堕落聖人は囲われる   作:胡椒こしょこしょ

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邂逅

「んん....あー?」

 

カーテンの隙間から日差しが差し込んでくる。

憎くも、日差しは俺の瞼を照らして睡眠を妨害してやがった。

太陽の野郎、上で燦燦と輝いているだけの癖によく俺の睡眠を妨害出来た物である。

空気読めよ、こちとら二日酔いなんだよなぁ。

 

「...んあ、うるさいなぁ....。」

 

頭の近くで目覚まし時計がけたたましい音を立てている。

なんだなんだ、お前らは何を持って俺の睡眠を邪魔しようと言うのか?

そこに大義はあるのか??

毛布を被るも、どういう理屈か毛布越しでも時計の騒々しい音を防ぎきることは出来ない。

 

「あ”あ”ぁ”ぁ”っ!!!....これでよし...むにゃ.....。」

 

耐え切れずに、時計を鷲掴みにする。

そしてそのまま壁に向かって放り投げた。

嫌な音の直後に、時計の音が止む。

それを感じ取った、また朦朧とした深層意識の底へと沈み込もうとする。

 

その瞬間、玄関のドアが凄い勢いで叩かれる。

今度はなんだよ.....。

 

沈みかけた意識がまた浮上し、その原因である音に若干うんざりする。

すると、今度は凄まじい勢いでチャイムが鳴らされていた。

なんだよ....悪戯か?

 

「やめてよぉぉ~、俺はちっちゃい頃からずっと馬車馬のごとく働いて来たんだい!今は既に余生、17歳にして余生を堪能中なんだい!!そんな音如きで、俺の崩壊した生活習慣を攻略なんかできるわけな..zzzz」

 

「寝るなぁぁああああああ!!!!」

 

ガン無視して、眠りに落ちようとした瞬間に少女の甲高い叫び声が響く。

うるさっ....つか、何人の部屋に入り込んでるんだよ。

 

「不法侵入とか、非常識ですよ....警察に相談しますからね.....。つーかどうやって入ったの....魔法?」

 

「鍵でちゃんと開けたわ!それに、私はアンタの身元請負人!!!そして警察に相談しても無駄!!!」

 

なんだようるせぇな。

毛布をその辺に投げ捨てて、眠い眼をこすって声の主を確認する。

....あっ、柊華ちゃんだ。

 

「お~おはよ~、わざわざ起こしに来たってこと?ご苦労様ぁ~そんでもっておやすみなさぁ~い。」

 

「待て待て待て!!何してんのよアンタ!?今日は学校の日でしょ!!?アンタくらいよこんな時間にまでこの寮で寝てるのはぁ!!」

 

布団を被ると、カサカサとゴミを踏む音が鳴る。

どうやらこの部屋へと足を踏み込んできているようだ。

そんなことより...本当に、眠くって....。

 

「テーブルにこんな缶置いて...!アンタ、学校の前の日は飲まないでって言ったでしょ!!」

 

「だって、つらいことだるいことがあったら逃げても良いって言ったの柊華ちゃんだもん。だから...酒に逃げるのもじゆ...すぅ....。」

 

「寝んなァァァァ!!!!」

 

瞼の重みに耐えきれずに、横になる。

すると、そんな俺の両脇に腕を入れて持ち上げる柊華ちゃん。

なんか必死だなぁ....。

 

「どうせ、今から準備したって間に合わないよぉ...クラブの時間にはちゃんと行くから、今は放っておくって言う選択肢....。」

 

「そんなものあるわけないでしょ!!私の目が黒い内はちゃんとした学生生活を嫌でも送ってもらうから!!私がアンタの用意手伝ってやるから、間に合うわよ!このゴミ!!!」

 

俺を罵倒しながらも、引きずるようにしてちゃぶ台に座らせる。

そして、鞄からケースを取り出した。

 

「はぁ...どうせ、こんなことになるってなんとなく察してたから、作ってきたわ。それ、食べなさい!おにぎりよ!!」

 

