MTG:Realize   作:四季永

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決闘は遊戯にあらず

 対峙する二人のプレイヤー、もといリアライザーの周囲には、部外者の干渉を遮る為に特殊な障壁が発生する。さながらそのシステムは、古来の命を懸けた決闘のようだ。

「さーて、場は整ったみてーだな。こうやって勝負を挑んできたって事は・・・覚悟は出来てんだろーな」

「余裕ぶるのも大概だな。こちら側が告げたい言葉だというのに」

「・・オッケー、お前が先攻だ。見せてやるよ、レベルの違いって奴を」

『Game Start!!』

 

MTG:Realize

第2話

『決闘は遊戯にあらず』

 

 

 ターン1、空舞先攻。

「ならば行かせてもらおうか、と言いたい所だが、」

 空舞、土地カード『森』を配置。土地カードは、ゲーム中で役割を果たす呪文カード使用する際、必要となるエネルギー『マナ』を生み出す為に必要な、基礎となるカードである。

「っ! 何だあれ!?」

「落ち着きな、初基少年。リアライザー同士のゲームはカードの力が具現化する、それはただの土地だって例外じゃねえ」

 カードのイラスト通りの『森』が、空間の中に生い茂る。それは立体映像の様な見せかけの類ではなく、木々の香りや熱を感じ、感触も存在する。

「どうも引きが惜しいな、これでターンは終了だ」

 火弥後攻。

「なーんだ、クリーチャーは出さずじまいか。じゃあ先手を打たせてもらうぜ」

 火弥、土地カード『森』を配置。この森から緑のマナを1つ発生。

「頼むぜ一番手っ、『ラノワールのエルフ』!」

 マナにより、クリーチャーカード『ラノワールのエルフ』を召喚。クリーチャーカードとは、マナによって呼び出されるプレイヤーの僕。ゲーム内の攻防において基本的な役割を担う存在であり、大抵は戦闘能力を示す「パワー」と、体力を示す「タフネス」が存在する。

「すごい・・・本当に出てきた!?」

「熊に会うよりも嬉しそうだなオイ」

「だってエルフですよ!? 現実に妖精なんているわけないじゃないですか!!」

 ラノワールのエルフ、パワー1、タフネス1。特殊能力として森から出るものと同じ緑マナを一つ、生み出せる能力を持つ。プレイヤーの間でも基本戦力として使役率の高いクリーチャーだ。

 ・・・それを見るだけで興奮する有人に呆れを一瞬感じたが、同時に謎の嬉しさを感じた。

「チッ、そこのうるさい見物人は一体何だ! 気が散って勝負にならん!」

「良いんだよ、楽しもうぜ? それよりも、オレはこれ以上何も出来ねーからターン終了だ」

 ターン2。

「エルフが出た、という事はそういう事か。安直な構成ならこちらに分があるな!」

 空舞、土地カード『島』を配置。島からは青のマナが発せられ、同時に森からも緑マナが生まれる。

「出てこい『嵐雲のカラス』!」

 この二つのマナにより、クリーチャー『嵐雲のカラス』を召喚。

「これで足止めだな!」

 イキがってるな、こいつ。思わず溜息が出た。

「あのさぁ、一手だけでデッキを察するのはシロートの考えだぜ?」

 

 その言葉の直後、打撃音が響く。嵐雲のカラスはあっさりと、地に堕ち消滅した。

「なっ!?」

「確かにそいつは1/2、エルフで戦ってはこっちがやられるだけだよなあ。加えて飛行能力持ち、素通りしてこっちに攻撃もできる。でもそれだけだろ? アシストもしてくる位考えなかったのか?」

 火弥はインスタント呪文カード『暴行』を使用していた。インスタントとは自身のターンのみならず相手のターンでも唱えられる呪文だ。現在火弥のターン、彼は土地カード『山』を配置し赤マナを発生、任意の相手に2ダメージを与えるこの火力呪文で嵐雲のカラスを破壊したのだ。

「さて悪ぃが攻めさせて貰うぜ、エルフでアタック!」

「ぐあっ! 先手を取られるとはっ・・・」

 ラノワールのエルフの攻撃により、空舞のライフは19となる。

 その後—————

 

