「おうおうやるねえ、実力と数の割には」
一対八、内二人は昏倒している。召喚したクリーチャーや行使する呪文の選定からしてあまり効率的とは言えない、つまり素人だ。
「おめーらアレだろ? 所謂面食いっつーか、インパクト重視でカード選んでるだろ? それじゃあいいとこ二流なんだよなぁこの世界は」
安い挑発、のつもりだったのだが、連中にはそれさえも効果があるのだろう。
だが、
「う、うるせえッ!!」
「成程なっ、退きようがねえのか。あんな小物にヘーコラしやがって、上が見れてねえのな!」
襲い掛かるクリーチャーは皆、火弥の率いるクリーチャーに薙ぎ払うように蹴散らされる。
「さてと、通しな。もう判るだろ、幾ら群れても今の実力は段違い、勝ち目はねえ。恐怖心で従ってんなら上の奴はオレ達がしょっ引いてやるから逃げ――」
一匹のクリーチャーが、投げ込まれる。
「ん? ・・・『墓所のネズミ』? やばっ」
MTG:Realize
第6話
『コン・トロール』
「ひゃははっ、先攻でダメージだ! 今なら土下座して負け認めるなら許してもいーぜ、その陰気な姿拡散してやるけどなあ!」
「一点ダメージ与えただけで、随分勝ち誇れるんですね。あなたはこのゲームを解ってない」
ゲームが始まり、火得の召喚したシロイワヤギが駆に攻撃を加えた。駆の場にあるのは現在一枚の島。
「ハッお前のターンだ、せいぜい足掻いてみろよ」
「足掻くんじゃない、勝ちに行きます。・・アルビノ・トロール召喚!」
駆は森を配置し、召喚した。アルビノ・トロールは3/3でありながら緑1無色1と低コストで召喚できるが、エコーという効果により次のターンに同コストをもう一度支払う必要がある。
「チッ、何格上のモン出してんだよ生意気に。いいぜ、泣きっ面になるまで追い詰めてやるよ」
ターン3。
「攻撃だ、行けシロイワヤギ!」
「くっ」
「ちょっと再華さん!」
「あまりゲーム中のプレイヤーに話しかけるのは良いマナーじゃないよ。そっちの空間からは手札とかは見えないけど」
「いやそれでもっ! 明らかにブロックすれば倒せましたよ!?」
「だよなあ! マヌケすぎる判断だぜ!」
現在の駆には、当然相手に対する恐怖心は無く、判断力が鈍っている訳でも無い。
「有人、相手の場の土地を見てみて」
「え? ・・・山と、沼ですけど」
「そう、沼から生まれるのは黒色のマナ。黒はクリーチャー除去が得意な色だ。この状況で明らかに1/1のシロイワヤギだけで攻撃してくる、誘いを掛けてると推測しても」
「ハハハッ、オイオイ随分褒められたモンだなあ? そんな先読みしてるから今こうして殴られるんだろ?」
「・・・攻撃!」
アルビノ・トロールの拳が、火得の顔面に直撃する。激痛で嘲笑が止み、顔が歪んだ。
「ゲーム中じゃ無かったら鼻血どころじゃなかった。前方不注意ですよ」
「がっ・・・キレてんじゃねえぞ!!」
ターン4。
「もっと痛くしてやる・・! 『激昂』!」
ソーサリーカード『激昂』。対象のクリーチャー一体に+3/+3の修正と先制攻撃を与える。カード名の通りシロイワヤギは目が爛々としたモノになり、獰猛な動きで一直線に駆に襲い掛かる。
「どーだあ! これは流石に防ぐだろお!? 調子に乗ってる報いだよ報い!」
*
「まったく・・・何故こんなヘマをする!? 予想は出来る事態だろう」
「死ぬつもりは毛頭無かったぜ? まあありがとな鏡。ケガしないですんだわ」
下の階に放たれたクリーチャー、『墓所のネズミ』は、注ぎ込んだ黒マナの分だけ威力の高い自爆を起こす、所謂生きた爆弾である。ヤケになった敵の誰かが、ここを纏めて吹っ飛ばす目的で召喚したのだろう・・・が。
「しっかし何つーか、カウンター呪文って嫌味だよなぁ。マナと愛と希望とロマンを込めた呪文を、大体はしょぼくチャラにする。オレのライバルとはいえとんだ陰気戦法だぜ」
「『対抗呪文』の無駄遣いをさせるな。ただ闇雲に戦力を打ち消せば良い訳じゃない、お前の立場なら速攻戦術も卒業したらどうだ」
言葉だけ取れば、お互いのデッキ戦法を貶している・・・ように見える。だが炎樹火弥と空識鏡、その二人の少年の言葉のテンションはどこか少しずつ熱くなっていく。そう、本来戦う相手を置き去りにし、引かせる程に。
「相手より焼いて殴って勝つ! 基本戦法だろがい!! おめーみてえな裏を読むとか変態なやり方なんて真似なんかするかあ!」
「戦いはそういうものだ、お前みたいな一直線馬鹿は裏を掻かれて早死にするだろうな、触発なぞされたくもない」
