虹ヶ咲 彼氏彼女の事情   作:ワサオーロラ

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中川菜々 手作りクッキーにて

ある日の昼下がり,俺はいつものように生徒会室で,菜々の隠してある小説を読んでいた。対面に座り,一人でぶつぶつ何かを言いながら、彼女も小説を読んでいた。現生徒会長の三船さんには,毎回許可を取って,借りているらしい。すると,彼女がはっ、としたようにこちらを向いてきた。

 

「そういえば,この間までやっていたアニメってわかりますか?ライトノベルが原作なんですけど…」

 

俺は本を閉じ,菜々の話を聞いた。

 

「えーっとね,最強魔王のアニメしかわかんない」

 

「それですよ!!混沌の世代とか神話の時代の転生者とかのやつです」

 

「あの銀髪の子さ,菜々に声似てるよね〜」

 

「そ,そうですか?えへへ,声優さんの声に似てるって言われるのってなかなか嬉しいものですね。」

 

「そっか。それは良かった。それで,そのアニメがどうしたの?」

 

「あっ,そうでした。そのアニメで,魔王様にご飯を作るってことがあったんですよ。」

 

「ほうほう,それで?」

 

「そこで私は思いました。私も彼氏に何か作ったほうがいいのではないかと!」

 

「それで,作ってきたと?」

 

「はい!簡単にいえば,お菓子作ってきたと言うことです。」

 

それで盛り上がってしまった俺は…

 

「ほう?いただこうではないか。それをよこしてみよ。」

 

それから少しの沈黙があった。正直乗ってくると思っていた菜々が乗ってくれなかった。

 

「あの,そろそろ恥ずかしいので,ください……」

 

「あ,すみません。快斗さんの魔王様が型にはまり過ぎていて,見惚れちゃいました。」

 

「だったら,何か言ってくれたっていいじゃん」

 

と俺は少し頬を膨らます。それに慌てる菜々

 

「怒らないでくださいよー,快斗さんの魔王様にふさわしいセリフを考えていただけですから!」

 

「………そうなの?」

 

「……お恥ずかしい話ですが//」

 

「NMT 菜々まじ天使〜尊い…」

 

「ふえぇ!そ,そんなこと………//」

 

「この手作りクッキー食べていいの?」

 

「あ,はい。どうぞ。あんまり自信はないですけど……」

 

「えーそうなの〜?ラッピングを取ってっと,せーの,じゃん!!」

 

いつもよりテンションが上がっていた俺はノリノリでその袋を開封した。そりゃ彼女からの初めての贈り物であるし,さらには,手作りときた。これは最高の二文字であった。しかしそのテンションは長くは続かなかった。

 

「菜々……このドス黒い色は……何?」

 

俺の手には,花の形をしたクッキーがあってその中心にいろんな味のジャムみたいなものがかかっていた。

 

「あー,それはブルーベリーですね。」

 

菜々はそう言ったが,俺にはどうしても信じられなかった。

 

(ブルーベリーだと…ブルーベリーってこんなに赤かったか?でも何かを混ぜたって考えるべきか,なんだ…いちご?いや,さくらんぼもありか…)

 

「じゃあ、菜々,この赤いのはなんだ?」

 

すると菜々は得意げに笑った。

 

「ふふふ,よく気づきましたね,快斗さん。それは……ラー油です!!」

 

「ラー油?!なにその組み合わせ?!」

 

「最近,食リポなどでもよく聞くようになった、甘辛いと言う言葉…その相反するものが混ざったとしても美味しい訳がないと思っていました。しかし先日その甘辛い料理を食べにいったんです。」

 

「それでそれで?」

 

「あの相反するものが混ざっているのに,おいしかったんですよ!!あれが本当に衝撃で,家でもできないかと思って試したんです。」

 

「だから甘いものと辛いものを混ぜてみたらいいんじゃないかと思ったと?」

 

「そういうことです!さすが快斗さん。わかってますね。」

 

「大体の流れはわかった。これは美味しいと思って食べていいってことだよね?」

 

「はい!形には自信ありませんが,味には自信ありますよ!」

 

「わかった。」

 

俺は唾を飲んで、覚悟を決めた。そしてそのよくわからないクッキーを口へ運んで,一口で食べた。

 

「…どうですか?」

 

「あ,そんなに辛くないかも,甘くておいs…辛ーーいいいいい!!!」

 

そう言って俺は,椅子から立ち上がり,食べていたクッキーを頑張って飲み込んで,生徒会室から出ていった。流しそうめん同好会の頼み込んで、氷を数個と袋をもらい、口に一つ含み,生徒会室へ戻った。

 

「菜々〜ただいま〜」

 

戻ると,菜々が椅子に座った状態で、足をバタバタさせていた。どうやら何かを我慢しているようだった。目には涙も浮かんでいた。周囲を見ると,机の上に食べかけの甘辛クッキーがあった。そこからこの状況を読み取ることは容易だった。