「その様子だと余程の自信家・・・だったみたいだな。どうやってここいらを仕切ってたんだよ」

「だっ、黙れっ! こんな筈ではない、この俺が貴様みたいな余所者なんぞにっ」

 現在5ターン目、それまでに火弥は『密林の猿人』、『ヤヴィマヤの蛮族』を召喚し優位な体勢を続けている。空舞は対抗せんとクリーチャーを呼び出してはいたが、あっさりと火力呪文で墜とされていた。

「まだ終わってないから言うのもナンだが、適当にデッキは組まない方が良いぜ、特にリアライザーとしての力があるんならな」

「虫唾が走るぞその挑発は・・・ッ! これならどうだ!!」

 

「『大気の精霊』・・・か。そこそこのを出してきたじゃねーか」

「さあお前のターンだ、ある程度マナが溜まれば逆転する事も―――」

 

「なっ・・・」

「読みが浅いのも改善した方が良いぜ、大型出すのにマナ使い切ったろ。悪いけど『リスティックの稲妻』で焼いておいた」

 そのカードは敵味方にマナの支払いを要求する事で威力が薄まる火力呪文だ。火弥は当然威力を下げるつもりは無いし、空舞は払うマナが枯渇していたので通常通りの4ダメージで呪文は通った。

 

「凄い・・・物怖じしてないしここまで追い詰めてる。一体この人は何者なんだ!?」

 ターン7。

 空舞のライフは7。これまでに召喚したクリーチャーは悉く焼き墜とされ、火弥に一矢報いる事も叶わずゲームは続いている。

「可哀想だけどこのままじゃオレの勝ちになるぜ。投了しない分立派ではあるが、さてどうする」

「うるさいっ!!」

 空舞、『大喰らいのワーム』を召喚。

「ダメ元か・・・確かにこのゲームでは一番の大型だが」

 火弥のターン、攻撃の準備が整う。

「じゃあ手出し無し・・・ってんならこのまま攻めさせて――」

 

 突然、密林の猿人が姿を消す。

「『送還』で密林の猿人を手札に戻したっ! これでまだ俺は耐えられ・・・」

 

 

『Game set!!』

 

「なっ、馬鹿な・・・」

「攻め時に遠慮はしない方針なんでな。直接クリーチャーで殴るのも大型を倒すのにターンを使うのもこの状況なら必要ない、お前に直接火力呪文叩き込んだ、それだけだよ」

 トドメとして使用された呪文は1赤マナで対象に3ダメージを与える『稲妻』と、対象に使用マナの分だけ対象にダメージを与える『ギトゥの火』。本来なら火弥の土地5枚なら空舞のライフを焼ききるマナは出せないが、そこはラノワールのエルフのマナ発生能力で補った。

 

「一方的だったがフェアなゲームではあったな、そこは褒めるぜ。・・・で、勝ったんだから教えてもらおーか」

 強い。

 有人は単純にそう思った。

 対戦相手は確か、この町で幅を利かせている不良グループだ。連中が何故MTGを嗜んでいるのか、有人でも疑問に思っていたのだが。

「お前にその力、やったの誰だ? 少なくとも真っ当な連中でない事は確かだが」

 空舞は対戦前の凄んだ態度が嘘であるかの様に、虚ろな目で座り込んでいる。まるで先程の戦いで生気を使ってしまったかのようだ。

「・・・・し、知るものかっ。頭が好き勝手やれる力だ、ってカードをくれただけだ。俺は出所なんて何も知らないっ」

「へーえ・・・まあとりあえずオレと戦った以上お前は参考人だ、ちと付き合ってもらうぜ」

 火弥はスマホを取り出し何やら通話を始める。通話からは当たり障りの無いワードしか聞こえてこなかったが、

「ええっ何ですかこの人達!?」

「何って仕事仲間だよ。怪しげに見えるが一応公的機関な、極秘だけど。お前も見物した以上同行してもらうぜ」

 現れた黒服の男達は空舞を連行に近い形に連れて行き、そこに有人と火弥も同行する。あれだけの物を見た後ではあるが、非日常に対する不安を有人が抱いたのはここが初めてであった。

