二人でここに暮らし始めてからの事だよ。」

 

 そんな俺の様子を見て、ミオは語弊がある事に気が付いたようですぐに捕捉を入れる。

 

 「なんだ、そっちか。

  てっきり思い出せるようになったのかと思った。」

 

 「うん、それより前は今でもさっぱり。」

 

 ミオ自身思い出せるのならば思い出したいと思っているようなのだが、やはり一度話を聞いたくらいで蘇るほど現実は生易しいものでは無いようだ。

 

 「ウチが思い出せたら、せっちゃんとも話せるのにな…。」

 

 「それは…、いや、そうだな。」

 

 仕方のないこと。

 無論、ミオとてそれは分かっている。

 

 だから、ここで必要なのは下手な慰めの言葉ではないだろう。

 

 「というか、その神狐は何処に行ったんだ?」

 

 話題を切り替えつつ、先ほどから気になっていたことを問いかける。

 

 最近では、元々姿をくらませがちだった神狐も朝夕に限らず基本的にはミオの傍にいることが多くなっていた。

 それも有り、先ほどミオが一人でいるところを見かけて不思議に思ったのだ。

 

 「せっちゃん?

  それがウチも朝から見かけてなくて。」

 

 「あれ、ミオも知らないのか。」

 

 そうなると余計に神狐の行方が気にかかってしまう。

 

 もしかすると神狐本人の調整をしているのかもしれない。

 自分は例外的な存在だと彼女も言っていたし、何かしら行動に制限がかかっていてもおかしくは無い。

 

 「あ…。」

 

 思考に更けていた所、不意に聞こえてきた声に顔を上げる。

 

 すると、ミオが宿の入り口の方を見ているのが目に入る。

 その視線を辿るように目を向けて見れば、その先にはふよふよと宙を浮きながらこちらに近づいてきている神狐の姿があった。

 

 視線に気が付いた神狐はそのままパタパタと手を振ってくる。

 ただ、一つ注目するとすればそんな彼女と一緒に宙を浮いている一着のメイド服だ。

 

 「あのメイド服、透君が着てたやつだよね。」

 

 「…そうだな。」

 

 にこやかなミオとは対照的に、自らの頬が引きつるのを感じる。

 

 あのメイド服には良い記憶は無い。

 というか、自分の中では消し去りたい過去に分類されている。

 

 いわゆる黒歴史である。

 その権化ともいえるそれを、神狐は無情にも運んできた。

 

 「透よ。

  気持ちは分からんでもないが、もう少し感情を隠してはどうかの?」

 

 「ニヤつきながら言われてもな。

  そっくりそのまま返すぞ。」

  

 心底愉快そうにしている神狐は動じる様子も無く、気分良さげに小さく喉を鳴らす。

 

 「せっちゃん、急にメイド服なんて持ってきてどうかしたの?」

 

 そんな神狐へとミオはぽかんとして問いを投げかける。

 それは至極全うな問いの筈なのだが、神狐のやる事だからと受け入れそうになっている自分がいることに驚いた。

 

 宙を漂っていた神狐はふわりと、着地と言っても良いのか、地に足を付ける。

 

 「うむ、これを主らに譲ろうと思っての。

  透にはサイズがあっておるし、丁度良いと思ったのじゃ。」

 

 「えぇ…。」

 

 笑顔で言う神狐に、心の底からの本音が零れる。

 

 有難迷惑とは正にこの事だ。

 表情にも表れているのだろう、神狐の笑みがより一層深まった。

 

 そしてもう一人、ミオもまたその顔をぱっと輝かせていた。

 

 「確かに、透君似合ってたもんね。」

 

 「「…。」」

 

 手を音を立てて合わせるミオだがそれに賛同する声は上がらず、俺と神狐は揃って黙り込んだ。

 先ほどまでニコニコだったはずの神狐も、今は何とも言えない表情で顔を背けている。

 

 「ね、透君。また着てみない?

  ウチもう一回透君のメイド服姿見てみたい。」

 

 「着るって…俺がか!?」

 

 唐突の提案に思わず声を上げる。

 

 着るつもりなど毛頭ない。

 前回着用した際に決めたのだ。二度とこのメイド服には袖を通すまいと。

 

 とはいえ、ミオもそこまで強引に着せようとはしないだろう。

 申し訳ないが、ここはハッキリと断って…。

 

 そう考えてミオの方を真っ直ぐと見れば、彼女の上目遣いの瞳と視線が交差する。

 

 「…だめ?」

 

 断って…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「…主、つくづく損な性格をしておるのう。」

 

 「言わないでくれ…。

  自分でも分かってるから。」

 

 ひらめくフリフリなスカートの通気性を感じながら、同情の視線を向けてくる神狐に沈んだ声でそれだけ返す。

 

 結局、想い人の懇願には勝てなかったという事だ。

 

 嬉しそうにこちらを見てくるミオの姿。 

 彼女が楽しんでくれているのなら、それで良い。

 

 「わー、やっぱり透君可愛い。

  普段からこの格好でも良いと思うのに…。」

 

 「それだけは勘弁してください…。」

 

 とはいえ、物事には限度がある。

 うっとりとメイド服を身に纏った俺の姿を見るミオに、顔が強張るのが分かる。

 

 仮に、この姿を白上や百鬼に披露したとしよう。

 彼女らの反応こそ、想像に難くない。

 

 まず白上だ。

 半日くらい笑い転げた挙句に、最後に気を使って似合ってますよとぬかすに違いない。

 

 次に百鬼。

 こっちは一日笑い転げて、その後ひと月は尾を引きそうだ。顔を合わすたびに噴き出すことだろう。

 

 何が言いたいかと言えば、総じて笑いものにされるだけだ。

 ついでに正気度も削られるおまけ付き。

 

 土下座をする勢いで許しを請うが、ミオは本気にしてしまいそうで怖い。

 

 「ほほっ、似合っておるぞ透よ。」

 

 「そう思うならちゃんと目を見て言ってみろよ。」

 

 顔を背けながら棒読みで心にも無いことを言う神狐に恨めし気に視線を向ければ、下手な口笛を吹いて誤魔化そうとしている。

 

 元はと言えば神狐が掘り返したのが悪い。

 このメイド服さえなければこんな事には…。

 

 「…というか、このメイド服。

  もしかして昔の神狐のか?」

 

 「そうじゃよ?

