『────────!!!』
秋を過ぎた初冬の寒さに僅かに手が
年の暮れ、当年におけるウマ娘たちの集大成──即ち、有馬記念。
永き歴史、永き伝統、永き道のり。
グランプリの栄誉を勝ち取らんと
『只今一周目の4コーナはギャロップダイナが先頭! 内に並ぶカネクロシオを交わし後続に五バ身から七バ身離した逃げの体制をとっています!』
第三十回有馬記念───暮れの集大成らしく面子もまた豪勢なものであった。
13番人気の伏兵でありながら
偉大なる二代目三冠ウマ娘“シンザン”の娘、怪我に泣きながらも皐月と菊の二冠を成したミホシンザン。
シンザンの戴冠より時が経ち、幻とも夢泡沫の栄光とも思われていた三冠を劇的な走りで掴み取り、
そして、雄々しき無敗の───
『三番手には二番人気のミホシンザン! 偉大なる母、
(───“あの人”は、まだか)
ミホシンザンが、迫り来るであろう“何か”に思考を鈍らせる。
『残り1000メートルを通過したところで後続集団が先頭を捉えた! 一塊の集団の中ミホシンザンが半バ身リード──シービー来た! シービー来た! 最後方から上りで一気に先頭へ! 大地が弾んでまたもタブーを犯し追い込んできたミスターシービー!! まもなく最後の直線、ラストはこの二人の一騎打ちとなるのか!』
(違う、違う。来る、絶対に───“アレ”はやって来るッ!)
ミスターシービーが、焦燥を覚えながらもミホシンザンと競り合いハナを奪い合う。
しかし、しかし───この二人は、そして誰もが、この大舞台がこのまま終わるはずがないと確信していた。
(────ッ!!)
“奴”が、来た。
無双の覇者が、最優の戴冠者が、矜持の怪物が、至高の求道者が、永遠なる皇帝が──“畏怖”を纏いて始動する。
『来たッ! 来たッ! 来たッ! “最強”が来たぞォッ!』
背筋が凍る、動悸が高まり、心は震え、敗忸の
しかし彼女らも歴戦の猛者、畏れを闘志に切り替えこの
「負けるか、負けるもんかッ! お母様を……シンザンを超えるのは私だ!!」
「三冠ウマ娘の雌雄?
視界は先の何倍も広く、しかしその瞳に映る世界は孤高の漂白。
これが
生物としての“壁”を撃ち破りし一種の進化───双眸に、焔が宿る。
『──ッ!ミホシンザン!ミスターシービー!此処でさらに加速した!! 何という末脚!何という闘志! 中山の直線は短いぞ! まさか勝てるのか!? あの“最強”に、“怪物”に──
素晴らしきかな、道理を超越せし求道者よ。
神讃の後継と天衣無縫の踏破者。
レコードタイムをも確実に更新しているであろう熱狂のペース。もはや古今東西を見渡しても、今の彼女たちに敵うものなど想像もできぬだろう
────だが此処に、例外が存在する。
「いいや、“まだだ”」
諸人が歓声を上げ、喝采が轟く。
後続のウマ娘たちはその後塵を──皇帝の神威を拝する。
「あ……っ…そん、な……!!」
「──! ルドルフゥゥッ!!」
ミホシンザンが不条理に喘ぐ。
ミスターシービーが理不尽へ叫ぶ。
ああ、あぁ、お前はまたも我々を置き去りに進んでいくのか。その紫紺の瞳に先頭の景色を見納め勝利を攫い王位に座し続けるのか“絶対なる皇帝”よ。
────汝、皇帝の神威を見よ
疾駆は緩まず、残酷にも時は刻まれ、
『しかし! しかし!
