サラブレッドに生まれ変わったので、最速を目指します   作:Budge

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そして今回は初G1、前編になります。

弾き出されてしまう馬はくじアプリで決めました、ホントですよ?


師走、朝日杯3歳ステークス(前編)

日が落ちるのもすっかり早くなった暮れの中山競馬場。

 

朝日杯を翌日に控えた俺は、レースに出る馬たちが寝泊まりする場所である滞在厩舎にいた。

 

『そろそろかな』

 

かすかに聞こえる歓声や人馬の行き来を見守りつつ、一足先にレースに出ていったアイツの帰りもそろそろかと耳をぴくんと動かした。

 

 

『・・・戻ったぞ』

 

しばらく待っていると、お目当ての馬が黒っぽい馬体が汗でギラギラと輝きを放ちながら厩務員に引かれて帰ってくる。心なしか馬房を出ていく前より自信にあふれているような。

 

『おー、おかえりイーグルカフェ。で、どうだったよ』

 

イーグルカフェが出走していたのは未勝利戦。メインではないしあまり注目が集まる競走でもないが、それでもここを勝たねば何も始まらない。

 

『無論、王冠を手に入れた。この程度の走り、吾輩には容易いことだ。何故今までこれが出来ずにいたのか今となってはむしろ不思議で仕方ない』

 

・・・どうやら勝ったようだ。正史通りとはいえ、隣人が無事勝ち上がったことに胸を撫で下ろす。

 

『おめでとう、イーグルカフェ』

 

『祝言、感謝する。しかし世話係の話を聞けば吾輩はさらなる王冠を目指し走らねばならぬそうだ。これも、サラブレッドなる生き物に生まれた宿命か』

 

『そうだな、また勝たなきゃいけないけど、まずはしっかり休めよ。俺もよくジュンペーに言われるんだ。休憩もトレーニングの一つだって』

 

『それは貴様が暴走列車の如く走るからであろう。吾輩はそんなことはせぬぞ』

 

『暴走列車って・・・俺そんな酷い?』

 

『うむ』

 

『おぅ・・・』

 

たったの一言でだいぶダメージ与えてくるよな、コイツ。まあそれはそれとして。

 

『セキト、吾輩も走ったのだ。勝たねば承知せぬぞ』

 

『・・・ああ』

 

もう、後には退けないな。

 

 

 

XX99年 12月12日 中山競馬場

 

初めての大舞台に向けて仕上げられた3歳の精鋭16頭が、威風堂々とパドックを行進している。勿論俺も含めて、だ。

 

『ひぇぇ・・・なんだよこの人の数・・・』

 

『耳が、耳が落ち着かないぃぃ』

 

今までとは比較にならない人の数、そしてざわめきの大きさに驚いたり、飲まれたりしているようではG1馬になどなれはしないだろう。あの2頭はレースでは気にしなくて良さそうだな。

 

俺?ワクワクしてる。これが武者震いってやつか?むしろ誰か隣で俺を引いてる馬口さんをほぐしてやってくれ。ベテランなのにG1で馬を引いた経験はないのか。緊張し過ぎで顔は能面みたいに固まってるし、歩き方はロボットみたいだ。

 

それとさっきセンセイが小天狗って呼ばれる騎手の待機所に行くのが見えたから、ジュンペーと作戦の相談をしに行ったんだろう。

 

『止まーーーれーーーー!』

 

パドックに響く止まれの号令と共に、歩みを止める。馬口さんだけ歩こうとしてたから逆に俺が引っ張って止めてやったら少し笑い声が聞こえた。

 

それから待機所を見ていると、中から16人の騎手がわらわらと現れる。

 

そこにジュンペーの顔を見つけて安心すると同時に、着ている勝負服を見つめた。これまでは朱美ちゃんの不手際で斜めにストライプが入った服色未登録用の勝負服だったが、今日からは違う。

 

黒の地色に桃色の元禄。袖も黒地に、白の山形二本線。

 

紛れもない朱美ちゃんだけの勝負服だ。なかなか決まってるじゃないか。

 

前に勝負服の申請をするときに「パパが黒地の勝負服にしなさい、赤地は絶対ダメって言ってたけどどうしてだろうなー」って言っていたのを思い出した。なるほど、「黒字」は良くて「赤字」は駄目か。流石実次さん。

 

それに元禄なのはよく似ている市松模様の「事業拡大、子孫繁栄」にあやかったんだろう・・・これ朱美ちゃんが考えたの、実質袖の柄と色くらいだな!?

