MTG:Realize   作:四季永

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白蓮の戦士

『こちらコードコン・トロール、対象は作戦通りのエリアに向けて逃走中。確保の準備をお願いします』

「了解した。コードパーミッション、次の行動に映る」

 

 深夜、一人のガラの悪い男が息を切らして走っている。その焦りようは何かから逃げているかのようだ。

「なっ、何なんだアイツらはっ! バレねえはずだ、バレねえはずだぞこの力は!?」

「あなたはリアライザーの力を犯罪に利用しました! 人より高みに立った・・・なんて考えはただの思い上がりです! デッキを放棄して同行してください」

 それを追うのは二体のクリーチャーを従えた一人の少年だ。

「うるせえ、これはオレのモンだ・・・オレのモンなんだっ!!」

 逃げる男はカードを取り出し、クリーチャーを召喚する。

「炎の精霊!」

「そこで大人しく死んでろやあ!」

 現れたクリーチャー・『炎の精霊』は名前の通りの燃え盛る腕を振るい、少年目掛けて振り下ろす。それは直撃してしまえば普通の人間なら炭になって死ぬ程の高温だ。

 

「ありがとうトロール。後は隙を突くだけだ」

 少年は連れていたクリーチャーに守られていた。盾となったクリーチャーは『アルビノ・トロール』、致死量のダメージを受けても再生する能力を持つクリーチャーだ。

 攻撃を受け止められた炎の精霊は大きな隙を作った。背後からもう一体のトロールが精霊を殴打し、そのまま二体のトロールは精霊を叩きのめした。

「この道ならこのまま走って行っても奥のエリアには辿り着く。・・・空駆さんなら確実に確保出来る、僕の出番はここまでか」

 

「ハハッ、追って来ないな、見失ったか! 組織だか何だか知らんがこんな美味しい力、手放す方がどうかしてる! オレはこれでもっとてっぺんに」

「愚かだな。その様子を見る限り初心者か。もっと上がいる事を教えてやろう」

 走り疲れた男の前に、一人の眼鏡を掛けた青年が夜闇から現れる。

「なっ・・・」

 鋭さと冷たさを兼ねたその目線に、男は確かな恐怖心を覚える。

「どうした、お前にも力があるんだろう。使ってみろ」

「うるせえエエエエッ!!」

 男が一枚のカードを掲げるとそこに火が燃え盛る。やがてそれは男の闘志を表すかの様に大きくなり、そして・・・

 

 

 しぼむ様に消えた。

「ええッ!?」

「大型火力で俺を焼くつもりだったのだろうが・・・打ち消される可能性は考えなかったのか?」

 MTGにはカウンター呪文は称されるインスタント呪文が存在する。ゲーム上では対戦相手の使用した呪文カードの能力を打ち消す効果を持った呪文だ。それはどんな大きな効果を持った呪文であれどその一枚で無に帰す。

「あっああっ・・・うぐっ!?」

 腹に拳を打ち込まれ、男はあっけなくその場に昏倒する。

「こちらコードパーミッション、対象は今制圧した。直ちに合流・・ん?」

「空識先輩! 任務お疲れ様です、今回も難無く・・・でしたね」

「足止めをくらっていたのか。・・今回はこの流れで問題無かったが、あまり俺達には頼り過ぎるな。自覚は無いのだろうが、お前は自己評価が低い傾向がある、先ずそれを直せ」

「・・・・はい、すいません」

*

「任務ご苦労様。すまないね、君のようなエース級の隊員に任せる程の任務では、到底無いのだが」

「人員不足に悩まされているのは承知です。それに俺の場合はデッキの特性上処理できる任務は限られている、万能でない以上エースという言葉も怪しいものです」

 青年の名は空識鏡、彼はホワイトロータス隊員の一人。実力に関しては隊長の始が特に信頼を掛ける存在の一人でもある。

「近々初基隊員にも紹介する事になる、まあ・・・僕から希望する事は何も無いんだが、あまり脅しは掛けないでほしい」

「・・・お言葉ですが、甘やかすつもりはありません。我々のやっている事は遊戯の域では無い、死地が間近にある仕事です。この力を持つ以上はその責を負わなければならない。・・隊長が一番解っている筈だ」

 鏡は隊長室を後にする。始は夜が明けつつある空を眺めながら、一人苦笑いを浮かべていた。

「責・・・か。これが力だというのなら、何故ゲームとして存在しているんだろうね」

 

MTG:Realize

第5話

『白蓮の戦士』

 

