MTG:Realize   作:四季永

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力が、聞こえた

「とんでもねえ大物を引き当てたな・・・寝てるから分かんねえかもしれねえが、誇っちまえよ、初基少年!」

 

「妾をこの場に立たせたのは、何もこの小僧の契約だけではない。炎樹火弥と言ったな、貴様の動きは見ておったぞ、この町に現れた時からな」

 久しぶりに、身震いがする。

 そこに立つだけで、圧倒的な力が伝わってくる。

「長話は後じゃ。そんな事より、」

 

「オっ・・・オイ、テメエらボサっとするな、燃やすんだよ、アイツも!」

 

「邪魔者が湧いているようじゃな」

 ここから先の攻防は、正に愚民を粛清する女王の裁きに等しい。群がるクリーチャー達や火力呪文は、彼女の鎌状の腕によって薙ぎ払われる。

「汝等はその程度の下僕と小細工しか持ち合わせておらぬのか? 妾を葬りたいのであれば、少なくともこの町を消し飛ばせるだけの力が必要じゃな。さて、」

「ヒッ・・・逃げろぉ! こんなデカブツ、殺せる訳がねぇっ!!」

 女王の足元が蠢き、膨れ上がり、弾ける。

「今度はこちらから行くぞ」

 弾けた個所から、鋭利を体現したかの様な生物の群れが湧き出る。それはMTGの世界ではスリヴァーと呼ばれる群体生物だ。その女王の能力として、彼女は文字通り「子」としてスリヴァーを生成出来る力を持つ。

「我が子らよ、この不届き者達を喰らい尽くせ」

 スリヴァーの群れは残りのクリーチャー達に群がり、喰らい始める。

「うわああああああッ!! やめろおおおおおおおッ!!!」

 そして連中の僕達を絶やした今、敵対者として次の獲物に狙いを定めるのは必然だ。逃げ始めた奴等に対して一切の慈悲は無く、本能のままに群れは襲い掛かる―――

 

 

「よせっ」

 だが惨劇が起こる前に、声が聞こえた。震えて頼りないが、明確な意思を持った声が。

「もういいだろ。危機は去ったんだ。それ以上、食べ物みたいに殺す必要なんて・・・ない」

「・・起きてたのか。まぁこれだけの事が起きてりゃそうもなるか」

 有人の声に応じる様に、スリヴァー達は粒子となって静かに消えてゆく。暴走族達は聞くに堪えない情けない声を上げながら全員その場から逃げ去った。事が終わった事を確信すると女王は有人に言葉を告げて、消えた。

「随分と甘い考えだな、小僧。・・・だが妾の力に飲まれずにその言葉を発せたのは面白い。せっかく契約が結べたのじゃ、あまり失望はさせてくれるな・・」

 

MTG:Realize

第3話

『力が、聞こえた』

 

 

 

「おっ、今度こそ完全に気がついたみたいだな。安心しな、ここ一応病室。・・でもって、日本で指折りに安全な場所、かもな」

 

 巨大なクリーチャーに啖呵を切った・・・ところまで、正直夢だと思っていたが、どうもこれは現実のようだ。

「窓が無いみたいだし、部屋真っ白で殺風景ですけど・・・秘密結社か何かですか?」

「鋭いな」

「えっ!?」

 

 薄暗い通路を、「ついて来い」と言われて歩いている。非日常への憧れは否定しないが、こういう反社的な空気を望んでいたわけではない。人体実験や洗脳、身売りなんぞはお断りだ。

 そう考えていると今まで感じていなかった不安が一気に滲み出てきた訳だが―――

 

「町が見える・・・あんな小さく・・って、ここ空の上!?」

 梯子を昇って目にしたのは、見慣れた陽の輝きと空の上から見るような住み慣れた町、そして自分の周囲を包む、機械的な一室。

「まぁ色々聞きてえ事はあるだろな。とりあえずオレよりも説明出来る人がこの先いる、質問はそこからだ。引き続きついて来な」

 

 空中に浮かぶ秘密基地。

 少々陳腐な例えだが、この内装はそうとしか言いようがない場所だ。

 ではどの様な影響力の人物が、何の目的でこんな技術力の設備を造ったのか。道中に職員のような人も見かけないし、それはそれで下手に人がいるよりも不安を感じる。

 一体ここは―――

「司令、イレギュラーの覚醒者を連れてきました」

「ふぇっ!?」

 

「その様子だと、ここまで色々考えこんでたみたいだね。初めまして、僕はこの多元要塞ΩX(オックス)の艦長の神間始だ。どれ位の付き合いになるか分からないが、とりあえずよろしく」

