こんにちは。宮下愛の彼氏の碧朱衣です。今仲良く俺の前で戯れあってる二人。東間太一と雪代快斗、今ではここまで仲がいいが、昔はここまでではなかったんです。いや、その時だけは。愛さんが踏んでしまったフラグを回収していくのも、彼氏である俺の勤めですので!
ーーーそれは少し前、彼らがまだ付き合う前の話、二人の男子と二人の女子の物語である。ーーー
その日、生徒会長再選挙という前代未聞のことが起きた。そこで中川さんは、負けた。そして、新たに三船栞子さんが生徒会長になった。しかし同好会の人たちは、彼女のやり方があまり好きではなかった。否定もしないし肯定もしない。
確かに三船さんのやり方は、悪いとは思う。全校生徒の前で中川さんの弱点とも呼べるものを晒した上に、正論を彼女に叩きつけた。そのやり方は確かに見てる人だけでなく、聞いた人までも不快にするだろう。だが、それが正論でなければの話だ。
中川さんがスクールアイドル優木せつ菜だということを知る人は少ない。だからこそ、その事実を知らない人からすれば、一方的に三船さんが殴っているようにしか見えないだろう。だが俺達スクールアイドル同好会はその事実を知っている。中川さんもあそこで何も言わなかった。それもそうだろう。あそこで何かを言えば、優木せつ菜であることがバレるリスクがあったのだろう。ましてや正論なら尚更何も言えまい。
そして選挙は終わった。引き継ぎをするため、快斗と中川さん、三船さんは生徒会長へ、向かった。そこからは沈黙の空気だった。黙々と作業をして、終わる手前までいった。
「三船さん、これ置いときますね。」
「中川さん、ありがとうございます。このくらいであれば、もう一人で十分です。」
「そうですか。それでは失礼します。」
「菜々、ちょっと三船さんに用あるから、先帰っていいよ。」
「え、もしかして、それって…」
「菜々のことじゃないよ。ほんとに俺自身の用事だから。」
彼はそう言って微笑んだ、少し不安ではあったが、すぐにでも逃げたかった彼女はその場を後にした。
「それじゃあ、話そうよ。三船さん。コミュニケーションとしてさ。」
「なんでしょうか。手短にお願いします。」
「…チッ、じゃあ、単刀直入に言おう。…なんで菜々を貶めるような言い方をした?」
さっきまでの声のトーンより明らかに低く、圧力をかけ、目つきも彼女を睨んでいる。しかし彼女は動じない。
「中川さんは、生徒会以上にやりたいこと、お言葉を借りれば、大好きなことがあったみたいでしたので、いいのではないでしょうか?それに、そう言ったことを言っておきながら、自分を犠牲にしている時点でそれは矛盾です。」
正論だ。だが、怒って気が立っている彼を正論で抑えるのは、栞子であっても容易ではなかった。
「そうだな。それも一理ある。しかしだ、両立はできていたし、何より生徒会長をする目的があったはずだ。それをあそこまで全否定する意味はなんだ?」
「簡単に言えば、彼女に生徒会長いう適正はなかったということです。先ほども申しましたが、生徒の見本となる人。それが生徒会長です。生徒達の先導に立ち、生徒達が迷わなようにするのが仕事です。しかし彼女は一番の仕事である、生徒達を先導することが不十分でした。それだけです。」
「じゃあ、なんだ、テメェにはその適正ってのがあるっていうのか?」
話をしていくごとに快斗の怒りは膨れ上がっていった。もう噴火寸前まで迫っていた。
「そうですね、ほかに好きなこともやりたいこともないので、あるのではないかと自分では思います。」
「お前も憶測じゃねえか。そんな確信もないのに、菜々を陥れて、自分の地位を獲得したかったのか!」
「そういうことではありません。私はまだ経験がありません。なので、どうなるかは分かりません。もしかしたら前生徒会長よりも適性がないかもしれません。しかし、何事も経験です。やってみないことには何も言えません。」
(前…?菜々が前だって…?こいつさえ動かなければ、こんなことにはならなかったのか………こいつさえ、こいつさえ…こいつさえ“いなければ”…?ああ、そっか…)
