文豪ストレイドッグス害伝 ヨコハマヰシン   作:角刈りツインテール

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(投稿が遅れました!本当にごめんなさい!)




あーあ、つまんねーの。自殺しよっかな。     ———人類最強の請負人・哀川潤


第三話 最強ガイキル世界

♦︎♦︎♦︎

 

『無為式』戯言遣いのように薄っぺらく

 

『感情のない英雄』空々空のように冷静で

 

『異常な普通』人吉善吉のように芯が太く

 

『吸血鬼もどき』阿良々木暦のようにお人好しで

 

『魔法使い使い』供犠創貴のように計算づくで

 

『人類最強の請負人』哀川潤のようにニヒルで

 

『美少年探偵団』瞳島眉美のように美しく

 

『零崎一賊の鬼子』零崎人識のように剽軽で

 

『忘却探偵』掟上今日子のように最速で

 

『虚刀流七代目当主』鑢七花のように強く

 

『壊れた世界の住人』病院坂黒猫のように知識に貪欲な

 

 

そんな男。

 

 

♦︎♦︎♦︎

 

「————ふぅ」

これは太宰が探偵社へ帰る前——そして太宰と中也が解散した後、即ち深夜のことだった。

ある1人の初老がポートマフィア本部の裏で、静かに煙草を嗜んでいた。

 

 

広津柳浪(ひろつりゅうろう)、ポートマフィアの幹部その人である。

 

 

ポートマフィア傘下の武闘派組織『黒蜥蜴』の百人長(リーダー)

黒いコートにストールを巻き、片眼鏡をかけた白髪の男で、先代の首領の頃からマフィアに仕えている古株である。

ポートマフィア幹部にしては珍しく部下を簡単には手放さない男で、ポートマフィアにいた頃の太宰治曰く「部下を簡単に切り捨てない広津さんだから部下が随いてくる」だそうだ。

 

そして彼はこの事件の当事者であり被害者である。つまり、『化物』が殲滅したのは彼の部隊だったということだ。

広津は嗜好品である煙草を吸うことで思考に全神経を集中させていた。

彼は煙草を好んでおり、それはもう既に何をするにおいてもそれと同時に行う習慣の一つになっていた———仕事をするにしてもまずは、煙草がなければ始まらない。

(さて…どうしたものかな)

いかに報復を加えるか、彼はそればかりを考えていた。

当然の話である。

 

恐怖ではなく、純粋に自分を慕ってくれていた部下をほぼ全員失ったのだから。

退避に手間取った自分のミスだった。

 

これはもう自分が処分される時も近いか、と自嘲する(———ちなみにマフィアでの『処分』は『死』を意味する)。

だが、処分されるにしてもされないにしても、その前に『化物』に対して何かしてやりたいのだ。

それが広津のプライドだった。

人生50年。

いい人生だった、と振り返ろうとしてやめた。

こういうのは私の性分ではない。

それに、やめなかったとしてもどうせそんなことは出来なかった。

何故なら人影が見えたからだった。

誰だろうか、と身構えたがそれは杞憂で、その正体は自分の部下の立原道造だった。

あの『化物』との、戦いとも言えない一方通行の暴力を生き残った私の唯一の部下。

唯一、というのは誇張ではない。

そう。

 

芥川龍之介の妹———銀でさえ勝てなかったのだ。

広津の部下は、もう立原ただ1人だった。

 

「やッと見つけたぜジイさん」立原が頭をぽりぽり掻きながら、尊敬も何もないような口調で話しかけた。

「…何か用事が?」

「あァ、中也さんが呼ンでる」と用件を言った。

「中也殿が…?」

あの人が呼んでいるとなると…きっと太宰殿への愚痴だろう。そう考えた。

気分転換に誘いに受けることとしようかな、と思い立原に「了解した」と承諾。

彼の横を通り過ぎようとしたその時、「銀はジイさんのために死ねて、きッと幸せだったと思うぜ」との声がした。

広津は立ち止まって「…そうだと善いのですが」とだけ言って再び歩き始めた。

「死ぬなよ、ジイさん」と立原。

だが広津はその言葉に返答することなくコツコツと音を立てながらコンクリートの上を歩いた。

 

