虹ヶ咲 彼氏彼女の事情   作:ワサオーロラ

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ご無沙汰しております!!

最近忙しくてなかなか出せていませんが、年内に正月編終わればいいなと思っています!


それでは本編。どうぞ!


上原歩夢 占い屋敷にて

「それじゃあ、兄さん行ってきます。」

 

「ふぁあ~うい~。」

 

布団の上からそう返事を返した兄さん。時刻は七時。まあ、休日だし、もっと寝ていたいんだろう。何なら今にも寝そうなあくびをした兄さんに見送られて、俺は家を出た。

 

日はすでに昇っているが、少し肌寒い。新年を迎えて、まだ六日しか経っていないそんな日、自宅があるアパートから出て、少し歩くとそこにはブランコに砂場、それと何個かのベンチしかない小さな公園があり、俺はそこの公園に腰掛けながら、近づいてくる雀に微笑みながら、彼女を待っていた。

 

昔はよくここで、兄さんと侑ちゃんと歩夢ちゃんと遊んだものだ。追いかけっこしてるときに歩夢ちゃんが転んで、すごい泣いちゃったときに頭撫でたり、子供特有の魔法の言葉。「いたいのいたいのどんでいけ」と唱えれば大体のことは痛くなくなったけど、その時は全然痛みが引かなくて、ずっと泣き続ける歩夢ちゃんを見ていたら、つられて侑ちゃんが泣き始めちゃってどうすることもできなくて、そのまま俺たち兄弟も泣いちゃったな。その四人の声で気づいた近所の人たちが、親に伝えてくれたんだっけな。今となってはいい黒歴史だ。。

 

冷たい風に体を冷やさないように首にかけたマフラーで鼻まで覆い、寒さをしのぐ。その風に揺れる木々のすれる音と一緒に砂をするような踏むような足音が聞こえてくる。音につられてその方向を見ると、そっちから見覚えのあるシルエットの女の子が近づいてくるのが見えた。

 

「歩夢ちゃん。おはよ、朝から冷えるね。」

 

「乃亜君。おはよう、今日も一段と寒いね。」

 

マフラーから口を出して、彼女にそういって彼女は手に息を吹け、手をこすりながら、笑顔でそう答えた。

 

「新年あけましておめでとうございます。」

 

「こちらこそ、今年もよろしくお願いします。」

 

歩夢ちゃんは俺が言おうとした言葉を先読みするように、そういって頭を下げた。同時に頭を上げて、たまたま目が合ったときに照れと安心感でクスッと笑ってしまった。そんな俺につられて、彼女からも笑みがこぼれる。新年早々いいものが見れたなと内心うれしかった。

 

「寒そうだけど、大丈夫?手袋貸すよ?」

 

「ううん。大丈夫だよ。」

 

「じゃあ手袋外すから、手繋がない?」

 

真っ黒な手袋の人差し指を噛み、手をゆるりと引き抜く。毛糸のため思っているよりもスムーズと手が抜け、まだ取ってない手袋を素手でとる。それらを着ているコートのポケットにしまっい、ふと視線に気が付いた。

 

歩夢ちゃんが俺の姿をじっと見つめていた。鼻と口を覆うように手を口の前に置いている。手からはみ出した頬は少し赤らんでおり、チラチラと俺を視界に入れては外しを繰り返している。それが、二巡したときふと目が合って、慌てて目をそらされ、もともと赤かった頬がさらに赤くなり、その赤さは耳まで広がっていった。

 

「なに、どうしたの?」

 

「ううん。何でもないの。乃亜君少し大人びてきたなって。」

 

「まあ、俺だって思春期の高校二年生だからね。おしゃれとかしぐさだって少しは気にするようになったよ。」

 

「ふふ、昔は悠雅君とけんかして、慰められに私の家に来てたのにね。」

 

「……昔の話やめてよ。。恥ずかしいんだから//」

 

俺の顔を見て、懐かしむように笑う歩夢ちゃんに、ほんの少しの屈辱を覚え、俺は彼女の手首をつかんで歩き始めた。最初は少し戸惑っていた彼女だったが、俺の歩く速さに合わせてついてくるようになった。満足したから歩く速さを少し遅くしたことは黙っておこう。

 

「そういえば、今日どこ行くとか決めてなかったよね。」

 

「そうだね。でもまだ時間的にも早いからどこにでも行けると思うよ。歩夢ちゃんどこか行きたいところないの?」

 

「えー、そういわれてもな。。」

 

「好きなだけ悩みな。今日は歩夢ちゃんに付き合うよ。」

 

「えっと、ちょっと気になってるところあって、そこ行きたいんだけど……いいかな?」

 