「ほ~ん、ありがと~。」

 

朝食を用意してくれたのはありがたい。

さっそく食べるか.....。

口に運ぶも思考と動作の隙間に睡魔が割り込んできて、もたついてしまう。

 

「ったく、なにごはん食べるのもたついてんの!!ごはん、机にボロボロ溢しちゃってるし...赤ちゃんか何か!?ほら、服も脱いで!!上なら食べながらでも私が着せられるでしょ!!ネクタイ巻いっ..て....あぁ!これネクタイ巻くの難しいんだけど!!」

 

隣でひーひー声を上げる柊華ちゃん。

もうしわけないなぁ。

そんなことを考えながら、ごはんを何とか食べきる。

 

「ズボンは自分で履きますから....。」

 

「はぁ!?アンタが自分でズボンなんか履けると思ってるのぉ!?私が全部やってあげるから余計な事考えないの!!どうせ、アンタがやってもトロ臭くて意味ないんだから!!」

 

「さすがにそれは自分で出来るって....」

 

「良いから!!余計な事考えんな!!!アンタは黙ってズボン脱いでいれば良いのよ!!」

 

柊華ちゃんが語気を強めて言うので、思わず俺はその指示に従ってしまう。

すると、彼女は慣れた手つきでズボンを広げていた。

 

「ほら、ここに足突っ込んで!これが終わったら反対側よ!!」

 

「え....そんなことしなくてもどうすればいいかくらい分かるけど....。」

 

俺がおずおずとそう言う。

するとそれが彼女の癇に障ったのかこちらを睨みつけ始めた。

ひえっ....。

 

「アンタさぁ、本当に分かってるの!!?本当に分かってるって言えるぅ!??間違っていた時どう責任取るつもりなのっ!!!??ねぇ!!!!」

 

「え...ズボンの履き方ってそんな間違えたら責任取らないといけないことなの....?そ、そこまで言われると分かってるって豪語は出来ないけど....。」

 

そこまで追求されると、言い切れなくなってしまう。

すると、彼女はフンッと胸を張る。

 

「そうでしょ?だったら黙って言う通りにする!はい!!....よくできたわね。でもこれで終わりじゃないわ。次は左足よ!!...へぇ、やるじゃない!少しは見直してあげる。」

 

「は、はぁ....ありがとう?」

 

俺は彼女の言葉にお礼を言う。

しかし、なんでだろう。

日に日に何故か自分でも出来ることを彼女に取られているような気がする。

...考え過ぎかな?

俺って世間知らずらしいし....。

 

彼女はズボンを腰のあたりまでずり上げると、ベルトを締める。

そして、立ち上がった。

 

「それじゃ、歯磨きを....。」

 

「歯磨きは自分で出来るよ。」

 

「...ッ!!アンタねぇ!!!」

 

「流石に歯磨きは人にしてもらうのはおかしいよ。だって人にやってもらってる子達みんな乳幼児くらいじゃないか。教育テレビ見てるからこれは断言できるよ。そして、俺は乳幼児じゃない。はいっ、論破。」

 

彼女はさっきと同じ剣幕で俺が自分で歯磨きをするといったことに嚙みつこうとする。

でも、これは流石に自分があっていると確信していた。

流石にこの年にもなって歯磨きを他人にやられるのはおかしい。

それこそ病気の時とかくらいじゃないの?そういうことがあるのって。

 

俺に論破されると、彼女は苦虫を嚙み潰したような顔になる。

....なんで?

 

「チッ....、分かったわよ。それじゃ、アンタ昨日今日の時間割の準備とかした?」

 

昨日....?

