咲-Saki- 全てを観る少女   作:眠眠バカ

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テスト期間中なのになにやってるんでしょうね(笑)
そして眠気がヤバイ


第5話

roof-topでの戦いから3日後、観奈たち麻雀部一行は一週間後に迫った県予選に向けた強化合宿を行うため、学校の合宿所へ来ていた。

既に温泉にも入り、皆準備万端だ。

 

「皆揃ったわね。じゃあ合宿のメニューを発表するわよ。」

 

「っちゅーても、ひたすら打つだけじゃろ?」

 

「基本的にはそうなんだけど、それだけじゃないわよ。今回の合宿の目的は一年生の実力の底上げが主だから、一年生には個別メニューを用意してるわ。まずは…」

 

久はそう言うとバックの中を漁り、ある物を取り出した。

それは1冊の本。その表紙は四則計算の記号で飾られており、誰が見ても計算ドリルであると分かる。

 

「優希にはこれをやってもらうわ。これを毎日一冊やり終えることが優希の個別メニューよ」

 

「えぇー、なんでこんなものを…?」

 

「あんた、点数移動計算がダメすぎるけんねぇ」

 

「そういうこと。お互いの点数を正確に把握することが団体戦では重要だからね」

 

「うぅ…」

 

優希は涙目で項垂れてしまった。計算が苦手なのは事実なので何も言い返せないようだ。

頑張れ、優希!

 

「次に和。貴方はネット麻雀では長いスパンで高いトップ率を取る理詰めの打ち方ができているわ。でもリアルの対局では、その場の勢いに流されたりミスが目立ったりでネット麻雀ほどの成績を出せていないわね。」

 

「そう、でしょうか」

 

和が首を傾げる。自分で気づいてなかったことに観奈は少し驚いた。

 

「3日前に藤田プロにコテンパンにされたじゃない。最後の対局なんか特にミスが目立ってたよ?」

 

「そうじゃの、例えプロ相手でも普段のあんたの実力を出せたんならもっと善戦できたはずよ」

 

まこがそう評価するくらいにネット麻雀での和は強い。実際、和のプレイヤーネーム「のどっち」はネット麻雀では有名で、「運営の用意したプログラム」とさえ噂されている程なのだ。善戦できない理由がない。

 

「これは私の推測だけど、ネットにはないリアルの情報量に惑わされてるのかも」

 

「情報…?」

 

「そう。麻雀だけじゃない、それ以外の存在の情報。否応なく、貴女の精神を揺るがせるもの」

 

「例えば、咲の存在とかな?」

 

「へっ…?!そ、そんなことありませんっ!」

 

まこの揶い半分の発言に和は必死に否定したが、顔が赤くなってるのでどうやら図星のようだ。

 

「とにかく、合宿中は皆とずっと対局すること。リアルにまず慣れることね」

 

「…はい」

 

部長の一年生へのアドバイスと個別メニューの発表が次々と行われていく。

しかし、和には追加で毎日一時間の素振りを、咲にはネット麻雀を打たせるという個別メニューを発表したところで、

 

「…とまぁ、個別メニューはこんな感じよ」

 

個別メニューの発表が終わってしまった。

 

「「えっ終わり?!」」

 

何の指示も受けなかった観奈と京太郎は揃って声をあげる。

 

「えーっとね…。須賀君は初心者だから、今はひたすら打って雀力を上げてもらうしかないし、洞内さんは指摘しようがないのよね…。牌が見えて思考が読めるなら何時でも最善手が打てるわけなんだから」

 

「京太郎は下手すぎて手のつけようが無いけんねぇ」

 

「そ、そんなぁ…」

 

膝から崩れ落ちる京太郎。そんなに個別メニューが欲しかったんだろうか、とその頭を撫でながら観奈は思った。

 

「そこまでがっかりされるとは思わなかったわ…。あ、でもその代わり二人には特別ミッションがあるわよ」

 

「ほんとですかっ!?」

 

「きゃあっ」

 

特別ミッションという言葉に京太郎が即座に反応する。いきなり立ち上がったので、それまで頭を撫でていた観奈は思わず声をあげてしまった。

 

「わ、わりぃ…観奈」

 

「大丈夫、少しビックリしちゃっただけだから…。それで部長、その特別ミッションというのは?」

 

「ズバリ、風越女子の偵察よ!」

 

「偵察、ですか。因みにアポは…無いんですね」

 