「いいよ。じゃあそこ行こっか。」

 

歩夢ちゃんの手を引き、彼女の案内に沿って道を進んでいく。進んだはいいものの、だんだんと人気が無くなっていき、路地裏みたいなところにやってきて、そこで立ち止まった。

 

「着いたよ。」

 

「……一応聞くけど、ここって何屋さん?」

 

「占い師さんがいるらしい。愛ちゃんがおすすめしてくれたから少し気になってたの。」

 

少しどころじゃないこの怪しい雰囲気にのまれそうだ。自動ドアではない家のドアのような出入口、すりガラスなのに、中に明かりがついているように見えないこと。何より、こんな薄暗く、妙に静かな路地裏に店を出すってのが一番不思議で不気味だった。

 

「……本当にここで合ってるの?」

 

「愛ちゃんによると、すごく‘怖い’占い師さんがいるらしい……」

 

「え~入りたくないんだけど……ほんとに入るの?」

 

「うーん……こういう感じの占い屋さんって、初めてだから気になってるんだけどね……」

 

ん?いつもはこういう時すぐ引き下がる歩夢ちゃんが、今日はやけにねだっている。そんなに気になるのか……でもわざわざ愛さんも‘怖い’占い師さんをお勧めするとは思えない……

 

「まあ、怖いけど、一日歩夢ちゃんに付き合うって言っちゃったからには入るよ。。怖いけどね!!」

 

「別に無理しなくてもいいんだよ。またいつでも来れるんだから。」

 

「ここまで来たからには、さすがに入るよ。それに男に二言はないっていうし。」

 

そう腹をくくった俺は、歩夢ちゃんを中へ入ることにした。怖いからと手をつないでもらって、多少なりとも安心する。引き戸のドアに手をかけて、そっと扉を開けた。開いた先は真っ暗、ほのかに光るろうそく程度の明かりが一定間隔でともっているだけの長い一本道。足元の常夜灯はろうそく同士の間の真ん中に配置されるように設置されている。その誰にも触られたことのない新品というまでの綺麗さが、この薄暗く何とも言い難い空間には似合わな過ぎて余計に不気味さを放っている。

 

「ここのレイアウトした人、すごい几帳面なんだね。。しかも怖いくらいに、寸分の狂いもないほどに……」

 

「みたいだね。きっと占い事態もちゃんとやってくれそうな誠実な人なんだってことが伝わってくるね。」

 

彼女はなんてのんきなんだろうと、ふと頭をよぎったけど、口に出さずにしまっておいた。そんなこと言えるわけがない。だって、それによって安心してしまったのだから。ほんとにもっと注意を払うべきなのはわかっているんだけど、最近「歩夢ちゃんが言うなら~」とか「歩夢ちゃんなら」とか歩夢ちゃんに流されることが多すぎる。何とかしナイトとは思ってるけど、どうにもできないのが俺の弱さ。だって彼女が可愛いから。賢いから。固いからから。これぞ3K 三つの勝てないこと。。つまりそういうことだ。惚れた弱みである。

 

足元の常夜灯に照らされた真っ黒な壁紙の足元の一面だけが白に代わっている。見ずらい!

そこには,

 

[ここで靴を脱ぎ、横にありますスリッパに履き替えてください。]

 

何だろうこの既視感は……小学生くらいに国語の授業でやるとある料理店のような感じ。え、これもしかして逃げるべきなんじゃないん?ますます心配になってきた。スリッパかけと一緒に足元が一段上がっているのがうっすら見える。言うなれば玄関のようなところ。

 

「はい、スリッパ。」

 

「あ、ああ……ありがと……」

 

「大丈夫?気分悪い?」

 

「いや、そんなことはないんだ。ただ、こんだけ綺麗に並べてあるのに、このホワイトボードのトレーにはペンが置いてあるんだなって思っただけだよ。」

 

「ほんとだ。急いでたのかな?よく気づいたね!」

 

「別に、そんなことないよ。じゃあ、先に進もう。。手、握ってい?」

 

「うん。いいよ。」

 

ああ~あったけぇ・・・心も体も阿多淡りすぎて溶けそう……ってダメダメ!慌てて話をそらしたものの、正直初めよりは収まったものの、まだ少し恐怖心が残っている。残ってるけど、この人が隣にいてくれたら何とかなる気さえする。ああ、こういう時にほんとに愛おしさを感じる。

 

「あ、またホワイトボードあるよ!」

 

「歩夢ちゃん楽しそうだね……」

 

「行こうよ!」

 

「待って、暗いから引っ張らないで……!!」

 

