虹ヶ咲 彼氏彼女の事情   作:ワサオーロラ

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お久しぶりです!!

長らくお待たせしてすみません!!

嵐珠さん書き終わったので投稿します。

スクスタを途中でやめてしまったことと、アニメの第二期を追うことが出いていない。こともあり、嵐珠さんのキャラや口調がもしかしたら、アニメや、スクスタと異なる場合があるので、お主に見てもらえるとありがたいです。

それではどうぞ!!

ちなみに字数が28472文字と約三万字になりますので、先に謝っておきます。ごめんなさい。


鐘嵐珠 馴れ初め

中学生の卒業式、僕は好きな子に告白した。結果は見事玉砕……まあ、会えなくなること、一方的な片思い、いろいろ理由はでてくるが、断った理由は告白されたあの子しか知らない。それもそうだろうな。彼女は僕のことを知らない。もちろん僕を知らない。だって初対面だから。見かけたことはあっても、話すこともない。この結果は当たり前だろうな…その噂はすぐに広まっていき、その学校でのでんせつになったとか、なってないとか。

 

まさか後輩に一目惚れする日が来るなんて……入場の時、その子の横顔を見て不覚にもかわいいと思ってしまった自分がいた。自分は女性を見た目ではなく、内面で好きになると思っていたから、少し動揺した。しかし、あの姿勢、長く二の腕の真ん中よりちょっと下ぐらいまで伸びた黒い髪に長いまつげ、しかも前から三列目の一番端っこに座っていた。そんなの誰だって目が行くだろう。少なくとも僕はそうだった。

 

一目惚れなんて経験ないし、こんなことでうじうじしててもしょうがない。そんなことわかってはいたが、当時の僕は何でか、ずっとその子のことを考えていた。同じ高校に来ないか。何してるだろうとか。いろいろ考えているうちに、季節は過ぎ去り、同級生も僕のことを置いて行った。こうして留年しましたとさ……

 

この虹ヶ咲学園では僕が初めての留年らしい。親にも申し訳なかった。だが、それでも僕は勉強をすることはなかった。ただ、授業態度とテストの点数をちゃんととるようにした。これでも一回学んだことは案外覚えているものだから。才能なのか、二回目だからなのか、わからんが大体のテストで百点を取った。いや、百点以外とったことがない。正直ここまでくると才能だろうな、なんて自分でも思う。ノートはとるものの、考えていることはずっとあの子のことだった。

 

だが留年してよかったこともある。同じ高校ならば年齢は違えど、同学年なのだ。まあ、結論としてはいなかったんだけど、それで少しは諦めがついた僕は、何もやることがなくなり、先の学年の勉強をするようになった。無頓着だった僕が二つ目に夢中になったもの、それが勉強だった。心に大きな穴が開いたみたいな状態を勉強で埋めた。失恋は何で埋めることもできないって聞いたことがあるけど、案外そうでもないんだなと思った。

 

それから二年が過ぎ、僕は高校三年生になった。あんだけおちゃらけてたのはもう黒歴史であり、誰にも言えない。留年なんてもっと言えない。二年で何かが変わったわけでもないが、確実におとなしくはなったと自分でも思っている。あとは学校の生徒よりも一年多く先生方と関わっているわけだから、いじられたり、交換条件で手伝わされたり、なにかと仲がいい方だと思う。一応どの先生とも顔見知りではあるし、名前も把握されている。理事長とも一応関わったことがあるくらいだし。これって案外すごいことなんかね?

 

そんな平凡になった僕は高校生活最後の夏休みを迎えた。去年とかはずっと遊びつくし、最終日に徹夜で頑張ることが多かったが、今年は違う!なんせ、授業で早めに配られた宿題とかは、当日に終わらせたからね!

 

七月二十四日には数学と古典

  二十五日には現代文

  二十七日には生物。この日はなかなか量があって徹夜しても、少し残って明日に持ち越した。

  二十八日には英語と少し残った生物

三十一日はもらったけど、少しやる気が出なくて、なにもしなかった。

 

残りは化学、読書感想文、あと地学基礎。地学は速攻終わるとして、化学の先生出す量多いんだよな……いい人なんだけどな。そうして僕は宿題を五日で終わらせた。あとはゆっくりすごそうと思っていたところでメールの連絡網みたいなもので理事長に学校に来るように言われた。しかも個人的に……なんでだろうと思いながら、十二時と指定があったのでその時間に合わせて学園に向かった。

 

「失礼します。」

 

「こんにちは。待ってたわよ。美影くん。」

 

「お久しぶりです。理事長。それで今日はどうしたんですか?こないだも呼ばれた気がするんですが。」

 

「そうね。でも、そこまでじゃなかったと思うけど?」

 

「そんなことないですよ。娘と電話してくるから、書類の仕分けしといてなんて……僕に頼まなくてもいいじゃないですか。しかも、二時間と十七分って……長すぎますよ。」

 

「しょうがないじゃない。可愛い娘が電話してきてるんだから。私だって家族といる時ぐらいは、仕事のこと忘れたいもの。」

 

「そうですね。それは否定できませんね。自分も妹と一緒の時ぐらいは何も考えずに妹と一緒にいてあげたいですからね。」

 

「………ごめんなさい。冬樹が私の秘書じゃなかったら。。」

 

「いいんですよ。理事長は何も悪くありませんから。それに、あんなに不真面目だった僕が変わろうと思ったのは、母のおかげなんです。ただ、母のありがたみに気づいたときにはもう遅くて、取り返しがつかない状態で、恩返しも、親孝行も、何にもできない状態だった。それだけですから。」

 

「あなた、ほんとに強くなったわね。」

 

「そんなことないですよ。こうして僕がこの学園いられるのも、母さんが専属の秘書になる。っていう条件をの飲んで、退学じゃなくて、留年という形をとってくれた、理事長のおかげでもありますからね。」

 

父は僕が小さいころにがんで他界した。それから、女手一つで僕と四つ下の妹を育ててくれた母も二回目の高一十一月二日、赤信号に飛び出してきた子供をよけるため、慌てて車のハンドルを切ったところ、ガードレールと正面衝突して亡くなった。即死だったらしい。失恋の穴が埋まったタイミングで、さらに大きな穴が開いた。これは勉強でも埋めることができなかった。何にもしてこなかった僕には、母の存在が大きすぎた。おせっかいしか焼かない人だったのに、いざいなくなってみたら、こんなにも何もできないんだと、現実をたたきつけられた。

 

こうしていろんなことを手伝ってもらうことで僕と理事長の繋がりができ、僕のことを見守る。それがせめてもの償いだと彼女は言っていた。そんなことしなくていいのに。現にアルバイトでもないのに、手伝ってもらってるからって学費も理事長が出してくれている。元々奨学金をもらっていなかったから、どうなることかと思ったから、安心したけども、一方では、ほんとにいいのだろうか、迷惑をかけているのではないかとちょくちょく思ってる。

 

「まあ、今はいいんですよ。それで要件は何ですか?」

 

「今度、うちの娘が日本に来たいって言っててね。」

 

「そうなんですか。まさかそれですか?」

 

「そのまさかよ。来る日に私忙しくてね、だから案内とか美影くんにお願いしようかなって。」

 

「えー、それこそ僕じゃなくていいじゃないですか?三週間と一日前に聞きましたけど、娘さん、三船さんと幼馴染なんですから、そっちに頼んだ方がいいと思うんですけど。」

 

「私もそう思ったんだけど、嵐珠。娘が栞子はドッキリみたいに驚かせたいって言ったから、栞子ちゃんは適任じゃないのよ。」

 

「まあ、そうですね。そこはわかりました。でも、なぜ初対面かつ男子の僕を選んだんですか?!」

 

「だって暇そうじゃない。それにあなたの能力があれば、一時間ぐらい出席しなくたって余裕でしょ?」

 

「そうかもしれませんが、一応僕も男子です。そんな娘さんを危険にさらすことできないでしょ。」

 

「あなたはそんなことしないわ。美影くんほど誠実で、信用できる子なんて少なくとも私は知らないわ。だからあなたに頼みたいの。それとも、あなたにしか頼めない。っていうべきかしら?」

 

すべてを見透かされているような気がした。いつもそうだ。言いたいことがあるときも何かを察して言ってないのに聞いてくる。とにかく気配りや、感情を読み取るのがうまいんだと思う。こういうところはどうしてもこの人にはかなわないと思う。おちゃめだし、めんどくさがりで、見られちゃだめだと思うものも平気で見せてくる人だけど、こういうところは本当に尊敬している。

 

「わかりましたよ。引き受けますよ。でも、日によってはだめですからね。」

 

「わかってるわよ。火曜、水曜、金曜だったわね。」

 

「そうですよ。妹と一緒にいる日なのでそこは外せません。」

 

「そう。雪菜ちゃん元気してる?」

 

「元気ですよ。最近は一緒にメロンパン食べられるぐらいまで回復してきましたから。」

 

「そう。安心したわ。なんかあったらまた言いなさいね。」

 

「ありがとうございます。それでいつなんですか?」

 

「明日よ。」

 

「そうですか。明日なら何とか……ん?明日?!」

 

娘さん……理事長みたいな計画性みたいなものないんか?そんな急に来るとか行動力がすごいというべきか、無計画というべきか、一週間前ぐらいに聞いたけど、天真爛漫でわがままな子らしい。どうなることやら。。まあ、引き受けてしまったからやるけども……先が思いやられる。

 

「明日か。。なんでそんな急に……」

 

「昨日急に電話でそう言ってきたのよ。私もよくはわからないわ」

 

「ええ……ほんとに自由で元気いっぱいなんですね。悪い意味でもいい意味でもですけど。」

 

「まあ、そうかもしれないけど、いい子よ。」

 

「それはその子のお母さんである人からめっちゃ聞いてるんでなんとなくわかりますよ。」

 

「明日は大丈夫なんだったわね。私は会議があるからお願いできるかしら?」

 

「わかってますよ。一応は予定把握してるので。」

 

「ありがとう。助かるわ。」

 

「今日は何か手伝うことはありますか?」

 

「じゃあこの資料を案件ごとに整理してほしいの。」

 

「終わったものは分けて机の上でいいですか?」

 

「ええ。おねがい。何か欲しいものがあったら言ってね。」

 

「あ、じゃあ一つ聞きたいことが……」

 

性格は違えど、この人の娘だ。いい子なのは確実。そして、スクールアイドルが好きか。うちの学園にもあることは知ってるけど、どんなことをするのか知らない。下調べぐらいはしておくか。。名簿と、実績、あと動画も見よ。

 

普通科一年中須かすみ、小悪魔系スクールアイドル……小悪魔?見えないが……なんでそうよばれてるんだ?

