MTG:Realize   作:四季永

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血糊屋敷

「う~ぃ、どんな家だと思って来てみりゃ宝の山じゃねーか! つくづくここの家主には感謝しかねーや!」

 深夜、若者達は時間に不相応な程声を上げながらとある屋敷へと入り込む。彼等の外見は典型的と言える程に・・少なくとも健全ではない。

「酔っ払って屋上から転落死とか、アホ過ぎるにもホドがあるよなぁ! なんならいっそここに住んじまうか?」

「あっそれ賛成~。使える資源はリサイクルってヤツ? ホント名案~」

 もはややっている行為は空き巣のそれだが、それを咎める者は一向に現れない。連中の言葉を真に受けるならば、ここは主不在の空き屋敷・・・の様である。

 

 

 の、だが。

「ん? 何か言ったか?」

「別にい?」

 

「————」

 

「オイ何か虫でもいたのかよ、キモイ声出しやがって」

「虫程度で叫ぶバカがいるかよ、大声出すとしたらスゲー金目のモンが・・」

 

「————っっ」

 それは、先程よりも大きい。

「オイ何だよマジで。イタズラにしちゃ面白くねえぞ」

「外みてーだな。殺すぞマジで」

 

「—————っっっ」

 

「な、何だよ・・・上の階から聞こえねーか」

「ア、アホ! ユーレイって言いてえのかそんな事あるワケ・・」

 

「アアアアアアア—————っっっ」

 

「ヒっ、何だあのバケモン!? たっ助けてっ」

「なあマジマジマジ許してっ・・」

「く、喰われる・・そんなんアリかよっ」

 

 程無くして、主の見当たらない屋敷の庭で、異形の咆哮と、そこに侵入した若者達の断末魔が響き渡った。

 

MTG:Realize

第7話

『血糊屋敷』

 

「おーっす少年。部活でも塾でもなく放課後ここを選ぶなんて物好きだねぇ」

「そりゃあここにいた方が有意義ですから」

「ハッキリ言うなよそういう事は」

 僕はMTGを愛している。有人なら真顔でそう言ってもおかしくはない。生きがいがあるのは人間が生きていく上で有意義な事だが、必要な事までそれで疎かにしてはいけない。

「・・と。説教タイムに入りたいところだがとりあえず任務だ。オレと少年で行く事になりそーだ、良かったな」

「本当ですか!? それで場所は」

*

「この屋敷、ですか・・・」

「何だ知ってんのか? 外れにしちゃあ結構いい家じゃねーか」

 有人が住む町・悠宇町は関東地区に存在する、過疎地でも無ければ極度の発展地でもない、人の質だけで言えばよくある中流の町である。特徴と言えば遊技場等エンタメ業が町の主力となっており風変わりな住人が多い・・・らしい。

「町外れの山田屋敷、ですね。大金持ちで結構有名なんですよ、悪い意味で」

「山田? いい身分の割にはパッとしねえ響きだな・・その悪い意味でってのは?」

「遊びに来た子供達を生卵投げつけて追い返したりとか、町にやって来たかと思えば爆買いに落書きみたいな迷惑行為とか。終いには真夜中にまじないみたいな事やってて、あまりに目立つんで通報されてましたよ」

「まじないってのが引っ掛かるな・・覚犯であっても何らおかしくねえ」

 疑いの表情を崩さぬまま、火弥は屋敷の正門へと踏み込む。

「任務って言っても探偵みたいですね、秘密裏の家宅捜査なんて」

「勘違いしてるみてーだな。既にここらでクリーチャーに襲われて死んだ奴が出てる。だからこれは武力介入だ、捜査なんて甘優しいもんじゃねえ」

*

「ぎゃああああッ!! 喰われるっ、助けて、許してっ」

 とある病室で、重傷の若者が狂ったように怯えている。

「判り易い位、精神をやられていますね・・・立ち直れるといいんですけど」

「身体の欠損が無いだけ、死ななかっただけでも相当な幸運だ。それにこいつは空き巣や略奪行為の常習犯グループの一員と聞いている、この恐怖体験はむしろ良い薬だろう」

 鏡は冷たい眼差しで、駆は哀れむような眼差しで、聴取対象である若者の有様を見つめている。死が迫った体験をした彼の心は壊れており、正確な情報はこれでは入手出来そうにない。

