ある山奥に住む家族を皆殺しにした帰り道、この私、鬼舞辻無惨はある奇妙な男に出会った。
背丈は170、まるで何年も飯を口にしてないかのようにやせ細り、肩まである髪は燃え尽きてしまったかのように灰色となっている。光のないその血のように真っ赤な瞳は目はこちらをぎろりと睨んでいる。
その男から感じるのは、黒く渦巻く巻く底なしの怒りと憎悪。ほっとけばそのうち体ごとすっぽりと飲み込まれてしまいそうだった。だが私はそれに違和感を覚えた。私に向けられたものではなかったのだ。
私と出会った者の約9割は、おびえるか、憎悪をいだく。最初はこの男もそのうちの一人だと思った。しかし何なんだこの男は、いったい何に対してそこまでの怒りを覚えるのだ?
???「...仏の指示だ。」
「??!」
低い声で男が口を開いた。仏の指示?!なんだそれは!自分が神の使いだとでも言いたいのか!
???「奴が言ってた通りだな、あまりにも人を殺しすぎている...まるで自分を見てるかのようで気持ちがわるいな。」
男がずるずると足を引きずってこちらに近づいてきた。刀を持ってはいないにもかかわらずこちらに迷いなく近づいてくる男に私は少し困惑した。
ん?困惑?困惑しているのか私は?刀も持たない、やせ細ったたかが人間一人に困惑しているとゆうのか!この鬼舞辻ともあろう者が!!
無「不愉快だ、死ね。」
怒りに任せ、体をバラバラにしてやった。満足感に満たされた私はそのままそこを後にしようと、死体に背を向けた。
いったいなんだったのかと考えながら歩きだすと...
ザザザッ
後ろで物音がした。
急いで後ろ見ると、そこには何もなかった。バラバラにしたはずの死体も、血の跡もなかった。
『カンダタ』
年は20代後半背丈は170、細い体をしているが筋肉はある程度ついている。髪は肩まで、ぼさついており、まるで燃やされたかのように灰色だ。
彼は戦国時代、戦で屍があふれかえっていた時代で空き巣や強盗、ついにはを二十を超える殺しをし地獄へ落とされた正真正銘の外道だ。その外道の所業は大きく広まり、ついたあだ名は…【修羅鬼】
地獄に落とされたカンダタは、地獄でその罪にふさわしい罰を受けていた。骨が灰になるような灼熱地獄。魂までもこおってしまいそうな八寒地獄。数え切れない程の刀が生えた針山地獄など。その他にも様々な地獄を受けて、彼の魂と精神は崩壊寸前となっていた。
そして何百年と続く罰がやっと終わり、彼は地獄の最も深い場所、人の原型が殆どない者、一寸先が見えぬ闇、そして絶え間なく続く叫び声が聞こえる中で、カンダタは同様に大罪を犯した亡者たちと 本当の死 つまりは魂の消滅を待っていた。意識が切れかけ、いよいよ本当の死を迎えるのかと覚悟を決めたその時...それは起きた。
一寸先は闇である地獄の最下層に、一筋の光がそこを照らした。
「...人が覚悟きめて死のうってのに...」
光のおかげで意識が戻ったカンダタは、今にも消えてしまいそうな体を起こし、光の下へとたどり着いた。
「これは、糸?」
光の正体は白く透き通る、 蜘蛛の糸 であった。糸に触れると、カンダタの頭の中に生前の記憶のうちの一つが入ってきた。
「これは、俺がまだガキだった頃...確か雨が強かった日。」
両親に虐待されていたカンダタは、親の暴力から逃れるため家を出た。道中、つかれたカンダタは木橋の下で野宿していた。その時近くで雨に打たれて弱り切った、小さな蜘蛛を見つけた。あまりにも弱々しく地を這うその小さな蜘蛛に、カンダタは今の自分を重ねた。
蜘蛛手の中にそっと包み一晩蜘蛛を雨から守った。
「この糸もしかして...」
〖上りたまえ、さすればそなたを浄土へと誘わん〗
カンダタの頭の中に何者かの声が聞こえてきた。その声はどこか温かみを感じ、懐かしいものを覚えた。
「浄土...なんだ、仏様は罪人を蜘蛛一匹助けただけで誰でも天国に生かしてくれるのかよ?随分とお優しものだ。」
ここを登れば浄土に行ける...その言葉にとても小さな希望を胸に糸を登り始めた。
……
上り始めて何年になるのだろう。糸は登っても登っても先が見えない、手がにじんできた、本当に浄土に行けるのだろうか。もしかしたらもうずっとこのままなのか?一生登り続けるのか?
