これは,電車で翔と会う数日前の話………
「砂礫さん,ちょっと肩借りていい?」
「は?!何言ってんだよ,急に//」
「ん,お昼食べたら眠くなっちゃって、寝たい…璃奈ちゃんボード:むにゃむにゃ」
「そんなこと言われてもなぁ〜」
「…ダメ?」
彼女は,首を傾けた。
「あ〜もういいよ!…ほら//」
「うん。じゃあ借りるね………居なくなったり,顔見ないでね」
「見ねーよ!つか,この状況で居なくなれるかよ…」
「怪しい。璃奈ちゃんボード:ジーー」
「いいからとっとと寝ちまえよ」
「うん。ありがとう、砂礫さん。おやすみ…なさい…」
「おやすみ,璃奈」
今日は璃奈の誘いで、璃奈のお気に入りの日陰スポットでお昼ご飯を食べていた。
なんで誘ったかと聞いてみたら、恥ずかしがりながら、付き合って初めてのお昼だから。とのことだった。
璃奈曰く、よく愛さんと一緒にここで食べておるとかで,俺が璃奈と知り合ったのも、愛さん繋がりだということもあり、愛さんがいたから、璃奈と付き合えたと言っても、過言ではない。
しばらくして,俺は璃奈の顔を覗き見た。璃奈は、俯きながら両手で璃奈ちゃんボードを持ちながら,眠っていた。前からは完全に顔を見ることはできなかったが、横からは、ボードと顔の間に少し隙間ができており、ほっぺたは見えていた。
俺は璃奈の素顔を前から見たいと思った。少し見てまた戻せばバレないと思って俺はそっと璃奈ちゃんボードに手をかけ,璃奈の手から奪い、地べたに置いた。
それが命取りだとも知らずに………
その素顔は,想像を絶するほどの純白で透き通る肌に、丸みを帯びた輪郭がなんとも愛らしかった。十分堪能して,璃奈ちゃんボードを璃奈の手の中に戻そうとした。しかし…
璃奈ちゃんボードが見当たれなかった。
周りを探してもどこにもない。心辺りがなく、ただ立ち尽くすことしかできなかった。その時,カラスが鳴いた。
ふと,上を見上げると…
そこには,大きな木があり,その一本の枝にカラスが止まっていた。その足には璃奈ちゃんボードを持っていた。どうやらスケッチブックの針金の部分が反射して光るものに見えてしまったみたいだ。
「っ!!おいカラス!それ返せよ!」
俺は近くに落ちていた石を投げカラスに当てようとするが,少しずれてカラスがいる枝に当たる
当たった振動に驚いたカラスは、そのままどこかへ飛び立とうとしていた。
俺は璃奈と璃奈ちゃんボードで迷っていた。
(璃奈を置いていったら、テンパるかもしれない。でも璃奈ちゃんボードがなかったら、午後からのことはどうなる…)
意を決して俺は決断した。
「璃奈,約束守れなくて悪いな、すぐ戻るから」
俺はそう呟き,璃奈を木に寄りかからせて,カラスを追った。
璃奈side
「ん…眩……しい」
その時の寝起きは朝ベットから起き上がるのと同じくらい眩しかった。それを私は瞬時に直感した。自分に起きている状況を…
「璃奈ちゃんボードが………私の…表情が…」
顔を慌てて手で覆った。震えが止まらない。そして,この状況で,話そうとしない彼
「砂礫さん…璃奈ちゃんボード返してよ…あれないと私…」
これだけ願望しても、返すことすら、話そうともしない。
そして顔を抑えながら、指と指の間から周囲を見渡した。
「誰も…いない」
彼女はガクッと膝をついた。
この時璃奈の心は絶望感に浸った。
誰もいない中,一人になってしまったこと。
表情を失ったこと
彼がいなくなってしまったこと
これら全てを知った時、彼女の目には涙が溜まっていた。
この状況では,自分には,何も,身動きすら取れない。それをわかっているから,子供のように泣くことしかできなかった。
「嫌だよ…私をひとりにしないでよ。砂礫さん……蓮くん…」
蓮side
「オラっ!」
投げた石は一向に当たる気配がない。むしろ避けられている感じさえした。
「チッ,なんなんだよ」
「お前何カラスに石当てようとしてんだよ」
「あっ,朱衣先輩,ちょっときてください」
「え,ちょま!」
俺は朱衣先輩の手を掴み無理やり連れてきた。追いかけながら、状況を説明する。
「で,何があったんだよ。」
「カラスが足に持ってるもの見えますか?」
「あれって…璃奈ちゃんボード?!」
「はい。だから石を当てて落とそうかと」
「お前,璃奈ちゃんはどうしたんだよ」
「近くにあった木に寄り掛からせて寝かせました。」
すると突然彼は俺の腕を掴んで,止めた。
「何するんですか,朱衣先「お前が隣にいてやらなくてどうするんだよ!体の一部みたいなものを無くしたのに、その上彼氏までいなくなるって、どういうことか分かってんのか?!」
「………」
「表情(ボード)は俺が引き受けるから,璃奈ちゃんのところに行ってあげて」
「わかりました。お願いします。」
俺は感謝と敬意を払い,一礼をして元来た道を走って戻るのだった。
だんだん元いた場所に戻ってきており,お昼を食べた大きな木が見えてきた。
根本には、膝をついてうずくまる璃奈の姿があった。
「璃奈!!」
俺は走って璃奈の元へ向かい,抱きしめた
「……蓮くん?」
「あぁ。一人にしてごめんな」
「…やだ…許さない…」
「うん。ほんとにごめんなさい。」
「もう大丈夫だよ。だって,私のところに帰ってきてくれたから。」
「ありがとう、璃奈」
「もう離れないでね、蓮くん。」
「うん、こんな可愛い彼女の素顔を誰にも渡すもんか!」
こうして二人は笑い合った。璃奈ちゃんボードが無くても、話せていることなど忘れて
この後,朱衣先輩に璃奈ちゃんボードを届けてもらうついでに、こっ酷く怒られた。これがなかったら,俺の決意はここまで固くなることは,なかっただろう。