確かクラブでの依頼を終えた後はかえってすぐに酒飲んで寝てたような....。

 

「えーと、して,,,ないです。」

 

俺がそう答えると、柊華ちゃんは大きくため息を吐いた。

 

「やっぱり...偉そうな口叩いてもアンタはそんな男なのよね。まぁ、良いわ。アンタが歯磨きをしている間に用意しておいてあげる。終わったらさっさと出るわよ。」

 

なんか一人で勝手に自己完結してる...。

でもごはんとか作ってくれるし、そこに言及したりはしない。

ただただ歯ブラシで歯を磨いて、口をゆすぐ。

そして簡単に顔を洗った。

 

顔を拭いて、リビングに戻る。

すると、そこには鞄を持った柊華ちゃんの姿が。

 

「確かに、柊華ちゃんにやってもらうととっても早く済んだよ。ありがとう!」

 

すると、柊華ちゃんはご満悦な様子で胸を張った。

 

「当たり前でしょう?ほら、いちいちそういうお礼とか要らないから、さっさと行くわよ。」

 

鞄を受け取ると、彼女と一緒に部屋の外へと出ていく。

目は完全に覚めていた。

まぁ、頭は多少は痛むけど....。

それでも、俺の一日が彼女によって始まろうとしていた。

隣の彼女の手を取る。

 

「なっっ!?あ、アンタ何を....。」

 

「え...?俺変な事したかな....この前用意手伝ってもらったらお礼の気持ちを込めて手を繋ぐ物って柊華ちゃんが言っていたじゃないか。」

 

俺が言うと、彼女の動きが停止する。

覚え違いだっただろうか?

そう思って手を放そうとした瞬間、強く握られた。

 

「そ、そうだったわ!!よく覚えていたわね!!偉い偉い!!その調子で言われたことを守りなさい!!良いわね!!」

 

「頑張るよ。」

 

俺が答えると、そのまま顔を伏せてしまった。

....変なの。

 

 

 

 

 

 

聖クレセンス付属学院。

関東に存在する私立学園。

私立学園には大きな校舎に潤沢な財政を誇っている学園だが、それには裏がある。

 

それは、この学園が周辺の『深淵』に対する研究が行われていることだ。

『深淵』....それは吸血鬼、妖怪、幽霊といった昔から民話で語り継がれているような存在だけでなく都市伝説のような人間の規範から外れた存在。

そしてそれに対抗できる素養の持つ少年少女たちを集める場所がここ聖クレセンス付属学園だ。

そんな目的がある為に、この学園の設立には教会や寺社など複数の勢力が関わっている。

 

「今日からこの学園、及びに当クラブ活動に在籍することになった子よ。貴方たちの一年下で今日から貴方たちの班に入ってもらいます。よろしくね。」

 

「オレはラスティナ・ビハー・エルヴィン。まぁ、よろしく頼むわ。」

 

頭を下げる。

ここは『深淵観測対策室顧問室』。

なんでも力を持つ学生には周辺の深淵の調査及びに討伐をクラブ活動として行っているらしい。

なんでも学生は依頼による報酬ももらえることから意欲は高いのだとか。

 

「へぇー!僕たちも先輩だってよ、柊華ちゃん!俺は鬼藤トゥエルブ、よろしくねラスティナちゃん!」

 

銀髪混じりの黒髪の少年がこちらに笑いかける。

にへらとした緊張感のない笑みだ。

どこか頼りなさそうな奴だとオレは感じた。

 

「....鬼藤柊華。まぁ、実年齢はアンタの下かもしれないけど、学年は上だから、そこは忘れないで。」

 

どこかキツイ印象を受ける切れ長の目をした少女。

俺よりも背は低く、どこか幼い印象を受ける。

それでも、芯の強さのようなものは感じた。

というか、苗字がさっきのなよなよ男と同じだな。

兄弟か?それにしたって似てないが。

 

「剃賀田源内でーす!道具とか作ったりするだけだから戦力に数えないでもらえると嬉しいなって。」

 

眼鏡をかけたぼさぼさ頭の女。

なんというかさっきの男と同じくちゃらんぽらんな印象を受ける。

つーか、デケェな胸。

こんなの見たことないんだけど。

 

「それでは、ラスティナさんへの説明や案内はお願いしますね?先生は、研究所への手伝いがありますので。」

 

「はい、わかりました。」

 

鬼藤...妹か?