  言ったであろう、昔の妾はスタイル抜群じゃったのじゃ。」

 

 不意に思いついて聞いてみれば、神狐はあっさりと肯定した。

 

 前々から疑問ではあったのだ、昔に大神の為に作り置きしておくのなら、現在の大神に合わせて作った方が良いのでは無いかと。

 なら、元々誰かの持ち物であったと考える方が自然だ。

 

 そして神狐がよくメイド服を着ているのは前から知っているし、昔の話を合わせて考えるとそう結論づく。

 

 「そっか、せっちゃん、透君と同じくらいだったんだ…。」

 

 そう呟くと、ミオは自分と比べる様にこちらに視線を向ける。

 それを聞いた神狐は自慢げにその胸を張る。

 

 「うむ、身長は高い方だったのじゃよ。

  おかげで誰も妾を見失うことはなかったはずじゃ。」

 

 「それ、身長よりはその他の要素が大きくないか?」

 

 神狐の容姿は、恐らくカクリヨにおいてもそうお目にかかるものでもないだろう。

 複数本の尻尾を持つというだけで見た目のインパクトは十分だ。

 

 神狐の背に揺れる二本に減った尻尾を見ていると、不意にミオがその動きを止めていることに気が付く。

 

 「ミオ?」

 

 「え…?

  あ、透君、どうしたの?」

 

 声を掛けてみれば不意を突かれたように呆然とこちらを見るミオだったが、すぐにはっとすると取り繕うように笑顔を浮かべる。

 

 「いや、ボーっとしてたから気になってな。」

 

 「あー、あははっ。

  ごめんごめん、ちょっと考え事してた。」

 

 考え事。

 流石にここまでわかり易ければ、何となく何を考えていたのか察しは付く。

 

 「まぁ、今となってはミオとの視点の違いは逆転してしまったのう。」

 

 そう言う神狐は感慨深げに頷いている。

 

 昔はミオが見上げて、神狐は見下ろして。

 今は神狐が見上げて、ミオが見下ろしている。

 

 ミオからしてみれば、神狐に比べて実感の湧かない話だろう。

 けれど、視点の変化は十二分に理解できている筈だ。

 

 そうでなければ、こんなに寂しそうな表情は浮かべない。

 

 「…大きくなったの、ミオ。」

 

 「…うん。」

 

 優し気に細められた神狐の瞳。

 それを受けて、ミオの手にぎゅっと力が込められた。

 

 「…あー、しんみりしてるとこ悪いんだが。

  そろそろ着替えてきても良いか?」

 

 お忘れかもしれないが、現在俺が身に纏っているのは普段着ではなくメイド服である。

 そんな最中、こんなに真剣な話をされては自分の場違い感に押しつぶされてしまいそうになる。

 

 二人もそれに気が付いたようで、思わずといった形で同時に噴き出した。

 

 「くくっ、そうじゃな。

  隣にそんな姿のものがおっては、おちおち感傷にも浸れぬのじゃ。」

 

 「ふふっ、透君着替えたら駄目だよ?

  今日は一日それで過ごしてもらうんだから。」

 

 「それ本気で言ってるのか…?」

 

 ミオからのまさかの延長宣言に戦慄が体を駆け巡る。

 一日これで居ろと言うのか。

 

 そんなことしてみろ、正気度が底をついて抜け出せなくなってしまう。

 

 「ウチは本気だよ?

  ずっと見てたいくらいだもん。」

 

 「ミオ、考え直すのじゃ。

  妾とて、これは直視に堪えぬ。」

 

 「おい。」

 

 天と地ほど対照的な意見だ。

 しかも味方側である筈の神狐からの言われようの方が散々なのは何故なのだろう、釈然としない。

 

 「もう、何で分かってくれないの?」

 

 「妾も分かってやりたいのじゃが…、感性の違いばかりは如何にものう。」

 

 ぷんすかと頬を膨らませるミオに対して、頭を悩ませる神狐。

 一応本人が隣にいることを分かっての言葉なのだろうか。一切容赦が感じられない。

 

 しかし、それを除いてしまえば神狐とは利害が一致している。

 

 「悪い、ミオ。

  こればっかりは俺も神狐と同意見だ。」

  

 「そっか…、透君、可愛いのに…。」

 

 心底残念そうにしているミオだが、流石にこればかりは同意できなかった。

 というか同意してしまうといよいよ透ちゃんになってしまう。

 

 ミオも何とか次の機会にと諦めてくれたようで、この場での一日メイド服からの逃走に成功する。

 

 「じゃあ着替えてくるから。」

 

 「はーい…。」

 

 少し不服そうな声を上げるミオ。

 そんな彼女に神狐と共に思わず笑みを浮かべつつ、俺は脱衣所へと向かう。

 

 足を踏み出す寸前、大神はおもむろに近くまで寄ってきた。

 

 「ありがと、透君。」

 

 「…ん。」

 

 小声で伝えられた言葉にそうとだけ返しつつ、足を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 





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