「・・・空識先輩、あの二人で大丈夫ですか?」

「未熟だから危険な任務に出さない、では成長しないだろう。司令の采配は間違っていない。駆、お前もそうだった筈だ」

「そうですね・・・」

*

「戻さなかった点は褒めてやるぜ。そんな写真、今度から幾らでも見る事になるぞ」

「気分悪くなったのは確かですよ・・・」

 あれだけ滅茶苦茶にされた人体は、人間の手には出来るものでは無い。とすれば、怪物に食い殺された・・・現実離れの解釈だが既にそれを現実に見たのだ、想像自体は安易に出来た。

「しっかしまあ贅沢品は確かに目立つな。金持ちってえのはどうして家具まで飾るのやら」

「単に金銭感覚の違い・・・でしょ? 僕らが強いカード目当てでパック買いまくるのと同じ、なんじゃ?」

「結構な指摘だな、耳が痛いぜ・・・ん? 少年、今何時?」

「6時過ぎですけど」

 外の風景に違和感を感じる。夕方を経ずにいきなり空が暗くなった気がするが・・・気のせいだろうか。

「一応・・・なんて言葉はヌルいな。身構えとけよ、どうやらここが家主のテリトリー・・・かもしれねえ」

「オバケでも出てくるっていうんですか!? それはそれでコメントに困」

 

「キィィィィッ!!」

「うわあッ!?」

 

 一瞬頭の中が真っ白になり、何が起こったのか分からなかった。瞬間的に我に返ったのは、空気を裂いたかのような音と金切り声に似た断末魔のせいだ。

「今のは『カミソリネズミ』だな。小型のクリーチャーとはいえ今のは危なかったぜ少年、もうちっと即決力を養う必要があるな」

 足元には火弥の呪文によって切り裂かれたカミソリネズミが数匹横たわり、やがて煤の様になり消失する。こいつらに喉を喰い裂かれた可能性もあった・・・一瞬であるが寒気が走った。

「もうここはクリーチャー共の巣窟なんだろーな。護衛役を出してた方が良いぜ」

 

 

 今1階の玄関に引き返しても、この屋敷の状況的に閉められている可能性が高い。よって二人は全体が見渡せる屋上を目指すことにした。

「炎樹さん、今回の任務ってのは・・・やっぱりここにいる犯人を捕まえる、って事ですか?」

「どした急に。まあ、現に被害者も出てるし、再起不能になるまでシバき倒す。ぐらいはあるかもな」

「・・やっぱりそういう事って。いっぱいあるんですか」

「まあな。基本的に覚犯ってのは、その力でイキって好き放題やってるのがほとんどだし。オレは幸運にもまだ居合わせてねーが、確保した後急激な魔力消耗の余波で死んだケースもある」

 力を持つ。その境遇に出逢うのは偶然かもしれないし、予め決められた事かもしれない。

「どーしたそんな深刻なツラしてぇ! まあオレ達青少年風情が警察紛いの事やってんのはイカれてるけど、オレ達しか出来ねえんだ、逃げて一生バカにされるのも嫌だろ? 今は責任として受け止めとけ」

 責任。そう、力を持った責任。今の有人には納得できる理由としては許容範囲ではある。

 

「っと! お出ましみたいだぜ、話は後だ」

 屋上へと続く階段がある、広間。

 その天井に陣取っていたクリーチャー達が、次々と集まり、降りてくる。

「小型連中は任せたぜ、少年!」

「はいっ! 行けっ、スリヴァー!!」

 有人はスリヴァーを複数召喚し、クリーチャーの群れを迎え撃つ。敵の群れで主に見えるのは、1/1の『ブラッド・ペット』や3/2の『ニシキヘビ』、先程も遭遇したカミソリネズミだ。

「全体的に強化すれば・・!」

 召喚した『筋肉スリヴァー』や『板金スリヴァー』の能力でP/Tは上がり、他に『かぎ爪のスリヴァー』によって先制攻撃の力を得た。スリヴァー達は反撃を許さぬ手早い攻撃で、敵の第一陣を屠っていく。

「まとめて相手になるぜ!」

 火弥は有人が戦闘で拓いた道を進み、後方の敵と交戦する。控えていた主なクリーチャーは、2/3飛行持ちの『深淵の死霊』、1/1飛行持ちの『貪欲なるスカージ』、1/1飛行持ちの『沼インプ』だ。

「飛んでるからって調子こくなよ!」

 火弥の率いる4/2の『火炎舌のカヴー』が、舌から放つ火球で飛行クリーチャーを撃ち落としていく。同時に火弥自身も火力呪文『火葬』、『乱撃斬』を行使し敵を焼き払っていく。