「んぐっ…痛てぇ!……」
目に何かが入った、何が入ったのか確かめる。.........何も無かった。これは、まさか……
光だ!!!目が焼き付けるように眩しい光が!この俺を照らしてる!ついに浄土の入口に着いたんだ!!!
グワァワァンンンッッッ!!
糸が大きく揺れた、危うく手を離しそうになる。なんだ、何が起こったんだ!下の方に違和感を感じる。恐らく下でなにかがあった。
(アァァアァアアアァァ…ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙)
おぞましいうめき声が聞こえる。たまらず下を見た。
「.........っ!!!この亡者共がぁああ!!!!」
下ではまるで虫のごとく他の亡者共がワラワラと俺の糸に群がり登ってきている。糸が悲鳴をあげる、きっと重さに耐えられないんだ。ダメだ、ダメだダメだダメだダメだ!!!
これは俺の糸だ!仏様がくれた、俺だけの糸だ!!!お前らのものじゃねぇ!!!
「糸が切れたらどうすんだよぉおお!!!降りろ!!!俺の糸から
おりやがれぇぇええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
ぷつんっ
「え?」
〖愚かな罪人め、罰が足りぬようであったか。〗
俺の見てる世界が逆さまになった。光が消え、下へと落ちてゆく。まるで初めて地獄に来た時の感覚だ。現実を理解するのに、数分かかった。
「うぐぅア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!!!」
〖だがお主に助けられた蜘蛛はお主をどうしても助けてやりたいらしい。そこで罪人であるお主に天命を下す。〗
「ぎりぃうわア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙」
〖現世に黄泉がえりをし、日ノ本に厄災もたらす悪鬼、鬼舞辻無惨を地獄へと落とすのだ。さすれば再び糸を垂らし、貴様を浄土へと誘わん。〗
「ぐぅア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ぢぎじぃしょおおおおおおおおおおおとおおお!!!!!!!!!!!!!!!!!」
あっという間に底が見えてきた、頭から衝突しそのまま消滅か.........外道にふさわしい死に方だな。
ギッ…ギチギチッギリィィイヤァアア゙ア゙ア゙ア゙ア゙
突然底に化け物の呻き声のようなものが聞こえたかと思うと、底に真っ黒な穴が空いた。
気づけば雪の上で倒れていた。
数刻後、ゆっくりと目を開ける。当たりを見回しても見えるのは真っ白な雪の世界。一体何年ぶりなのだろうか。涙が出そうになるほど美しいこの雪景色。そしてこの雪の冷たさ。八寒地獄と比べれば暖かくも感じる。
(現世に黄泉がえりをし、悪鬼を滅せよ……)
頭の中にある仏の言葉。ここは…現世なのか。確かめようが無い。そりゃそうだ、今まで地獄にいて現世がどんな世界だったのかとうに忘れてしまっている、だが仏が嘘をくとも思えん。
ガサガサ……
「誰だ!……」
茂みが突然動き出した。中から飛び出してきたのは一匹の兎であった。
「驚かせやがって…でも畜生が居るってことはここは間違いなく現世だな。」
確かな確信を得たカンダタはその場をあとにし、探し始めた。鬼舞辻無惨という悪鬼を。
「一体何もんかは知らんが、浄土に行くための足軽となってもらう……。」
これは、糸を切られ心に修羅をもつ男が、悪鬼を滅す話。
短かったかな?