残念ながら清澄はこれまで県予選に出たことがない為、風越へアポもなく行っても門前払いされるはずだ。

部長はそれでも行けというのだろうか、観奈は不満げな顔を久へと向けた。

 

「ええ、そうよ。でも此方には秘策があるわ。藤田プロに掛け合ってもらうのよ!」

 

「藤田プロ大忙しですね…」

 

まさかの藤田プロの再来(三日ぶり二度目)。彼女の気苦労を思うと引き攣った笑いしか出ない。

見ると部長以外の全員が苦笑を浮かべていた。

 

「何も同行してくれって言うつもりはないわ。ただ一言、藤田プロからあちらへお願いしてもらうだけよ」

 

「年上の、しかもプロを顎で使う部長って一体…」

 

「と、とにかく!風越への交渉は此方で何とかするから言ってきてちょうだい」

 

和からの指摘を大声で誤魔化し、久は指令を下した。

 

「は、はぁ分かりました…。須賀くん、行こっか」

 

「えぇっ、今から?!」

 

「そうそう、タクシーは呼んでおいたからもうすぐ着くはずよ。それで行くといいわ」

 

「分かりました、では行ってきます。…タクシー代は部費からでお願いしますね?」

 

「分かってるわよ!」

 

こうして、観奈と京太郎の二人は部長の指令の元、風越女子へと偵察へ向かうのだった。

 

 

 

 

現在10時30分、自宅で寛いでいた藤田靖子の元に一本の電話がかかる。寛いでるときに仕事の電話かと重い足取りで受話器へと向かう

 

「んぁ?誰だ・・・って久か。どうした、先日の礼でもしにきたか?」

 

電話の主は久だった。

「先日の礼か?」と言ってはみたものの、殆ど冗談のようなものだ。

あいつが礼をする為だけに電話をかけてくるとは考えづらい。また私に厄介事を頼むつもりなのだろう。

 

「はぁ…今回はやけに急だな。分かったよ、電話だけなら問題はないさ。その代わり、先日の分を含めたギャラとしてカツ丼を奢ってもらうからな。」

 

 

通話を終え、受話器をおろした靖子はため息をついた。まったく、人使いの荒いやつめ。

対価としてカツ丼を要求したが、年下に奢ってもらうのは如何なものかと思う人もいるだろう。

しかし、それは相手も同じこと。年上をこき使うのだから文句は言えまい。

 

今度会ったら鱈腹ご馳走になるとしよう、私はカツ丼「一杯」とは言ってないのだからな。

 

久の慌てる未来を想像し、軽く笑いつつ靖子はケータイの通話ボタンを押した。

 

 

 

出発から30分後、観奈と京太郎の二人は風越女子の校門前に降り立った。

 

「ここが風越女子…」

 

「予想以上にに大きいな…、さすが名門女子校。そして女子オンリーの夢の空間ッ!」

 

「須賀くん、今回の目的、忘れてないよねぇ…?」

 

「ひぃっ」

 

拳を握りしめ、笑顔を向ける観奈に京太郎は何とも情けない声を出してしまった。

 

「おい、そこの二人」

 

そんなやり取りをしている二人の元へ声がかかる。校門の前には、スーツを着た金髪の女性が立っていた。

 

「私は麻雀部のコーチをしている久保という。藤田さんから連絡を受けたのだが、君たちで間違いはないか?」

 

「はい、清澄高校麻雀部の洞内観奈、隣が須賀京太郎です。本日はお忙しい中、ありがとうございます」

 

「いや、問題はないさ。では部室へ案内しよう」

 

「…藤田プロには感謝してもしきれないね」

 

「そうだな…」

 

藤田プロお疲れさまです、と二人は心のなかで感謝の念を唱え、久保コーチの後をついていった。

 

 

 

「着いたぞ。ようこそ、風越女子麻雀部へ。ここがその部室だ」

 

「「……」」

 

扉の向こうの景色を見て二人は絶句した。

 

「何、この人の多さ…」

 

観奈は呟く。ぱっと見たたけでも60人はいるのではないかと思う程の人数がこの部屋で麻雀をしていたのだ。京太郎も口を大きく開けて驚きの表情を見せていた。

 

「風越女子麻雀部は、80名の部員が毎日校内ランキングのトップを目指してしのぎを削っている。団体戦のメンバーには5人しか選ばれないから倍率も高いし、一時的に5位以内にいても、メンバーが確定するまでは少しの気の緩みも許されない…」

 

