「な〜ぎく〜ん」
「うぅ…彼方さん…重い…」
「あ〜だめだよ。凪くん,女の子に重いなんて言っちゃ〜」
「うん。ごめん。僕が悪かったから,許してください…」
「彼方ちゃん,ただいまご乱心なのだ〜」
「…何したら許してくれますか…?」
「ん〜,じゃあ〜,今から,彼方ちゃん専属抱き枕になってもらおうかな〜」
「え〜,僕タブレットで調べ物したいんだけど…」
「ぷ〜ケチ〜」
今頬を膨らませているのが,僕の彼女,近江彼方である。この眠り姫は、隙さえあれば寝ていて,姫と言われるにふさわしいほど,可愛いのだ。だからそんな彼女にはつい僕も甘々になってしまう。
現に今だって,自分には,しなくてはならないことがある。しかし,こんな可愛く言われたら、断れないだろう。そう,僕はこの子にぞっこんなのである。
「じゃあ、こっちからも条件,この頭の上にある彼方さんの頭をどうにかしてくれるんだったら、抱き枕にしていいよ。」
「本当?やった〜凪くんさっすが〜」
「体勢変えたら寝ていいから,それまで寝ないで頑張ってね………あれ,彼方さん?」
「すや〜」
「ってまだ寝ないでよー!!」
その後,眠る体勢を渋々変えてもらって,さっきまで頭にあった重量感が左肩に移動し,腕はさっきと同じまま肩の上から首の前で手を組んだ状態で、彼方さんは再び寝てしまった。
それからしばらく時間が経った。その間…全く調べ物が進まなかった。彼方さんの髪からするシャンプーの匂いと癖のある髪の毛が首筋に当たるたびに、くすぐったくて集中できなかった。僕は気分転換がてらに、スマホをいじっていた。ふとL○NEを見ると,果林からのメールが入っていた。
“こんにちは、凪。急に連絡してごめんなさいね”
“ヤッホー、果林。それはいいけど,何かあったの?”
“ええ。凪,今彼方と一緒にいるかしら?”
“うん。今,僕の左肩に寄りかかって寝てますけど”
“あら、そうなの?ならよかったわ。”
“どうしたの?本当に”
“さっき遙ちゃんから連絡があってね、「お姉ちゃんが帰ってこない」ってね”
“あ〜,そっか今日同好会ない日だから,彼方さん早く帰る日だったんだね。それは心配させちゃったね。”
“遙ちゃんなんて襲われたんじゃないかまで言ってたわよ?”
“あはは…申し訳ないな〜お詫びしたいけど、連絡先持ってないんだよな〜”
“ねぇ、その調べ物って、今日じゃなきゃだめなのかしら?”
“うん…今日中だからね。本当に申し訳ないんだけどね。”
“じゃあ凪,あとどのくらいで帰れそうなの?”
“ん〜,帰りたいのは山々だけど,17時は越えちゃいそうかな〜彼方さんだけで帰らせるのもな〜,今時物騒だから,女の子一人で歩かせたくないから,送っていくよ。”
“とか言って,一緒に帰りたいだけでしょ?”
“………そうだよ。悪いか”
“あらあら照れちゃってるの?可愛らしいとこあるじゃない”
“いいから,遙ちゃんに連絡して安心させてやれよ。”
“ええ。言っておくわ。じゃあ、頑張ってね”
少しいじられて,果林とのL○NEは終わった。
「ふぅ〜」
「んん…凪くん?」
「あぁ,彼方さん。起こしちゃった?」
「うん。ごめんね〜,手伝うって言ったのに、寝ちゃって〜」
「大丈夫だよ。もうそろそろ終わるから,寝てていいよ。」
「う,うん//」
「いっ…!!」
僕は,右手を伸ばし,彼方さんの頭を優しく撫でた。彼方さんの顔はほんのり赤くなり、それを隠すように僕の方に顔を埋めた。その時勢いよく振り下ろされた頭が左肩にぶつかって少し痛かったけど,眠ろうとしている彼女に言うことはできなかった。
「ん〜〜終わった〜」
「すや〜」
先生に課題をタブレットで送信をして,軽く伸びをした。彼方さんは…まだ寝ている。時間を見ると,すでに18時になっており,外も真っ暗だった。
「彼方さん,起きて,帰るよ」
「……」
「おーい彼方さーん」
「んん…すや〜」
「起きない…どうしよ」
どんなに手を握っても,頬を突いても彼方さんは起きなかった。
(流石にこれ以上心配させちゃうのも、申し訳ないし,起きるまで待つ時間ないし)
それから僕は,そっと立ち,帰る準備を始めた。しゃがんだり立ったりするときに、毎回彼方さんの髪が揺れて,その度にシャンプーの匂いがして,とても得した気分になった。そして準備を終えて,心を決めた。
「彼方さん,ちょっと失礼しますね。………よいしょっと。」
「んん…むにゃむにゃ」
「うん。起きてないね。さて,行くか。」
僕は,彼方さんをおんぶして,教室を出て,階段を降り,下駄箱にたどり着いた。
(これ結構大変だな〜しゃがんでは立っての繰り返しだし,あ,彼方さんの靴どうしよう…履かせて落とすのもあれだし、持っていこう)
自分の上履きを取ろうとしゃがんだとき,何かが下駄箱に当たった音がした。みてみると,彼方さんの頭が当たっていた。
「あ!ごめん彼方さ…」
「すや〜」
「寝てるし!!」
(この人すごいな!すごい越えて怖いぐらいだよ!)
