URAとF1の、優勝の夢を載せて   作:海の缶詰

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様々なお方の作品を見ている内に書いてみたくなりました。


引退までの1年
音速のレーサー


この世界には、古くからウマ娘が走る、レースがあった。そのレースの起源は、古代エジプトの時代から遡る。遥か昔から繰り広げられた、『ウマ娘』だけのレース。

昔は、競われるのはそのレースと、別のスポーツだけだった。近年はウマ娘による、スポーツ界の『人族の虐殺』を塞ぐべく、それなりの取り決めが行われているが、それでもまだ完全な差別化が終わったとは言えない。

しかし、とあるレース──モータースポーツだけは違った。人とウマ娘が、機体上でとは言え、対等の戦いを繰り広げられた。細かい事を言えば、ここに置いてもややウマ娘側に有利があるが、それも技術で挽回できる物だった。

そして、その中の1つ──F1レースは、1つのモータースポーツの頂点に君臨するスポーツとして、ウマ娘達の駆けるレースと並ぶ、2強の観戦スポーツとして楽しまれていた。

 

 

サーキットコースの中、鳴り止まぬエンジンの爆音。異次元な速度を緩めず、更に加速する機体。辺りに残る、機体の破片と故障した機体。コンクリートのコーナー壁にぶつかれば良くて重体、当たり所が悪ければあの世へ直行。事故を防ぐ為の何かこそあれど、それも必要最低限。

そこに何かの情は無く、ウマ娘達が繰り広げる『速度の戦い』とは一線を越す、『速度の戦争』があった。

 

 

 

観客の歓声は大きいが、それを全て上塗りするように更にエンジンの回転数が上がる。前を進むのは白と赤のカラーリングのレーシングカー。

 

《ロドリゴ・シルバ、まだ逃げる!流石は日本が誇るホンダ!日本のホンダ製のエンジンは強いッ!鈴鹿サーキットは我が物だと言わんばかりの単走!しかし日本最強ウマ娘、アイルトンシンボリも負けていない!まだ7周残っている!逆転の可能性はある!シルバはこのまま逃げ切れるか!》

 

エンジン音にかき消され、実況は聞こえない。後7周だけ。そこまで逃げれば勝てる。このサーキットレースはコーナーにある。インコーナーを付けば良い。

 

しかし、その後7周を困難にするアクシデントの群。

シートベルトが身体を締め付け、思うような運転が出来ない。腕の疲労も酷い。いつも通り、ステアリング*1を曲げることすら出来ない。脂汗が顔全てを伝う。その汗を拭う暇も無い。

ギアボックス*2も壊れ、最初は3速だけだったのが、今は2速、4速、5速も使えない。このままシフトチェンジをすればギアボックスは完全に故障し、走行不能になる。シフトチェンジは、不可。

 

この状況なら諦めた方が良い。リタイアをしても許される。こんな状態、走り切る事すらも困難。

 

〈ドリゴ、どうする?俺ら陣営はリタイアを決断しても良いと思ってる〉

 

無線から聞こえる、ポルトガル語のリタイアを促す声。無線は、並のレーサーなら取るべき選択を突き出している。

 

じゃあ、諦めるか?

答えは、NOの1つ。

何故(porque)

当たり前なんだ、僕の優勝を願う母国──ブラジルのファンも、日本のファンも、アメリカのファンも、ロシアのファンも。僕を支えてくれる色々な国のファンがいる。

それで諦めるなんて、ファンを悲しませる。

 

やるしかない。()()()()()()()()()()6()()()()()

大丈夫、アイルトン・セナさんにできるなら、僕にだってできるはず。あの人はインテルラゴス・サーキットで、それがスズカサーキットに変わっただけなんだ。

なんとでもなるはずだ。

僕は──ブラジル生まれ、ブラジル育ちの、1人のレーシングドライバー、『ロドリゴ・シルバ』なんだ。出来ない事は・・・無い!

 

「まだだ・・・まだ終わって無い・・・ッ!レースは、終わって無いんだよ・・・ルー・・・!」

 

〈・・・オーケィ、俺らはお前をサポートするぜ。やるんだったらな、ちゃんとやってみせろよ、ドリゴ!〉

 

シフトチェンジが使えないなら、使わなきゃ良い。エンジンと、アクセルペダルの2つだけで戦えば良い。

 

急なコーナーはエンジンをアイドリング*3寸前までに回転数を落として走行して、その後と立体交差の上り坂はペダルが並行になるまでにアクセルを踏み、回転数を強引に上げる。

マシンは既に手負い、その上想定していない形での酷使。いつ止まってもおかしくない。

 