鬼藤妹が教師の言葉に首を縦に振る。

どうやら先生には良い恰好する奴みたいである。

優等生キャラか、オレが苦手なタイプだ。

 

彼らは教室へと出ていく。

俺もそれについていった。

向かう先はとなりの教室であるようだ。

深淵観測対策室と書いてあった。

 

「分からないところってあるかな?っていうか、一から説明した方が良い?あっ、俺のことは気楽にトゥエルブって呼んでくれていいから!」

 

トゥエルブはそう言って笑顔を見せる。

ただ先輩風を吹かせたいのか、親切なのか。

...それとも俺が女の姿をしているから下心からか。

 

「別に、オレ達がやるべきことは知っているから、要らねぇ。下心があるなら残念だったな、オレは元は男だ。深淵によって女になっちまっただけのな。」

 

俺は自分の秘密を語る。

俺は触れたものの性質を逆さにするという権能を持った深淵と対峙したことがある。

その際に、触れられたことで身体の性が逆さになって女になったわけだ。

とはいえ、自分としては外見はどうであれ男のつもりなのだ。

...なーんてな。

事実も混じってはいるが、そう言う設定だ。

 

引くのだろうか?

そう思っていると、目の前の男は目を輝かせていた。

....なんだ?

 

「へぇ~珍しい~!そういうのってTSって言うんでしょ!男の親友とかっているの?凄いよ源内!前教えてくれた黒ギャルって奴?でTSだって!!昨日教えてくれた奴が役満で揃ってるよ!!もしかして予見してたの!?」

 

「え...えぇ、う、ううん。そういうわけではないっすね....。」

 

目を輝かせて、剃賀田に目を向けるトゥエルブ。

すると剃賀田は気まずそうに眼を逸らしていた。

なんだ....?

 

「オレに、親友などいない。...ていうか、黒ギャルって結構な言い草だな...オレらしょたいめ....。」

 

取り敢えず、いきなりご挨拶なことを言われたので咎めようとする。

すると、背後から濃密な殺気のようなものを感じる。

ぞわりと背中の毛が逆立つような感覚に、後ろを振り返る。

すると、どこか覇気のようなものを発しながら鬼藤妹が二人を見ていた。

 

「...アンタ、そんなことを源内に教えてもらったの?」

 

「....?うん、そうだけど。お酒くれた時に話してくれたかなぁ。」

 

覇気にも気づいていないのか、トゥエルブは首を傾げながらも答える。

つーかコイツ、学生だろ。

その癖に飲酒してやがるのかよ....。

すると、鬼藤妹はへぇと言いながらも今度は剃賀田に目を向ける。

 

「...ねぇ、剃賀田さん。私、コイツが変な言葉とか嫌らしいコンテンツに触れないようにスマホを取り上げているということは知っているわよね?そうよねぇ、知らないとは言わせないわ。」

 

「あ、あの...か、勘違いしているようですが、私は言葉を教えただけであって今のはトゥエルブがまるで子供のように覚えたての言葉を使っただけで....。」

 

顔を青くして、冷や汗を流している剃賀田。

すると、鬼藤妹はニッコリと笑顔を浮かべていた。

 

「だからそうなる可能性があるから、私以外はコイツに言葉を教えて欲しくないって言ってるんですけど?これ、何回目?次やったら....潰すって言ったでしょ...?」

 

「失礼しまぁぁぁす!!ほらっ、トゥエルブも来なっ!お説教だよ!!!」

 

「えっ...!な、なにが....!?」

 

剃賀田はトゥエルブの手を引く。

そして、ポケットに手を突っ込む。

 

「なっ...!待ちなさい!!」

 

「待てと言われて待つ子はいないってね!!」

 

そう言って何かを地面にぶつける。

その瞬間、地面から煙が巻き上がる。

ちょっ...煙幕かよ....しかもこんな室内で、教室の前で!?

