「もしもし、どうしたの?歩夢ちゃん」
土曜日の夜,お風呂から出て,課題をしていると,歩夢ちゃんから電話がかかってきた。
「あ,乃亜くん。ごめんね、こんな夜遅くに。もしかして寝るとこだったりする?」
時刻は午後10時半。まだまだ全然大丈夫な時間だった。
「ううん、全然大丈夫だよ。」
「それならよかった」
「なんかあったの?」
「いや,特に用はないんだけど、なんか眠れなくて,ベランダ出たら、乃亜くんの部屋に電気がついてたから,電話したくなっちゃってね」
「眠れないの?大丈夫?」
「そんな心配することじゃないよ。今日お昼寝しちゃっただけだから。」
「へ〜歩夢ちゃんが昼寝しちゃうのって珍しいね。」
「昨日寝たのがちょっと遅くなっちゃってね」
「何時寝したの?」
「今日は0時半だよ。乃亜くんは?」
「1時だよ〜俺の勝ち〜」
「これの勝ち負けって何?」
「まあ〜まあ〜気にしない気にしない」
「もう,すぐ茶化すんだから」
「ねえ歩夢ちゃん,ちょっとベランダ出てこれる?」
「うん。分かったよ。ちょっと待ってね」
先に自分の家のベランダに出て立っていると、二つ隣の家のベランダにピンクのパジャマを着た,髪を下ろした状態の歩夢ちゃんが出てきた。一つ隣の家は侑の家だ。
「夜風が寒いね〜」
「そうだね〜歩夢ちゃんみたいに長袖のパジャマの方が良かったかも」
「乃亜くん,すごい眉間にしわよってるけど、どうしたの?」
正直そこまで目は悪くないが,家一つ挟んでいるからか,歩夢ちゃんの顔が歪んで見えなかった。
「ごめん,歩夢ちゃんの顔が歪んでる。メガネしてきていい?」
「いいよ。待ってるよ」
俺は,机の上にあったメガネをかけて,もう一回ベランダに出た。歩夢ちゃんの顔を見てみると、どこか嬉しそうだった。
「なんか嬉しそうだけど、なんかあったの?」
「久しぶりにメガネの乃亜くん見れて新鮮だな〜って思ったの」
「それ言ったら、俺だって歩夢ちゃんの下ろしてる髪久しぶりで新鮮だと思ってるよ」
「乃亜くんにだったら、いつでも見せるよ。」
「やった〜優しい〜」
「その代わり,その…たまに乃亜くんのメガネ姿も見せてね」
「歩夢ちゃんの頼みなら仕方ない」
「そういえば,悠雅くんは?」
「兄さんだったら、寝てるよ。昨日朱衣くんと遅くまでゲームしてたからね。」
「朱衣くん?」
「あ〜そっか知らないのか,宮下愛さんの彼氏だよ。」
「あ…そうなんだ…//」
それから歩夢ちゃんは黙ってしまった。ふと歩夢ちゃんを見ると俯いていた。遠いからよく見えないが,赤くなってるようにも見えた。
「どうした?寒くなってきちゃった?」
「え,ううん、違うよ。ただ…」
「ただ?」
「あの時侑ちゃんが言わなかったら、私たちって付き合ってないんだなって思っちゃって//」
「あ〜,そうだね。確かにあの時歩夢が言ってくれなかったら、俺も告白してなかったからな〜,お隣さんに感謝だね。」
彼は無邪気に笑った。
「そういえば,なんでベランダに呼んだの?」
「昨日1時寝って言ったじゃん,正直寝付けなくて,1時寝になっちゃったからさ。歩夢ちゃんと会ったら,しっかり寝れる気がしたから呼んだんだけど,あまり見ない歩夢ちゃんの寝る前の姿を見たら、心がときめいちゃって,寝れなそう」
「え〜,じゃあ、着替えてこようか?」
「そのまんまのかわいい歩夢ちゃんを見ていたいから、着替えないで欲しいな〜」
「…乃亜くん!//」
「ん〜?どうした?」
「…不意打ちは…ずるいよ//」