なんて感心しながらも、細心の注意を払って,靴を履き,彼方さんの靴を持って,学校を後にした。
歩道を歩いていると,だんだん彼方さんの位置が下がってきてしまった。僕は止まってジャンプしその反動で彼方さんの位置を戻した。そのときだった。
「ひゃん!」
「!!?//」
後ろに組んでいた腕がお尻に当たったからか彼方さんは甲高い声を上げた。この時は流石に何も言い逃れをせず大人しく謝ろうと思った。しかし,彼方さんは眠っていた。あんな声を上げてもなお眠っていた。
「すや〜すや〜」
(………もう怖いを越えて,心配になってきたよ。)
それからと言うもの,寝ぼけた彼方さんに色々された。強く抱きついたと思ったら、腕でくびをホールドされたり、耳を甘噛みしてきたりしたが、寝ているその子はどこか幸せそうで、僕には責めることも、罵ることも出来なかった。
そんなこんなで、歩き続けた結果,彼方さんの家に辿り着いた。なんで知ってるかと言うと,遊んだときに何回か送ったことがあるからだ。
「彼方さん,起きて。家着いたよ」
「……」
「彼方さん。起きてくださーい。」
「すやすや」
「かーなーたーさーんー」
僕は自分の体を左右に振った。すると彼方さんが起きた。
「んん…眩し〜よ〜…ここは〜?」
「彼方さんの家の前だよ。」
「あれ〜凪くん〜なんで〜?」
「彼方さんのことを送ってたんだよ」
「え〜送ってたんだよ〜?さっきから凪くんが小さく見える〜」
「そうだね。今おんぶしてるからね?」
「んん…おんぶ〜?……ええ〜〜!!」
状況を理解した彼方さんは驚いたが,すぐ心配そうな眼差しを僕に向けてきた。
「大丈夫?結構距離あるのにここまでずっと背負ってきたんでしょ?!ありがたいけど,無理しすぎだよ〜!」
「ごめんね。彼方さんが幸せそうに寝てるもんだから,ついね」
「そう言うことじゃなくて〜,凪くんには健康でいてほしいし…い、一緒にいる時は,お話とかしたい…から……//」
「う、うん。今度からそうするよ//」
そして彼方さんを降ろして帰ろうとした僕に彼女は…
「凪くん〜お礼したいから,夜ご飯食べて行かない?」
「いや、いいよ。彼氏として当然のことをしただけだから。」
「彼方ちゃんただいまおねだりしたいのだ〜,だから来て?」
そんな上目遣いで言われたら、可愛くて行ってしまうではないか
「ご両親とかいるでしょ?灯ついてるし」
「あ〜,今日は両親遅いし,多分遙ちゃん一人だと思うからいいよ〜」
「そっか…じゃあ、お言葉に甘えて,お邪魔させていただきます。」
「ふふ〜いらっしゃ〜い」
そんなご機嫌な彼方さんに誘われるように、僕は彼女の家に入って行った。家に入ると,ご両親はすでに帰宅しており,少し気まずかったが、ご両親はすでに僕とのことを知っており,少し助かった。そして彼方さんの手料理は、とてつもなく美味しかった。