 

「こほっ...あの女...!やったわね....!!」

 

「ちょっ...なんだよここ!ここに居る連中、こんな奴らばかりなのか!?」

 

悲鳴を上げるようにオレは悲鳴を上げる。

やべっ...気管に煙の粒子が入り込んで....咳が....!

 

「一緒にしないで...!!がほっ!こほっ!!」

 

鬼藤妹は咳き込みながらも、教室の扉を開ける。

その音の方向に逃げるように歩みを進める。

すると、窓から見える外の様子にざわざわと騒いでいた生徒たち。

オレ達が煙を浴びながら、室内に入るとそれを確認して騒ぐのをやめて会話に戻った。

...こういうのに慣れてやがんのか?

 

「あの女....マジで後で覚えておきなさいよ。」

 

隣で苦渋を飲んだような顔をして、息を切らす少女。

...どうやらこの子はまともそうだ。

 

「アンタ....大変そうだな。所構わずスモーク炊く女と未成年の癖に飲酒してるふわふわした男と同じ班なんだろう?」

 

オレは鬼藤妹に声を掛ける。

これでもここで厄介事を起こしたいとは思ってはいない。

人間関係が良ければ良い程、悪いことはないだろう。

....まぁ、その厄介事を元々居る連中が起こしてたんだけど。

 

すると、そんなオレを何故か鬼藤妹は睨みつける。

まるで、忌まわしい者でも見るような目で。

 

「....何も知らないくせに、嫌に同情的な言葉を言えるものですね?口が良く回る。」

 

「おいおい....オレが何したよ?そこまで言われる筋合いはないなぁ。ましてや、オレとアンタは初対面だろう?」

 

オレが腕を広げて言うと、彼女はオレを見据えて指を3つ立てる。

 

「貴方には言いたい事が3つあります。」

 

「へぇ....なにかなぁ?」

 

俺が尋ねると、指を一本下す。

 

「まず一つ、あの教育に悪い女とウチのトゥエルブを一緒にするな。確かにアイツは今ダメ人間だけどそれでいい。それはアイツがなりたくてなったわけではなく、私が望んだ結果だから。アンタに、いや誰にもとやかく言われる筋合いはない。」

 

「へぇ...そうなんだ。残りの二つは?」

 

よく分からないが、目の前の少女とトゥエルブの間で何かあるのだろう。

そこらへんはぶっちゃけ関心はない。

なぜなら、あの頼りない男もこちらに敵意があったわけではないからだ。

それなら気にする必要はない。

 

「黙って聞きなさい。二つ目、私は貴方の出自を大道寺先生から聞かされています。そして先輩には敬語を使いなさい。」

 

「....あっそ、別に?嘘がバレたからなんだよ。あんなの信じる奴なんかいないと思ってたし。...実際は居たんだけど....。それと、敬語はぜってー嫌だ。」

 

深淵のせいで女の子になる?

そんな一部の変態にとって都合の良い奴が居るわけないだろ。

確かに、オレは元々男だが女になった理由はそこじゃない。

そんなこと聞いた時点で分かる物と思っていた。

だからこそ、あの男がこちらに食いついてきた時には少し引いた物だ。

 

「そして、三つ目。少なくとも私は...貴方と仲良くするつもりはありません。アンタは、ただの危険分子だ...何を考えてるのか分からない。それに...私と似た匂いがするのも気に入らない。トゥエルブに近づけさせたくない人種です。」

 

「...へぇ、アンタもそういう存在なのか。ハハッ、そりゃ結構だ。別に仲良くなるのにアンタである必要もないからな。....たださぁ、変な喧嘩は吹っ掛けないでくれよ?オレはこれでもここでは穏便に過ごしたいんだよ。」

 

「....それで、言いたいことは終わりですか?ならさっさとどっか行ってもらえませんかね?ここの案内なんて私はやるつもりはありませんので。誰かに頼んだらどうです?その駄肉でも寄せて色目でも使って」

 

俺の言葉を聞いて、鼻で笑って挑発的にそう言い放つ鬼藤妹。

可愛くねぇ女だな....胸ガリガキ女が....。

これ、オレに対するやっかみもあるんじゃねぇか?