「偉大なる先人よ、誇らしき後人よ。
貴殿らに感謝を──しかし、“勝つ”のは私だ」
(あぁ、こんな時になんでアタシは……どうして───)
『シンボリルドルフが一着でゴール! 三バ身程離され2番手はミスターシービーと僅かに届かなかったか三着ミホシンザン! 何という激戦! なんと痛快な勝利!』
抜き去られ、置き去りにされ、そしてミスターシービーの耳に届いたのは──皇帝からの礼賛であった。
それに抱きしシービーの感情は如何なものか。
皇帝の余裕に対する怒りか? 未だ至高の神域へと届かぬ己への不甲斐なさか? ───否、どれも否である。
『シンボリルドルフ!! 有馬の舞台で三冠の先人を! 二冠の後進を! 同世代の猛者を! 者皆全て捩じ伏せました! 今はっきりと、
(こんなにも、満足してるんだろう)
決着が着き、皇帝が指を天に掲げ栄光ある勝利に喝采を受ける姿を見ながらも、シービーの胸にほんの僅かなしこりもなかった。
全霊を尽くした。怪我明けのローテーション、それに合わせ自身のトレーナーと考案したトレーニング、
抜かりなく、加減なく、文字通りの
(だけど───)
だからこそ、シービーは満足しながらも──決して諦めてはいなかった。
前回も敗け、今回も敗け、されど諦めず。不撓不屈の天衣無縫。ミスターシービーは、また一つ“壁”を乗り越えた。
「次は、絶対にアタシが勝つよ──ルドルフ」
中山に轟く大喝采の中、鋭く放たれた静かなる宣誓。
聞こえるだろうか、聞こえていたのか、
至高の皇帝は、その麗しき美貌と
「あぁ、素晴らしい。
なんとも堪らぬ闘気で誘ってくれるな──
己に向けられた幾万の喝采よりもむしろ、シンボリルドルフはもう一人の戴冠者へと言葉を紡ぐ。
「諦めが
その唾棄すべき“諦め”を踏破する者を───私は心から愛する」
レースが終わった直後だというのに、更に動悸と呼吸が速くなる。
────シンボリルドルフ。永遠なる皇帝よ、アタシの愛しい宿敵よ、
「トゥインクルの舞台はこれにて終幕。
私は海の向こうへ発ち、更なる研鑽を積み此処へ舞い戻ろう」
三日月を思わせるメッシュにセピア色の艶かしい美髪を翻し、泥に濡れたとは思えない程に高貴な神威を醸しながらシンボリルドルフは高らかに己が願望を紡ぐ。
「そして新たな世代、新たなる舞台。しかし永劫変わらぬ愛しい宿敵と旧来の優駿たちへ時に挑み、時に迎え撃つ。
ふふ、まさしく
「うわ、入学から相も変わらずの
だけど、これでも一応キミの先輩だからね───負けっぱなしはカッコ悪いでしょ?」
「是非もなし。
待ち遠しいよ、シービー。次の
互いを礼賛し、互いに宣戦する。
重圧とともにのしかかる冠を澄まし顔で頭蓋に食い込ませながら───両者は、再戦を誓ったのだった。
シンボリルドルフは神童である。
人で言えば幼児ほどの年齢でありながら一を聞き十を知り百を成す鬼才。呂律を乱さず流麗に言葉を発する様を見れば、とても幼児とは思えない程に。
───その才は、走りにおいても発揮された。
同年代のウマ娘と比べ丈夫な身体。ストライド走行に秀でた天性の骨格。現状を把握し場を己のものとするレースにおける支配力。
人は、彼女を天与の童女と呼んだ。
人は、彼女をいずれクラシックを盛り上げる大役者と褒め称えた。
人は、彼女をシンボリ家の最高傑作と崇めた。
誰もが幼き彼女のレースにおける天凛を肌で感じ讃える──ゆえに、彼女の
シンボリルドルフの有する最大の才覚にして、最大の
「シリウスが、泣いていたのです」
荘厳な和を思わせる造りをした庭園に舞い散る木の葉が雅さを感じさせる屋敷の縁側にて、幼児は俯いていた。