腕を引かれて、真っ暗な道を少し早足で進んでいく。少し行ったところに歩夢ちゃんが言ったようにさっきも見たホワイトボードがあった。さっきとの違いは内容もそうだが、足元じゃなくて自分たちの身長からでも文字が認識できる高さにあるということだ。

 

[手指の消毒が済みましたら、目の前のドアを開けてください。]

 

今回の指示はこうだった。言われるがままに消毒しつつ、前を見ると確かにドアがあるのがわかる。何かに照らされるでもなく、ただ中からの光が漏れ出ているからそう感じただけ。同時にゴールでもあるのだと直感した。

 

怖いという感情において、ゴールと思われる、もしくは怖い要素が取り除かれる空間や状態になるとしたら、そこに進んで飛び込んでいくのが人間の性というものだろう。だから俺はそのドアノブに手をかけて、勢いよく扉を開いた。

 

さっきまで暗いところにいたせいで、ドアを開けた瞬間に入ってきた部屋の明るさで、目がかすむ。暗いところとの光源の違いによって生じるそれは、違いが大きければ大きいほど、適応するのに時間がかかる。さっきまで恐怖していた俺からしたら、ほんの数秒ですら、耐えがたいほどに長い。

 

「まぶしぃ……」

 

真無事さのあまり腕を目と電気の間に入れ、影を作る。だいぶ慣れてきた眼で、辺りを見渡すと、そこはテーブルと、椅子しかない真っ白な部屋。だからと言って殺風景とも言い難い。思っていた以上にテーブルが大きく、椅子もどちらかと言えばソファーに近い。そして、そこに腰掛ける30代ぐらいの女の人。

 

「こんにちは。ようこそ」

 

「ああ、どうも……」

 

「……お二人ですか?」

 

「はい。二人です。」

 

「そうですか。どうぞくつろいでください。今、お茶を用意しますね。」

 

訳も分からず、呆然と立ち尽くす僕らとは反して、淡々と話を進める女の人。慣れているということもあるだろうけど、言葉にしにくい不気味さを感じた。

 

「どうぞ。」

 

「ありがとうございます。」

 

「ふふ、かわいらしい彼女さんですね。」

 

「え!……あ、ありがとうございます。」

 

何で知っているのかといたかったけど、不穏さが増していく一方だったから、何も聞かなかった。聞けなかったの方が正しい。口角をほんの少しだけあげて笑った女の人。無表情に近いけど、笑っていることはわかる程度の表情。

 

「申し遅れましたが、占い師の氷川律と申します。」

 

「よろしくお願いします。」

 

「それでは占っていきますね。先に言っておきますが、私の占いはタロットカードと言われるものを用いた方法です。そして今回は現時点での運命や、かこ、げんざい、未来についてですが、これは今現段階での占いなので、これから変わる可能性もありますので、そこのところ理解してお聞きください。」

 

俺たちは静かにうなずいた。それを見た氷川さんはタロットをシャッフルし始めた。南海したのかはわからないけど、すごい多い回数混ぜていく。そしてピタッと止まったと思ったら、混ぜていた山札の一番上から順番に取り、七枚決められている形のように並べていく。この時こちらには絵柄は見えてなく、裏返すでおかれていく。

 

「それでは占いの方始めていきますね。過去についてのカードですが、塔の正位置。昔何かあったりしたんですか?何かそうですね。トラブルというか、関わらなかった的なこと」

 

「昔ですか……関わらなかった時期自体はそこまでないと思いますが、しいて言うなら中学が違ったのでそこで少し疎遠気味にはなったと思います。」

 

「そうでしたか。多分あなた。」

 

俺を方を見た氷川さんはこういった。

 

「片思いの暦、すごく長かったでしょ?」

 

「……まあ、そうですね。悩んだりとか結構しましたし、言えないで中学まであがちゃったので、長くはあったと思います。」

 

「透の正位置には災難や不幸の前触れって意味があります。多分それで、言えないまま、中学に上がってしまったから、手が届かないんじゃないかとか、そういうことをいろいろ悩まれた時期があったから出たカードなんだと思います。それはきっと彼女さんも同じだと思いますがね。」

 

「え、それって……」

 

「さぁ、彼女の顔を見てみたら、わかることですよ。それでは次行きますね。」

 

ふと歩夢ちゃんを見ると、顔を真っ赤にして、うつむいていた。この反応は図星だったんだろうな……ヤバイ、にやけ止まんない。

 

「次は……力の正位置。これは精神力とか努力などそういうものがかなうというカードです。まあ、努力は報われる。そんなカードだと思ってください。現在を占った結果で力の正位置ということはお二人の片思いの精神。一途にお互いを思い続けたことによって付き合えているという結果を意味しています。」