「………おま…いなけ…ば………」
「はい?何か言いました?」
「お前さえいなければ、こんなことにはならなかったんだよ!!」
そういって快斗は強く握った拳を彼女に向かって振り下ろした。しかしそれは目標に到達することなく、安易に止められる。
「快斗、何女に手上げようとしてんだ?」
「…太一、なんでいんだよ。ここのは俺とこいつ以外………っ!!」
その拳は太一という三船栞子の許嫁によって止められた。どうやら快斗が考え事をしていたときに、入ってきて、ただ彼が気づかなかっただけだった。菜々も一緒に。
「………菜々、帰ったんじゃなかったのか…?」
「嫌な予感がして、下駄箱で待っていたんです。そしたら…」
「俺がたまたま会ってな。一緒に来たんだ。それよりもだ………お前は何してんだよ。」
太一は一呼吸置いて、快斗を睨んだ。それもそうだ。この頃から、太一と三船さんは同居していたのだからな。
「見て分からないほど、お前は馬鹿なのか?」
「ああ?そういうことじゃねぇーよ。なんで拳を振り下ろしたのかって聞いてんだよ。」
「快斗さん、落ち着いてください!東間さんも!」
「太一さん、ここで争うことはおすすめできません。しっかり話し合って解決すべきです。」
「ごめん、菜々。危ないから下がってて。」
「栞子、そうしたいのは山々だけど、相手がそういうこと聞きそうな心理状態じゃなさそうだから無理だと思う。中川さんを連れて外出てたほうがいい。」
「ほどほどにしてくださいね。中川さん、外に出ます。」
「え、でも…」
「急いでください!」
「おい待てよ!」
「この手を離したら、何するかわかんない奴をどこかに行かせると思ったか?」
彼女らは速やかに生徒会室を後にした。彼らは…以前微動だにせず振り下ろした拳を抑えている状態で止まっている。その凍りついた空気は辺りを凍らせ、自分自身も凍らせている様に、動くことはない。その冷えた空気から微かに息を漏らす太一。
「お前は何のために拳を振るうのか。それを考えない限り、それはただの凶器だ。理由もなく、それを振るえば、どうなるのかお前にもわかるだろ。」
「お前に何がわかる!!好きな子が泣いているのを見たことがあるのか?誰も見つからないところに隠れて、一人で泣いている姿を!あいつさえ、三船栞子さえいなければ、こんなことにはならなかったんだ!!」
「お前、それの後の結果を考えて行動したか?」
「あるさ。少し予定とは違うけど。」
「どうせ、殴ったら解決すると思ってたんだろ?」
「最初は話したさ。でも、そいつは何も変わらなかったんでな、実力行使に出たんだよ。」
「それをした後、中川さんの反応を考えなかったのか?」
「菜々は泣いていたんだ。その理由はただ一つ、生徒の前で、罵倒をされた上に、権力を奪われたから。だから俺がその権力を彼女に返せば全てが丸く収ま………うへぇ!」
話してる最中、太一は快斗の腹に左ストレートをかます。それがみぞおちにヒットし、後退し、壁に激突すると同時に電気が消える。月明かりに照らされた部屋で快斗は尻餅をつく。その前にヤンキー座りをして見下す太一。快斗はお腹を押さえながら、不服そうに太一を見つめる。
「て、テメェ!」
「がっかりだよ。快斗」
「何が!!」
「お前は中川さんが本当に権力目当てで動くと思ってるのか?その程度の理解で好き?全て丸く収まる?バカはお前だよ。相手のことも理解しないで、はやとちりして、取り返しのつかないことをしようとしたんだよ。そんな中途半端な気持ちで、好きとか言ってんじゃね。相手が可哀想だ。」
「………………わかっていた。わかってはいたんだ。菜々が権力を求めていないことも。泣いていた理由も大体はわかる。」
「ほう、何だと思う?」
「三船さんに気づいてなかった矛盾を突きつけられて、自分の無力さと、自分自身への戒め。とかその辺りだと思ってるよ…」
「ああ、正解だ。中川さん自身が言ってた。『私は自分で作ろうとしていた学校の見本になれていなかった。そして、人に言われないと気づけなかった、自分への罪悪感と情けなさに打ちひしがれている。』ってな。」