国際交流学科一年桜坂しずく、演技派系スクールアイドル。演劇部に入っている点が演技派といわれる理由なんだろうな。わからんけど。

情報処理学科天王寺璃奈、キュート系スクールアイドル。好み人それぞれだからな、かわいいと思う人もいれば、そう思わない人もいると思うんだけど。つまり、すべての人類にかわいいと思われている?!ちなみに、僕はかわいいと思う。でも、なんでライブのとき、仮面みたいなやつしてんだろ?あと、アホ毛生えてる。

 

普通科二年上原歩夢、まごころ系スクールアイドル。確かに、優しそうだな。なんかすごい面倒見てくれそう。わからんけど。

情報処理学科二年宮下愛、スマイル系スクールアイドル。ギャルやん。つまり、あれか、仲間内はめちゃ笑うけど、それ以外ではそういうことやあんなことをしているということ……まさかな、そんなことはない。多分。でも、ライブ見る限り、凄い良い笑顔してる。自然とこっちも笑顔になる、気がする。

普通科二年優木せつ菜、本気系スクールアイドル。これに関しても、概念というか、内面的なことだから、よくわからない。情熱的なパフォーマンスするってことだけがわかった。

 

ライフデザイン学科三年朝香果林、セクシー系スクールアイドル。確かにうん。。大人のお姉さんって感じや。やべぇ、色気がありすぎる……見てるだけで、顔が熱くなってくる。あかんあかん!!次いこう!

ライフデザイン学科三年近江彼方、この人は調理の方なんだね。マイペース系スクールアイドル。なんか眠そうだな~大丈夫なのかな?眠り姫ね~ライブ中は寝ないのかな?心配だ……

国際交流学科三年エマ・ヴェルデ、癒し系スクールアイドル。国際交流スゲー。でかいな……身長。身長以外なんて、な、なにも見てないし!でも、癒してくれそう……雰囲気で!

あと三船さんか。

 

一通り見てみたけど。。ナニコレ、めっちゃ気になる!!一人一人の魅力をつぶさないようにと、高咲さんが考えたソロアイドルという決断マジで尊敬するわ~。こんなにも彼女たちを輝かせるものは何なんだろう?!やばい、興奮が収まらない。こんな瞬間的にはまるなんて思ってもみなかった!ホームページだけじゃわからない!明日にでも、部室行ってみようかな。ああ~興奮が収まらない~おっとその前に。

 

自転車を急いでこいで、十分ぐらいの自分の家に着く。鍵でドアを開け、冷蔵庫にある桃と梨と果物ナイフを持つ。私服に着替えて、鍵を閉めたら学校とは逆方向に歩き出す。僕はいつもは乗らない電車に乗って、二駅離れたとある病院に行った。受付をすまし、首掛けの名札をもらう。そこには白い画用紙に黒い文字で訪問者と書いてある。それを首にかけ、エレベーターで三階まで登る。エレベーターから降り、すぐ左に曲がり、そのまま直進。その後突き当りを右に曲がって、すぐ右の病室。表札は六っ個あり、二個ずつ三段に並んでいる。左の一番上、つまりは入って左の一番奥。締め切った窓の外で戯れる雀たちを眺めながら、微笑んでいる。彼女はふと、気配に気付くなり、僕が立っている方へ視線を向ける。そして笑顔で大きく手を振ってくる。僕も小さく手を振って、モモなどが入った袋を強調する。

 

「お兄ちゃん遅いよ~もう、来ないかと思った。」

 

「ごめんな。ちょっと先生に呼ばれちゃってさ」

 

「先生って、お母さんの?」

 

「そうだよ。明日娘さんが来るから、案内してくれってさ。」

 

「むぅー、私だってお兄ちゃんと一緒にいたいのに……!」

 

「まあ、しょうがないさ。こんなこともあるよ。そういや、好物の桃持ってきたぞ。」

 

「ほんと?やった~食べたーい」

 

「ああ。いいぞ。今切るから待ってろ。」

 

籠から桃と果物ナイフを取り出し、皮をむいていく。雪菜はナイフを使う僕の手をじっと見る。二か月と十四日前とか、一か月と七日前にも言っていたが、こうやって皮をむいている様子を見るのが好きらしい。こんなもの見て何がいいのかわからないけど、好きならそれでいい。好きなことを好きって言えたら、それほどいいものはない。てかこんなことでいいならいつでも見せるんだけど。。そんなにいっぱい食べられるわけじゃないからな、備え付けの冷蔵庫にしまっておくことが多い。またここ置いとくからね。八つに切って二つを紙のお皿に乗せ、残りを冷蔵庫へしまう。一つに爪楊枝をさし、妹に渡す。

 

「雪菜、できたよ。」

 

「やった~ありがとう!お兄ちゃん!」

 

「ゆっくりでいいからね」

 

「うん。最近何かあった?」

 

「ん?なんで?」

 

「なんか楽しそうだから。いいことでもあったのかなって思ったの」

 

「まあ、そうだね。じゃあ、経緯から話そうか。」

 

それから今日あったことを雪菜に話した。ベットに座った少女はそれをうなずいたり、へぇ~と声を上げて興味津々に僕の話を聞く。こんな風に聞いてくれるから、どうしても話過ぎてしまう。少し暴走したりして、雪菜に制止させられることも多いくらいだ。

 

「それでね、その娘さんがスクールアイドルっていうのが好きらしくてさ、とりあえず調べてみたんだよ。そしたら案外ハマるっていうか、なんかどんどん惹かれていったんだよね。」

 

「そうなんだ。私も調べてみる!」

 

「うちの学園にもスクールアイドル同好会ってのがあるみたいでさ、それの動画が動画サイトに載ってたからおすすめのやつ教えるよ。ん~そうだな~迷うけど、ソロアイドルのこの子達が珍しく全員で歌って踊ってるやつがあるから、これ見てよ。」

 

「スクールアイドルか~聞いたことない!気になる!」

 

スマホで動画を開いて雪菜に渡す。それから四分と三十七秒……スマホ食い入るように見る少女の瞳は輝いていた。そんな妹を見て僕はやっぱり兄妹なんだなと思った。たった一曲ただそれだけの時間で僕ら二人を虜にできるこの子達。これを見た今なら娘さんがこの人たちに会うためにわざわざ日本までくる理由がわかる。

 

「お兄ちゃん。。これやっっっばいね!!」

 

「やばいよな!すごいよな!」

 

「なんだろうね。この胸に響くような衝撃。しかもなんだろう。。え!すごい!!っていう感じじゃなくて、え……すっご……って感じなの。」

 

「それは僕もわかるよ。言葉にしずらいけど、ほんとに心に響くというかそんな感じ。」

 

「お兄ちゃんわかってるね~。」

 

「そりゃあ兄だからな。」

 

母さんが亡くなってすぐの頃元々そこまで強くなかった雪菜はショックで寝込んでしまった。それから二日が立った。僕もショックではあった。あれほど後悔したことはなかった。この後もこれからもこのこと以上のものはないだろう。泣きたかった。一年前の僕だったどうすることもできず泣いていただろう。それでも家の布団で寝ている妹を見るとどうしても泣けなかった。妹を見ていなきゃいけないけど、眠っている今なら泣けるだろう。しかしいつ目を覚ますかわからない。そんな時僕が泣いていたら、妹にも心配をかける。だから僕は涙を流さないことを誓った。雨降る午前一時四十七分。自分の部屋の窓を開け、ベランダへ出る。何もない真っ暗な空を見上げて、我を忘れて叫ぶ。目じりから流れる一筋の水滴は雨なのか涙なのか。悲しみも後悔も負の感情すべてをこの雨と一緒にたれ流すと決めたから。その日は何もする気が起きなくて、ただ雪菜の寝ている布団の近くに座って何もせず、ぼーっと空を仰いだり、彼女を寝顔を見て心配になったり、ここにいるってだけで安心してほっとする。それだけが僕をここにひきとどめる力だった。妹がいなかったら今頃……それから雪菜は回復して今は半年に一回の検査入院中。

 