「…人間、死ぬときは死ぬンですよ」

と、人がいなくなってから呟いたのは誰も知らない話———。

 

♦︎♦︎♦︎

 

カラン、とドアについている鈴がなり、店内から「いらっしゃいませ」と顔馴染みのマスターの声がする。

ペコリと頭を少し下げてから恐らく既に来ているであろう人物を探す———と、簡単に見つかった。

広津はその男の元へ歩む。

「おッす、悪いな」と顔を赤く染めた中原中也が広津に気が付き挨拶をした。どうやらもう既に酒が入っているようだった。彼のお気に入りの帽子はかぶられおらず、そもそもどこかへ消えているようだった。

「お待たせしました。…また、太宰殿関連ですか」

「いや、ちげ…まァ、間違ッちゃいねぇか…噂の———『化物(バケモン)』の話だよ」

中也は本気で嫌そうにそうぼやいた。そして広津は、彼からことのあらましを聞く。

「ふむ…まさか太宰殿をそこまで追いやる人物とは…」

広津は、その敗北は部下が非能力者だったから、自分に実力が不足していたからだと考えていた。———だが、太宰が負けたとなれば話は変わる。それは本物の『化物』である。

フランシスコ・フィッツジェラルド以上に。

フョードル・ドストエフスキー以上に。

「まァそこまで加味してのあの結果の可能性もあるけどな。腹は立つが正直あいつがピンチになる状況なンて想像がつかねェ」

それも双黒時代に培われた信頼なのだろう、と広津は思った。

本人たちはそれを認めないだろうが。

 

化物。

その、本名でも何でもない、御伽噺にような異名だけを残す、まさに怪異のような男。

広津はその顔をしっかりと捉えていた。

あの目は何処かである、と思っていたが、中也と話すことで思い出した。

あれは———ポートマフィアに在籍していた頃の太宰治の目とそっくりだ。

世界が、他人が稚拙に見えて。

世界に価値を見出せず。

自分も、他人もどうでもいい、と。

人を殺すことに何の嫌悪感も抱いていなかった時代。

あの頃の太宰と同じように、化物は———

 

死んだ魚のような目をしていた。

「おい?」

中也の心配そうな声ではっと意識を戻す。

「中也殿は顔を見ましたか?」

「や、見れてねェ。生憎後ろ姿しか見れなかッた」

畜生が、と毒を吐いて酒を一気飲みし、ダン、とジョッキを机に叩きつける。

数人の客がびくりと体を震わせるがここは一応ポートマフィアが出資している飲み屋なので彼らも恐らくその関係者なのだろう、かなり肝が据わっておりすぐに会話を再開した。

ざわざわと喧騒が空間を支配する。それとは対照的に広津と中也は静かに酒を嗜む。

 

 

しばらく経って口を開いたのは中也の方だった。

「ま…残念だッたな。広津の部下への愛は人一倍だしよ」

「えぇ…だから私は一人で復讐します」

「あ?」

「部下の恨みは、私が晴らしたい——勿論、道造なら連れて行ッても善いのですがね」そう言って上品にウイスキーを飲む。

「はッ」と笑って「広津らしいぜ」と呟く。そして「だがな」と言葉を繋げ———

「知っていますよ」

繋げられなかった。広津が割って入ったからだ。

何を知っていると言っているのか。即ち、『化物』と戦えば死ぬことを、である。

それでいて、広津は戦おうとしてるのだ。それが、ポートマフィアへの恩返しであり、幹部としての意地だった。

中也はそのまっすぐな目を見て、そうかよ、と諦めたように言った。

そしてグイッとグラスに残っていた分を飲み干し———こうぼやいた。

 

 

「あーあ———穏便に済ましたかッたンだけどなァ」

 

 