 

昔はいろいろあったけど、結ばれていうならよしというところだろう。ほんとに結構当たってる……

 

「現在についてはこんなもんで十分でしょう。次は、未来ですが……戦車の正位置。逆にここまで正位置が出るのも珍しいですけどね。」

 

「それはどういう意味なんですか?」

 

少し興味が出てきた俺は食い気味でそう質問した。

 

「そうですね。今現段階では浮気する、されることは薄いというか、ないといえます。結婚に関しては……高校生っぽいし、まだ早いかな。だから、今のままでいれば大丈夫。何もしなくてもあなたたちはバランスがいいといえるからね。」

 

そういって少し微笑んだ。やはりわかりにくいが、少し楽しそうである……気がする。

 

「四枚目は運命の輪の逆位置ですね。四枚目には三枚目でみた未来の結末に対しての方向性を意味するカードです。人生の逆風と言って、望んでない方向へ変わっていったり、運命が急激に悪化していくといったものです。しかしながら、運命の輪とはひとつに一つにつながっている輪っかのことを指します。逆に言えばいくら逆行したとしてもいつかは帰ってくるということです。だから、これから不運があなたたちを襲うかもしてないけど、そこで、我慢したりぐっと耐えて方向性を見直してみるのもいいことだと思います。方向性を変えたら、未来も変わってしまうかもしれないけど、変わることを恐れないで。変わってなんぼの人生なんだからね。」

 

氷川さんが向けてくる俺らに対しての感情がすごく暖かくて、本当に導こうとしてるように見える。あとはあなたたち次第です。みたいに丸投げじゃなくて的確なアドバイスまでくれる。何とも言えないこの気持ちは一体……

 

そして五枚目がめくられる……節制の正位置。五枚目はお互いも気持ちについてだが、調和が取れていて、安定しているらしい。お互い相手への気持ちがますます強まっているとのことだった。周りからは羨ましがられることもあるけど、どちらかと言えば、尊いというか、落ち着いてみていられる安心感のようなものを感じているそうだ。まあ、それならそれでいいけど……少し恥ずかしい。

 

「六枚目はね……吊られた男の正位置。これはまた。へぇーふふ。」

 

何かわかったかのように不敵に笑う氷川さん。いいことが分かる予感がする。

 

「多分彼女さんなんだけどさ。」

 

「はい。なんですか?」

 

「あなた……早く結婚したいと思ってるでしょ?」

 

「え!……えっと……それは……///」

 

「図星ね。しかも同年代に結婚している人がいるから、羨ましいとも思ってる。」

 

おお。どんどん見透かされていく。歩夢ちゃんの顔が髪の毛の色と同じぐらいに染まっていってる。水化されたことよりも、俺のお前でそれを言われたのが多分あれなんだろうね……かわいそうだとは思うけど、俺としてはかわいい彼女の姿を見れて、ラッキーなんだけどね。

 

「まあまあ、そこら辺にしてあげてください。今にも爆発しちゃいそうなので」

 

「の、乃亜君……」

 

もう、少し半泣きしてるじゃん。可愛いんだから。嫌われたとか、重いとか思われたとか思ってるんだろうな……そんなわけないじゃん。どんだけ好きだと思ってるんだか……

 

「大丈夫だよ。歩夢ちゃんが思ってるようなことにはならないから、安心して。」

 

俺は彼女の髪を撫でる。お辞儀するかのように俺の胸板に頭を当て、体を任せる歩夢ちゃん。本当にこの子は……

 

「イチャついちゃって……まあ、悪かったとは思ってるよ。少し煽ったからね。でも彼氏君そこまでまんざらでもないでしょ?」

 

キラーパスを飛ばしてくる……ほんとになんなんだよこの人。

 

「……好きな人ですから。。未来はわからないけど、今は結婚までして、一緒に居たいとは思ってます。後々ですけど。」

 

「へぇ、君って案外現実的な子なんだね。歩夢ちゃん。だっけ?この人は信用していいと思うよ。占いとしてじゃなくて、一人の女としてそう感じるよ。」

 

「ほ、ほんとですか?」

 

「だから自信もって、嫌われてすらいない。何ならさっきより君への愛が深まったまで感じるよ。」

 

エスパーかなんかなのか?占ってもいないのに何でそんなことがわかる?!確かにそうだけどね。そうだけど、ほんとになんなんだ?