「それじゃ僕帰るから。ちゃんと寝るんだよ。」

 

「分かってるって。」

 

「夜通しスクールアイドルの動画見そうだけどね?」

 

「あちゃ~バレてる。」

 

「明日には退院できるんだから、それまで我慢ね。」

 

「はーい。ありがとう。お兄ちゃん」

 

「妹を見守るのも兄の務めよ。」

 

そして僕は妹の病室を出た。ベットの上からずっと手を振っていた彼女に僕も手を振った。ワイヤレスイヤホンを右耳に付け、虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会のソロの動画を聞く。こう聞くとそれぞれに合った歌というか個性が生きてる曲なんだと思う。まあ、それでないとソロアイドルメインの活動にはならないか。まさかここまでハマるとは、娘さんの趣味聞いといて正解だったな。

 

こうして彼はスクールアイドルのことを調べに調べ、沼へと沈んでいったのだった。雪菜にくぎ刺したくせに、僕が夜通し調べて眠れなくなったのは、内緒の話。。

 

そして朝の八時三十分、こんな朝早くから空港に来るなんて聞いてない。一応制服を着て、家の前に止まっている理事長の車に乗った。理事長がいないのに、僕だけのために車を出すなんて、ありがたいけど少し場違い感がして気まずい。スクールアイドルの曲を聴いてたら、いつの間にか空港についていた。運転手さんには、お嬢様をここまで連れてきてください。とだけ言われた。一応写真はもらってるけど、初対面なのに不審に思うだろ。そんなこと思いながらも、空港に入る。予定だと八時四十五分につくらしい。いまが四十二分だから、あとちょいか。少しぶらつくか。

 

搭乗する改札みたいなところとは別に出るところがある、そこに大きく出口と書いてある。あと英語と韓国語、中国語でも書いてある。そこから出てくるんだろう。そこから少し進んで広いところに出ると、そこからお土産コーナーみたいなものがあって、そこにはガチャガチャがいっぱい並んでいる。最近はガチャガチャをお土産にするということをよく聞いている。まさかこんなにいっぱい並んでいるとは……

 

「マジか。こんなに並んでるもんなのかよ。。」

 

興味本位でどんなものがあるか歩きながら見る。昔懐かしいものや今はやりのアニメや漫画のグッズなどのものが色とりどりに置いてあった。量も多くて見るだけで十分はかかるほどだった。そんなこと気にせずに僕は全部見て回った。満足感に浸りながら、ふと時計を見ると五十五分……もうとっくに娘さんは空港についていた。

 

走って改札のところに戻ってもそこには写真で見た彼女の姿はなかった。完全にやってしまったかと思った。とりあえず、運転手さんに連絡を……そういや連絡先持ってないじゃん。。終わった~ベンチにでも座ってるか。

 

「となり、いいですか?」

 

「ええ。」

 

「ありがとうございます。」

 

「あなた元気ないわね?何かあったの?」

 

見ず知らずの人に話すべきではないだろうけど、今の俺の心理状態的に誰にも話さないっていうのは無理だった。僕は膝に腕を置いて、前かがみになって話し始めた。

 

「知り合いの娘さんが今日日本に来るんですけど、自分がついた時にはその娘さんがついてる時間じゃなかったので、暇つぶしにお土産コーナー見てたら、時間が過ぎていて、焦って出てくるであろう所に向かったら、案の定手遅れでもうそこにいなかったんです。」

 

「へぇーそんなことがあったのね。でもランジュも人を探してるの」

 

「そうなんですか?」

 

いつもの僕ならこの時点で違和感に気づくのだろうけど、今の俺は見失ってどうするか、これからどうするべきかなんて説明すればいいかとかこれからどうすべきかの解決法を模索するのに夢中だった。

 

「ママが日本でお仕事をしててね、その学校にどしても会いたい人がいて、こうして飛んできちゃった。」

 

「そうなんですか。それは楽しみですね。」

 

「でも、着いたら案内してくれるっていう人がどこにもいないのよ。困ったわ」

 

右頬に手を当て、眉間に少ししわを寄せる彼女を俺は見上げる。薄桃色の長い髪をサイドテールに結び、後頭部にはアホ毛らしきものが生えている。水色のつり目に右側には泣きぼくろ。白のワンピースに身を包み、白がベースの麦わら帽子を付けた彼女。そんな彼女に僕は見覚えがあった。見たことあるような気がしてついそれが口に出てしまう。

 

「もしかして、鐘嵐珠か?」

 

「あら、ランジュのこと知ってるの?」

 

「ああ。だって迎えに来たの僕だし。。何ならあなたが待ってるのも僕だと思う。」

 

「そうだったのね。だったら早く言いなさいよ。さぁ、行くわよ。みんながランジュのことを待ってるわ!」

 

「スクールアイドル同好会の人たちのことですか?」

 

ここで仮にもお嬢様だと思った僕は慌てて敬語を使ってしゃべり始めた。

 

「そんなにかしこまらなくてもいいわ。だってランジュたちは親友じゃない!」

 

「……は?」

 

「はぁ……ランジュ、困惑してるからその癖やめた方がいいよ。」

 

「あら、嫉妬かしら?ミアはかわいいわね。安心なさい。ランジュはミアの親友でもあるわ。」

 

「SHUT UP.僕は別にそこの関係なんて気にしてないよ。きみが強引に僕のことを連れ出しただけじゃないか。まあ、来ちゃったからには少し付き合ってあげるってだけだよ。」

 

何を言ってるんだ?この人は。。だがお嬢様だからこんなこと言ったら後々何が返ってくるかわかったもんじゃない。僕はそっとその言葉を飲み込んだ。彼女じょと並んで歩くのはとても新鮮で少し……懐かしい。こうして女性と肩を並べて歩くなんて何年ぶりだろう。。妹とももう何年も一緒に歩いてない。外に行く時だって大体バスや電車で近場で済ませることが多い。無理をさせすぎると雪菜の体に毒だから。無理しようものなら僕が制止する。それが自分に課した誓約。母さんの代わりに僕が雪菜を守るんだ。

 

「え、僕たちいつ親友になりました?」

 

「さっき話したじゃない!だから友達以上の親友になったのよ。」

 

「……意味わかんねぇ。」

 

やべぇ、声に出てしまった!!

 

「まあ、そうよね。」

 

なんで少しシュンっとするんだよ!そんなさみしい顔すんなって!

 

「まあ、親友なのかどうかはさておいて、友達だ。」

 

「ええ。今日からランジュと、えっと……」

 

「ああ、僕、如月美影。よろしく。嵐珠さん。」

 

「ランジュとしたことが、友達の名前を聞き忘れるなんて。。」

 

「それと、そっちの子供は?」

 

「子供だって?見た目はそうでも君よりキャリアあるんだから。」

 

「えっと、すみません。。」

 

「この子はランジュについてきたミア・テイラーよ。こう見えて、実は大学飛び級してるのよ。」

 

「ついてきたんじゃない。連れてこられたんだ!ボクはミア・テイラー。覚えなくてもいいよ。もう関わることはないだろうから。」

 

「ま、まあ、よろしく。ミアさん。今回だけかもだけど。」

 

「うん。よろしく。」

 

この子たち、よくわからない。普通の子とは違う感性があるのかな。。でも話してみたりして感じたことは無邪気というか、少し子供っぽい。そんな感じのことしか感じなかった。あといい子であることは間違ってない気がする。

 

ミアさんは……嵐珠さんに比べて、警戒心が強いというか、まずこの二人は仲いいのか?でも喧嘩するほどっていうからいいんだろうけど、いいように見えない……連れてきたっていうぐらいだし、実は相当嫌いだったり……って言いつつもついてきてるんだよな~ほんとにわからない……

 

彼女たちは空港内にあるお土産屋ガチャガチャに目もくれず、すたすたと駐車場まで歩いていく。

 

「何してるの、早くしなさい。みんながランジュのことを持ってるのよ!」

 

「わかってるから待ってって。」

 

やはりわがままだ。それに三船さんにも言ってないんだから、実質初対面みたいなもんだよね……って思ったけど、何も言わずに嵐珠さんたちについて行った。

 

「バック、重くない?持とうか?」

 

「このくらい大丈夫よ。親友に自分の荷物を持たせるわけにはいかないわ。」

 

「ボクもいいよ。まだ信用には値しないからね。」

 

「へぇ~、お嬢様だからこういう気も使わないといけないのかと思ったけど偏見だけど珍しいね。」

 

「そうなの?よくわからないけどランジュは、そういう気にしたことないわ。ましてや親友に持たせるなんて、ランジュならしないわね。」

 

やっぱり変わってるのか、それとも僕の偏見が偏りすぎてるのか。。多分後者だろうな。すたすた進んでいくからこういった気遣いができないから不機嫌になったのかと思ったけど、ただただ早く会いたかっただけらしい。すごい素直な子なんだと思った。

 

「理事長……嵐珠さんのお母さんから聞いたんだけど、ニジガクのスクールアイドル同好会に興味があるらしいんだね。誰が最推しとかあるの?」

 

「そんな選べないわよ。みんなそれぞれいいところがあって、それをつぶさないスクールアイドル、ソロアイドルとしての選択は間違ってないと思うわ。でも、その判断くらいランジュにだってできるわ。だからあの子よりランジュの方が優れてるわ。それを証明するためにも来たのよ。」

 

「あの子って?」

 