そう思いながらも、教室へと出ていく。

 

はぁ...最初から前途多難だ。

まさかこんなアクの強い連中の班にぶち込まれるとはなぁ...。

絶対、意図した人事だろ...クソ猿ども....。

はぁ....萎えるわ。

便所にでも行って、気分を持ち直すか。

 

「あっ...ラスティナちゃん!こんなところで何してるの?」

 

そう思っていると、声を掛けられる。

見ると目の前にあのなよなよ男が立っていた。

 

「そういうアンタは何してんだ?」

 

オレが尋ねると、困ったような笑顔を浮かべる。

 

「いや、源内ちゃんに怒られてね。教えたことは誰にも絶対に言うなって口酸っぱく言われてさ。」

 

「へぇ....。」

 

どうやら説教とやらをされていたらしい。

しかし、あの女にバレたら困ることを言っていただけで、そこに説教される謂れはないとはオレは思うけどな。

どうしようもないことではないなら、バレて困るようなことしなければ良い。

 

「....いや、アンタの妹に嫌われたみたいでな。..つーか、アンタ初っ端からちゃん付けかよ。慣れ慣れしすぎじゃねぇか?」

 

人懐っこそうな笑みを浮かべているそいつを見ると、つくづく兄妹にしては似ていないなと思う。

すると、奴は一瞬キョトンとした表情を浮かべる。

そしてプッと噴き出して笑い出した。

 

「なんだよ。」

 

「いや~ごめんごめん、苗字が同じで勘違いされがちだけど、柊華ちゃんとは兄妹じゃないんだよ。戸籍とかみもとひきうけにん?って奴の都合上同じ苗字になってるだけでね。それと、初対面の子には下の名前で呼んで安心させろって初対面の時の柊華ちゃんに言われてるから、気に障るのなら謝るよ。」

 

「あ~、どーりで。別に気にしてねぇよ。呼び方なんかどうでもいい。」

 

そう言うことか。

どうやら何やらの事情があって苗字が同じなのだろう。

似ていなくて当然だ。

というか、トゥエルブに近づけさせたくないってつまりは....。

 

「へへっ...なるほど、そういうことか。」

 

オレは笑う。

それなら、楽しくなりそうだ。

さっき滅茶苦茶言われたんだ、嫌がらせしてやる。

人に胸でも寄せて色目でも使って案内してもらえって言ったのはお前なんだからなぁ?

 

「そうだ!それならぁ....オレにこの学校の案内してくれよ。なぁ?良いだろう....?」

 

蠱惑的な笑みを浮かべて、胸を寄せる。

そして甘ったるいような声で奴を上目遣いで見る。

これで思う通りに動かない奴は居なかった。

悪く思うなよ...胸ガリ女....。

 

「...?別に身を乗り出さなくても、頼まれれば教えるけど。」

 

...あっ、ダメだコイツ。

まったく意味が分かってねぇ。

胸すら見てねぇ。

オレの顔まっすぐに見つめて疑問符を浮かべてやがる。

マジかよコイツ....二次性徴前のガキかよ....。

 

「それじゃ、まずは資料室に案内するよ。学校怠い日はそこで寝てればよく眠れるんだよ。」

 

「お前、案外不真面目なんだな.....。」

 

なんかいい子ちゃんみたいなふわふわムード出してる癖に言っていること悪ガキなんだけど。

まぁ、コイツがどうであろうとどうでもいい。

取り敢えず、誰かと仲良くなっておいた方が良いに決まっている。

なんならコイツと仲良くなっておけばあのいけ好かない女を弄ることだってできるかもなぁ...。

 

「それと...そのっ、最近深淵調査の成績がさ、他の班よりもあんまり良くないんだ。だから柊華ちゃんピリピリしてるんだよ。...本当は良い子だからさ。嫌いにならないで欲しいな。あの子も、そんな出会ったばかりの人を嫌うような子じゃないし。」