 

それから改めてジュンペーを見やって、『今日も頼むぜ』と意識を込めて鼻を鳴らす。

 

俺と目を合わせると、ニコリと微笑んでからジュンペーは左側から俺の背によじ登った。すぐに鐙に足をかけて首筋を2回軽く叩いてきたので、耳をぴくんとさせて返事代わりとした。ジュンペーの早い鼓動が少し穏やかになる。

 

 

白い毛並みの先導馬が導く隊列に付いて一旦中山の地下馬道の陰に身を潜め、蹄の音を高く鳴らして進めばその先に光が見えてくる。再び地上へと浮上した俺はダートを横切って緑に燃える戦場へと足を踏み入れる。

 

ふと空を見上げると、厚い灰色の雲が一面を覆っていた。今日は曇りだ。

 

 

「行くよ、セキト」

 

『ああ。相棒』

 

「セキト!行ってらっしゃい!」

 

一息入れて。ひときわ強い芝の匂いを一杯に吸い込み、ジュンペーのサインを脇腹に受け取った俺は馬口さんの引き手から解放されると、第4コーナーに向けて走り出した。

 

 

 

 

 

第51回朝日杯3歳ステークス (G1)

 

① エンドアピール     波止場   54kg

② セキトバクソウオー   岡田    54kg

③ マチカネホクシン    谷     54kg

④ マイネルコンドル    水戸    54kg

⑤ サクラデインヒル    真中    54kg

⑥ ファミリータイズ    ジョーンズ 54kg

⑦ トップコマンダー    梅原    54kg

⑧ グラスベンチャー    多村    54kg

⑨ レジェンドハンター   竜胆    54kg

⑩ エイシンプレストン   幸長    54kg

⑪ エイシンコジーン    萩川    54kg

⑫ ダンツキャスト     雪見    54kg

⑬ ショウナンラルク    大田    54kg

⑭ ラガーレグルス     加藤    54kg

⑮ ファイターナカヤマ   立川    54kg

⑯ ノボジャック      丘本    54kg

 

 

『今日は生憎の空模様、しかし今日のこの大舞台に挑む人馬の闘志の炎は、例え雨が降ったとて消せぬことでしょう、第51回朝日杯3歳ステークス、(わたくし)黍原(きびはら)が出走馬を紹介して参りましょう。コンディションは良馬場です』

 

 

『絶対負けない・・・!』

 

「力は足りないかもしれんが、乗る以上は勝ちに行く!」

 

『米国生まれのマル外ホース。人気はありませんが背中にいるのはおなじみヒットマン!皆様お忘れなきようご注意ください!最内1枠1番勝利に向かって全力!エンドアピール、鞍上は波止場(はとば)(きよし)!』

 

 

『さあ、準備万端だ、いつでも行けるぜ』

 

「すごい手応えだ、やる気が伝わって来る・・・!」

 

『2戦2勝、メンバー唯一無敗の実績引っさげて!赤い馬体がG1の舞台で燃え上がる!父に初タイトルをもたらすか!?セキトバクソウオーと岡田順平!』

 

 

『キョウこそ、ゼンインぶっこヌきデース!!』

 

「気合ノリがいいな、これはひょっとするぞ!」

 

『札幌3歳ステークス惨敗から、追い込み安定2着3着!クラシック戦線の北極星目指して、今日こそは!アメリカからの流れ星、マチカネホクシン!手綱を取るのは

(たに)(ゆずる)!』

 

 

『はわわわ・・・走る、走る・・・!』

 

「落ち着いていこうぜ、ゆっくり、ゆっくりだ」

 

『凱旋門に挑んだ神の鷹はターフを飛び去りました、その栄光を追わんと翼を広げる若武者は、マイネルコンドルと水戸(みと)勇斗(ゆうと)!』

 

 

『セキトくん、すごい気合っすね・・・こっちも負ける気、無いっすけど!』

 

「手応えがいいな、いけるんじゃないか?」

 