僕は何気なくそれを聞いた。彼女は少しうつむいてぼそぼそと何かを言った。

 

「あの子よ。黒髪ツインテールのあの子。」

 

「高咲さんのこと?」

 

「あの子タカサキっていうのね。」

 

「うん。高咲侑さん。スクールアイドル同好会の部長として陰ながら彼女たちのことを支えてる子だね。曲も高咲さんが作ってるらしい。」

 

「へぇーそれはすごいね。でも所詮はおこちゃま。ベイビーだ。僕の方が格段にいい曲を作ることができる。」

 

「そうね。だからミアをわざわざ連れてきたんだから。」

 

「なんか二人とも随分闘志むき出しだね。。」

 

「そうよ。同好会のみんなは今の環境じゃ満足してないはず。だからランジュが最高の設備、レッスン、曲、環境を提供してあげるって言ってるのよ。」

 

なんかすごい上から言ってる。実力があるんだと思うけど、支持してくれてる人がいるんだから、この状況で彼女たちがどうなるかはまだわからない。それで環境を変えたら、何が起こるかわからない。。妹のように……

 

急いで早足になるランジュを追う僕とミアさん。なんであんなに体力があるのか聞いたらミアさんは、勢いがあるだけだよ。無邪気な子供さ。でも日本に来る前少し体力づくりとかダンスレッスンやボイトレとかはやってきたらしいんだ。一緒にステージに立ちたいって夢にまっすぐだからね、頑張ったらしい。ほんと単純だよね。それで一緒に乗れるかはわからないけど、やれるだけのことはやったって言ってた。とのこと。。実力はあるらしい。しかもかなりの努力家でもあると。夢のためにそこまでするのか……多分僕にはできないだろうな。しようと思っても肝心な時にいつも一歩目が踏み出せない。そんな人生だから。きっと

 

「嵐珠さんは同好会のみんなと一緒にステージに立ちたいの?」

 

「ううん。」

 

そういってかのじょは首を横に振った。

 

「ランジュはみんなとステージに立つつもりはないわ。」

 

「え?えっと……どういうこと?」

 

「それぞれの個性をぶつけ合わせないようにあの子たちはソロアイドルっていう道を選んだの。確かにみんなで歌ってる曲も最高よ。でもランジュにはあんまり向いてないの。だからソロでみんなより魅力的で完璧なスクールアイドルになって認めさせるの!」

 

「そうなんだ。そっか……一緒にステージに立たないのか。」

 

少し残念だった。踊ってる姿も歌ってる姿もすごいさまになりそうなんだけどと心の中で思ったけど、すぐにでもそれはグループじゃなくてもソロでできると思考が塗り替わる。そして向いてないっ言った時の彼女の顔。どこかさみしそうだった。明るく接してくれてるけどその時だけ、その一瞬だけほんの少し空気が重くなり、声のトーンが下がった。何かあったのだろうかと思いつつ、僕たち運転手さんが待つ車が置いてある駐車場へ向かった。車の中で遅いと叱られたことは言うまでもない。

 

「ママー来たわ!」

 

「ランジュ!待ってたわよ。会いたかったわ。」

 

「紹介するわ。この子はミアよ。」

 

「メッセージで話してた子ね。こんにちは。」

 

「hello.」

 

僕を置き去りに女性陣三人が盛り上がっている。主に親子が……まあ久しぶりの再会だからな。。そりゃこうなるか。僕も……こうなるんだろうか。もしまた出会えたとしたら。。いや、やめよう。。前に進むって決めたんだから振り返るわけにはいかないんだ。

 

「美影くん?どうしたの?ずっとドアの前で立ってて」

 

「いや、何でもないです。僕ちょっとお手洗いに行ってきますね。」

 

「ええ。いってらっしゃい」

 

僕はそういって、理事長室から出た。扉についたすりガラス越しに三人を見る。親子の中にいとも簡単に馴染むミアさん。少し羨ましい。僕と理事長、そして嵐珠さんの間に何もなければ、あんなふうに一緒に話すこともできるのに。。正直嵐珠さんとはさっき初めて会った。でも理事長の娘だから。それだけでどうしても壁を作ってしまう。理事長にもすごいお世話になっているから、もっと愛想よく役に立ちたいと思っている。でも。。それでもどうしても壁を作ってしまう。

 

その様子を横目に眺め、僕は一人になれるところへ向かった。トイレを通り過ぎ、階段を上る。最上階まで登り目の前の銀色の扉の取っ手に手をかける。そのドアを開けると、そこには屋上が広がっている。柵とアンテナ以外何もない。静かな空間。風も吹かず、蝉の音が響く。ドアの横の日陰に座り、空気に身を委ねる。

 

壁に背をつけ、尻を床につける。右足を曲げ左足を伸ばし、両手を後頭部と壁の間に入れて、空を眺める。無心に雲の流れを見るだけの時間。時間の無駄かもしれないが、この時間が好きな自分がいる。空に手を伸ばし、片目をつぶって雲の大きさに指を合わせる。指同士の距離を詰め、それをつまもうとするも、目に映らないように遮っただけで、指をどかせばそこにはつまもうとしたものがある。はぁ……とため息を吐いて脱力する。手の甲が床にあたり、少し骨が痛む。壁を作ってそれを見ないようにしても、無視できないから。結局自分でその壁を自分で壊して、また幾度となく自分で作る。どんなに作って突き放しても、いざ顔を合わせるとあの人は何も変わらず、そこにいる。どんなに遠ざけても僕を見続けている。本当の親子のように……

 

「んしょっと。。行くか」

 

立ち上がった時、急にドアが開いた。

 

「へぇ~屋上なんてあったのね。」

 

「嵐珠さん?!」

 

「あら。ミカゲ!あなたもいたのね。」

 

僕に気づいた嵐珠さんは僕の隣に座って、深呼吸をする。そして

 

「うん。ここ僕のお気に入りなんだ。静かで……すごく落ち着くんだ。」

 

「へぇ、ミカゲってそんな風に笑えるのね。」

 

嵐珠さんは僕の隣に座って下から僕を覗くように見ていた。母親と妹と理事長以外の女性との関りがない僕からしたら、彼女が不意に近づいてきただけで、鼓動が高まり少し鼻息を荒げててしまうのは必然であった。とっさに距離をとるが、風に揺れた彼女の髪からほのかに香るシャンプーの匂い。それが鼻をかすめたとき、僕はいい匂いとかの感想の前にもう一度嗅ぎたいという、衝動に掻き立てられた。まあ、理性が残っていた僕はそこで我に返り、赤くなった顔を左手で隠した。

 

「あ、あの、そんなに見ないでほしいんだけど。。//」

 

「なんで?いいじゃない。ミカゲの顔をランジュは見たいわ。」

 

「は、恥ずかしいから……やめてよ。」

 

「……あなた男の子なのにかわいいわ!」

新たな発見をしたのか嵐珠さんは目を光らせて僕の方を見た。見られまくっている……見られたくないけど、絶対目を離してくれなそう。。よし逃げるように去るか。うん。そうしよう。逃げる!

 

そう決めた僕は勢い良く立ち上がって逃げた。

 

「ちょっとどこに行くの?ランジュも行くわ!」

 

後ろを振り返らずに階段を駆け降りる。どこまでも遠くへ無我夢中で。時折聞こえてくる「待って」の声。僕はそれを無視しつつ、目的地へと向かった。一階まで降り廊下を走る。その棟をでて 、部室棟へと歩を進める。

 

部室練の前に立って、嵐珠さんを待った。それから5秒ぐらいで彼女は僕のところへ着いた。しかも息をほとんど切らさないで、やはり信じられないほどの努力をしてきたんだと、思った。

 

「……ふぅ。それで、ここは?」

 

「部室練って言って、部活や同好会、サークルの部室がある建物だよ。」

 

「じゃあ、ここに同好会のみんなが?!」

 

「そうだね。多分いるんじゃないかな?最近よく見かけるから。」

 

「早く早く、みんなに合わせて!!あぁ〜なんて言うべき〜やっぱり挨拶からよね、でも、言いたいことがいっぱいあるから〜ん〜!!」

 

嵐珠さんは飛び跳ねながら、そんなことを口に出していた、すごい興奮してるな〜楽しそう。三船さんは、生徒会で少し手伝ったことあるから、少し面識あるけど。。他の人全く知らない……自分でもちょっと怖いな〜

 

「それじゃあ、案内するから着いてきて。」

 

自動ドアを通り、広い廊下に、日光が直接降り注ぐ透明な天井。その日光に照らされた真ん中に手すりのある大きめの階段を僕らは登って行った。2階についてすぐ右に曲がる。そしてまた右。そしてまた突き当たりを右に……行くと見せかけて、左に回転する。

 

僕が見ているドアにはスクールアイドル同好会と書いてある甲板が刺さっていた。嵐珠さんに着いたよと言うと彼女は興奮して、少し慌てていた。中からかすかに聞こえてくる音楽、歌声、床とシューズが摺れる音。それら全てがなんだか心地よく聞こえてくる。

 

「さぁ、嵐珠さん。開けていいよ。僕は後ろで待ってるから。」

 

「え?!いいの?!ミカゲ。あなたいい人ね。でも、気絶しちゃうかもだからランジュのそばにいなさい!」

 

「わかったよ。その時はすぐ助ける。」

 

