俺と果林は、彼氏と彼女の関係である。表向きには……
「果林〜そろそろ準備開始して。」
「ええ,わかったわ。」
ここはとある撮影のスタジオ。この子,朝香果林は,読者モデルとしてもそこそこの人気がある。最近ではスクールアイドル活動も始めたからか,さらにファンが増えたらしい。
なぜ彼氏の俺が果林の仕事場にいるのか……それは…
「麗真,そこの私のカバンとってくれない?」
「ん?あ,うん。って,思って以上に重いな」
果林の肩にかけられていた鞄を取ると,いろんなメイク道具が入っていた。
「メイク道具?現場のじゃ,ダメだったの〜?」
「現場のメイク道具って,たまに変な形だったりで,上手くつけられなかったりするから,自分で持ってきたの。」
「言ってくれたら,持ったのに〜」
「自分で使うものだし,大丈夫よ。」
「そっか〜」
最近読モや,スクールアイドル活動で,2人でいられる時間が少なくなっている。同好会が終わった後も,果林は寮で,俺は自分の家に帰るから,少ししかいられない。仕事の後も,疲れているだろうから,すぐ送り届けて、すぐ帰るようにしている
忙しいから,しょうがないことではあるが、やはり一緒にいたい。彼氏として…
「じゃあちょっと目つぶって」
「そういえばあなたって,どうしてメイクに興味持ったのかしら。男の子なんだから,メイクなんてしないでしょ?」
「ん〜そうだな〜,ゲーム好きだからさ〜,いろんな系統のゲームに手を出したんだけどさ〜それで,リズムゲームもやったんだよ。そしたら,友達がファンデーション指につけてて」
「ファンデーション指につけてたの?」
体勢を変えずに、果林は少し大声をあげる。
「うん。俺もびっくりしちゃったんだけどさ,なんか滑りやすくなるんだって〜。それから調べるようになって、興味持ったんだ〜」
「ふーん。男子が化粧なんてあなたも物好きね。」
「そうだね〜でも今となってはこうして、好きな人と関われることもいいことだと思ってるよ〜これでよし。目開けていいよ〜」
「うん。やっぱり、麗真のメイクいいわ。これが私って感じがする。」
そう言って,目の前の鏡を見ながら、そう言った。それを後ろから見ていると,鏡を越しに,果林と目があった。そして俺は,優しく笑いかける。しかし,果林は,少し頬を染める。それを見た俺はスイッチが入ってしまった。
「お気に召したのなら,光栄です。」
「も,もちろんこんなもんで満足はしないわよ!」
「少し,お顔が赤いようですが,ファンデーション足りませんでしたか?」
「違うわ!これは……少し暑いだけ,そう暑いだけよ!!//」
「それは大変です。すぐに熱を下げないと。」
「いや,来ないで〜!!」
「ふふ,はいこれ〜」
「ひゃん!」
こんな茶番をしていると,あっという間に撮影の時間になっていた。そして置いてあったキンキンに冷えた水を果林の手首に当てる。
「水だよ〜頑張って!」
「も〜でもありがとう。行ってくるわ!!」
そして果林さんを見送った俺は,メイク道具をカバンに片付けた。これで大体わかっただろう。彼女には,メイク担当もヘアアレンジの人もいない。それは全て俺だからである。つまり俺は,だいたいできてしまう果林のマネージャーということだ。別に隠してるわけでもないし,聞かれたら答えるけど,彼氏以外の関係があると誰も思わないので,今のとこ誰にもなにも言われてない。
「その日ですと,スクールアイドルの練習が入っているので,この日ではどうでしょう?わかりました。それでお願いします。はい。それでは失礼します。」
撮影が終わって,自身の控室で、果林はくつろいでいた。
「誰だったの?」
「次の雑誌の撮影日の話だよ〜テーマは,クリスマスだってさ。」
「クリスマスね〜衣装は?」
「今回みたいに,服が配送されてくる感じじゃなくて,現地で選ぶ感じだよ〜」
「そう。クリスマス……その撮影って当日?」
「いや,二週間前だよ。」
「そう。ならいいわ。」
「なんかあったの〜?」
「クリスマスだし,最近2人の時間減っちゃってる気がするから,クリスマスは一緒にと思ってね」
「………!!」
正直,果林も同じことを思っていると思ってなかった。そこまで自分のことを思ってくれていると思うと,胸の高まりが抑えられなかった。
「どうしたの?そんなに赤くなって」
「いや,まさかそこまで思ってくれていたと思うと,少し恥ずかしいというか,こそばゆいというか………//」
「た、たまたまよ。そんないつもあなたのことなんて考えてないわよ!」