「オ、オイっ。オレらを潰しに来たんじゃ」
「「黙れッ!!!」」
*
「『ヤヴィマヤの古老』を召喚! ターン終了です」
現在、アルビノ・トロールの攻撃を受けた火得のライフは14、そして、
「まさかそのまま食らうとはな・・! 無理にでもアンタップさせて防ぐかと思ったが」
「トロールは僕のデッキの要、そうそう犠牲にする訳にはいきませんっ」
駆のライフも14。激昂で強化されたシロイワヤギの攻撃を直に受けたのだ。
(こいつ、読んでいるのか読んでないのか・・・弱々しい見た目の癖に一丁前にしやがって)
「大丈夫なんですか再華さんっ」
「ダメージを恐れてちゃ攻めもできないよ。最後まで判らないのがMTG、でしょ?」
ターン5。
「一匹増やしたところで容赦しねぇからなぁ!? 『ショック』! ・・・は?」
火得の使用した呪文『ショック』は、対象の相手に2ダメージを与える基礎の火力呪文。そのままであれば2/1のヤヴィマヤの古老は破壊される、が。
「消えた!? 何をやりやがったっ」
「狙われる前に生け贄に捧げただけです。そのまま狙われるよりは・・と」
生け贄とはクリーチャー等に備わっている能力の一つ。墓地に送る事を条件として発動する。
「一枚のドローに土地のサーチ? 何とも地味だな、やる気あんのか?」
「・・派手な工程ばかりでは勝ちに行けませんから」
「ならどんどん増やしてやらあ、『巨大ゴキブリ』! さあターン終了だ、勝てるもんなら勝ってみろ!」
「島を配置、『アクリディアン虫』召喚!」
ターン6。
「そんなんすぐに焼き払ってやるよ、『電撃破』!」
それは対象の相手に4点のダメージを与える火力呪文、火得が宣言した通り、2/4のアクリディアン虫に向かっていく。
「『魔力消沈』!」
「んだと!?」
電撃破が大きな渦のようなものに飲み込まれていく。
「カウンター呪文ですね! 確かにマナが出揃ってから反撃に転じるのは青の基本っ!」
「最初から最後まで油断できない戦法だけどね」
「盛り上がってんじゃねぇぞ! もういい、貴様のターンだ」
「『樹上の村』を配置、攻撃!」
「くっそ、ブロックだ!」
巨大ゴキブリがアクリディアン虫と相打ち、シロイワヤギはアルビノ・トロールに叩きのめされる。
ターン7。
「そのトロールは貴様の要とか抜かしたな・・・だったらそんなショボい要は簡単に死ぬ事ぐらい教えてやらんとなあ!」
直後、アルビノ・トロールからたちまち生気が失せ、消滅する。
「除去呪文『恐怖』・・!」
それは黒呪文が得意とする除去手段、その基本型だ。黒、アーティファクト以外のクリーチャーを再生を封じた上で破壊する。
「ついでに『破滅のロッド』を場に出して・・ターン終了だ。まぁ殴れるものなら殴ってみな・・」
火得、ライフ11。
「があっ!? ・・んだと!? クリーチャーは貴様の戦場にいない筈じゃ・・・」
「土地にまで目を向けていなかったみたいですね」
戦場に目を向けると、火得を殴打した一匹の類人猿がぼんやりと消えていく。
「クリーチャーの攻撃手段は、ただ召喚して戦場に置くだけじゃありません」
「樹上の村! クリーチャー化できる土地カードですね! それも一時的にクリーチャーになるなら火力や除去でもやられにくいっ!」
ターン8。
「弱々しい風貌の割に手こずらせてくれたが・・・もう終わりだ。十分なマナが溜まっているからな、一気に叩きのめしてやる」
「まだ勝負はついていません」
「その言葉そのまま返してやる、『火山のドラゴン』!!」
それは4/4の、所謂大型クリーチャー。召喚したそのターンに攻撃が出来る「速攻」の能力を持つ。更に「飛行」をも有する為、通常のクリーチャーのブロックを掻い潜って攻撃が可能。
「大型が来ますよ!?」
「ハハハハッ、すぐに火だるまにしてや・・・っ?」
「耐えながらチャンスを探す。僕のデッキの主戦法は―――」
火山のドラゴンが渦の様に捻じれていく、そしてそのまま・・・消えて無くなった。
「こういう事です。ダメージや破壊だけがクリーチャーへの対抗手段じゃ無い」
「『巻き直し』!? 青のカードって事は・・・」
「打ち消したんですねっ!?」
「さあ、反撃開始だ。アルビノ・トロール召喚、樹上の村で攻撃!」
ターン9。
火得、ライフ8。
「一つ、聞きたい事があります」
「チッ、何だよこのタイミングで」
舌打ちに細かい足踏み、焦点の定まらない目線。明らかに火得には余裕が少なくなってきている。