「よっ、昨日は随分面白いもん見せてもらったぜ。夫婦漫才ってヤツ?」

「言いふらさないでくださいよお願いですから! ・・光はこれでもちょっと有名人なんです」

「これでもちょっとは余計でしょーが・・・」

 有人が(主観だが)いつもの二人と共に、放課後いつもの様に通うカードショップ、そこに入った途端、本当に彼はいた。

「新しいスタッフさんですか?」

「まーそんな所だな、ちょっとした根回しで。不況とか言われてるご時勢にありがたいこった」

 火弥の話から察するに、根回しというのも案外冗談では無いのだろう。バックにいるのは公的組織、更にMTGに関わっている仕事とあれば潜り込むのは容易な筈だ。

「さて、こっから先はオトナの話だ。揃って来てるとこ悪いんだが、お二人さんは外してもらって――」

「あっその心配は無いです。もう二人には話しました」

 

「痛っ・・・」

「機密同然の話を友達に漏らすバカなんて聞いた事ねーぞ・・・っと言いたいところなんだが、まぁ信じる信じないでどうなるモンでもないか。ってなワケでここは今のゲンコツ一発で許すわ」

 浅はかな事だったのかと思ったが、元々隠し事をして生活出来る程我慢強い人間では無く、心身の安定の為に話したのだ。・・・とはいえ自分が情けなく思えたのは確かで、そんな気分で火弥の許しは飲み込んだ。

「じゃ、とりあえず。仕事が入った」

「またこの前みたいなの、ですか?」

「オレ達は、そういうリアライザーの力を用いて犯罪を起こす連中を覚醒犯、略して覚犯って呼んでる。で、今回の対処相手なんだが」

 火弥は何枚かの写真と書類を取り出し、広げる。

「ここいらじゃそこそこな名門校の生徒。でもって、どうもグループで事件を起こしてるらしい」

「怖っ」

「今更だろ?」

「そうじゃなくて。これほぼ個人情報レベルですよね? 裏でこんな調べ上げて大丈夫なんですか?」

「一応オレらは公的組織、警察みたいなモンだぜ? 被害が出る前に抑えとかなきゃ意味ねーだろうが」

 有人は自分の甘さを軽く恥じた。彼等のやっている事は趣味だけの話では無い、れっきとした仕事なのだと。

「やっぱり諜報員・・的な人もいるんですか?」

「足の利くクリーチャーがいればスパイぐらい余裕なんだが、生憎オレのデッキはそういうのが入ってない。この町に来てる他の隊員がやってくれてんだ」

「やっぱりリアライザーなんですか?」

「続けざまに聞くなぁ・・・まぁそうなんだが。あんまソリが合わん奴が一人・・・・っと、これ以上は聞くな。とりあえずオレ達のやる事は、こいつらの集会場所が判明次第実力行使を掛ける。一応身の危険が及ぶ仕事だから、準備と覚悟はしときな、後は追って連絡する」

*

「本当に受けるの? その仕事」

「何で?」

「鈍いわね有人! 今だったら間に合うわ、こんな仕事辞めなさい」

「辞める訳ないだろ、仕事なんだから」

 そこには当事者と部外者、知る者と知らぬ者の壁があった。非日常を見てしまった有人は、もはや危険が伴う世界も一つの日常として感じてしまったのだ。だからこそ、それを知らない友一と光は、言葉を詰まらす事しかできない。

「大丈夫だって退く事ないだろ? 遊びじゃない事ぐらい解ってるし! 世の中の為にやってるんだったらそれは―――」

 

 有人の頬を、痛みを伴う「何か」が掠めた。

「有人、血が・・・!」

「っ!?」

 危機感を感じ、身構える。今飛んで来た「何か」は明らかに、偶然にもたらされたモノでは無い、何らかの目的をもって放たれたモノだ。

(MTG的に考えれば発生源は・・・多分そう遠くは無い。いや、でもまずは光と友一を守らないとっ)

 腰のデッキに手をかざす。一瞬その力を使う事に躊躇いが生まれたが、二人の安全には代えられない。

「守ってくれ、スリヴァーっ!!」

 