「メンバー選定は相当厳しいのかぁ。80人から5人を選ぶわけだから…。じ、16人に1人しか選ばれないのか!?」

 

「そういうことだ。そうして選ばれたのがこの5人だ。おい、団体戦メンバーはここへ集合しろ!」

 

久保コーチがそう言うと部室にいる全員が手を止め「はい!」と返事をする。

その光景に観奈は、まるで体育会系の部活を見ているかのような錯覚に陥った。

ここまで統制のとれた麻雀部は他にいないだろう。まだ全員の実力を把握していないが、清澄は果たしてこの人たちに勝てるのか。

 

「おい、あの二人はどうした?」

 

暫く思案していた観奈だったが、久保コーチの声で現実へと引き戻された。見ると集まったのは3人だけで2人足りなかった。

 

「ただ今買い出しに出掛けております。そろそろ戻ってくる頃だとは思いますが…」

 

「ちっ…、そういえばそうだったな」

 

ふくよかな体格の人の返答に対し、舌打ちをした彼女に京太郎は萎縮した。この人は怒らせるとヤバい、そう感覚が告げている。

 

「久保さん、提案があるのですが、そのお二人が戻られる間に京太郎と打ってもらえないでしょうか。」

 

その一方で、観奈は全くそういった素振りを見せず何事もなかったかのように話しかけた。何故普通でいられるのか京太郎は不思議でたまらない。

 

「ふむ、因みに京太郎はどの程度やれるんだ?」

 

「え、あの…。俺、まだ初心者です…」

 

おどおどしながら答える京太郎。初心者と聞き一瞬躊躇ったが、麻雀を打ちたいという意思を京太郎の目から感じた。

 

「その実力では、ここの誰とやっても負けるが。それでもやるか須賀?」

 

「は、はい!やらせてください!」

 

「…よし、分かった。初心者に教えることもまた勉強になるだろうしな。早速始めようか。吉留、深堀、文堂、相手してやれ」

 

久保コーチの指示に3人は「はい」と応えると空いている卓へ向かい、東、南、西、北の4つの伏せられた牌から一つ選び、席へとついた。京太郎は3人が牌を引いたあとで、残っていた席に座る。

京太郎曰く「余り物には福がある」そうだが、今までその効果が麻雀で現れたところを観奈は見たことがない。

 

仮東:文堂

仮南:京太郎

仮西:深堀

仮北:吉留

 

「準備はできたな、では始めろ」

 

その一声を合図に、対局が始まった。

 

 

 

その後の親決めで、深堀さんが起家になった。

そのため、仮南だった京太郎は北家スタートだ。

 

東家(起家):深堀

南家:吉留

西家:文堂

北家:京太郎

 

【東一局0本番 親:深堀 ドラ表示牌:{⑥}】

 

京太郎配牌:{一万三万四万②⑥⑦⑨1456白白}

 

「(えーっと、これは…三向聴、かな?)」

 

理牌しながら京太郎は考える。

和ならばそれを瞬時に判断できるのだが、初心者の京太郎には向聴数を数えるのにも時間がかかってしまい、気がついたときには自分の手番になっていた。

 

「須賀さん?あなたの番ですよ?」

 

「えっ?す、すいません…げっ」

 

牌をツモろうとして京太郎は固まった。南家、吉留さんが既に{白}を捨てていたのだ。

{白}の対子があるので、鳴きの速攻で和了り少しでも流れを掴みたいと思っていた京太郎は、一翻を逃してしまったことに落胆した。

しかし、まだ対局は始まったばかり。誰かが場に出したりツモる可能性もある。

 

引いてきた牌は{五万}、{白}を鳴くことは出来なかったが結果的に有効牌を引くことができたので良しとしよう。

京太郎は{②}を捨てた。

 

 

「須賀は顔に出やすいようだな、目線の移動から考えれば白の対子があるのが丸分かりだぞ」

 

その様子を後ろから眺めていた久保コーチが観奈に話しかける。

 

「そうですね。あれだけでも相手に結構な情報を与えてしまいますし、後で矯正させないといけませんね。麻雀はポーカー等と同じく相手との駆け引きですから」

 

「ああ、須賀は向上心はあるようだからしっかり教えてやれ。今日は私たちも出来るだけ助力しよう」

 

「ありがとうございます。それにしても、あの三人はどの人もデジタル打ちのレベルが高いですね。ミスがないわけではないのですが、場をしっかり見て的確に打っていますし」

 