 頬についた二字傷が気にはなるが、紳士的な雰囲気を纏った一人の男が、花へと水を撒いていた。

「・・・・すいません、でも」

「最初に保証しておこう。我々に君に危害を加えようという意思は全くないよ。これから君に行う交渉は、面倒な真実に蓋をして緩いという程にまた日常を謳歌するか、これから誰かを襲うかもしれない危険な真実に無償の戦いを挑むか」

 さらっとデカい事を言ってる。同時に漠然としてピンと来ない。

「だろうね。とりあえず座って話をしよう」

 

「まず当事者だから当然だと思うけど、MTGは知ってるよね?」

「はい、当たり前ですよ!」

「一般的にはゴエティックというゲーム会社が造っているカードゲーム、って事になってるんだが・・・実はこれ、『この世界』では嘘なんだな」

 

 一瞬妙な間をおいて、有人は動揺した。

「えっ詐欺か何かなんですか!?」

「あぁ言い方が足りなかったかな・・・ゴエティック社がこのゲームを『創った』のは本当だよ。厳密に言えばこの世界ではMTGは、空想で生み出された物では無いって事さ」

 不安半分、期待半分。有人の胸中に形容できない昂りが生まれる。

「MTGのストーリーに興味があるなら知ってると思うけど、多元宇宙という言葉がある。ざっくりいえばこの世界には無数に存在しながらも決して交わらない宇宙がある、って事だけど・・・・まぁ強調する所から言おう。この宇宙のこの地球は、どういう訳か別の宇宙と繋がってしまったんだ」

 

「そんな顔になるのが普通だろうね。で、そうして繋がった宇宙の一地点・・・ドミナリアと向こうでも呼称しているそこの情報を起点として、MTGは創られた、って事」

「・・・・・荒唐無稽ですね」

 間抜け顔同然で、率直な感想を述べる。

「中高生の妄想ノートみたいだよね。でもまぁしょうがない、事実だし。妄想が100%非現実かというとそうとも言い切れないしね。・・そして、次元が繋がった事で向こう側の事象やクリーチャーが、こちらに流れ込むという現象が起き始めてしまった」

 明らかにフィクション・ファンタジー同然な「事実」が語られるが、有人にとってはそれを「現実」と認めざるを得ない「記憶」がある。

「と、ここまで聞けば君が得た情報から察せると思うが・・・僕が司令を務める『ホワイトロータス』、この組織はそうやってこの世界に紛れ込んだクリーチャー、事象が起こす事件から人々を防衛するのが任務の公的組織だ」

 

「それで・・・僕はどうすれば」

 動揺なんて、狼狽なんてしない。そんな反応など、したところで今更だ。

「肝が据わっている様で感心したよ。火弥の報告通り、良くも悪くもユニークな男のようだ。・・・・ただ」

 それまで不敵な笑みを浮かべていた神間の顔が変わる。それは人に交渉を持ちかける紳士のものではなく、視線が突き刺すように鋭く、悪寒がする程に冷たく、もしくは熱い。言うなればそれは、有人の中に燻っている何かを引き出し、試している裁定者の様だ。

「君は我々と共に戦いたいと思っている。・・ああ、それは衝動的に考えれば実に有難い事だ。単純に戦力が増えるって事だし、さる理由で君にはリアライザーとしての才能もある」

「じゃあ・・!」

「だがそれは!! ・・・実利主義での話だ。君がどんな憧れの眼差しで見ているか僕には測りようも無いが、ホワイトロータスは能天気に異世界ライフを満喫する冒険隊でも無ければ君の様な勘違いした若人を使い潰すような非情な軍隊でいるつもりもない」

 萎縮しかける有人を見つめる火弥の表情は、少しばかり冷ややかだ。まぁそうなるわな、とこの場で言うのは失礼に感じたので、胸中に呟くに止めておく。

「君はまだ若者どころか井の中の蛙の子供だ。そして『力』という存在は遊び半分に振り回して良い概念では断じて無い。・・・・それに僕も大人、だしね。覚悟の決まらない子供を死地に送り出す、そんなカッコ悪い行いはしたくはない」

*

「まあそう落ち込・・・んでは無さそーだな、その目は。てかそんなに睨むなよ、一応推測交じりで言っとくと、ホントは司令だって初基少年を引き抜きたいんだよ」

 冷静に考えておくように。

 

 どう冷静になれって言うんだ。

 決断の猶予は3時間、だが場所を独房へ移されても、有人の根本的な気持ちは覆る事は無い。

「何歳ですか」

「は?」

「炎樹さんここの隊員なんでしょ。何歳で入ったんですか、高校生なんですよね!?」

 参ったな、と軽く頭を抱える。コイツはどうやら本気な奴だ、感づいてはいたが。自身の危険、それをもたらす超常存在に目を輝かせるならば彼は臆病者でも勇敢な存在でも無い、上手く例える言葉が見つからないが少なくとも常人のメンタルでは無いだろう。