「これが・・・クリーチャー・・・・」

「本当なんだ・・・有人」

 召喚されたクリーチャーは『水晶スリヴァー』、ゲーム上では呪文や能力の対象にならない「被覆」の能力を持ち、かつそれを全てのスリヴァーに共有する。

「驚かせてごめん。今はスリヴァーの後ろに隠れてて」

 二人の顔を、見る事が出来ない。今更人の目が気になった自分が、あほらしいと思う。

 だが、今はこの事態に集中するしかない。

「一体どこから・・!?」

 周囲を見渡し思案している間に、再びそれは飛んでくる。今度は目に見えた、それは灰色の弾のようだ。

 同時に、水晶スリヴァーが動いた。スリヴァーは輝く障壁を作り出し、飛んで来た衝撃弾を弾く。

「スリヴァーの能力が役に立ってる! って事は、呪文や効果の類か」

 だが安心してはいられない。弾はある程度の間隔で放たれ、向かって来る。ここで留まっていてやり過ごせるとは思えない。

「有人っ! この攻撃、同じ方角から飛んで来てる! もしかしたら」

「・・そうかっ! じゃあ、とりあえずここから動こう!」

*

「大分滅茶苦茶だな・・・! 乱射気味に火力を撃ちまくってるとかどうかしてるぜ」

「あれは火力呪文じゃないです、火弥先輩。弾の形は統一されている、それを何回も撃てるという事は、多分あれはパーマネントの類です」

「そうか、って事は・・・ん、来てたのか駆!」

 火弥は有人達三人とは別の場所で、この事態に遭遇していた。そしてそこで、同じホワイトロータスの隊員・再華駆と偶然に合流する。

「僕も何度か直撃しそうになりましたが、優秀な護衛がいるので無傷で助かりました」

「そりゃあまあ。そのトロールはお前のデッキの看板みたいなモンだからな」

 駆の引き連れるクリーチャー、『アルビノ・トロール』と呼称されるそれは、醜い外見ながら屈強な肉体と再生能力を持つ、トロールという妖精の一種だ。

「さて、どうするよこれから。オレの考えとしては、どうも攻撃の主はオレ達のいる場所と期待の新人君のいる場所を見渡せていて、両方に攻撃を行ってる」

「初基隊員ですね。彼は経験が浅い、重傷を負う前に合流して守るべきでは」

「悪ぃがそれは得策じゃねえ。むしろ攻撃が一点になって激しくなる前に敵に到達して叩く。後輩を気遣うのは分かるんだが・・・あいつだって跳び込んだ側の奴だ、そう簡単にくたばりゃしねえよ」

 自分は甘い。駆がそう実感するのはこれが初めてではない。人によってはこの考え方を優しさと表す者もいるのだろうが彼はそれを良しとしない。それが再華駆という者がこの隊にいる動機だからだ。

「じゃあ急ぎましょう。この手の輩は放置が長引くと危険です」

「おうよっ! 後方支援頼むぜ」

*

「チッ、オイオイなんなんだよこいつらはッ! 金を積まれたから話に乗ってみれば、バケモン出してこっちに向かってるじゃねーか! 同類がいるだなんて聞いてねえぞオイッ!?」

「そっ、そんな事言っても大将! あんたはこの町で最強なんじゃないんスか!? そんな力持ってるのは選ばれたからで・・」

「バカにしてるのか!? お世辞にすらなってない! くそっクソッ・・俺は選ばれてるんだ、何もかも持ってるんだ・・・俺を捕まえるつもりなら消してやるよ、どんな手段でもなあ!!」

*

「弾の軌道からして高い所・・・よね、陣取ってる場所は」

「多分。・・・となるとコントローラーは建物の屋上とか?」

 有人一行は不安定な足取りながらも、弾の主の場所に感づき、近づきつつある。

「そういえばもう歩いてる人も見なくなった・・・」

「当たり前でしょ、こんなバケ・・クリーチャーが突然出て来たら」

 ならばなぜ警察は動かないのだろう、とも考えたが、ホワイトロータスが公的組織なのを忘れていた。多分連係して人々の避難を優先させたのだろう。

「今は水晶スリヴァーだけで凌げてるけど、相手はこれしかできないのかな。この場にクリーチャーを放ってくるとか」

「・・・危惧通りだよ、有人」

「えっホントに?」

 

 前方に見えたのは、明らかに町中の外観とは場違いな、生物。

「シっ・・・『シロイワヤギ』!?」

「グエエエエエッ!!」

 二匹のそれはただのヤギよりも激しい声を上げ、こちらへ突進してくる。

「ちょっと有人!? 何とか返り討ちにできないの!?」

「急かさないでよ解ってるって!! ・・・なんとか、頼むっ!」

 