 

「菜々,もしかして,味見してなかったのか?」

 

「………ふあい」

 

彼女はコクリと頷きながらそう言った。

 

「味見してないのに、味に自信があったの?」

 

「……すみまふぇん」

 

俺は紙コップに帰りがけに買った水を注ぎ、菜々に渡そうとする。

 

「はい,とりあえず、お水飲みな?」

 

しかし,菜々は首を横に振った。

 

俺は,菜々の横にあった椅子に座って訳を聞く

 

「なんで?」

 

「ダメですよ。これは私が起こしてしまった過ちです。それで私は快斗さんを傷つけてしまいました。だからこれは私の戒めなんです。」

 

「だから水無しで食べると?」

 

「そういうことです」

 

そう言って菜々は食べかけのクッキーを食べ始めた。

 

「んん!!」

 

あまりの辛さに彼女は声を上げた。自分の作ったもので自分が苦しむ。自滅であり,俺のための自己犠牲だろう。しかし俺はそれを止めずにはいられなかった。

 

「菜々,口開けて」

 

「ま、待ってくだふぁい,まだ食べてるので…」

 

そして食べ終わると,菜々は椅子を回転させ,俺の方を向いた。

 

「こ,こえでいいんれふか?//」

 

「うん。大丈夫だよ」

 

彼女の舌は、麻痺していて、少しピクピク痙攣していた。俺はその無防備に開いている口にそっと氷を入れた。冷たさにびっくりしたのか,菜々は口を閉める。

 

「つへたっ!氷ですか?」

 

「うん。流しそうめん同好会の人にもらってきたんだ〜」

 

「って,ダメですよ!これは私がどうにかしないと行けないんですから!」

 

「今,菜々の舌麻痺して痙攣しちゃってるから,これ以上はやめた方がいいよ。あとは俺が食べるから。」

 

そう言って俺はクッキーを摘んだ。やはり慣れる辛さではなかったが,氷があれば,なんとかなるくらいには慣れた。それをたべることを止めようと,菜々が慌てていた。

 

「快斗さん!無理しないでください。ぺってしてください!!」

 

彼女は混乱した表情で,祈るように手を組んで、こちらを見る。その時あれはあることに気づいた。

 

(菜々の手に,湿布?それも,3箇所ぐらい,右手の親指と,中指,薬指…突き指ではなさそうだし,火傷とか…あっ、まさかオーブンで…か?)

 

彼はそんなことを,考えながら,ひたすらクッキーを噛んで,辛さを無くそうとした。そして飲み込んだ。

 

「菜々,その手の湿布,どうしたの?」

 

「これはその…オーブンで焼いたクッキーを取ろうとしたら,手袋が薄くて,そのまま…火傷しました。」

 

(やっぱりか……)

 

俺はその右手を両手で握った。

 

「あ、あの…快斗…さん//」

 

「アイドルなんだから,傷でも残ったら、どうすんの…てか,彼氏として,彼女が傷ついたり,するの見たくない。ね、せつ菜?」

 

「は,はい…頑張り…ます……」

 

少し恥じらって,下を向く菜々はやはり可愛かった。

 

「なんでそこまでしてくれるんですか?」

 

不意に菜々が,暗めの口調で言ってきた。しかし俺には聞き取れなかった。

 

「ん?なに?」

 

「なんでそんなに色々してくれるんですか?こんな下手な料理作っても,嫌な顔ひとつしないで食べてくれましたし,私が困った時も助けてくれました。その強さは,いったいどこからきているのでしょう?」

 

と言われても,当の本人にはよくわからなかった。

 

「ん〜強さなのかは,わからないけど,彼女からのプレゼントで,それも手作りだったら,男子は大抵喜ぶと思うよ。それに,今回の甘辛クッキーだって,無理だったかもしれないし,今はまだ無茶だったかもしれないけど,その努力を無駄にしたくはないじゃん?それに,ただただ嬉しかったから。」

 

「快斗さん………またアニメの名言パクりましたね?」

 

「あはは,バレたか。でも言いたくなるんだよね〜」

 

「でもありがとうございます。なんだか、勇気が湧いてきました。」

 

「わかんないことあったら,なんでも言ってね。料理もある程度はできるから,教えてあげるからさ。」

 

「本当ですか?!嬉しいです。その時はよろしくお願いしますね」

 

すると,授業始まり5分前の鐘がなった。

 

「あ,5分前だ。そろそろ行こっか,菜々」

 

俺はそう言って菜々の方に手を伸ばす。

 

「はい!」

 

そういうと彼女は俺の手を掴んだ。生徒会室を出て,生徒たちが自分のクラスに帰って誰もいない廊下を,手を繋いだまま,一緒に走るのだった。

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