*

「じゃ、本当にあの灰色熊に襲われただけ、と」

「別にさっきの人とも縁なんてものも無いですし・・・てか炎樹さん警察なんですか、その歳で」

 怪しげな車で連れて来られた場所は、警察署の取調室。生まれてこの方、警察の世話になった事なんて無いし、そうなるつもりも毛頭ないのでこんな部屋に入るのも自分の人生では一度も無いだろうと高を括っていたが、今初めて、やはり人生は分からないのだと薄く悟った。

「まぁ詳しく説明してやっても良いんだが・・・それはこれからのお前の選択次第だ、初基有人」

 プレッシャーをかける気満々な重い声色に変わり、火弥は有人の名前を呼ぶ。

「な、何で真剣になるんですかいきなり・・・」

「真剣な選択だから言ってんだ。単刀直入に言うが・・・オレ達のやってる事は命懸けの仕事だ。興味本位だけで付いて行きたいなら今すぐ止めな。そしてこの夜の事は全部忘れて、純粋にMTGが大好きな一般人に戻るんだ」

 

「・・・・そんな言い方、まるで僕が覚悟が無いように」

「そうだろうが。言っとくがオレはお前位の歳の仲間で、クリーチャーに喰われて、刺されて、潰されて死んだ奴らをたくさん見てきた。今回の件でやたらわくわくしてたのは確かに面白いし度胸はある奴だとおもったが、それだけだ」

 言い返せない。命懸け、死んだ奴ら、そんなワードを出されたら、面白そうだから着いて行きたいなんて軽々しく言えない。今目の前にいる人は、明らかに自分より「何か」を背負っている人間だ。

 有人の中で、恥にも似た感覚が駆け巡る。そしてつい、立ち上がって、

「僕は―――」

*

『聞いてるだろーなぁ!! オレらの下っ端が大分恥をかいてくれたみてーじゃねぇか、テメーラのお陰でよぉ!! よってテメーラ、ここで地獄逝きだぁ!! ついでに空舞、オマエも責任取って公開処刑だ、恥かいたんだから当然だよなぁ?』

 

「なんて滅茶苦茶なんだ・・・抗争どころかテロじゃん・・・!」

 裏口を通り、署から有人は抜け出す。事はそう悠長に決めている暇は無くなっていたのだ。

 事態が動いたのは今より30分前。取り調べの最中に署に対して複数人による襲撃が起こった。相手の正体は空舞を構成員としていた暴走族達だ。彼等はある者はカードからクリーチャーを呼び出し、ある者は魔法めいた力を用いて文字通りの破壊活動を行う。

「っと! 火炙りにしようたぁいい度胸じゃねぇか! だけどな、こっちも黙って焼かれるつもりは無ぇぞ!!」

 正面口から飛び出した火弥はカードよりクリーチャーを呼び出す。現れたクリーチャーは『グルールの呪文砕き(4/4)』と『地獄乗り(3/3)』だ。

「一掃するつもりでやらせてもらうぜ!!」

 攻撃開始。火弥は二体のクリーチャーが前進すると同時に、火力呪文でクリーチャーの群れを吹っ飛ばす。

「見た感じ数は多いみてーだが・・・質の選定は大した事がねえ、イケるぜ!」

*

「表は凄く光ってる・・・炎樹さんは逃げろって言ってたけど、あそこで戦ってるんだろうか」

 自分の身を大事にしろ、と逃げる直前言われたのだが、有人の気は晴れない。火弥を危険な目にあわせて自分が逃げる事に後ろめたさは感じているが、本心はやはり、この非日常に自分が入れないという無念だろう。森林に身を隠し、その後味の悪さを噛み締めながら、有人は少しずつ署を離れていく。

 

「君、こんな所で何をしてるんだい?」

 ふと、人にぶつかる感覚がした。

「えっ、お巡りさん?」

 