 

「....何の話だ?」

 

いきなり何であの女の擁護を始めたのか。

疑問に思っていると、俺の反応を見て首を傾げる。

 

「えっ?だってさっき俺の妹に嫌われたかも~って言ってたでしょ?勘違いは今の内に解消した方が良いと思ったから。これから同じ班として活動していくんだから、仲良くした方が絶対に楽しいし、いい結果も出るに決まってるよ!!」

 

トゥエルブは快活な笑顔をオレに見せる。

勘違いでもなんでもないのだが、まぁコイツはオレの歓迎自体は考えているようだ。

 

「...まっ、取り敢えずさっさと案内を続けてくれ。アンタの言うことは頭の片隅には置いておいてやる。」

 

「分かった!じゃあ次は食堂かな?俺達のクラブは例外的に下校時間過ぎても残ることが許されているんだけど、この棟の地下1階に夜食専用の食堂があったりするんだ。普通の食堂よりもメニューは少ないけど、それ食べるために学校に残る日もあるんだよ。」

 

「....お前、一体普段どんな生活送ってんの?」

 

奴の言葉を聞いて、疑問を口にしながらも前を歩く奴の背中についていく。

剃賀田とやらとはまだまともに話したことはないが、現状の判断材料だけであればコイツが一番話が出来る相手だなっと思った。

取り敢えず、会話に困ったらコイツに振っておけばいいか。

 

オレはこれからの学校生活を送りにあたって、まともに話せる相手を見定めるのだった。

 

 

 

 

 

 

私が、アイツに出会ったのは月がまるで臓物のように紅く輝いていた日だった。

 

大規模な儀式による深淵の氾濫。

死を恐れた術師によって町一つがそいつのおもちゃ箱と化した。

対策室の人間は年代、学年問わずに駆り出されていた。

 

それは私も同じ。

私は幼いながらに優秀だったから、依頼に従って駆けまわっていた。

広い街中を渦中を探して駆けまわる。

 

そんな中、それは運命だったのだろうか。

私は、その渦中を見つけてそれに飲まれてしまったのだ。

突如始まった戦闘。

 

周りには瓦解しつつある身体を再生しながらも、生者を食らわんと歩く生ける屍。

鬼種を振るう。

しかし、力は無尽蔵ではない。

最早体力は尽きかけている。

 

そして最も最悪なのは....。

 

「まさか...術師までが術式に飲まれてるとか....バカなんじゃないの....っ!」

 

この儀式を執り行っているはずの男。

祭壇の前で血の盃を傾けていたはずの男が盃を取りこぼす。

そして、首を掻きむしって血を辺りにまき散らしたかと思えば身体が瓦解を始めた。

 

ハンドルを握る物が居なくなった。

それは儀式は失敗し、無責任にも暴走する術式が残ることを意味していた。

まさしく、地獄絵図。

 

このまま倒れることもなき屍を相手にすれば私もそこの仲間入りを果たすことは確実だった。

 

「...夜叉憑きのゾンビだなんて、きっとレアケースね。まさしく魑魅魍魎って感じかしら?」

 

自分の最悪の想像を嘲笑う。

そうまでしなければやっていられない。

頬を流れる汗を拭う。

頭の中ではよどんだ血が巡って思考が鈍る。

鬼種を使い過ぎた。

休む時間が必要だ。

でも、そんな時間はない。

 

覚悟を決めないと....。

そう、思ったその時だった。

 

天井が突如として崩れて、そこから数多の杭のようなものが降り注いだのは。

杭は地面をまるで針山のようにして、そこに屍共が突き刺さったり、間に挟まったりしている。

 

そして、紅い月光が差し込むと同時に一人の人影がその渦中へと降り立つ。

まるで喪服のようなノースリーブの黒い上着に長ズボンの男。

そして、錆びついたような茶褐色のノコギリを手に持っていた。

 

「....理から外れし哀れな骸。今生の生を終えたにも関わらず雁首揃えるその有様、断じて許されぬ。己が痛みを持って懺悔せよ。」

 