「いや、あいつらはまだまださ。麻雀はミス無く打っても必ずしも勝てるわけではない。だが、余計な放銃は防ぐことができるだろう?だから、私としてはいつでも正解を打って貰わないと困る」

 

「確かに、運に左右されることもありますからね…」

 

こうして二人が話している間にも状況は刻々と変わっていく。

 

「リーチ」

 

文堂手牌:{六万七万八万③③④赤⑤⑥⑦⑧234}

 

10巡目、文堂さんがリーチをかける。{③⑥⑨}の三面待ちだ。

 

 

 

「待ちの形もいいですね」

 

「ああ。あいつはこの三人の中では一番荒削りだが、部内で一番伸びたのもあいつだ。何せランキング78位から5位まで這い上がってきたからな」

 

「それは凄い。久保コーチの指導が文堂さんをやる気にさせたのでしょう?」

 

「いや、残念ながら私ではない。あいつをやる気にさせたのはここの部長さ」

 

「そうなんですか、なるほど…」

 

 

 

京太郎手牌:{三万四万五万⑥⑦⑧⑨4566白白} 

ツモ牌:{3}

 

観奈が卓へと視線を戻すと、丁度、京太郎が有効牌の{3}を引き聴牌したところだった。{⑥}か{⑨}を切れば{白}と{6}の二面待ちだ。

 

「(よし、これで聴牌。文堂さんがリーチしてるけど、負けてられっか!)」

 

「追っかけリーチだ」

 

そう言って京太郎は{⑨}を捨てる。その瞬間、隣から「ロン」と声が上がった。

 

文堂和了:{六万七万八万③③④赤⑤⑥⑦⑧234}

和了牌:{⑨} 放銃者:京太郎

「リーチ、一発、平和、ドラ2で8000です」

 

「うっ…いきなり8000のマイナス…」

 

【東一局終了】

深堀:25000点

吉留:25000点

文堂:33000点

京太郎:17000点

 

「須賀くん、今のはオリた方が良かったよ。{白}の残りも1枚だけ、もし{白}で和了れても、一発じゃなかったらツモでも3900だし」

 

牌を中央へと落とし、次の局の準備をする京太郎に向かって観奈が助言する。その言葉に同卓する女子全員が揃って頷いた。

 

「洞内の言う通りだ。それに須賀は自分の手元ばかり見ているな。麻雀は一人でやるものではないんだから、もっと周りを見るようにしろ。そんな様子では刻々と変わる場の状況についていけないぞ」

 

「は、はい…」

 

「そういえば須賀さん、局の始めに私の捨てた牌を見て「げっ」って言いましたよね。あれはやめた方がいいです。{白}の対子を持っていることが分かりましたし。麻雀はポーカーフェイスが基本ですよ」

 

眼鏡をかけた女子、吉留さんからの指摘に京太郎は驚いた。自分が相手に情報を与えてしまっていたことなど思いもしなかったのだ。

 

「因みに、私は{白}単騎待ちにするつもりで手作りしてました。結果は一向聴止まりでしたけどね」

 

「ま、マジですか…以後気をつけます」

 

「じゃあ須賀くん、今度は一遍に理牌しないで打ってみて。その方が周りを見れるはずだよ」

 

「分かった、やってみるぜ」

 

一通りアドバイスが終わり、東二局を始めようとしたときだった。

 

何かを察知したのか観奈が急に立ち上がった。

 

「どうした洞内?」

 

「…どうやら帰ってきたみたいですね」

 

観奈が言うと同時に部室の扉が開く。

入ってきたのはショートの髪をした猫のような雰囲気をもつ女子。そしてもう一人、ミディアムヘアーの金髪で、何故か片目を閉じている女子だった。

 

 

「ただいま戻ったし!…ん?あんた誰?」

 

「華菜、どうしたの?あら、お客様がいらしてたのね。初めまして、福路美穂子といいます。そしてこの子が池田華菜よ。よろしくね」

 

「初めまして、清澄高校1年の堀内観奈です。よろしくお願いします」

 

「ようやく戻ってきたな。福路、池田、それから吉留。洞内の相手をしろ、抜けた吉留の変わりは私がやる」

 

「はい!」

 

久保コーチの指示に三人と観奈が返事をし、空いた卓へ座る。

 

勝ち負けは気にせず、久が警戒している人物であろう福路の実力をこの対局で全て観てしまおう。そう決めて観奈は賽を回した。

 

風越女子麻雀部、トップ3との対局が始まる。




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