彼女はドアノブに手をかけては、手汗を吹き、手をかけては、深呼吸をするなどしてなかなか開こうとしない。だから僕は後ろで見てる言ったものの、少しきっかけをあげた。

 

コンコン。「はーい?」

 

「嵐珠さん。開けるしかないよ。」

 

「え、ええ。やってみせるんだから。」

 

ただドアを開けるだけなのに、そんなに意気込むなんて、相当好きで緊張してるんだなと思いつつ、子供っぽい一面もあるんだと、ミアさんの言葉を思い出す。確かにそうだなと納得するには十分過ぎた。

 

ドアを開いた嵐珠さんは、練習してる推したちを見て、ただ立ちつくすことしか出来なかった。出迎えてくれた高咲さんもずっと声をかけているが、気づかずにずっとガン見している。瞬きも忘れてそうな眼光で。

 

その後三船さんが嵐珠さんに気づいて、嵐珠?!と叫んだとこで、気を取り戻し、そのまま三船さんに抱きつく嵐珠さん。

 

「会いたかったわ!栞子!!」

 

「ら、嵐珠!びっくりしましたよ。いつこっちにしたのですか?」

 

「今日の朝に着いたの。栞子とスクールアイドル同好会のみんなに会いたくて、いてもたってもいられなかったのよ!」

 

「そうだったんですか。」

 

それから少し落ち着きを取り戻した嵐珠さんを椅子に座らせて、同好会メンバーとテーブルを囲んで休憩がてら話をし始めた。そろそろ僕も帰ろうかと思ったんだが……

 

「ねぇ、君如月美影君だよね?」

 

「え?なんで僕の名前知ってるんです……あ、太一君いたんだ!!」

 

三船さんと少し絡みがあった時に仕事をよく手伝ってくれた東間太一君。2回ぐらいしか会ってないのに、よく覚えてたな〜と思いつつ周りを見渡すと、別のところのソファには男の人達が多くいる。たまり場になってのかと思って、少し心配になったけど、どうやらそうでも無いらしい。

 

話を聞くと、部長である高咲侑さんがテレビで見たことのある人を輝かせる方法を取り入れて活動することになったらしく、それが恋をすることだったらしい、だから、ここにいる男性陣はみんな同好会の人達の彼氏だったってことだ。なかなか珍しいことを考えるもんだと思った。どうやら好きな人に見られると人はさらに輝けるとか。だからあんなに輝いて見えたのか。男性陣はなかなかいい人も多くて、話も面白ければ、絡みやからかいもなかなか上手く、話が尽きない。こういうところが魅力だったりもするんだろうな……

 

「ランジュは認めないわ!!」

 

嵐珠さんが大声をあげて、その場で立ち上がった。びっくりした男性陣女性陣含めて僕も彼女の方へ振り向いた。

 

「嵐珠!落ち着いてください。」

 

「だって、ランジュは、最高の環境をみんなに提供しようとしてるのよ。なのになんで?!」

 

「私たちにはそれぞれ適性があるのです。私だって嵐珠だってそうです。練習法もルーティーンだってそうです。」

 

「嵐珠と同じ環境で練習できるのよ?そうすれば、同好会のみんなだって、練習出来てさらに一緒に競い合えるじゃない。そうすれば嵐珠も幸せだし、みんなも幸せじゃない。」

 

「だから誰にでも自分に合った適正というものがあって……」

 

「なによ、いいじゃない。。あ、そうだわ。ランジュも部を立ち上げるわ。それがいいわ。」

 

「ちょ、ちょっと嵐珠!」

 

「もう決めたの。そうと決まったら早速行動よ!みんなを部に引き寄せられるようにランジュが最高な環境を作るわ!絶対こっちに引き寄せるんだから。それじゃあね。拜拜」

 

そういって嵐珠さんは同好会の部室を走り去っていった。辺りを見渡すとみんな呆然としており、三船さんだけ頭を抱えている。まあ、よく言えば元気いっぱいな子の幼馴染じゃ大変だろうな。。

 

「えっと……なんで飛び出していったの?」

 

そう男性陣の一人が女性たちの方に声をかけた。確かこの人は田淵麗真さんだったかな。朝香さんの彼氏さんで

 

「えっと、私も説明したいのは山々なんですけどね、どんな感じで活動してるか話したら、そのまま行っちゃって……」

 

「え~なにそれ。どういうこと?」

 

そう言った……えっと、確か乃亜さん。(悠雅さんだった……)を遮るように栞子さんが急に頭を下げて謝った。

 

「嵐珠がすみません。」

 

「しおってぃー、頭上げてよ。確かに幼馴染で責任を感じちゃうのはわかるけどさ。」

 

「いえ、そうじゃないんです。正直、嵐珠が来たことで少し舞い上がっていた自分がいたのは事実ですから。それで、嵐珠の性格を少し忘れていました。まさかあんな形で発揮されてしまうとは……」

 

三船さんはそう口にして嵐珠さんとの事を話し始めた。彼女とどのような幼少期を過ごしたか、どんな性格か、など色々話してくれた我を曲げない性格は昔からのようで、それが自分に悪気がなくても、相手に嫌な思いをさせて、友達だった人が離れて行ってしまう。そんなことが昔からよくあったから、今のように、友達という言葉に執着してしまっている……ということだった。

 

「そんなことがあったんだ……」そう口にした高咲さん。それ以降沈黙が続き、今日はお開きという流れになった。

 

「明日も同じ時間に集合でお願いします。」

 

「あ、あの……!」

 

僕は意を決してそう声を出した。

 

「また、来てもいいでしょうか?」

 

するとぼんやりせつ菜さんがもちろんですとニコッと笑いながらそういった。辺りを見渡しても、皆同じように、微笑んでくれたり、笑いかけてくれたり……そんなこの空気感が僕はたまらなく好きだった。

 

その日は高咲さんと凪さんとLINNEを交換して、帰った。何回かLINNEの画面を確認してはにやけるっていうことをしてて、電車の中で変な目で見られたけど、そんなことを気にしないくらいうきうきだった。

 

「ただいまぁー」

 

誰もいない空間に嫌に響く自分の声。そこで少し気分が冷める。帰っても電気が着いていない廊下。昔のことを思い出し、心も沈む。まあ、昔ほどは落ちないけど、今でも少し、ほんの少しだけ落ち込む。

 

ご飯を炊き、ピーマンとキャベツを取り出して、回鍋肉を作る。明日帰ってくる雪菜のためにも少し作り置きしておこう。作り終わって皿に取り分け、残りはラップをして冷蔵庫へ。それと同時ぐらいに炊飯器が鳴く。ご飯をよそい、ナフキンの上にお茶碗とインスタントの味噌汁と回鍋肉を乗せ、最後に箸置きに箸を置く。

 

「いただきます。」そして黙々と1人ご飯を食べる。シャキシャキと言う咀嚼音が部屋に響くだけの空間。あぁ……昔は楽しかったな。。

 

お風呂に入って、歯を磨き、そのまま就寝。早起きして、迎えに行って、そのままどこか遊びに行こう。

 

その日夢を見た。何も無い真っ黒な空間。そこに自分と白いモヤがかかった人が1人いるだけ。だが僕はその人を母さんだと認識した。

 

「■■■■■■。」

 

「なんて言ってるの?!お母さん!」

 

母さんである人に僕は叫んだ。そして、その人の元へ走った。でも、走っても走ってもその距離は縮まらない。

 

「待って、待って!」

 

「■■■■■。美影」

 

「……!!母さん!!」

 

するとその人の隣にもう1人白いモヤの人がでてきた。僕はその人を知らない。知らない……はずなのに……不意に涙が出て来て、僕は膝から崩れ落ちた。そのまますすり泣いた。顔を上げると、僕はその2人の目の前にいた。

 

「ごめんなさい。ありがとう。美影」

 

「……母さん。」

 

「頑張れよ美影。いつも見てるからな。」

 

「……父さん。」

 

そう言い残すと、彼らはどんどんと遠ざかって行った。

 

「待っ……!頑張るよ。父さんと母さんの分まで!!」

 

本当は引き止めたかった。まだ話したいことや一緒にいたい時間がある。けど、もう戻れない。僕らは前に進むしかないんだ。泣いちゃった……けど夢ならいいよね。。きっと許してくれる。

 

 

 

朝起きた僕は泣いていた。でも、跡がひとつあるだけ。一滴だけ流したみたいだった。さぁ、迎えに行こう。

 

トースターで焼いた食パンを少しちぎつたものと入れ替えた水を仏壇に備える。父さんと母さんの遺影が並んだその前に線香立てとおりん。確かこれはたまゆらりんってやつだった気がする。ロウソクに火をつけ、線香一本を二つに折って二本に火をつける。長いと線香の灰が線香立ての外に落ちちゃうから。短くして使ってる。おりんを鳴らし、手を合わせる。

 

「行ってきます。」

 

そして立ち上がった僕はトートバッグを肩にかけて、玄関を出た。

 

病院に入ると、妹がお兄ちゃん!!と叫びながら走ってきた。そしてその勢いとまま飛びつかれた。少しよろけつつも何とか耐えて、僕も抱き返した。

 

「おかえり。雪菜。」

 

「ただいま。お兄ちゃん!」

 

少しして、飛びついてきた雪菜を離して、窓口に行った。

 

「あの、お世話になりました。」

 

「いえ、こちらこそ兄妹愛が見れて良かったです。」

 

「あはは……お恥ずかしいところを。」

 