「ギエエエッ!?」

 有人が咄嗟に召喚した二体のクリーチャーは、シロイワヤギを遠方へと投げ飛ばした。

「筋肉スリヴァーとメタリック・スリヴァー・・」

「確かにこれで2/2が二体、向こうは1/1だから納得の結果、だけど・・」

「立ち止まってたら的にされるっ、急ごう!」

*

「弾の出所・・・目で追っては、みたけれど・・」

「デパートの屋上かぁ・・・」

 

「よっ、新人さん。どうやら行先は同じだったみたいだな」

「炎樹さん!? じゃあここで合流できたって事は」

「ビンゴって事だな。恐らくこの騒ぎの犯人はここの屋上にいる」

 楽しそうだ。

 その有人の表情に、光と友一は危うげな違和感を感じる。一歩間違えば、生命の危機があったかもしれないこの事態に。

 

 

「ところでご一緒のその人は・・・」

「再華駆。一応火弥先輩の・・・って、ここまで言えば分かるか。よろしくね」

 何とも優しい顔で笑える男だ。有人からの第一印象である。

「ところで階段で昇っていいんですか、それこそエレベーターで一気に」

「ちったぁ考えろ。あんなのに乗ってジッとしてたら蒸し焼きだ。ここに来るまで使って来た呪文やら差し向けて来たクリーチャーの種類からしてここの犯人は火力寄りのカードで組んでる、可能性が高いぜ」

「やっぱり! そっちにも来てたんですね、シロイワヤギとか」

「マジか! こっちには『剣歯虎』やら『ヴィーアシーノの戦士』やらが襲って来たぜ、随分ナメられたもんだな」

 ハッとなってしまった。そうか、僕は甘く見られているのか。まあ普通に考えればホワイトロータス(以下『WL』と略す)に入って今の状況が初任務という事になる、戦力外的に思われるのも無理は無いが。

「落ち込む必要は無いと思うよ。君はこれから強くなるんだから」

 駆によるせめてものフォローも今はあまり効果的ではない。

 

「おっと、お喋りはここまでだな。屋上間近って事でウヨウヨいるぜ」

 遠目からでも、最上階にクリーチャーを連れた柄の悪そうな輩がたむろしているのが見える。

「予想よりもちょっと多いな・・・駆、大将落としは任せていいか?」

「・・分かりました。でも有人はどうします」

「連れてってやれ、勉強になるかもな。とゆーワケでここはオレが囮になる、後は解るな新人?」

「! ・・けど多人数相手に大丈夫なんですか?」

「WLを甘くみんなよ、そこら辺のチンピラにやられる程腑抜けちゃいねえ。それはこいつ、駆にも言える事だ。一見草食系男子だが中々やる奴だからよ、信頼してついて行きな」

*

「チッ、下が騒がしいな・・・連中が下まで来たのは予想外だが、集めるだけ集めたんだ、そう簡単には・・」

 

「今回の事件の主覚犯、佐藤火得ですね。政府直属の者です、デッキを放棄して投降してください!」

 屋上に陣取っている、恐らくここの輩のリーダーであろう少年。彼の服装には有人も見憶えがある、確かここらの地域ではそこそこ有名な名門校の制服だ。

「お前らがあいつらの言ってた白蓮って奴かっ、甘く見るなよ、お前らなんかすぐにでも・・」

 

 火得は応戦の構えをとるが、すぐに感覚の違和感に気付く。

「まさか貴様っ!?」

 

「『フィールド』を張りました。ここから逃げたいならまず、このゲームで僕を倒してください」

「腕っぷしで勝てないと踏んだか? この弱虫めっ」

「その制服を着ながら戦略で勝てないんですか?」

 火得は無言ながらも逆上に顔を引きつらせながら、カードを展開する。

「決まりだ。貴様は殺すっ」

 駆もまた、無言でカードを展開する。そこには感情的な動作や表情は極力感じない、ように見える。

「再華・・・さん」

「何?」

「怖く・・無いんですか? あんな敵意剥き出しの奴とこんな、ゲームなんて」

「怖さ、か。そんなのいつだってそうだよ、命懸けの戦いなら尚更ね。でも、僕も好きなんだろうな、MTGが。だからこんな事が日常茶飯事出来る。おかしい?」

「・・解ります」

 命を賭けたカードゲーム、それを楽しまんとする者。戦いを望む性質が人間の一面なら、それを楽しむ性も決して、完全な間違いとは言えないだろう。

 

『Game Start!!』

 

 

続く

 

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