「それでも、泣いてるのを見た時、居ても立っても居られなかった。そこで泣かせた張本人の三船さんを狙った。そのための口実を権力として、自分を納得させていたんだ…」
「快斗、お前がしたことを俺は許さん。だが、一つだけ助言してやる。相手のことを思いやり、自分の行動、言動に責任を持つべし。それだけだ。」
「ハハ……俺バカだな。知ったかぶりして…バカすぎる。笑えてくる。」
「確かにバカだ。だが、何かに砕かれても、打ちのめされても、立ち上がろうとするお前らを、俺はそんなに嫌いじゃない。お前のしたことは、愚かだ。愚かで、無謀だ。だが、中川さんと快斗の精神と仲は、綺麗だと思うよ。」
「………はぁ、何様だよお前は…」
「俺は俺だ。そしてお前はお前だろ?みんな違ってみんないいっていうだろ。」
「そうだな…悪いな。助かった。」
「ええよ。なんかあったら、また言えよ。中川さんにも、栞子にも謝れよな!礼儀だ。」
「俺そこまで礼儀なくないから!」
「立てるか?」
「ああ、悪い」
太一は快斗に手を伸ばした。それを快斗は掴み立ち上がる。立ち上がると、彼らは笑い合った。その理由を知るのは、彼らしかいない。
すると唐突に生徒会室のドアが開いた。そこには栞子と菜々がひょこっと覗いていた。
「お、終わりましたか?」
「菜々、終わったよ。それでさ、菜々………ん?」
快斗が話しているとき、ドアから飛び出した彼女が彼に一直線に向かい、抱きついた。予想外のことで、他の3人、困惑していた。
「あ、あの…中川さん?どうしたの〜?」
「………………」
菜々が顔を押し当てている付近に意識を向けると、振動が伝わってきた。
(そうか、泣いてくれてるのか。)
「ごめんな。知ったかぶりして…しかも、結果を顧みないで行動して…生徒会書記として、ずっと一緒にやってきたのにな。」
その時、彼の頬に一筋の涙が流れる。自分自身殴られても、泣かなかったのに、今泣いていて、少し困惑していた。そしてこれが罪悪感というものなのか。彼はそれを察した。
「じゃあ、帰るぞ。栞子」
「え、しかし…」
「大丈夫、前生徒会長と生徒会書記だ。戸締りくらいしてくれるよ。」
「そうですか。ではお任せします。」
そんなことをコソコソ話して、東間太一と三船栞子は、生徒会室の扉をくぐった。
「………菜々、落ち着いた?」
「………うぅ、はぁい…」
彼女は彼の服から顔を離した。その顔には、涙の跡がバッチリ残っていた。快斗は咄嗟に彼女に目にたまった涙を拭う。
「心配かけたね。」
「ほんとですよぉ〜!!」
菜々は声を張り上げて、快斗の胸付近を両手でポコポコ叩く。
「ただ自分の無力さで泣いていたのに、思い込み激しすぎです!それになんですか、私のこと知らないって!私自分のこと快斗さんには話してるつもりだったんですよ?!」
「え、そうだったの?」
「そうですよ!それに………」
黙ったと同時に、快斗を叩く菜々の手も止まる。
「すごく心配したんです。出てきて、ボロボロになって出てくるんじゃないかって…」
「きっとこれも、太一の考慮か。あいつ先読みしすぎだろ…」
「でも、安心しました。怪我が無いようで。」
「心は傷ついたけどな。菜々…」
「はい、何ですか?」
名前を呼ぶと、無邪気に笑いながら、快斗を見上げる。そんな彼女の頬に彼は手を伸ばす。そして彼はただ一言………
「俺と付き合ってくれませんか?」
彼女は赤面し、反射的に俯く。少しの沈黙の後、彼女は、再び上を向き…
「はい!!」
と一言で答えた。そして彼らは事故では無い本当のハグをした。
………とまあ〜こういうことがあったって話です。自分で言っててなんですが、何度聞いてもいい話ですね。俺も愛さんとそういう感じになりたいな〜
「朱衣、何してんの?いくよ。」
「ん?ああ。いくよ。」
「何ぼーっとしてんだよ。」
「ごめんごめん。」
どうやら、呼ばれてしまったようだ。名残惜しいけど、続きはまた今度って事で。