《シルバのラップタイムが落ちている!アイルトンシンボリ、まだ逆転出来るぞ!突然の雨も降り注ぐ中、前を走り続けるシルバ!シルバはこのままトップを維持出来るか!》

 

4回目のチェッカーフラグが振られる。

流石はかのロドリゴ・シルバ、操縦技術は伊達じゃないといった所か。

異変を感じる観客も居るものの、ラップタイムが落ちても尚、先頭位置を継続している。

 

エンジンと腕が悲鳴をあげる。疲労感で腕の筋肉が痙攣し、ステアリングを持つ手が震える。肩が引き攣る。吐き気と頭痛もする。視界すらも朦朧とする中、意地と根性で持ちこたえる。口から苦しみが漏れる。後ろから追い上げてくる別のエンジン音。

雨に濡れて滑りやすくなった路面が、極限状態になって、難しくなったドライビングをさらに難しくする。

 

僕は、負けたくないと言う意志は人一倍強い自信があるんだ。

もっと、もっと速く。後ろは気にするな。

前だ、前だけを見ろ。

この国は、僕の第2の母国だ。負けてたまるものか。僕はニホン人よりも、更にこのニホンと言う国が好きなんだ。

 

負けたくない。

 

 

ファイナルラップ。観客はこの日本の生まれのウマ娘、G1レースでは無くF1レースへと道を変えたシンボリ家の異端児、本格期を過ぎても尚勝利を収める、アイルトンの名が付けられるに相応しい、F1日本最強ウマ娘、アイルトンシンボリが勝つか、はたまた、ブラジル生まれの男、幼少期からレースの英才教育を受け、僅かスーパーライセンス所得1年目にして、『アイルトン・セナの再来』と呼ばれる程の実力を得た、地上最速の男、ロドリゴ・シルバが勝つか。どちらも、1人は名前に、もう1人は2つ名に、伝説『アイルトン・セナ』の名が入る、弱冠の天才の強者。

言わば、天才と天才のぶつかり合い

このどっちが勝ってもおかしくない展開に興奮が鳴り止まないのを声が更に増長させる。この歓声を聞いたら誰であっても──たとえ、『皇帝』、シンボリルドルフであっても掛かってしまうだろう。そう思わせるほどの迫力があった。

 

限界も近い。

ハンドルを握る手もぼやけて見えてきた。

汗が目に入り、右目が見えない。幸い左目は大丈夫。

ここで引き下がれ、リタイアしろ。これ以上は死んでしまうぞ、と生存本能が叫び始める。

何周目かも分からなくなってきた。

周囲の音が小さく聞こえる。決して離している訳じゃない、意識が薄れてきているのだとわかる。無線が何かを言ってるけれど、何を言っているかわからない。

 

負けるな。

本能に勝て。

命よりも、勝利だ。

何としてでも、勝て。

 

 

栄光の勝利まで、後2000。

1600。

ここで驚異の加速を見せるマシン。アイルトンシンボリの乗るマシン。距離にして僅か2m。いつ抜いてもおかしくない距離。

1200。

2つのマシンは並び、更に加速していく。正に、殺人的。この速度のまま何処かにぶつかれば、即死は免れないだろう。

900。

アイルトンシンボリ、そして、ロドリゴ・シルバのマシンは、エンジンを更に唸らせ、まだ終わらんとばかりに更に加速する。

400。

3つの恐ろしい程の、血走った目。勝利へと向かう目を向けて、ペダルを踏む。2つのエンジン、2人の人が、意地、根性、執念、そして威信。自身の、本当の全てを賭けてエンジンを轟かせる。

200。

最後のチェッカーフラグは──

 

 

──ほぼ同時に、2つのマシンへと振られた。

 

 

結果は、ほぼ同着。

この結果からか、観客席には、どよめきが起きていた。

「シルバが逃げ切ったんじゃないのか?」

と言った声や、

「アイルトンシンボリが差し切ったのでは?」

と言った声。そんな声が入り交じっていた。

中には、

「同着だったりするんじゃない?」

とも言われた。

このF1レースにおいて、同着であったなら同じポイント、同じ賞が渡される。

しかし、このF1レースでは、これまで──正式に規格を制定されて、今のF1が定着した1946年から、今までを通して無かった。

しかし、このレースは、その初の同着に終わるレースなのでは無いだろうか。

そう思わせるほど、誰の目をしても分からない程の大接戦。

 

「・・・僕は・・・勝った・・の、かな・・・?」

〈さあな。今、カメラ判定が進んではいるが、俺らからしても同着に見えた。後は結果を待つだけだろ〉

「・・・・・どうせなら・・・勝ちたいなぁ・・・」

〈それは俺らも同じだ。俺らに何度も苦汁を舐めさせてきたあのミナルディ*4が相手だ。勝てるのなら勝ちたい。ドリゴも同じだろ?〉

「そりゃあ、そうさ・・・・まして、相手は幾度となくぶつかってきたアルなんだ・・・勝ちたいよ・・・・」

〈──結果、出たぞ。・・・・・・死ぬほど言い難いが、俺らで分析した結果は──〉

 

それと同時に、実況の声が鳴り響いた。

 

《このレースの結果は──ロドリゴ・シルバ、アイルトンシンボリ──同着ゥーーーッ!