 

「じゃあ最後のカード。月の逆位置。ここまで全部いいカードばっかりだね。ということは未来は安泰だろうね。結婚についてだけど、今が絶好のチャンスだけど、まだむりだろうから。一旦保留にしよう。環境の変化とかsン強の変化でどう変わるかはわからないから、一概には言えないけど、不変だったらこのまんま。だけど、さっきも言ったように変化を恐れないで。私はあなたたちの歩みを応援しているわ。」

 

最後に背中を押されてしまった。店の漢字すごい怪しい人なんだと思ったけど、そんなことなかった。少し表情をさすのが苦手な普通のかわいらしいお姉さんだった。

 

「これで終わりだけど、何か質問ある?」

 

「歩夢ちゃん、何かある?」

 

「ううん。特にはないよ。」

 

「それじゃあ終わりにしますね。」

 

「ありがとうございました。いろいろ知れてよかったです。代金とかっていくらですか?」

 

「ああ、いいわよ。今日は無償でいいわよ。」

 

「いや、でもそういうわけにもいきません!」

 

「そうね……じゃあ、ちょっと耳貸して。」

 

何を言われるんだろうと内心ドキドキだったけど、まさかそんなことだとは思わなかった……

 

「え!本気で言ってます?」

 

「そりゃそうよ。恋人なんだから。」

 

「できなかったらどうすればいいんですか?」

 

「男ができなかった時のこと考えない!やってみてから決めろ。けど、あなたはできる気がする。だって……したいと思ってるでしょ?」

 

「まあ、わかりました。それでいいなら。」

 

「ええ。気を付けて帰りな。」

 

手を振る氷川さんに俺たちはお辞儀をした。入ってきた扉の先は真っ暗な道なんてなく、灯りがついている壁紙が黒い、何の変哲もない一本道になっていた。店から出て、先ほど耳打ちされた言葉を思い出す。したいけども……勇気がね……

 

「乃亜君。」

 

「どうしたの?歩夢ちゃん。」

 

「今日来てよかったね!これからのこと知れて、未来がさらに楽しみになっちゃった。」

 

そんなるんるんな彼女を見て、やはりかわいいなと思うばかり。愛がどんどん深くなっていく。あーあ。まんまと策略にはまったというべきか……あの人の占いはほんとによく当たるみたいだ。

 

「歩夢ちゃん。」

 

「なに?」

 

俺は彼女に一歩近づいた。冷え切った手で彼女の頬へ手を伸ばす。冷たさにびくっと体を揺らす彼女。そのひとつの動き、ひとつの言葉。そのすべてに愛おしさを感じる。もみあげの髪を彼女の耳にかける。不思議そうに見上げるその目さえも愛おしい。ああ、もう戻れない。俺はそうして、彼女の唇を奪った。

 

んん!という声が漏れたけど、こんなことはお構いなしに俺の唇を彼女の唇に当てる。これ以上行くと、俺自身の歯止めが利かなくなるから先には進まないように自制心が働いた。ありがとう自制心。

 

「ごめん。歩夢ちゃん……じゃあ、帰ろうか。」

 

「待って!」

 

帰ろうとした俺の手を彼女はそっとつかんだ。無理やり奪ったんだから。もう関係が戻ることなんてできないんだから。早く帰らせてほしかった。

 

「なに……あゆむちゃ…んん?!」

 

振り返った瞬間彼女は俺に飛びつくように首の後ろに手をまわし、俺の唇を奪った。なんでこんなことになっているのか理解できなかったが、俺と歩夢ちゃんが同じ気持ちだということはわかった。

 

「はぁ……何するの///」

 

「の、乃亜君から始めたんじゃん///」

 

「もぅ……帰るよ。」

 

「う、うん……」

 

何気なく手をつないだ。どっちからということもなくやはり俺たちは通じ合っている。これは俺たちが一緒に居るための証明でもあり、氷川さんの掌の上だったという証明にもなる。でもそんなのどうだっていい。今が幸せなら。それで十分なんだから。

 

 

 

 

 

今日は面白い客が来たな。いやあ~まさか店の前であんな情熱的なキスが見られるなんて……こっちとしてもなかなかない経験だったな~。今度はどんな客に会えるかな。楽しみだな~。まあ、私がその人が考える恋愛像が見えるのは誰にも言えない秘密だ。そうじゃないと商売として成り立たないからね。なんでお金を取らないかって?そりゃそうよ。占い師は建前だからね。占い師はタロットカードとか手相で未来を視るけど、私は恋愛像を直接観るからね。根本的な違いだよ。私の真の姿は縁を紡いで結びつける。名付けて結び屋。そんなところかな。機会があった来てみるといいさ。君たちの恋愛に幸福があらんことを。

 

 




読んでいただきありがとうございました。

感想、ご意見等々お待ちしております。

次回は……誰でしょう?!

お楽しみに!
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