その声は中也のものでは無かった。彼の元気な声ではなくもっとドロドロとした厭世的な、この世の終わりを憂いているような低い声だった。

「な———」何を、と。

広津は言おうとするがそれは叶わなかった。あまりの驚愕によって、である。

それは元々、確かに中也が存在していた場所に———見覚えのある人物がいたのだから。

即ち。

そう。

「———『変そう』な『変装』をしたッてとこかな」

 

 

『化物』である。

彼は上手いのかどうかも良く分からない言葉遊びを、誰に聞かせるでもなく呟き、そして———

 

「まァ何はともあれ、復讐に来るって言うなら仕方ないですね…… 殺して(バラ)して並べて揃えて晒します」

 

今度は広津を真っ直ぐに見つめて明らかに広津に対しての発言をした。まるで『パンが無いからご飯を食べよう』と言っているかのような、そんな日常会話のように。

広津も、同じように自分の敵を睨みつける。

すると彼は『面倒だ』と言いたげに視線を離して広津とは反対方向に店内をぶらりと歩き始めた。

店内にいる客は当然のことながら未だ何が起きているのか知らず、先ほどまでと変わらず騒いでいる。

彼が後ろを通り過ぎても客は全く気が付かない。そう、まるで『存在していない』かのように———『無かったこと』かのように。

大嘘のように。

戯言のように。

喧騒の中、広津はふっと笑みをこぼした。

そして。

「おや、自ら来てくださるとは…」広津はゆっくりと椅子から立ち上がる。「手間が省けました。私、是非とも貴方様と死合いたいと思っていたいのでございます」

「うン、さッき聞いた。だから殺すンだよ」俺は悪くないです、と当たり前のように言った。

「大丈夫、ここの客には被害が出ないようにしているので」『化物』はどうでも良さげに、そう続ける。

「お気遣い感謝いたします。では———部下の仇、討たせてもらいます」

広津はそう言い終えたと同時に、3メートルほど先にいる『化物』に向かって走り出した。そして広津は異能力を使う。

 

彼の能力は———『指先で触れたものを斥力で弾き飛ばす』、という至ってシンプルなもの。だがシンプル故にその威力は重力操作の使い手・中原中也のお墨付きでもあり、プロの兵の背骨を圧し折らせて絶命させてしまうほど。

さらに任意でコントロール出来、発動しないときは普通にものを持てる、という大変使い勝手の良い能力だ。

 

 

名を『落椿(おちつばき)』と言う。

 

 

「ぐはッ…」

それを広津は、真正面から———最大火力をぶつけた。当然のことながらその自然の力に逆らえず『化物』は衝撃で吹き飛ぶ。

ドゴン…ッと大きな音がして店の壁が凹んだが、誰も気が付かない。恐らくは『化物』の能力であろう、と広津は考えた。

そして身構えた。何故なら、認識阻害に能力を使っているということは使()()()()()()()()()()ということだからだ。

「………..は」

実際それは正しかった。だが。

 

「はは…あはは…ははははは!!「ははははは!!「あははははははははははは「はははは!!!」あはは「ははははははははは「あはははは!「はははは「!はははは!はははは」はははは」あは」はははははははは」あはははは!!」はははははははは!」はははははは!!」あッははははは!!!!」

 

広津は気が付いていなかった。そして計算を誤っていた。

 

「…善いですね」

 

———『化物』が如何に化け物であるのかを。

 

「まるで戯言みたいな、ほろ酔いみたいな、凄く———凄くほろ善い気分だ…あッははは…草…」

 

———如何に狂っているのかを。

 

 

「ふぅ」彼は笑い疲れたのか、一度深呼吸をして、そしてゆらりと立ち上がって服についた埃を払ってから言った。「では此方も———正々堂々、真ッ向から不意打ッてみせましょう」

覚悟してください、広津さん、と。

 

 




広津メインの話でした。如何だったでしょうか?彼が主役となる話なんて無いのでちょっと書きたくなりまして…男前ですねぇこいつ。こういう年の取り方をしたい。

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