「他の友も、わたしと走ると泣いてしまうのです」
幼く愛らしさと儚げな印象を抱かせる端麗な容姿、三日月型のメッシュにセピア色のかわいらしく跳ねた髪。
シンボリルドルフ──幼名ルナが、まるで神父へ懺悔する信徒が如く俯きその表情に翳りを見せていた。
「悔しいと、負けたくとないと」
始まりは、単なる戯れだった。
己より一つ年下の身内との“かけっこ”。本格化も迎えていない幼駒らしく走る距離は精々が百メートルそこらのお遊びだった。
しかし、その戯れにて───ルナは
勝ちたいと、勝たねばと、ただの“かけっこ”で
無論、そんな異常とも言える成長と渇望を持ったルナにその身内───幼きシリウスシンボリは勝てるはずもなく、同じく遊びに興じていたはずの友人達も影すら踏むことも叶わなかった。
「だから、それ以来ずっと
集中すれば見えてしまう“あの世界”を封じました。
懐に
シューズが襤褸襤褸になっても履き替えませんでした」
しかし、だが、しかし。
「どれだけ加減しても、最後には“本気”を出してしまいます。
“あの世界”は鮮明に瞳に映り、肉体は錘など度外視に力を込め、たとえ靴が綻び裸足になろうと駆けてしまうのです。
負けたくないと、勝ちたいと、どうしようもなくわたしの
──シンボリルドルフは、異端児である。
ウマ娘という種族に備わった闘争本能と勝利への渇望が、並のウマ娘とは比較にならぬほどに…もはや“狂気”と呼ぶべき域にまでそれらを抱いていたのだ。
レースを走るものとしてはそれもまた恵まれた才覚なのだろう。どれだけ素質があろうと勝利への渇望が欠如していれば結果は伴わず凡走に終わるという例はこの世界でも珍しくなく、それに比べればルナの持つ“渇望”も立派な武器なのだ。
しかし、一つ問題があるとすれば──幼き皇帝は
他者を思いやり優れた社交性を持つ彼女にとって、この
「
瞳を潤ませ、今にも涙を流してしまいそうに表情を歪めながら、ルナは“相手”の目を見て己の想いを伝える。
「いいや、ルナ。
お前の“それ”は悪癖でも何でもない。むしろ、そいつも立派な才能だ」
しかし、潤んだその言の葉に真横に座る女性……
「なに、悲観するな。
勝負根性ならシリウスの方が粘り強いし、素質だけで言えばクリスもお前に並ぶ。あいつらはお前が思うより弱くはない───それにな」
言葉を区切り、激励とも呼べる言葉をルナへと送り、その麗しき端正な顔に笑顔を浮かべながらスピードシンボリは続ける。
「“今の”お前には信じられないだろうが、
「
「ま、そうだろうな。
お前の
まぁ、
だが“手加減”など二度とするな。我らの世界にとって敵からの憐憫などは大敗以上の屈辱であり侮蔑だ。
どれほど勝利に狂おうとも構わん。しかし矜持を持ってレースをしろ。それがお前と競い合う者への最低限の礼節だ」
スピードシンボリは幼駒の抱える異端の狂気に理解を示し、認め、そして諭す。
少女、ルナにとってその言葉一字一句は天啓にも似た教えであった。己の歪みを許容しながらも間違いを是正し、この悍ましいとすら感じていた渇望をも受け入れてくれたのだから。
ルナは敬愛すべき叔母に再び尋ねる。
「……本気で走っても、良いのですか」
「ああ」
「勝利を求めてもいいのですか?」
「勿論だ、ルナ。お前は自由に生きていいんだよ」
───あぁ、なんて、なんて優しい赦しなのだろう。
そして、この時、この刹那に、理性をもってして抑えつけてきた異常なる本能の
───ならば私は、誰も辿り着けぬ完全な勝利をこの手に掴もう。