 だったら。

 

「ちょっとしたお試しだ。こっから先はオレの独断だが、ついて来な」

*

「警告も何も来てねえな。ちょっとキナ臭えがまぁ良いか」

「何ですかこの部屋?」

 海原を模した床に、星空を模した天井。そしてその部屋の中心部には、扉を模した物体がそびえる。

「ワームホールって知ってるか?」

「? あの空間を行き来できるトンネル・・・みたいな物ですか? SFとかでよくある」

「それだけ言えれば上等。このスキャンポータルは特定のカードを認証する事で次元跳躍を可能とする装置だ。まあ通じるかどうか解らんが、ざっくり言うと・・・」

 火弥は『あるカード』を扉へとかざす。扉はやがて輝き、開く。

「異世界専用のどこでもドア、ってところか?」

 開いた扉の向こうには、混沌とした虹色の輝きが広がっている。

*

「意外とすんなり通れるモンですね・・」

「なんか深呼吸してたしな。ま、入り口があんな空間なら警戒してもしゃーないか。それもよりもホラ、見てみな」

 

 

 驚愕、そして感動。

 爛々と激しく輝く灯りが広がる、どこか力強さが漂っている、都市。

「ここってまさか・・・」

「ああ、『ケルドの死滅都市』。昔オレが『啓示』を受けて迷い込んだ場所。オレがリアライザーとして覚醒した場所。言ってみれば今のオレの始まりの場所、だ」

 本当にあったんだ、この世界は。

「感激に浸ってるトコ悪ぃが話を進めるぜ。初基少年、お前さんも多分気付いていると思うが、『声』、聞こえただろ」

「!?」

 あの夜の記憶が思い出される。『あの存在』に契約をした、そしてそれは強大な力を振るい、危機を脱した――――

「あれ、やっぱり夢じゃなかったんだ・・・・」

「今更過ぎる感想だな。あれが『啓示』って奴だ。お前は伝説と呼ばれる特殊な存在と対話し、そして繋がる契約を果たした。それはリアライザーとして覚醒する為の手段の一つだ」

 その事実は受け入れるべきなのか。そして畏怖する事なのか、喜ぶ事なのか。

「混乱するわな。事実をまず言っとくと、お前は覚醒した。受け入れようと受け入れまいと、お前のその存在はこれからこの次元の連中に狙われる事になる」

「じゃあ! そうなったって事は、僕も炎樹さんみたいに」

「おっと、言うと思った。よって今からお前はオレなりに試験を受けてもらう。来い」

 

 ここに来る過程で見たものは、明らかに非現実的なものだ。

 ケルド―――有人の記憶が正しければ、ここは屈強な戦士達が住まう戦闘種族、その都市だ。ここの住民達が有人に向ける眼差しは警戒そのものだったが、火弥が挨拶を交わす度その態度は軟化する。頭上を見上げれば大小関わらずドラゴンが宙を舞っている。

「火弥殿、押忍! ところでその頼り無さげな小僧は・・」

「おっすお疲れ。こいつは何つーか・・・舎弟候補。そういえばラトゥーラさんがいねえみてーだが・・・遠征か? 闘技場を使いたいんだが」

「ラトゥーラ様の言伝で既に開放されてるっス! 存分に使ってくだせえ!」

 

「広い場所だなあ・・・当たり前なんだろうけど」

「言伝・・・か。さて、見学はここまでだ。始めるぜ、試験」

「え? わあっ!?」

 あの時と同じだ。衝撃が起こり、二人の周りに障壁が出来る。

「反応あり。ちゃんとデッキは持って来てるみたいだな」

「という事はこれって・・・」

「簡単な話だ。真剣勝負、オレと戦え。無論全力でな!!」

 いきなり、だ。相手は恐らく自分よりも実力は上、確実に負ける。

 でも。

 この高揚感は何だ。勝てそうにもない相手と戦う、傍から見れば無謀で馬鹿げているかもしれない。

 男だからか?

 違う。そんな概念じゃ、体育会系でも無い有人の心は動かない。

 だが答えは簡単な事だ。

 

 自分が、このMTGが好きだからだ。

「—————わかりました!!」

*

「本当にこの流れで良いんですか、司令。このやり方じゃ勘違いさせる可能性も」

「来てたか、鏡。まあ良いじゃないか。実力を測るには大事な過程だよ」

「あまり褒められた方法じゃありませんよ・・・」

「固いね。だが我々は目覚めた以上、この力を手にした以上、責を負わなければならない。望むと望まざるに関わらず、逃げる事は許されない・・・それが遅かれ早かれ、解る日は必ず来るのだから」

 

 

続く

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