「うあっ!? 何するんだあんた達っ!! 言っとくけど僕を捕まえたところであの人は・・・」

「随分と威勢がいいじゃねーかぁ、ひっかかった癖によぉ」

「良いかガキ? 何考えてるか知らねーが、遊び半分になるからこうなるんだよ、ハハハッ」

 はっきり言って、死を覚悟した。最後に見る景色が、トランクの中になるのかと考えた。クリーチャーに襲われた時よりも生々しい、人に殺されるという死への恐怖がそこにあった。

 

『どうやらここまで、と考えているようじゃな』

「・・・誰だ、あんた」

 本来なら、あいつらのイキった笑い声しか聞こえ無さそうなこの状況。死神が囁いているのか、とも考える。

『妾が誰かなぞ思案する状況でもなかろう。どうだ、妾の僕となるつもりはないか』

「・・勝手にしろよ。どうせもう死ぬんだから」

『たわけが。そのような投げやりな覚悟の契約など妾は求めておらぬ。この状況を覆す力を、妾は持っている。決めよ小僧。妾の僕となるか、ここで無様に死ぬか』

*

 グルールの呪文砕きが電撃を弾きながら、襲い来る敵を斬り飛ばす。

 地獄乗りが軽快な動きで、襲い来る敵を弾き飛ばす。

 更に火弥は、『火打ち蹄の猪(2/2)』、密林の猿人を召喚し攻撃を強める。

「そろそろ連中の底も見えてきたな。オイてめえら! 降参するなら今の内だぜ! ここまでバテさせたのは褒めてやるが、袋叩きで潰せる程オレもヤワじゃねーんだよ!!」

「クソッ、何なんだアイツは!? 一人だから楽勝じゃなかったのかよ!?」

「カシラっ、このままのペースじゃ全滅っスよ! ちょうど今逆転のブツを押さえやしたから、早い所っ」

「・・まあ黙ってぶちのめされるよりはマシかよ・・・」

「オイそこのボス格! 口論でもしてる体力があんなら、とっととトンズラした方が―――」

 

「そんな訳に行くかよ。絶好の盾がこっちにはあるんだからよ」

 

「なっ・・・オイ、そいつは部外者だ、人質にする価値なんかねぇぞ離しやがれ!!」

「クク、そんな訳ねえだろ。裏の世界を見ちまったんだからな。オマケにその困惑のツラ、お人好しにも程があるぜ! 可哀想になぁ、正義ヅラってのはこれ位で戦えなくなるんだからよぉ!?」

 頭が下に向いている、恐らくは気を失っているのだろう。奴等は今こうして署を一つ燃やしてでも火弥はおろか手下の空舞も消そうとした、本気で有人を殺しても何ら悪びれもしない筈だ。

「で、オレが白旗揚げたらどうしてくれんだ? そいつを解放するんだろうな?」

「そりゃあテメエの情報次第だろうなぁ。こんな田舎へ来るんだから、それなりのお宝を探しに来たんだろ? 吐く気になるなら用心棒位にはして生かしてやっても良いぜ」

「却下」

 

「・・・何ぃ?」

「バーカ。んな得も何もねえ取引に応じる訳ねえだろ。一応言っとくとこっちは任務っつーか仕事で来てんだ、そいつの命と釣り合わねえ位のな。殺るなら殺れよ、その瞬間てめーら黒焦げになるか首がぶっとぶかもだけどな」

「うぐっ・・・ざけんな!! オレ等がそんな脅し」

 

『ハハハハハッ!! 中々に決めている男ではないか! 上に立つ者が貴様のような男ならば、この小僧を選んだ甲斐があったというもの!』

 

 それは果たして、天からの声だろうか。気高さと禍々しさを備えた女性と思しき声が、そこに響き渡る。

「何だよこの声は! こんな所にオレら以外は!?」

「へぇ・・・初基少年、そういう才能があったか」

 有人の懐から一枚のカードが跳び出し、強く虹色に輝く。やがて鋭い金切り声、に近い咆哮が響き渡り、そこに―――

 

「妾は鋭き者の一部ににして全て。それを統べる女王なり!!」

 

 伝説のクリーチャー、『スリヴァーの女王(7/7)』が、現実世界に顕現した。

 

 

続く

 

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