「ひと時だけでも,考えてくれたんだね〜」
「だから違うってば,違くないけど,違うにょよ〜あっ//」
「そういうとこほんと可愛いよね〜」
「//悔しいわ!!仕返しがしたいわ!!」
「じゃあ今から遊びにでも行く〜?まだ午前中だし。」
「いいわよ。どこ行くの?」
「ゲーセンあるし,近くのショッピングモールでも行こうか〜。」
「荷物持ったまま行くのかしら?」
「あ〜ロッカーに預けよっか。」
「じゃあ行きましょ」
そして,俺らは,撮影の人たちに一通り挨拶をして,現場を後にした。
その後歩いて,近くのショッピングモールに着いた。着くまでに果林が迷子になりかけたけど…また迷子にならないといいけど……
「麗真,ちょっとお手洗い行ってくるわね。」
「うん。出て右に曲がったところにいるからね。」
そう言って,果林は足早にお手洗いに向かった。その後俺は,近くにあったベンチに腰掛け,彼女来るのを待った。
15分経っても,果林が帰って来なかった。女性のお手洗いは長いというが,それにしても長すぎる。その間俺はスマホをいじっていたから,もしかしたら,気づかなかったのかしれない。しかし俺は誰にも話しかけられなかった。
すると,果林から電話がかかってきた。
「もしもし?今どこ〜?」
「あなたこそどこに行ってるの?お手洗いから出たらいないし…」
「果林、お手洗い出てどっちに曲がった?」
「え,左だけど?」
「そこが間違いだよ〜俺いるの右ね」
「あ,そうだったの……ごめんなさい」
「今どこにいるの?そっち行くからさ〜」
「左に出て近くにあるドアの前なんだけど…」
「わかったよ。そっち行くから動かないでね〜」
「そう,あと迷子センターってどこかわかる?」
「迷子センター?なんで〜?」
「今,迷子の子供といるのよ。」
「そっか〜じゃあ、それも一緒に探しますか〜」
「お願いね」
「はーい。そんじゃまた後でね〜」
俺は電話を切り,一直線の道を走った。すると,そこには,果林と,見知らぬ女の子がいた。
「果林,この子が迷子の?」
「ええ,私の後ろ姿が,お母さんだと思ってついてきちゃったみたいでね」
「そっか〜」
そして俺は,その子を見る。明らかに小学生ぐらいの身長に,腰まである髪をサイドテールに縛っていた。その子は俺が近づくと,なぜか,果林の後ろに隠れた。果林の手をぎゅっと握って。
(俺嫌われてない?初対面で嫌われるとか,悲しすぎる。)
俺はしゃがんで少女と同じ目線になる。そして問いた
「パパとママは?」
「…わからない。」
「じゃあ,どこでいなくなったとかわかる?」
「…わからない」
「わかった。一緒にパパたち探そう」
「…うん」
その子は泣かなかった。我慢していた。小さい子ながら,とても強い子だった。そしてその子の右手に俺,左の手に果林の手を繋いで,この子のパパたちを探そうとした時…
「恵那!!」
その声に振り返ると,お母さんらしき人が,そこには立っていた。
「ママ!!」
そして彼女たちは抱きつき,その場にしゃがみ込んだ。お母さんはもちろん,恵那ちゃんも,今までの我慢していて,何かが外れたように,滝のような涙を流した。
「ママ,このお兄ちゃんとお姉ちゃんが助けてくれたんだよ。」
「そうだったのね。本当に,本当にありがとうございました…」
「いえ,僕たちは何も,恵那ちゃん、迷子になっても泣かなかったんですよ。偉かったね。もう迷子にならないようにね」
「うん!ありがとう!お兄ちゃん,お姉ちゃん」
そして,俺は少女の頭を撫でる。そして,俺らはその場を後にした。後ろを振り向くと,すでにその親子の姿はなかった。
「ねぇ,果林?」
「何?」
「なんかあの空気の後にがゲーセン行くのちょっと,嫌なんだけど。」
俺は苦笑いしながらそう言った。
「そうね,あんなの見せられたら,遊ぶ気力もなくなるわよね。」
「うん。帰ろっか。」
その後俺らは,ゲーセンによらず,そのまま帰った。帰る途中に,果林が…
「ねぇ,手繋いでくれない?//」
「急だね〜はい」
「ありがとう」
俺の手に果林の手が重なる。手は冷たかったけど,ほんのり暖かい気分になった。
「これずっと繋いでていい?」
「いいけど…そんなによかった?」
「うん。なんか安心する。」
「そうね。私も安心するわ。」
「道迷わないもんね?」
「違うわよ〜!!」
「わかってるよ。同じ気持ちだから」
「麗真の意地悪……」
その時,俺は悩んでいることがどうでも良くなった。そんなことで戯れながら,学園寮に向かって歩いていくのだった。