「でも、大事ですよ。ああいうの。」

 

「まあ、そうですね。それでは失礼します。」

 

「お大事になさってください。」

 

そう頭を下げる看護師さんに僕も頭を下げた。雪菜は手を振っていて、看護師も手を振り返してくれていた。優しい人だな〜

 

「で、今からどこか行く?」

 

「いっぱい行きたいとこあるの!水族館とか、ショッピングモールとか……」

 

「じゃあ今から行きたいとこ全部いこっか。」

 

「うん!」

 

そういって腕に飛びついてきた少女の頭を優しく撫でる。彼女はこそばゆそうにえへへ……と笑った。

 

「そう、昨日ね、天音が遊ぼうってLINNEが来たの。」

 

「それって確か、家によく遊びに来るあの子?」

 

「そう。退院できたし、夏休みだし、遊ぶんだ!」

 

「いつ遊ぶの?迎えに行くよ?」

 

「迎えなんて気にしないで。それに遊ぶの明日だし。」

 

「また“明日”か……」

 

「またって?」

 

「いやなんでもないよ。」

 

嵐珠さんも急に来るし、雪菜も急に遊びに行くし、危なっかしいなぁ……ほんとに。そういや嵐珠さん昨日走り去ってっちゃったけど、あの後どうなったんだろ。。気になるし、明日学園行ってみるか。

 

「とりあえず気を付けてね。」

 

「大丈夫だって。」

 

「お兄ちゃんは心配です。雪菜が攫われないか。」

 

「いざとなったら、空手黒帯の力を発揮するから。」

 

「そうなったら僕でも勝てないから。」

 

僕たちの祖父が以前空手の師範をしていたこともあり、昔は週末になると祖父の家に行って教えてもらっていた。祖父亡き後、元々嫌々空手をやっていたこともあった僕は空手をやめた。しかし雪菜はお兄ちゃんの分も頑張るといい、ずっと空手を続けた。その結果と言っては何だが、黒帯をとることができるぐらいまで成長した。だから内心怒らせると怖いんだろうなとぴくぴく震えているのだ。

 

「まあ、遅くならないように遊んでおいで。」

 

「うん。でも今はお兄ちゃんと遊ぶ!」

 

「そうだね。今日はとことん付き合うよ。」

 

なんかすごい腕に抱きついてくるけど、まあ、今日ぐらいは良しとしよう。正直少し恥ずかしい……何がとは言わないけど、当たってるし、腕を伝って鼓動が聞こえるから、それが伝導して、僕も早くなるし。。//

 

それからショッピングモールへ行って櫛とか髪留めとか買った。年頃だからネイルとかペディキュアとかしたいんだろうな。そう思っても僕から言うことでもないだろうから、何も言わないけど、多分雪菜自身も言わないようにしてるんだろうな。おしゃれとかそういうことを同年代の子たちはいっぱいしてるのに、自分だけできないことを我慢させてしまってるんだろうけどな。買ってあげたいけど、雪菜が行ってくれるのを待とう。しかもできるだけ安いので済ませようとするあたり、結構重傷だろうな。。我慢することを覚えちゃダメなんけどな。

 

一時間十三分ショッピングモールで過ごし、十一時二十三分。水族館に行きたいって言ってたからそのまま水族館へ向かった。電車での移動中、雪菜は心地いい電車の揺れに身を任せ眠ってしまった。きっと昨日楽しみで寝れなかったんだろうな。それもしょうがないか。

 

駅で起こして一緒に歩いて水族館に着くなり、急にテンションを上げる雪菜。まあ、中に入るとさらにテンションが上がるのだが……イルカのショーが一番騒がしかった。お土産に大きめのペンギンのぬいぐるみをプレゼントした。それをもらってすごい嬉しそうに受け取る雪菜。久しぶりにあそこまで喜んでる妹を見て少し安心した僕がいた。一日満喫して家に帰って一緒に料理を作って一緒に食卓を囲んだ。いい一日だったな。

 

 

早く起きて、雪菜を起こしに行くとすでに起きていて、朝食が完成していた。

 

「おはよう」

 

「おはよう。お兄ちゃん。」

 

「私もう行くね。朝ごはん作ってあるから。」

 

「ありがと。線香した?」

 

「やったよ。じゃあ、行ってきます。」

 

「行ってらっしゃい。」

 

玄関先まで彼女を送り、リビングの机に戻る。

 

「いただきます。」

 

美味しい。人に作ってもらうと一層美味しく感じる。これを母さんたちにも感じてほしくて仏壇へ向かう。でもそこにはすでに料理がお供えしてあった。

 

「あいつ。ほんとしっかりしてるな。」

 

ご飯を食べ終え、食器を洗う。その後、制服に袖を通し、身支度を整える。雪菜があげた線香が消えるのを待ち、僕はおりんだけ、鳴らして手を合わせる。

 

「行ってきます。」

 

正座していた座布団の横のトートバッグを肩にかけ、玄関を出て鍵を閉める。ポストに何も入っていないことを確認して、家を出る。

 

電車の中で、連絡すべきかと思い、高咲さんにLINNEを入れる。

 

“こんにちは。今日、同好会に行きたいと思っているのですが……行ってもいいですか?”

 

少し時間が開いてから返信が来て、

 

“わかりました。待ってますね。”

 

そう返事が返ってきた。内心楽しみであった。駅で降りてから、少し小走りで学園に向かった。

 

部室のドアの前まで来て、小走りのせいで、少し息が切れていて、息を整えるために少し止まる。息が整ったので、部室に入ると。。

 

「こんにちは。」

 

「あ、如月さん。こんにちは。」

 

「どうしたんですか?何かあったんですか?」

 

入ると、高咲さんと悠雅さん、あと田淵さんと碧さん。だけだった。電気もついてなく、カーテンも締まっており、少しの日差しだけが差し込んでいる状態で、少し不気味な空間だった。

 

「えっと……」

 

「僕が言うよ。」

 

言葉に詰まった高咲さんを悠雅さんが止めて、説明を変わる。

 

「昨日、嵐珠さんがスクールアイドル部ってのを立ち上げたんだ。目的としては一昨日に行ってた通り、同好会のメンバーを部に引き入れること。だから自分の方が侑より優れていることを見せようといろいろと侑に圧をかけてきたんだよ。まあ、でもみんな同好会が好きだから誰も行かなかった。と思ってたんだけど、愛さんと果林さんと栞子さんが部へ行ったんだ。まあ、みんなそれぞれ理由があるみたいなんだけどね。」

 

「それで嵐珠さんの勢いっていうか、強引な感じにちょっと物怖じしちゃってね。ミアさんっていう助っ人みたいな人もいるみたいで。その子も作曲できるみたいで。嵐珠さんが侑さんに。あなたはいらないわ。みたいなことを言ったみたいで、それでみんなバチバチになっちゃってね。」

 

まじかそんなことしてたのか。。そんな強引な子には見えなかったんだけどな。

 

「同好会のみんな侑ちゃんのこと好きだからね。だからと言っては何だけどいらないって言ったときはさすがに驚いたね。みんなの顔本気で怒ってたもん。でも正直わかるけどね。」

 

「栞子ちゃんは幼馴染だし、難しいポジションだけどね。愛さんも性格的に関わって自分で判断したいらしいから、そこは愛さんに任せたよ。果林さんは……自分の成長のためって言ってた。最初から手段は問わないって言ってたからさ。まあ。。それはね良いんですよ。」

 

悠雅さんの後に碧さん、田淵さんと続いて発言した。そして最後に発言した碧さんの言葉に彼らは顔を落とした。空気が重く、冷え切る。これに触れていいのかわからない。けど、気になる。

 

「な、なにかあったんですか?」

 

「まあ、あったんだけどね。なんだろうな。言いずらい……かな。」

 

田淵さんは僕ににこっと笑みを浮かべた。その細めた左眼から薄く透明な液が一滴。頬を伝って太ももに落ちる。泣くほどのことがあったということだとは思うけど、だからこそ余計に聞きずらい。

 

「嵐珠ちゃんは私を否定しているように私が今までやってきたやり方を否定して、部に入るからには部に従うようにってことらしいの。」

 

「それってつまり……別れろってことですか……?」

 

高咲さんはうなずいた。電気もついてない部屋、重い空気、田淵さんの涙。すべてがつながった瞬間だった。衝動的に嵐珠さんのところへ走り出したかったが、できなかった。確かに嵐珠さんのやり方は僕もあまり好きではない。でもふと脳裏によぎる理事長の顔。あの人にお世話になっている以上娘の嵐珠さんに物申すことは僕にはできそうにない。

 

「でもさすがに別れませんよね?」

 

そこで誰も間髪入れずに否定する人はいなかった。彼女らはソロアイドルだ。どんなところでどう頑張ろうと彼女たち次第なのだから。悪く言えば彼らは彼女たちを輝かせるための道具にすぎないのだから。簡単に切り捨てられるのも正直わからなくはない。もしかしたら本気で恋なんてしてなかったのかもしれないし、どうでもよかったのかもしれない。このことに関して僕からいえることは何もない。ただ別れてほしくないなとそっと心で思うだけ。決めるのは彼女らだから。。

 

「……俺は別れたくない。でもさ、果林さんが頑張りたい。成長したいって思うのもわかる。環境を変えることでさらに成長できるのかもと、果林さんが考えるなら、その環境に邪魔になる俺は自分で自分を切るよ。俺から話を切り出す。」