言葉を口から紡ぎながらも、着地する。

すると、近くに居た亡者が彼に手を伸ばした。

そんな亡者に迷わず手を伸ばして、頭を掴む。

そのまま地面に叩きつけた。

 

地面にめり込む亡者の頭。

それを寸分の隙もなく、踏み潰す。

迷うこともなくノコギリを今だビクビクとのたうち回る亡者に突き刺した。

そして祭壇を真っ直ぐに見据えると、また口から言葉を紡いだ。

 

「————苦難を味わえ。誅罰聖数『forty』...血葬。」

 

その言葉が紡がれた瞬間、空気が制止したような感覚を肌で感じた。

粟立つ肌と加速する鼓動。

そこに居ては自分まで吞まれるような感覚。

彼が突き刺したのこぎりを中心に、杭目掛けて血管のような青い筋が走る。

そして、それが消えたと同時に辺りは赤く染まった。

 

「アァァアアアアァアアアアアアアアア!!!!」

 

彼の周囲に居た亡者の身体が一瞬風船のように膨らんだかと思えば、爆発するかのように破裂して辺りに血の噴水を作り上げる。

本来はうめき声しか発さないはずの亡者が苦難に対して張り裂けんばかりの悲鳴を上げる。

部屋の中を降りつける血の雨。

そしてそれを空気中へと放射している亡者どもは出せば出すほど萎んでいき、まるで乾燥した野ざらしの死骸のようになって崩れていく。

最後には粉しか残らない。

 

「...数字は、嫌いだ。」

 

そんな血を浴びながらも、彼はそのままノコギリを祭壇に投げつけて破壊した。

祭壇を破壊しても、今更術式は止められない。

であるにも関わらず、壊れた天井から除く紅い月には亀裂が走る。

つまりは破壊ではなく、破戒したということか?

こんなのを見たのは二度目だ。

 

(教会関係者...?いや、違う....。)

 

教会関係者であれば、連絡が入るはず。

それになによりも連中は大体は十字架を身に着けているものなのだ。

 

紅い月は崩れて、そこから真の月が覗く。

天井の穴からは蒼白の月光が血で紅く染まった彼を照らす。

それと同時に、彼はこちらに視線を向けた。

 

その様を見て、私は胸をすくような衝動に襲われる。

目は彼だけに釘付けになる。

血に濡れながらも、染められることのない白混じりの黒髪。

肩で血の雫が流れてなぞられる『Ⅻ』のタトゥー。

人間味のない人形のような表情。

そして、その瞳は何も映していなかった。

 

無。

まったく人間らしい感情の色が見えない。

その瞳を見つめていると、まるで底の見えない洞を見ているかのよう。

 

血に染まった身体を月光が照らす。

その有様はどこか、生と死を感じさせる程に神秘的で。

私の目に、一生消えないのではないかと思う程に焼き付いていた。

 

「...見なかったことにする。...人は、殺したくない。」

 

そう言うと、足を曲げてまた屋上の穴から空へと躍り出る。

月を彼の影が横切る。

誰かも分からない、何者かすら知らない。

 

そんな男であるにも関わらず、私の胸はある衝動が渦巻いていた。

それは、今思えば鬼種としての性もあったのだろう。

でも、あの時の彼の立ち姿はあたかも本来手の届かぬ月が伸ばせば届く距離に降りてきたようで。

 

私は....。

 

「————欲しい。」

 

渦巻く渇望を心のままに口にしていた。

 

届かぬ月に手を伸ばし、潰さんばかりに握ってこの掌に置いておきたい。

自分の物にしたい。

どうしても欲しいと、思ってしまったのだ。




書いていて、これヒロインと主人公の性別逆にしたら、優秀なショタに強いけど人間味の薄いお姉さんが囲われてダメ人間にされている構図になるくね?って思いました。(小並感)

でも僕は自分より年下の女の子に色々吹き込まれている男の子が性癖なのでこれで良いです。
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