「不意打ち……?あ,さっきのか。ごめんね,でも可愛かったから。」
「もう〜,やめてよ〜//」
「こんにちは。真○茂樹です。」
その時自分のスマホのアラームが鳴った。自主学習として11時までやろうと思ってアラームを設定していたことをすっかり忘れていた。しかし,いつもとアラームの音が違った。
「……今の何?」
「…ごめん,アラームが鳴った。」
「うん。そこじゃなくて,内容なんだけど」
「……兄さんの悪戯…です。」
「そうなんだ」
歩夢ちゃんは苦笑いをしていた。それからとても気まずくなった。
(ったく、兄さん!ムードぶち壊しやがって!!明らかにテンション下がっちゃったじゃん!どうしよう,何話そう…)
そんなことを考えていると,歩夢が口を開いた。
「乃亜くん,今この世界に私たちしかいないみたいじゃない?」
「……うん。確かにわからなくもない気がする」
彼女はベランダの向こうに広がる夜景を見ながらそう言った。時間も時間だから、あまり車の通りもあまりなく、ただ静かに,歩夢ちゃんの話す声と弱く吹く風の音だけが聞こえる。
「歩夢ちゃんは、もし地球が最後の日が来たら、何を望むの?」
俺はふと思ってそう聞いてみた。
「ん〜どうだろ〜,多分何も望まない気がする。」
「それはどうして?」
「うまくいえないけど、親がいて同好会のみんながいて,あなたがいてくれる。私はそれだけで充分幸せだから、これ以上何か望んだら罰当たりな気がするから。」
そう言った彼女は月明かりのせいか,とても神々しく見えた。それはまるで,月を見上げるかぐや姫のように俺の目には映った。
「ふふ、乃亜くんどうしたの?」
「え…」
歩夢ちゃんの声で我に帰ると俺は手を歩夢ちゃんの方へ伸ばしていた。なぜこんなことをしていたのか、自分でもわからなかった。
「なんか月明かりが当たってたから,かぐや姫みたいな神々しい存在に見えたから,歩夢ちゃんに触れたくなって……」
「そんな神々しいだなんて言い過ぎだよ//」
「ただ…」
「ただ?」
「かぐや姫みたいだったから,月に帰ったように,手の届かないところに行っちゃう気がして,今のこの状況みたいに触れたい時に触れられなくて,近くに居たい時に近くに居られないなんてことがあるんじゃないかなって、思っちゃって,心配になったって言うか………」
「そっか…心配させてごめんね」
「いや,歩夢ちゃんが謝ることじゃないよ。俺が勝手に心配してるんだよ」
その時歩夢ちゃんは静かに語り出した。
「さっきの何も望まないって言ったけど、あれ嘘なんだ。本当は最後の時間まで、乃亜くんと居たいって言いたかったんだけど,恥ずかしくて言えなかったの。それに長年一緒にいて思ったの、私が1番落ち着けるのは、乃亜くんと一緒にいる時だって。だから私は乃亜くんのそばにいるし,何があっても必ず戻ってくるから。」
「歩夢ちゃん…逆に心配させちゃったね」
「ううん。大丈夫だよ。それで,乃亜くんが地球最後の日にすることは?」
「歩夢ちゃんと一緒に過ごすよ。」
「そっか…//そろそろ時間も時間だから、寝よっか」
「うん。そうだね。今日はありがとね」
「こちらこそだよ。」
「それじゃあ、歩夢ちゃん、おやすみ。」
「乃亜くんもおやすみ」
そして電話を切ってから、ベランダにいる歩夢ちゃんに手を振ると、手を振りかえしてくれた。そして家の中に入ってから,心は暖かかったが、体が冷えていて、すぐには眠れなかった。
次の日,学校が終わってから,歩夢ちゃんの家で昨日触れられなかった分、いっぱいイチャイチャするのだった。