 

「麗真さんと一緒ですね。俺もそうする気がします。」

 

「そうですか。わかりました。今部って多分活動してますよね。」

 

「う、うん。してると思うけど、どうするんですか?」

 

「碧さん、田淵さん行きますよ。」

 

「「え?」」

 

彼らはぽかんと口を開けて僕の方を見る。まあ、訳が分からないだろうけどね。とりあえず乗り込むか。

 

「まあ、ついてきてくださいよ。」

 

 

廊下を歩き突き当たった少し大きめなドアの前に僕らはたどり着き、ドアをノックした。

 

「嵐珠さん。美影です。」

 

「あらミカゲ。それと。。」

 

ドアが開き、元気な彼女が飛び出してきた。そんなに急いで来なくても、いなくなんないって。

 

「果林さんの彼氏さんの田淵麗真さんと愛さんの彼氏の碧朱衣さん。」

 

「へぇーそう。」

 

「それで果林さんと愛さんいるかなって。」

 

「いるけど、今練習してるのよ。」

 

「そうなんだ。じゃあ終わるまで待つよ。」

 

「あと一時間ぐらいで終わるからそれまで待てるの?」

 

「適当に時間つぶしておくよ。」

 

「そう。それじゃあまたあとでね。」

 

そういって部室の奥へ戻っていく嵐珠さんを見送った僕たち三人は一旦落ち着けるであろう学園内にあるカフェテリアに向かった。

 

とりあえずセルフの水を三人で飲みながら、話を始める気だったが、碧さんが僕より先に口を開いた。

 

「よく話せますよね。自分自身あまりああいう高圧的な人と話すの苦手で……」

 

「まあ、僕も嵐珠さんと話すのも会うのも初めてなんで。何とも言えませんよ。ただ、理事長からどういう子か聞いていたので、それで少し慣れてるというしかないですね。」

 

「へぇ、あの子理事長の子供なんですか。」

 

「そうですよ。まあ皆さんはあまり関わりないからわからないかもしれませんが、僕は、昔からいろいろありまして。。」

 

二人ともへぇーと言って水をすする。ごくりと水を喉に通してコップを置くと、田淵さんが碇ゲ〇ドウのように手を組んで小さな声で、話し始めた。

 

「少しは落ち着いたよ。ありがとう、如月さん。」

 

「気にしないでください。それに今御二方が置かれている状況を考えたら、落ち着いていられないのも分かりますから。」

 

「ごめん。みっともないところ見せて……」

 

もしかしたらフラれてしまうかもしれない。そんな状態で落ち着いていられるのがおかしいんじゃないか。僕だって無理だ。まあ、付き合った人も経験もないけど。

 

「こんな状況ですからね。僕だって落ち着きませんよ。」

 

この言葉を境に2人は俯いて何も話さなくなった。口元に手をやって、何か考えてる碧さん。テーブルに置いたスマホを結構な頻度で確認する田淵さん。こんなに挙動不審な2人を見るに相当追い込まれているのだとわかる。正直嵐珠さんは、悪い人ではないんだと思う。やり方がちょっと一方的なだけで。解決策なあるけど、果林さんと愛さんがどう答えるかによって変わってくる……

 

それ以降何も話すことなく時間だけが過ぎていった。何もせず、ただ座って地を眺めては天を眺めるだけの空虚な時間。思考を巡らせても辿り着くのは同じ答えで、時計を見てもほんの3分程しか進んでない。それを幾回繰り返すと、いい感じの時間になる。

 

「そろそろなので行きませんか?」

 

2人は黙って立ち上がって歩き始める。紙コップをまとめ、備え付けのおしぼりでテーブルを拭いて、2人を追いかけた。部の部室に向かうと、部室の前に愛さんと果林さんと嵐珠さんが立っていた。それが見えた途端、隣の2人の歩く速度が急に上がった。そんな事しなくても逃げないのに……そう思いながら僕は何も変えずに歩いた。

 

「ここで話すのもあれだから、入って。」

 

そう言って嵐珠さんはドアを開いた。中は部室とは思えない豪華な作りになっていて、オシャレなバーかと思った。バーカウンターがあって、その後ろに1人用のソファーがガラスのテーブルを囲むように置いてある。僕と嵐珠さん以外の4人をそこに座らせて、僕らはバーカウンターに座った。

 

「なんか話しずらいね……」

 

そう苦笑いする田淵さん。そうだねと同意する他の人たち。

 

「先に謝るわ。ごめんなさい。」

 

果林さんはそう言って頭を下げる。愛さんもそれにつられて頭を下げる。男性陣は、わけも分からず、そわそわしている。僕らは干渉しないように見てるだけ。

 

「なんで謝るんの?!とりあえず頭上げてよ。」

 

「愛さんたち、同好会のみんなを裏切るような形で部に来たから、それで怒ってるのかなって。」

 

「まあ、それもなくはないよ。かすみさんとかは完全に2人のこと裏切り者認定してるからね。」

 

「そっか……本当にごめんね。」

 

愛さんは罪悪感に押しつぶされ、今にも泣き出しそうだった。

 

「正直な話、愛さんがなんで部に行ったのかとかそう言うのは分かるよ。でも、相談して欲しかったな。確かに動画制作とか色々一緒にやってるけどさ、その前に彼氏だからさ、批判はしても反対はしないし、助言とかもできることはするからさ。」

 

「うん。ごめん。」

 

「まあ、この関係ももう……終わるかもしれないからね。」

 

「え、今なんっ「俺は認めないよ。」

 

愛さんが言葉を言った時それをかき消すように田淵さんが声を上げた。それにびっくりしたみんなは一斉に田淵さんの方を見た。

 

「嵐珠さんは侑さんを否定してるのは、理由は知らないけど悪いことでは無いと思う。練習の方針や方法とかそういうのを変えるのは全然いいけど、俺と果林さんの関係を君の一言で断ち切れると思わないで欲しい。果林さんの意見を聞けてないから分からないけど、少なくともこっちははいそうですか。なんて言えるわけないんだよ。」

 

「私だって、はいそうですか。なんて行かないわよ。だからといって、嵐珠が決めた方針に逆らうなんてできなかったわ。でもやっぱり私には麗真と離れるなんて無理よ!」

 

果林さんは泣いていた。ボロボロと涙がガラスのテーブルに落ち、薄く水溜まりを作っていく。

 

「果林、泣かないでよ〜愛さんだって我慢してたのにぃ~……むぅりぃいい……!!」

 

愛さんももらい泣きしていて、拭っても拭っても涙が止まらない。氾濫した川のようにあったはずの堤防が崩壊しているのだ。

 

まあ、予想通りだった。人間だからしかも彼氏と彼女だから。それ相応の固い絆と言うべきものがあるんだろう。そんな絆を簡単に引き裂くことなんて、第三者には無理な話だ。あんだけ邪魔なんだったら何とかって言ってたけど、結局あの二人そんなこと一言も言わなかったからな。全く……面白い人達だな。慰めとかは彼氏さんたちに任せよう。僕はこの話を丸く収めるだけ。

 

「ねぇ、嵐珠さん。」

 

「何かしら?」

 

「嵐珠さん、スクールアイドルのみんなのために色んなことをしてくれるって言ってたよね?」

 

「ええ。確かに言ったわ。」

 

「このふたつのカップルを別れさせないってのもスクールアイドルとしての2人のためでもあると思うんだけどさ、どうかな?」

 

「そうね。ランジュにはレンアイなんて分からないわ。でも、愛と果林がすごいいい顔してるってことはわかる。」

 

「そっか。ありがとう。嵐珠さん」

 

「無問題ラ。それよりなんでみんな泣いてるのかしら?」

 

「え?嵐珠さん、今までの話聞いてた?」

 

さすがに予想外の反応で僕は困惑した。改めて嵐珠さんの顔を見ると、ほんとに分からないみたいな顔をしていて、聞こえない程度にため息をついた。

 

「嵐珠さんが、高咲さんの方針を否定してるから、もしかしたら彼氏と彼女の関係を否定するのかなって。」

 

「そんな事しないわ!」

 

「そうなの?!」

 

「ええ。ランジュがサポートできるのはスクールアイドルとしての成長に関わることだけなんだから、愛や果林のプライベートにまで口出しはしないわ。そんなの当たり前じゃない?」

 

「ああ……ははは」

 

またもや予想の斜め上の回答が返ってきて、動揺し、思考が止まる。正直やばいと思ったけど、そこまでヤバい人ではなかったようで安心した。気が抜けて変な笑いが出るほどに僕は安堵した。やっぱりいい子なんだよな。理事長が言ってることは正しかったんだな。この話をしてる間ふたつのカップルは、ずっとイチャイチャ。少しの間一緒に居れなかったからそれを埋め合わせるように。ずっと話していた。

 

「それじゃあ嵐珠さん。僕達はそろそろ帰るよ。」

 

4人がずっと話し込んでいて、気づいたら1時間ぐらい過ぎていて、泣き止んだことを確認して、僕はそう言った。僕の言葉でみんな立ち上がって帰る支度を始めた。どの道理事長室によらないとだから、みんなと一緒には帰れないけど、ここに長居するよりかはいいだろう。

 

支度を終えたことを確認して、扉を出ようとした時、服を引っ張られる感覚がした。振り返ると、右の脇腹の服を掴んでいる嵐珠さんが立っていた。俯いていて、その表情は見えないけど、何も無いのに引っ張るような人ではないだろう。

