栞子と同居を始めてもうすぐ一年が経つ。その中でも,年内最後のビッグイベント クリスマスなるものが迫っていた。
「栞子,クリスマスイヴって空いてる?」
ご飯を食べながら,そんなことを聞く。
「空いてますけど,どうしたのですか?」
「父さんがお店予約してくれたみたいで,一緒にご飯食べろってさ。なんで前日に教えてくるかな〜」
「そうでしたか,では後でお礼を言っとかないとですね」
「そうだね。俺も言っとかないと。」
そこで話は途切れ,黙々と食事をする。元々食事の時に会話をするのはあまりよろしくないとお互い教えられているため,こうして会話が途切れることは,いつものことなのだ。
「ごちそうさまでした。」
「お粗末さまでした。」
「そういや栞子」
「なんですか?」
「そのクリスマスイヴでご飯行く前に時間あるからさ,デートしない?」
その時,親に何か買ってもらった時の幼い子のような笑顔を見せた栞子
「そんなに嬉しかったんだ」
「今まであまりデートというデートをしたことないので…嬉しかったです//」
はっと気づいて栞子はそっぽを見いて膨れている。
「そんなに膨らまないでよ。可愛い顔が台無しですよ?」
「太一さん,私で遊んでますか?」
「だって一回一回の反応が面白いからさ。」
「やめてくださいよ…」
少しシュンとなった栞子に俺は声をかける。
「ごめんね。デートする時に何かしてあがるからさ。」
「私はそんなことでは釣られません。」
「えーじゃあどうしたらいい?キスでもする?」
「ふ、不純です!!それにそう言うことは結婚してからと言ってるではないですか!」
「婚約してるじゃん〜」
「それでもダメです!」
「じゃあ〜,はい」
俺はいすからたち,食事を終え,ソファーに座っている栞子を後ろから抱く。
「きゃっ、きゅ,急に抱きしめないでください。//」
突然だったからか,栞子の顔が一気に赤くなる。
「でも,これだったら,いいでしょ?」
「そうですけど…//」
「お願い,今だけはこのままで…」
「……何かあったんですか?」
「………」
その栞子の質問に彼は答えない。
「言いたくないことなら,言わなくていいですよ。でも,溜め込まないでくださいね。」
「………」
どんなことを聞いても太一は反応しなかった。
「………太一さん。」
「………」
ただの呼びかけにすら反応がなくなった。その時あることを思いついた。
しかし,それはあくまで予想。栞子は一応もう一度,声をかけた。
「太一さん?」
「……スー」
その息がした時,彼女に予想は的中した。
(はぁ〜やはり,寝てましたか。こうして抱き枕みたいにされると,大きな赤ちゃんに見えてくるじゃないですか。まあ〜でもそういうところが可愛いんですけどね。)
「おやすみなさい。太一さん」
そう言うと,彼女は彼の頭を優しく撫でた。今までいっぱい触られたけど、いざ彼の髪触ってみると,なんでそんなに何回も触りたくなる気持ちが少しわかった。しばらくしてから、抱かれた手を離し,食器の片付けを始めるのだった。
「ん…んん…あれ,朝?」
俺が起きた時,頭に違和感があった。枕にしては高低差が激しく,その枕は半分に割れていた。そこから少し首を動かして天井をみると,そこには,俺の彼女がソファーに座った状態で寝ていた。しかし,おかしい。この位置だと完全に俺の頭と栞子の足付近が被っているのだ。
「これって…膝枕か…」
(でも待てよ。てことは俺は,昨日の夜,栞子の膝枕で寝たってことか?!)
「栞子は,まだ寝てるか…昨日寝れなかったんだな。」
時刻は6時半。いつもの栞子なら、とっくに起きてる時間だ。なぜ起きれなかったか,その理由は一つしか、俺には思いつかなかった。
「やっぱり人のためには体を張るんだな。」
俺は,彼女を起こさないように起き上がり、栞子をお姫様抱っこして,ベットに寝かせた。俺はこれを,眠り姫抱っこと名付けた。
「さて,朝ごはん久しぶりに作るか。」
俺はご飯の支度をして,栞子が起きてくるのを待った。
「すみません、寝坊してしまいました。」
「あっ,おはよう、栞子。よく寝れた?」
30分後,自室のドアを勢いよく開けて,栞子が焦って起きてきた。
「それは,よく眠れましたが…料理は妻の務めでしたのに。」
「いいよいいよ。俺も久しぶりに料理できて楽しかったし,栞子に頼れる夫と言うところを見せられたから気にしないで。」
「ふふ,もう十分頼れる旦那様ですよ。それでなに作ったのですか?」
「//とりあえず,コンソメスープと鮭のムニエルに,つなのせた千切りキャベツ〜ドレッシングはオニオンだよ。」
「わー,美味しそうですね。」
「そっか。栞子には作ってあげたことなかったんだっけ。」
「はい。いただきます。」
「じゃあ,俺も,いただきます。」
「ん〜美味しいです!このムニエルも,クセになる味ですね!」
「そんなに美味しかったんだね。教えてあげるよ」
「本当ですか?」
「うん。そのためにも冷めないうちに食べちゃおっか。」
さっきまでずっと盛り上がっていたのに,その空気が跡形もなき消え去るように静かになる。そのまま食事を終える。
「ごちそうさまでした。とても美味しかったです。」
「そっか,それは良かった。」
「あの,たまには作ってくれますか?//」
「栞子が言うなら,いつでも作るよ。」
「ありがとうございます。」
「午後から出かけることにしてさ,今少し教えよっか?」
「では少し教えてください。」
それから俺は料理のレシピを一部彼女に教えた。それをメモする栞子。こんなことでも真面目に聞いてくれるこの子が俺の嫁だなんて、勿体無いくらいだ。自分で言うのもなんだけど…そして気づいたら、13時を過ぎていた。俺らはお昼を済ませ,パジャマから着替え出かけようとしていた。
「栞子大丈夫そう?」
「行けますよ。」
部屋から出てきた栞子は,いつもの栞子とは思えなかった。まさか,あんなに校則に厳しい生徒会長がメイクするなんて…
「メイクしたんだね。」
「休日ぐらい私もしますよ。嫌でしたか?」
「いや,してなくても可愛いけど,メイクしたらさらに可愛くなった。」
「太一さんは、褒めるのが上手すぎます…//」
「ごめんね。じゃあ行こう」
「はい」
玄関から出て,鍵を閉めてる時,栞子が不意に声を上げた。
「あ,雪ですよ。太一さん」
「ほんとだね。まさかホワイトクリスマスになるなんて、思わなかったね」
「滅多にないことですからね。」
「こんな貴重な時に栞子と過ごせて良かったよ」
「私も同じ気持ちです。」
栞子が空に手を伸ばすと,雪が一つ栞子の手に落ちる。しかしそれはすぐに溶ける。その手を俺は握る。不意だったからか,栞子は,この季節とは反対に赤く,暑くなる。
「ほら,手冷えるから。握ってな」
「…//太一さんが握りたいだけでは?」
「それもある。」
そして俺らはくすくすと笑った。それから手を繋いだまま,出かけるのだった。