これが、後に“永遠なる皇帝”と呼ばれる幼駒の胎動であった。
暖かな春のそよ風が息吹き、めでたき新たなる門出を迎える。
眼前には舌を巻くほどに雄大な教育機関。
周囲には己と同じくこの学園の敷居を跨ごうとするウマ娘たち。
シンボリルドルフはこれより、トレセン学園へと入学する。
紫紺の瞳をギラギラと煌めかせ、思わず牙を剥き出す程に溢れた笑みの先に、シンボリルドルフは周囲の若輩とは違う光景を見ていた。
「これが、トレセン学園。
あぁ───
誰かに聞かれでもすれば余りにも傲慢な科白だと諌められそうな発言であるが、ルドルフと同じ周りの新入生たちは新たな門出に浮き足立っており彼女の問題発言は幸運にも誰の耳にも届かなかったようだ。
そしてシンボリルドルフは、眼前に居らずとも己の“本能”が嗅ぎ取った強者たちの気配に胸を躍らす。
知識として学園の優駿たちは総て記憶に留めているが、やはり百聞は一見にしかず、百見は一触にしかず。
敷居を跨ぎ足を踏み出すたびに強く醸される強者たちの薫りを辿り、”本能“に忠実に従いながらシンボリルドルフはまたも笑みを溢す。
「天を駆ける流星、緑の刺客、逆襲者、赤き閃光、狂気の逃亡者に天衣無縫───あぁ、待っていろ。”勝つ“のは私だ」
玉座はなく、冠はなく、臣下はおらず。
されど皇帝は、此処にいる。
・シンボリルドルフ
誕生日:3月13日
身長 165cm
体重 かなり理想的
会長ルドルフとの相違点。
・百駿多幸の理想を抱いてない。
・ブライアンと同じタイプの闘走狂
・勝利への渇望ならブライアン以上
・ダジャレを言わない
・成長率が全ステータス20%の化け物
・ダジャレを言わない
・ダジャレを言わない
会長ルドルフ「百駿多幸──創ろう、全てのウマ娘が幸せに暮らせる世を」
皇帝ルドルフ「優勝劣敗──強き者が勝利し、弱き者は淘汰される。それが私たちウマ娘の世界だ」
・脚質適正
逃げ:A
先行:S
差し:A
追い込み:A
史実にて主戦騎手曰く、シンボリルドルフは自在性も多様性も持っており、その気になれば
しかしルドルフ本人は好位抜出の先行策を好んでいるため、基本的にはこの脚質で勝負をつける。
・ステータス(メイクデビュー前)
スピード:D+ 365
スタミナ:D+ 350
パワー:D 320
根性:■■ ■■■■
賢さ:C 400
・ステータス(シニア級有馬記念終了時)
スピード:SS+ 1200
スタミナ:SS 1100
パワー:SS+ 1150
根性:■■ ■■■■
賢さ:S+ 1000
戦績(以下ネタバレ)
ジュニア級戦績
3戦3勝
・メイクデビュー 芝:1,600
・サウジアラビアロイヤルカップ 芝:1,600
・朝日杯FS 芝:1,600
クラシック級
・弥生賞 芝:2,000
・皐月賞 芝:2,000
・東京優駿 芝:2,400
・セントライト記念
・菊花賞 芝:3,000
・ジャパンC 芝:2,400
・有馬記念 芝:2,500
シニア級
・大阪杯
・天皇賞(春)
・宝塚記念
・京都大賞典
・天皇賞(秋)
・ジャパンC
・有馬記念
・URAファイナルズ(初代覇者)
国内総戦績
23戦23勝
主な優勝歴
・クラシック三冠(皐月賞 東京優駿 菊花賞)
・春シニア三冠(大阪杯 天皇賞:春 宝塚記念)
・秋シニア三冠(天皇賞:秋 ジャパンC 有馬記念)
・ジャパンC二連覇
・有馬記念二連覇
海外戦績(以下ネタバレ)
2戦2勝
主な優勝歴
・フォワ賞
・
原作以上に最強無敵な皇帝を文字にしたかっただけの作者の自己満足妄想です。