 

「田淵さん、ごめんなさい、嵐珠さんと話したいことあるので先に帰っててください。」

 

「わかったよ。今日はありがとう!」

 

深くお辞儀する彼らを見て、少しほっこりしつつ、手を振って、みんなを見送った。そして、そっとドアを閉め、嵐珠さんの方を向いた。

 

「どうかした?」

 

「いや、なんか、その……」

 

すごい歯切れが悪い言い方だった。話す時は人の目を見るあの嵐珠さんがまさか僕の目を見て話さないとは……なんかすごい耳赤いし、よく見ると手もプルプル震えてるし。

 

「その、大丈夫?耳赤いけど、熱でもあるんじゃ……?」

 

「だ、大丈夫よ!この程度、このランジュにかかれば!」

 

熱に抗える人間なんて居ないんだと言いたいけど、すげぇ、胸張って言ってるから言いづらい……でも、ほんとに面白い人だね。

 

「嵐珠さん。僕達もさ、その、みんなみたいにお付き合いしてみない?」

 

我ながら、バカだと思う。初対面に近い子にお付き合いしてみませんかなんて。。四年前のような、後先考えない性格は変わっていないんだなと内心がっかりする。ここまで来たら引き返せないと半場諦めて話を進めた。

 

「へぇ?」

 

「あの4人見てどうだった?」

 

「そうね。。今までランジュが見たことない顔をしてた気がするわ。少し悔しかったけど、なんとなくランジュでは引き出せない顔だった気がする。」

 

「珍しく諦めがいい。」

 

「悔しいけど今回は負けを認めるわ!」

 

「そこでなんだけどさ、嵐珠さんもお付き合いしてみたら、みんなのこともっと知れるんじゃないかな。」

 

「まあそうね。でもそれって彼女たちのことじゃなくてこういう状況に置いての彼女たちの心情とかじゃないかしら?」

 

「そうだよ。まあこういう状態で彼女たちがどう考えるか、どう感じるかとか分かればさ、彼女たちと話も弾むだろうし、話してみて、その子たちを知るきっかけにもなるかもだし……どうかな?」

 

 

嵐珠さん少し考える。部室の中をうろうろと徘徊する。ヒグマのように。

 

「分かったわ。付き合いましょ。」

 

「ほんと?」

 

「ええ。ランジュは、寛大だから。ミカゲの意見に賛成するわ。」

 

「好きになってもらえるように頑張るよ。ちゃんとしたお付き合いだからね。」

 

「ミアに言う好きと一緒じゃないの?」

 

「likeとloveの違いみたいな?」

 

「ランジュは、ずっと前からミカゲのことloveよ。」

 

「マジか……」

 

まあ、ずっと好きなんだけどね。。

 

こうして僕と嵐珠さんは付き合うことになった。お嬢様だからか、生活力のなさが垣間見えて、食事をつく手上げたり、掃除をしたりと彼氏兼お世話係みたいなポジションになってしまった。突然だが僕と嵐珠さんは、今がはじめましてではない。

 

二年前、二回目の高校一年生の夏休み。八月十七日。彼女は二日間日本に来た。理事長は少し仕事があり、僕と妹そして、嵐珠さんと過ごした。近くの公園で追いかけっこをして、ブランコにシーソーいろんなことをした。時間にして、二時間と十三分だったが感覚では三十分ぐらいにしか感じなかった。たったその時間のことなんて、二年という長い時間が風化していく。でも僕の頭からは風化しないし、色褪せることはなかった。

 

そんなこともう彼女は覚えてないんだろうな。きっと妹も忘れている気がする。僕たちが一緒に過ごした時間はこの年月で見たら、たった一瞬のことなのだから。

 

「お付き合いって何するのかしら?」

 

「さぁね。僕たちのペースで行こうよ。」

 

「それもそうね。」

 

「そういや、ずっと前って言ってたけど、いつから、その……ら、ラブの?」

 

「ふぇ?そ、その……に、二年前から……」

 

「覚えてたの?二時間ぐらいの短い時間のこと。」

 

「すごい鮮明に覚えているわ。ランジュね。人と遊ぶとすぐ見放されちゃうの。たった二時間だったけどミカゲとユキナはランジュのことを見放さずにずっと仲良くしてくれた。昔はどうせ見放されるんだって諦めてたから、すごいそっけない態度取っちゃったことをすごい後悔したの。」

 

「そうなんだ。でも、追いかけっこしてるとき、楽しそうだった気がするけど。少し口角上がってたし。」

 

「まあ、楽しかったもの。楽しかったら笑うのは普通でしょ?」

 

「そうだね。覚えててくれてうれしいよ。」

 

これが両片思いってやつか。まさか僕がその状況になるとは思ってもみなかったけど、結ばれることができたからひとまず安心だろう。それからというもの三船さんと彼氏である東間太一さんの家に居候みたいに居座っていたので、それを迎えに行ったり、それの引っ越し作業を手伝ったり。なかなか大変な毎日だ。迎えに行ったときに三船さんの顔は本当に面白かったけど、心の中にしまったのを覚えてる。

 

雪菜とはやっぱりすぐに打ち解けたみたいで、こっちとしても安心している。雪菜も覚えてたみたいで、昔の話をしたりして盛り上がってた。兄と彼氏としてはうれしい限りだけど、仲良すぎるのも物は言いようで、雪菜との方が仲いいように見えて、少しむすっとして、妹に心配されぬように平然を装ったりした。兄としてみっともないけど、嫉妬したっていいじゃないか。だって彼氏なのだから。一緒に買い物にも行ったみたいで、僕も行ってないのに。。そしたら、デートに誘われて、すごい舞い上がったのを覚えてる。その日は眠れずにデート当日を迎える。ショッピングモールを見て回って、ソフトクリームを食べて、口元のアイスをぬぐってあげたときの真っ赤になった顔を忘れられない。いや、過ごしたすべての時間が忘れられない思い出になった。

 

帰ろうかとなった時にまた袖口を後ろからつかまれて、振り向くと無言で、青い袋を突き付けられた。開けていいかと聞くと何も言わずうなずくだけ。開けると中にはペアリングが入っていた。こんなものまで用意してくれてたなんてと、少し泣きそうにもなったけど、正直僕がやることなんだけどなとは思ったり思わなかったり……

 

ペアリングは二つ入っていて、型番が明らかに違うから、自分の分と嵐珠さんの分だとすぐわかった。型が小さい方を袋から取り出して、嵐珠さんの右手を取る。

 

こういうものは結婚の時だけかと思ったけど、違うんだな。これからのことなんてわからない。もしかしたら、結婚するかもしれないし、別れてしまうかもしれない。だから今のところは右手につけよう。左手にはその時に彼女の隣にいた人がはめてあげるべきだろう。別れるつもりはないし、僕からはそんな話はしない。だからその時に僕が君の隣にいたら、その時は僕が君の手に指輪をはめよう。今度は僕が買った指輪を……

 

僕はペアリングを嵐珠さんの右手の薬指につける。それを眺める嵐珠さん。そしてボソッと美丽的……と言った。なんて言ってるかわからなかったけど、彼女の眼はすごく輝いていた。

 

「僕にもつけてよ。」

 

その言葉と一緒に僕は右手を差し出した。左手で袋を嵐珠さんに渡して、ペアリングを取り出す嵐珠さん。優しく触れる彼女の指先。少し冷たく、震えていた。指先をくぐるプラチナの輪っかがやけに輝いていて、目がくらむ。サイズはまさかのぴったりで、不思議だったけど、そんなのどうでもよくて、それ以上の喜びがこみあげてくる。

 

「ありがとう、嵐珠さん。」

 

「当然よ。ランジュはミカゲの喜ぶことは何でもするわ。」

 

「色々してもらったね。何か返したいんだけど。」

 

「そうね。なら、ランジュのそばにずっといなさい。離れたりよそ見することなんて許さないんだから!」

 

「未来のことはわからないけど、僕は離れる気ないよ。」

 

「何それ、可愛くないわね。」

 

「かわいさを求めないでよ。嵐珠さんの方が可愛いんだから。」

 

「ランジュの可愛さは当たり前よ。でも……ありがと……」

 

顔を赤く染める彼女を見てやっぱり可愛いなと二年前と変わらない感情がこみあげてきた。片想いなんて一瞬。その想いを伝えて、両想いなら付き合って、片想われなら付きあわないで、そのまま想いは自然に消えていく。想いを伝えない片想いがこんなに長く続くなんて。。好きになったら、すぐにでも告白したいのが僕であって、ほかの人の恋愛事情なんて知り得るわけもない。だからこそ、こういう風に不慣れな長期間の片想いをしてみて、付き合うことができた。不慣れんsことをしてみることも悪いことじゃないなとこの時初めて思った。好きな人と並ぶ自分がどんな顔をしているか、わからないけど、彼女は何とも言えない幸せそうな顔をしていた。僕もこんな顔をしてたらいいなとただただ願うばかりだった。

 

家に帰って、妹から聞いた話だが、ペアリングは雪菜とお買い物に行った際に選んだらしい。それを知った瞬間電話したくなったけど、時間的にもやめとこうと思った。明日学園に行くから、その時にでも話そうかな。明日が楽しみだ。おやすみ。聞こえないだろうけど、そう心で唱えた。




読んでいただきありがとうございました。

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