「あなたが場に出した破滅のロッド、ですが」
「ハッ、気付くのが遅いんだよ。そーだよ、これがゲームに使った武器だ。こんなカードゲームには微塵も興味は無かったが、人よりもっと上に立てると言われた。その日からはさらに充実だ、高い所からこれを使って愚民を狩るのは・・・」
「もういいです、続けましょう」
その一声で、火得がビクつく。正直な話、有人もこの一瞬は駆の事を怖いと感じた。だが同時に、その重い一声の理由も気づく。
「おいおい何キレてんだぁ? これだからこんなのにハマる奴は・・・だからよぉ、少しは痛がれぇぇぇっ!!」
火得の土地が全てタップされ、生み出されたマナが収束していく。
「『猛火』・・! でもマナの総量的には」
「X火力でも今の彼の土地の数じゃ全てのライフな焼けない、ほぼヤケだ。・・・でも」
マナを注ぐだけ威力の上がる赤の呪文、だがそれも、
「『誤算』」
「は・・?」
一枚の青の呪文によって霧散していく。
呆然とした相手に、駆は、否、真剣に戦う者はその隙に容赦はしない。
「攻撃!」
「あがあっ・・!」
火得、ライフ2。
ターン10。
「ははははっ、引いた、引いたぜレアカード!!」
「出てこい『訓練されたオーグ』!! どうだ6/6だぞお!!」
「再華さんあれって・・・」
「うん、大型ではあるけど特殊能力は無い、所謂バニラだね。壁として立たれると厄介だけど、対処できない訳じゃない」
「負け惜しみかあ!? 今のお前の戦場に、これを倒せるクリーチャーはいないだろーがあ!」
最早、彼に戦略を練る程の思考力は・・・無い。駆は静かに、そして突きつける様に、一枚の呪文を唱えた。
「・・『撤回』、攻撃!」
訓練されたオーグは煙のように消え、火得の手札に戻ってゆく、もはや彼の戦場はガラ空きだ。
そのまま佐藤火得は、敗北を認めたくないという、見苦しい悔恨の表情の元、クリーチャーによる止めの殴打を受けた。
「これが、ホワイトロータス・・・」
『Game set!!』
*
「なっ、言った通りだろ? やる奴だって」
「はいっ、感動しました!! あれがいわゆるプロの戦いって奴なんですねっ、駆さん!!」
「そんな・・・そんな前向きに戦ってるつもりは無かったんだけど」
「それでも去年よりは実力はついている。実戦で戦える位は誇れ」
「えっ…ナニコレ乱闘の現場でMTGの話? ちょっと引くんだけど」
「それだけ熱中してるって事なのかな・・・この場に無関係な話じゃ無いし」
駆が勝利を収めた今回のデュエル、対戦相手である今回の事件の主犯佐藤火得は異様に衰弱し、その隙に駆けつけた後続の隊員達に連行された。それは屋内で火弥と鏡に叩きのめされた共犯者達も同様である。
「でも前から気になってたんですけど」
「何だ? デッキの中身以外なら答えるぜ」
「僕自身も経験したから、なんですけど・・・デュエルに負けたら、何であんなげっそりするんですか?」
「ああ言ってなかったか。解説ヨロ、鏡先生」
「お前でも十分事足りるだろうが・・・非常に簡潔に説明するなら、マナが枯渇した、という事だ」
「それってゲームの中の話では・・」
「リアライザーとして覚醒した人間には個人差があるが身体能力が上昇し、身体を支える要素としてマナが加わる。これは食事や睡眠等によって容易に補充が出来るのだが・・・原理は不明だがリアライザーがMTGを用い、フィールド内でデュエルを行う場合、敗北者には一時的にマナが消失する事が確認されている」
なるほど、要するに。
「腕っぷしが通用しないから、ゲームに誘って対等にやり合う、って事ですか?」
「ちょっと痛い所突くね・・・」
「お前そんな面があったのか・・・」
「事実だから仕方が無いだろう。プレイング能力だけしか鍛えない理由にはならんが」
少々至らない指摘をした事は、気づいてはいるが・・・
「はっ、話変えましょう! ずいぶん後処理が早くて行き届いてますね! それこそまるでプロフェッショナルのような・・・」
「そりゃ政府公認なんだから当たり前だろ」
「ええっじゃあ何というか・・・とりあえず僕達これからどうなるんです? 終わってから2時間は経ってますけど」
「まあとりあえず事情説明だな。少なくともすぐは帰れねえって事だ」
「・・夕飯覚めても大丈夫な奴って連絡しないと」
「心配すんな、今日は4人分オレが奢ってやるぜ、ラーメンを」
「本当ですか!?」
「少しは金銭に気を遣え!」
「あのさあ、当事者4人で騒いでて悪いんだけど! あたし達はどーすんの!?」
続く