咲-Saki- 全てを観る少女   作:眠眠バカ

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気づいたら文字数がいつもの倍近くになってた

点数計算?僕ができるとでも?←



第4話

「さて、どうしようか…」

 

放課後の部室で竹井久は一人悩んでいた。

その元凶が、パソコン画面に表示されている「インターハイ県予選申込についての案内」だ。

組合せ抽選会を明日に控えた彼女だったが、新入部員の登場で団体戦のメンバー構成をもう一度練り直す必要が出てきたのである。

 

「こんにちはー。あれ?まだ部長しかいないんだ」

 

「来たわね洞内さん。ちょっと話があるんだけど…」

 

洞内観奈、京太郎が連れてきたその少女は咲達を相手に互角以上に渡り合った(といっても東二局までで中止となったため、正確な力量は測れなかったが)。

そして何よりも観奈のもつ能力は強力で、メンバーに入れることが出来ればとても心強かったのだが、

 

「すいません。団体戦はちょっと苦手で…」

 

と、その本人からやんわりと断られてしまった。

 

「(やっぱり無理だったかー。まあ仕方ないわね、残りの5人でメンバーを…あれ?団体戦が苦手…?)」

 

しかし、断った理由が「麻雀が嫌いだから」ではないということに久は気づく。

ならば個人戦はどうだろうか?

どちらかには参加してほしいと思っている久は、どのように説得すれば良いか懸命に考え、あるアイディアを思いついた。

 

「洞内さん、私たちはこの大会に優勝するつもりよ。それでなんだけど、もし優勝して全国大会出場が決まったら、洞内さんも同行してくれないかしら?」

 

「はい、勿論応援にいきますよ」

 

掛かった、久は心の中で笑った。黒い笑みだ。

これで、きっと洞内さんは自ら進んで出場してくれるだろう。

 

「ありがとう洞内さん。でもね、同行には一つだけ問題があるのよ」

 

「問題、ですか…?」

 

「えぇ、それはね…。全国大会に出場する選手しか旅費が出ないのよ!!」

 

「…えぇっ?!!」

 

久の言葉に観奈は目を丸くして驚いた。

 

「全国大会は団体戦だけでも決勝戦までに9日かかるの。仮に宿が1泊5000円だったとしても宿代だけで45000円は必要よ。それに移動費や食費なども考えるともっとかかるわ。それでも来てくれる?」

 

「う、うぅ…」

 

頭を抱えて悩む観奈。もう少し、あと一息。

 

「…東京観光…」

 

「!?」

 

久の呟きに観奈は敏感に反応した。

良い反応だ、ならば!

 

「…渋谷…新宿…原宿…秋葉原…」

 

「!!!」

 

きっと頭のなかで妄想しているのだろう。久が呟く度に観奈の顔が緩んでいく。そして、

 

「…わかりました。私、(観光のために)個人戦に出ます!」

 

悪魔の囁きに観奈は遂に屈したのだった。

 

 

 

「おや、何やら騒がしいのぉ。部長、何かあったんか?」

 

丁度その時、まこが部室へとやって来た。

観奈のテンションが可笑しいので、久が何かやったのだと直感する。

それに対し久は良い笑顔でサムズアップした。

まこには何が何やら分からない。

 

「洞内さんが、団体戦は駄目だったけど個人戦には出てくれるって」

 

「な、なんじゃと…?!あの子は麻雀が嫌いって…。お主一体どんな手品を使ったんじゃ?」

 

「ふふ、それはね…。ーーーーーーーーというわけよ」

 

あまり良い予感がしないまこだが、どんな手段で観奈を堕としたのか尋ねずにはいられない。

久はまこの側へと寄り、耳元で先程のやり取りを告げた。

 

「うっわぁ…。お主、中々えげつない手を使ったのぉ。顧問の先生はおらんのだし、コーチ役で同行させることも出来たじゃろうに」

 

「あぁ、確かにそうね。でも嘘は言ってないわよ?他の部でもそうなんだし。それに、コーチ役で同行させると須賀君が自腹になっちゃうから」

 

「京太郎が負けるのは前提なんじゃな…」

 

「まぁ、そういうわけだから。こう言った以上、優勝するわよ!合宿も近々やる予定だからよろしく」

 

「そうじゃな、分かった」

 

その後、一年生組が揃ってやって来たが観奈の高いテンションについていけたのはただの一人、優希だけだったという。

 

