ピンポーン………ピッ
「はーい。」
「あ、桐谷です。」
「おお、凪くん。どうぞ入って〜」
そこで会話は途切れ、玄関のドアが開く。僕から見て右側で低めのサイドアップの彼方さんはどこか新鮮で来たばかりで鼓動が速くなる。
「どうしたの?」
「あ…その…その髪型余り見ないから、可愛くて//」
僕は首に手を当て、俯き、たまにチラ見しながら、そう言った。
「あ、ありがとう…//」
「「………//」」
遥「お姉ちゃん、お菓子できたけど、どうする?」
遥ちゃんがこの空気を壊すように、リビングから彼方に声をかける。
(遥ちゃん、ナイスタイミング。よかった〜)
「はっ、そうだった。途中だったんだ。凪くん、ちょっと待っててね。」
「うん待つよ。」
「ありがとう!」
そう言って、彼女は家の中へ足早に戻っていった。
「あれ、僕置いてけぼり………?」
どうやら待っててというのは、「できるまでゆっくりしてて」の待っててではなく、「ここで待ってて」の待っててだったらしい。
その後すぐに呼びに来て、僕は家の中に招かれた。彼方は「ごめんねぇ〜」と謝ってくれたが、正直わざとじゃないってわかってたから怒らないし、そんな可愛く謝られたら、許そうと思ってなくても、許してしまうから。そんなほっこりした気持ちで僕は家に入った………これから何が待ち構えているかも知らずに…
「お邪魔します。」
そう言い、靴を揃え、スリッパを履き、彼方は僕をリビングへと呼んだ。
「どうぞ〜」
「失礼しま…えっ」
「あ、凪くん会うの初めてだもんね〜こちら私の父と母でございます〜。」
入ろうとした時に、彼方父と目があってしまい、そこで言葉が止まった。彼方はいつもと変わらず、紹介するが、こっちは彼女の親の前だ。緊張しないはずがない。
「お初にお目にかかります。彼方さんと付き合わせてもらっている桐谷凪です。」
母「そんなに硬くならないで。私たちはあなたのことを認めているわ。とりあえず座りなさいな。」
「はい。失礼します。」
認めていると言われても、今はの話だ。これからの対応、言動によって、認識が変わってくるだろう。それがわかっているからこそ、無闇矢鱈な行動ができない。
「で、どうやって知り合ったの?」
「そうですね、ある日ベンチで調べ物をしていたんですけど、そしたら、眠そうな彼方さんが歩いてきて、唐突に膝枕することになって、その頃彼女自身眠り姫って言われてたので、正直すぐにピンと来ました。」
母「ほうほう〜それでそれで?」
「流石に女性一人を置いていくのは、危ないと思ったので、ずっとついてたんですけど、あたりも暗くなって来て、起こそうにも、起こせないし起きないしで、スクールアイドル同好会に彼方さんを運んだんです。それが初めて会った時です。」
母「彼方、結構グイグイいったのね」
「な、なんのことだか…さっぱりですな〜//」
「グイグイ?どういうことですか?」
母「凪くん、引っ越ししたことある?」
「引っ越しですか?幼稚園の頃一回ほど。」
急に全く関係ない話をされたので、僕はキョトンとする。彼方父はずっと黙って相槌などを打っているだけだった。この空間では、何故この質問が飛んできたか分からないのは、僕だけのようだった。
母「じゃあこれなんだと思う?」
そう言って、彼方母は一枚の写真を手渡してきた。
「写真ですか?あ、彼方さんですね。彼方この頃から可愛かったんですね〜」
それは彼方さんと誰かが一緒に泥だらけになって、満面の笑みでピースしているツーショットだった。
母「ふふ、その鈍感っぷり昔と変わらないわね。」
「昔?」
父「その隣だよ。誰かわかるかい?」
「隣………え、これって…」
そう言って僕は向かいにいる両親、そして隣に座っている、彼方に目を向けた。
父「君だよ。君は昔隣同士だったんだよ。」
「ずっと、気になってはいたんです。近江彼方って名前をどこかで聞いたことがあったし、家にお邪魔した時、どこか見覚えがあって、ずっと他人や他の家空似だと思ってました。でも…そうだったんですね。」
僕は気づかぬうちに泣いていた。それを彼方がハンカチで拭ってくれる。こんなこと前にもあったような…
「イダァ…ヒグッ…うわぁぁぁんん!!いたいよ〜」
少年は岩に躓き転んだ。それを見かけた、少女がその少年に手を伸ばす。
「大丈夫、ちょっとひざ、すりむいただけだから。ほら、じっとしてて、なみだふくから」
「でも、いたいよ〜」
それでも少年は駄々をこねる。
「じゃあ、足出して、いたいのいたいの飛んでいけ!」
そしてその少女はそのおまじないを唱えて、絆創膏を傷口に貼った。
「うぅ…ありがどぅ…かなたちゃん」
「泣かないで〜」
彼女はずっと泣いている少年を見つめてこう言った。
「じゃあ、なーくんがつよいおとこのこになったら、わたしがケッコンしてあげる。」
「ふぇ?でも、そういうのはおかあさんたちにきかないと………」
「いいの!ヤクソクだから。やぶったらゆるさないから。」
少女はそう言って小指を彼に突き出した。そして彼も何かを決したように涙を袖で拭って…
「わかった。ぼくぜったいつよいなって、かなたちゃんをまもれるひとになる!」
「うん!まってる!」
「「♪〜ゆびきりげんまん うそついたら はりせんぼん のーます ゆびきった。」」
「ぜったいもどってくるから」
「じゃあ、その時は………ていってね!」
「うん!」
「ぜったいだよ!忘れないでね!!」
それがのちに付き合う彼らのほんの少しの別れだった。
彼方は僕の涙を拭ってくれていて、その手を僕は掴んだ。
「ふぇ?ど、どうしたの?!//」
「ねぇ、彼方ちゃん。」
「え…ちゃんずけ…」
両手で彼女の手を掴んで、泣いてる顔で、頑張って笑いながら、彼女を見つめる。
「僕は…もう守ってもらうだけの僕じゃないよ。」
「はっ………………やっと…やっと思い出してくれたんだね…遅いよ。凪くん…うぅぅ」
彼女も泣き始めて、いつの間にか抱きしめられていた。そして僕も彼女と一緒に泣いた。拭いてくれた涙を無駄にしてしまったが、今はこれでいい。
「ごめん、彼方。約束は破ったし、彼方のことは忘れてたし、ごめん。」
「いいよ。思い出してくれただけで、嬉しいから。」
「ヒグッ…」
「ほら、目腫れちゃうよ〜」
「彼方だって人のこと言えないじゃん。」
ハンカチと指でそれぞれの涙を拭い合う。拭いながら、二人で笑い合った。
母「彼方よかったわね。そしてここにこんなものがあります。」
「「婚姻届?!」
母「凪くんのお母さんとはママ友だしね、話したら、普通に許可もらえたわよ〜」
「お母さんそれは早いって!」
「お母様、少し待ってください。」
そう言って、僕は彼女と向き合った。彼方は目を逸らすが、しばらくして、僕の目を見た。
「近江彼方さん。僕と…結婚してくれませんか?」
「………………はい!!」
「…ふうーじゃあ、書きます。」
「わ、私も〜」
母「よかったわね、あなた」
父「そうだな。成長は早いものだな。」
母「そうね。あら、雨かしら?」
父「いや、違うよ。あれは雪だ。祝福してくれてるみたいだな。」
母「そうね。末永く」
両親「お幸せに(ね)」
こうして僕と彼方は結婚したのだった。