「このまま屋上へ突っ切るぞ! どーやら殲滅前提で戦ってたらキリがねえ」

「たっ確かにっ!」

*

 それは有人と火弥が佐藤屋敷へ乗り込み始めた頃、とある場所で交わされた何て事の無い会話である。

「既に死んでる?」

「屋敷に住んでる山田五郎、ですよね? その人確か二週間前に泥酔状態で屋上から転落して・・」

「見つかった時は骨だけの状態になってて、本人だったの判別が難しかった・・・みたい。そもそも人前に出るのが珍しい人だったし」

「俺達の調査では、彼は魔術的儀式に入れ込んでいたと聞いたが」

「色んな噂があるみたいですよ。何でも集金に来た人とかに、もうすぐいなくなるからいいだろって追い返したりとか」

「あたしが聞いた噂だと物凄くウキウキして旅に出るんだ、って」

 鏡と駆は一瞬ではあるが視線を合わせた。

「ありがとう。ごめんね、いきなりこんな時間に」

「・・・さっきから言いたかったんだけど・・何であたしの家なの!?」

「嵐羽光、お前の家が一番広くて話しやすいと、初基隊員から聞いた。察しろ」

*

「何とまあ、随分物好きな事で・・・」

「物好きとかいう次元じゃないですよ。・・引きますよ、これ」

 

 その、屋上の床一面に描かれていたのは、巨大な魔法陣・・・の様な物。そして、それを描くために用意していた塗料は・・・・血液だ。

「まじないをやってたのは本当だったんですね・・・」

「それだけが目的ならまだイタズラレベルなもんだ。・・場合に依っちゃあ、ここは燃やす」

「そんなに重大な事なんですか? 確かに悪趣味な物造ってる感じですけど・・」

 

「貴様ら、やはり嗅ぎつけて来たのかっ!? この神聖な場所を壊させはせんぞ、死ねっ!」

 向かいのドアから突如現れた、不気味な装束の男が、話す間もなくクリーチャーを召喚する。

「オイオイいきなりかよ!? 死ねって言うからには余程バレちゃヤバいもんみてえだな」

「そうだ当たり前だろう!? 私は行くのだ、前人未踏の世界へ!!」

 現れた巨大な馬のクリーチャーは、目も眩みそうな煙を発しながら向かってくる。

「こりゃあ囮がいないと厳しいな・・・初基少年! オレがこのクリーチャーを引きつける、お前は回り込んであの爺さんと戦え!」

「僕がですか!?」

「今更ここまで来て拒否は許さないぜ。お前WLとかリアライザー以前にプレイヤーだろうが!」

 その指摘は有人には非常に効いた。自分の中の沸き上がりを、押してくれる言葉だ。だからこの状況でも恐怖感は無い。そして、ただ少年は頷いた。

「確かこのクリーチャーは『夢魔』! 随分強化されてるっぽいから正面からじゃ勝てねえな・・・追って来いっ!」

 牽制として火力呪文を夢魔に浴びせる。だがそれはダメージにもなっていない。

「オオオ――――ッ!!」

 夢魔は雄叫びを上げて、読み通り火弥を狙って追って来る。

「あんたが! ・・・山田五郎さん、ですね!?」

「そうなら何だというのだっ」

「何でこんな物騒な儀式を・・」

「貴様らもそんな言葉で片付けるのか・・・良いか、これは別の宇宙へ行く為の門だ。私は見て聞いたのだ、この世界には無い、人知を超えた素晴らしい隣の世界があると」

 山田五郎の声の勢いが徐々に昂っていく。老人とは思えない、歪んだエネルギッシュさだ。

「だが世の者共はそれに気付かない。門を造る為の生贄でさえも連中は倫理だの人権とやらの下らぬ言葉を武器にする。新世界への入り口に比べれば些細な犠牲だろうに!」

「じゃあ、この血で出来た魔法陣は、そんな!?」

「もうすぐだ・・・もうすぐなのだ! この前ここに入り込んだ人間を捕らえて扉の礎とした、だが何故かまだ足りない! 次はどのような素材を・・」

 

 

 ああ、だめだ。

 有人は言い様の無い嫌悪感を抱きながらも、それを隠し、余計を喋らずフィールドを展開する。

 

 この人はもう、だめだ。

「分かってるな少年、勝てよ!」

「勝ちます!」

 得体の知れない、叶うかも解らない欲望の為に、この老人は動物たちを殺し、そして人をも殺した。それが世界を拓く為の犠牲だと割り切るのなら。

 

 

 その欲望は、その犠牲は、認めてはいけない。

今決闘へと臨む少年は、初めて思う。

 

 これは遊びじゃない。だから負けてはいけないと。

 

『Game Start!!』

 

 

 続く

 

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