 

 

 

それから二日後、観奈、咲、和の三人は久に言われある場所を訪れていた。まこの実家である。

というのも、まこの実家が経営する喫茶店が書き入れ時で人出が足りない為、だそうで…。

「社会勉強」という名目で強引に行かされることになったのだ。

 

「上手く丸め込まれちゃったね」

 

「あれが、上手くなんでしょうか…」

 

「全然上手くも何とも。私たちを喫茶店へ行かせるのに随分と苦しい言い訳してたし。何で私まで…」

 

「あは、あはは…」

 

京太郎に麻雀を教えるつもりだったのにお預けにされ、やや不機嫌な観奈に咲は苦笑する。

 

「でも、部長は嘘は言ってないし二人の勉強にはなると思うよ」

 

「「え?」」

 

二人の声が揃う。

あんな苦しい言い訳までしたのだ、何か企んでいるのは覗かなくても明らかだろう。

まぁ、何を企んでいるのかは出かける前に覗いて確かめたのだけれど。

和はまだ怪しいと思っていたが、咲は部長の意図が全く分かっていなかった。

 

「おー、こっちじゃー」

 

何処からか声が聞こえてくる。

観奈に向いていた視線を声のする方へ向けると、店の前でまこが立ち三人を待っていた。

それもメイド姿で。

 

「よーきたのぉ」

 

「染谷先輩、なんでそんな恰好を?」

 

「…コスプレ?」

 

「二人とも、看板見て。メイドデーだって」

 

「そういうことじゃ、三人ともよろしくな」

 

喫茶店roof-top。

まこの実家が経営するこの店は、麻雀の打てる喫茶ということで結構人気があるらしい。

ただ、最近はマンガ喫茶などのライバルが増え、客の確保の為に時々こういうことをしているとのことだった。

 

「えぇー!?こんなにスカート短いの?落ち着かないよぉ」

 

「ですね…」

 

「確かにこれは…。でも着なきゃ始まらないし、慣れるしかないよ」

 

「う、うん…。あ、二人とも似合ってる!」

 

そう声をあげたのは咲。だが、その咲も二人に負けないほど似合っていた。

 

「ほんと?でも、咲さんもとても可愛いよ」

 

「そうですね、とても似合ってます」

 

「そ、そう?えへへ…」

 

その後、三人でお互いを褒めるというエンドレスなことをやっていると、まこが部屋へと入ってきた。

いよいよ出番ですか…。

 

「どれどれぇ、うむ、三人ともなかなか似合っとるのぉ。んじゃ、出て来んさい」

 

さあ、一日メイドの始まりだ。

 

 

 

 

 

「染谷先輩、お客様のお帰りです」

 

「はい、お疲れさん」

 

「ふー、やっとお客さんが少なくなったよ…」

 

働きだしてしばらくの間、客を捌くのが上手くいかなかった私だが、何とか仕事をこなすことが出来た。

ただ、慣れない作業のせいでどっと疲れてしまったが…。

 

「そういえばあの二人は何処にいるんですか?」

 

「あー、あの二人ならそこで麻雀打っとるよ。こっちの仕事は大丈夫やけぇ、見て来んさい」

 

「はい、分かりました」

 

これ以上疲れたくない私は先輩の言葉に甘えることにした。

 

 

「あ、観奈ちゃんお疲れ様!」

 

「お疲れさまです」

 

「あれ?一人足りないの?」

 

卓には咲と和の姿はあったが一人メンツが欠けていた。

 

「えぇ、つい先程一人お帰りになりました」

 

「おや、この嬢ちゃんも麻雀打てるのかい?」

 

「まぁ一応ですが。…あー、でもメンツなら心配ないみたいですよ?」

 

「え?心配ないってどういう…っ!?」

 

何を言っているのか分からず、私に尋ねようとしていた咲もどうやら気づいたようだ。この店に近づいてくる人の気配に。

そして数秒後、店の扉が開かれた。

入ってきたのは一人の女性、コートを先輩に投げ渡しその人は卓へと向かう。

 

なるほど、この人が部長の秘密兵器か。確かに強そうだ。

 

「おや、今は満席かい?」

 

「いえ、私は打たないのでどうぞお座りください」

 

「そうか。それにしても、今日のバイトは可愛らしいわね」

 

「…っ!?」

 