 

 

この瞬間、観客達の感情のボルテージは頂点へと達したのか、喉が張り裂けんばかりに一気に湧き上がり、その歓声は外へと漏れ出た。辺り一面に響き渡る歓声。

会場内とその周辺にいたウマ娘は遅れながらも耳を伏せ、更にその上から手を耳に被せ、防音体勢へと入る。それでも歓声は塞ぎきれていない。

耳と手の、その隙間を縫って入り、その声は大きい。

熱狂に沈んだ観客達から巻き起こる、並のレースには起こりえない『シルバ』コールと『シンボリ』コール。

今までに無かった、前代未聞の決勝のレースでの同着。しかも、ただの同着では無く、天才と天才が全力で戦った結果。

ある意味では、F1レースで、今までに無かった歴史が生み出された瞬間に立ち会っている。

それこそ、盛り上がらない訳が無い。

 

一方、2人と場外の1人は、どうにも釈然としない、納得していないような、不満げな顔付きが残っていた。

ここでやっと決着がつけられようとしていたにも関わらず、それがまさかの同着に終わり、はっきりとした勝敗が付かずに終わってしまったからなのが主な理由。

 

「同着、だったのかぁ・・・・・・うーん・・・なんだかモヤッとした気持ちが残ったまま、終わっちゃったなぁ・・・」

〈どうせならちゃんとした勝利が欲しかったが・・・まあ、それらは今は置いておくとしてだ。とりあえずは優勝おめでとう。その故障しかけのマシンで、良くやった。とりあえず、どこでも良いからマシン止めろ、俺らが回収に行く〉

「・・・・・あの、多分エンスト*5した・・・」

〈・・・バッカお前コーナーで死ぬぞお前!今すぐブレーキ踏め!〉

 

 

コールは収まる所か、結果の判明した直後以上に、観客の熱狂によって更に高まるその最中、シルバのマシンはウィニングランをせず、やや滑るようにして第2コーナーで止まった。

中々降りる気配も無く、コースマーシャルも動き始めた頃に、一機のマシンがシルバのマシンの近くへと止まる。

それは、黒をメインに据えた、黄のストライプのマシン──アイルトンシンボリの駆るマシンだった。

彼女はマシンから降りると、彼へと駆け寄り、何言か話したように見えた後、彼を背に抱えて運び始めた。

その行為に、コール以外の、黄色い歓声が挙がり始めた。「ああ2人がてぇてぇなぁ」と言った、真剣勝負に向けられるべきではない声も何処からか混ざっている。

 

2人して表彰台に登り、表彰式でも未だ憔悴と不満の混じった表情をしていたが、シルバの母国のブラジル国歌と、シンボリの母国の日本国国家が流れると笑顔を見せ、2人に向けて渡されたトロフィーを、アイルトンシンボリと共に天高く掲げ挙げた。

シャンパンを汗を流すシャワーの如く浴び、それと同時に、観客席から歓声が大風のように吹き付けられ、満足したかのような雰囲気が漂う。

これにて、20XX年第3戦日本GPは2人の優勝に終わった。

 

 

翌日、多くの新聞は昨日の記事で1面を占めていた。

 

《F1日本GP 初の決勝同着》

 

この情報は昨日にインターネットやテレビジョン、ラジオ等で数多く話題になったので、今頃それらを取り上げる者は少ない。街を出歩き、この新聞を目にした若者は、(今頃かよ、もうインターネットに出回ってるんだぜ?)と思うだろう。しかし、今日ウマ娘達が行ったレースの事は今日においては記載が少ない。インターネットで調べて、やっと知ったと言う人が多かった。

それ程までに、ウマ娘達が繰り広げるレース以上にこのレースの影響が強かったのだ。

 

 

ロドリゴ・シルバの引退まであと1年。

*1
進行方向を変えるための、かじ取り装置。要はハンドル

*2
変速装置1式を指し、エンジンのパワーを、効率良く利用する為の装置

*3
エンジンを、動力を伝えずに作動させること

*4
80~90年代のマクラーレンのライバルとして有名な、イタリアのレースチーム

*5
エンジンストールの略で、ドライバーの意図に関わりなくエンジンが停止してしまう現象のこと

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