放たれるプレッシャーに気圧される咲、やっぱり強い人の放つ空気などには敏感なようだ。和も咲程ではないが少し緊張しているようで二人ともその空気に呑まれかけていた。

 

「あはは、褒めても何も出ませんよ?お金を払えばお料理などが出てきますけど」

 

「ふっ、それもそうだな。じゃあいつものを特盛で頼む」

 

「了解しました。染谷先輩、いつもの特盛でお願いしまーす」

 

「あいよ。出来上がりまで時間かかかるけぇ、先に始めときー」

 

「そうか。じゃあ始めるとしよう」

 

染谷先輩に促され、咲と和たちの対局が始まった。

 

 

 

 

時は流れて南四局オーラス。

 

東家(親):中年男性/22700

南家:咲/18500

西家:藤田プロ/25700

北家:和/33100

 

カツ丼の特盛を勢いよく食すこの女性(染谷先輩が言うには藤田というプロ雀士らしい)は対局開始からほとんど和了りがなかった。

どうやら最後で捲るのがこの人のスタイルのようだ。

一位の和との点差もそれほど開いているわけでもないので難しくはないだろう。

 

10巡目

藤田プロ手牌:

{八万八万2222347③④⑤⑥}

ツモ牌:{②}

 

そして難なく聴牌する。ここで{7}を捨てれば{①④⑦}待ちの三面張だが、裏ドラや一発、嶺上開花などを考慮しない場合、リーチ後のツモでも最大3900点、リーチ後のロンでも最大2600点で和を捲ることが出来ない。

 

藤田プロはリーチをかけず{7}を切った。

 

和手牌:

{②②④赤⑤⑥三万四万四万赤五万六万赤578}

ツモ牌:{中} 打:{中}

 

逃げ切りたいのに手が伸びない。しかもツモ切りした直後、親が{⑤}切りでリーチをかけてきた。

それに対し咲はノータイムで{⑥}切り、藤田プロは{東}をツモ切りした。

 

そして和の手番。

ツモった牌は{八万}。咲がノータイムで{⑥}を切ったことから恐らく逆転の勝負手を聴牌しているのだろう。

和了られると不味い、しかし、

 

中年男性捨て牌:

{一万白発九万②①

三万18⑧横⑤}

 

この捨て牌に{八万}は捨てられない。和は{②}の対子落としの後で体勢を立て直すことにした。

 

咲手牌:

{南南南北北二万二万二万三万四万五万七万九万}

ツモ牌:{③}

 

「(次巡にカンをして{八万}で和了って…原村さんを捲る!)」

和の予想通り、咲は逆転の勝負手を聴牌していた。

混一色、ダブ南、そして次巡でカン材が揃い自摸、嶺上開花。これで跳満、逆転トップだ。

 

咲は迷わず{③}を捨てる。この牌も通り、咲は勝ちを半ば確信した。

 

「ふっ…。カン!」

 

「!?」

 

「親のリーチ相手にカン!?」

 

しかしそれも束の間、咲の思い描いていた勝利のビジョンはその一声によって脆くも崩れさってしまう。

 

「(その嶺上牌は私の…!取らないでぇ…)」

 

自分の領域を犯されるという異常事態に咲は震えが止まらなくなった。

そして、藤田プロは和にも容赦なく牙を剥く。

 

「ロン!断幺九、ドラ1、60符のザンク(3900)」

 

藤田プロ和了:

{八万八万八万345②③④⑤ ■22■}

和了牌:{②} 放銃者:和

 

「なっ!?{①④⑦}待ちを捨てて私の{②}対子落としを狙い撃ち!?」

 

親のリーチを相手にカンをしてドラを増やした上、待ちを減らしてまで直撃を狙う。和には到底理解できない打ち筋だった。

 

 

 

 

 

 

「(おぉ…今のは凄い。咲さんのお家芸を奪いつつ、原村さんから和了って捲るなんて)」

 

流石はプロ雀士、観奈は藤田プロの和了りに心の中で拍手を送った。

今のような器用な打ち方を自分は真似出来るだろうか。

いや、観奈にとっては飛ばす方が幾分か簡単で、やろうとも思えなかった。

 

ただ勝つだけじゃなく、色々な打ち方、立ち回り方が出来るように。

 

何の為に此処へ来たのか分からなかった観奈だったが、自分で意味を見出だすことができた。

そして観奈は、中年男性が店を去るまでの残り4戦を食い入るように見つめ、藤田プロの打ち方を研究したのだった。

 

 

 

 

 

「えぇっ?!プロを呼んだぁ?」

 

その頃、部室では久が三人を喫茶店へ向かわせた理由を京太郎と優希に説明していた。

 

「えぇそうよ、知り合いにプロの人がいてね。二人を凹ませてねってお願いしているの」

 

「なるほど、喫茶店へ行かせたのはそういうことだったんですね…ってあれ?二人をって…。それじゃあ、観奈は何故に喫茶店へ?」

 

「…」

 

「勿論プロと打つために決まってるんだじぇ!…部長?」

 

「あー、何て言えばいいんだろう。…実は何も考えてなかったのよ…」

 

「な、何ですと?!」

 

「ほら、あの子達「部長は行かないのか」って結構煩かったじゃない?言い訳が苦しくなった時に丁度洞内さんが来たから、私の代わりに行ってもらおうって感じで咄嗟に身代わりに…」

 

「「部長それはひどいです(じぇ)」」

 

「あはは…」

 

二人の息の揃ったツッコミに久はただただ苦笑するしかなかった。

 

 

 

 

 

所変わって、再びroof-top。

 

「結局、私が五連続トップね」

 

半荘5回が終わったが、結局咲、和のどちらもプロ相手に一度もトップをとることが出来なかった。

特に最後の半荘は二人とも精細を欠き、藤田プロの格好の餌食となっていた。

 

「(これは、随分と凹まされちゃったみたいだね)」

 

あれだけこっ酷く負けたのだから、それもまぁ仕方のないことだろう。

 

「二人ともお疲れ様、コーヒー持ってきたよー。」

 

「お、お疲れ様…」

 

「…ありがとうございます」

 

「藤田さんもコーヒーをどうぞ」

 

「あぁ。おや、君は私のことを知っているのかい?」

 

「染谷先輩に聞いたんですよ。地元出身のプロ雀士だって」

 

「「プロ…!?」」

 

プロという言葉を聞いて二人が驚く。しかし、咲が直後に発したのは意外な台詞だった。

 

「そっかぁ、プロなんだ。じゃあ仕方ないよね、まだ高校生の私がプロに勝つなんて…」

 

これは酷い。落ち込んでいるからとはいえ、幾らなんでもネガティブ過ぎる。

 

「当たり前、じゃないですよ!」

 

そして、咲の言い種に我慢出来なくなった和が咲を叱った。

 

「そうそう。去年、プロ・アマの親善試合があってね。半荘18回を戦って私は二位だった。けど、優勝したのは当時15歳の高校一年生。龍門渕の天江衣さ」

 

「龍門渕!?それって県予選に出てくる相手じゃないですか…」

 

「あら、貴女達も県予選に出るの?それは残念ね。今の貴女達じゃ天江衣には絶対勝てないわ」

 

「勝て…ない…」

 

「そんな…」

 

藤田プロに勝てなかったのに天江衣に勝てるわけがない。

その差を思い知らされた二人は暗い表情のまま店を出て行った。

 

「あーあ、行っちゃった。折角コーヒー淹れたのに結局二人とも飲んでないし…」

 

「…先ほどから思っていたが、君は危機感を抱いていない様だね。余裕なのか?」

 

「私は個人戦のみで負けても自己責任ですからね、あの二人とは違いますよ。それよりも、私としては今日は学べたことがあったからそれでいいかなって」

 

「へー、そうかい。言っておくが、天江衣以外にも手強い奴は多くいる。精々頑張ることだな」

 

「そうですか、それは楽しみです。では私はこれで」

 

「おー、お疲れさん。ゆっくり休みーよ」

 

観奈は軽く頭を下げると店を出て行った。

 

「…あの娘は何者なんだ?」

 

「あー、あの子は洞内観奈。つい先日入部した新入部員じゃ」

 

「そうか…。会計を頼む」

 

「はいよー」

 

あの娘、私が来店した時もあの二人が空気に呑まれる中、一人ケロッとしていた。

出場は個人戦だけか、果たしてどれだけやれるのか。

 

「(県予選、面白くなるかもしれないな)」

 

洞内観奈の名前を胸に刻み藤田はその場を後にした。

 

 




麻雀嫌いという設定のせいで、観奈をどうやって大会に参加させるか悩みまくってこうなりました。
可笑しくなければ良いのですが…

誤字脱字や表現に関するご指摘、感想等ございましたら教えていただけると嬉しいです。
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