『超良血の父が日本に残した貴重な産駒、大舞台で満開の時を迎えるのか!?サクラデインヒルと真中(まなか)敏晴(としはる)!』

 

 

『こ、ここここで、ぼ、ぼぼぼぼくだってやれるって、しょ、証明するんだだだだだ』

 

「ヘイボーイ!クールダウン!クールダウンネ!」

 

『新馬以来の勝ち星目指し、しっかり手綱を引き締めて!みなさん今日も行ってきます!ファミリータイズとビジネスパートナーに選ばれたのは、去年の覇者

ミゲル・ジョーンズ!』

 

 

『オレだって実力はあるんだ!やってやる!』

 

「トップ、リラックスだぞ」

 

『デビュー以来、5戦全てで掲示板。安定した走りで目指すは優勝と言う名のミッションコンプリート!トップコマンダー!操縦桿は梅原(うめはら)健雄(たけお)に託された!』

 

 

『人がたくさんいて怖いよー!』

 

「ベンチャー、大丈夫大丈夫」

 

『前走500万下を勝ち上がって、これが初の重賞大舞台。さあここからがスタートラインだ、グラスベンチャーと多村(たむら)敏晴(としはる)

 

 

『せっかくここまできたんだ、地元のファンにでっかい手土産を持って帰らな!』

 

「行くで!レジェンド!」

 

『笠松から怪物再び、中央の猛者を倒して伝説になるのは俺だ!地方からの刺客レジェンドハンター!鞍上は

竜胆(りんどう)勝利(かつとし)!』

 

 

『落ち着いて・・・差す!』

 

「落ち着いてるな、これなら実力発揮できそうだ」

 

『新馬勝利からわずか一月足らず、抽選突破で大舞台に挑む!未知のマル外エイシンプレストン!手綱をとるのは前走と同じく幸長(ゆきなが)福一(ふくかず)!』

 

 

『なんか僕注目されてない?』

 

「ソワソワしてるが、まあ大丈夫だろう」

 

『芦毛の馬体にコジーン産駒、去年の覇者と同じ条件、そして舞台は整った。2戦1勝エイシンコジーン!鞍上は萩川(はぎかわ)由伸(よしのぶ)!』

 

 

『油断してると先頭から押し切ってやるもんね!』

 

「折り合いもつくしこれなら・・・!」

 

『京王杯の悔しさ胸に、前走500万下逃げ切り勝利!今日も堂々逃げ宣言、主役の座に躍り出んとするのはダンツキャストと雪見(ゆきみ)公明(こうめい)!』

 

 

Haste makes waste(急いては事を仕損じる). Don't rush, be careful(焦らず、慎重に・・・)

 

「よく分からないんだよなこいつは・・・分かってるのは、実力十分って事だ!」

 

『連勝の勢いそのままに、G1に挑むマル外がここにも一頭!ショウナンラルクと大田(おおた)豊吉(とよきち)!』

 

 

『お、音怖い・・・!でも、走らなきゃ・・・!』

 

「ラガー、頑張ろうね」

 

『漆黒の馬体に輝きと闘志を秘めて。勝って父にタイトルを!サクラチトセオーの仔ラガーレグルスと加藤(かとう)天光(てんこう)!』

 

 

『うおおお!レースだ!走るぜコノヤロー!』

 

「おっとっと、まだだ、まだだからなー」

 

『福島3歳ステークスを制したチャンプよ、その闘争心をこの大舞台でも見せてくれ!マル外ファイターナカヤマと立川(たてかわ)広典(ひろのり)!』

 

 

『今日は芝か、まぁ僕には関係、ないけど!』

 

「やるぞ、ジャック!」

 

『芝もダートも関係ない。ひたすら己の道を突き進み証明するだけ!G1レースを占領せよ!我が道を行くノボジャックと、名手丘本(おかもと)雪緒(ゆきお)!』

 

 

『・・・以上16頭、朝日杯に挑むチャレンジャーを紹介いたしました。中山第11レース朝日杯3歳ステークス、発送時刻が迫っています―』

 

 

 




1番苦労したのは騎手の捩りネームな件。
ご本人様は登場させてはいけないので仕方ない。

今回の主な被害馬その1

シアトルフレーム 黒鹿毛 牡

父 ポリッシュネイビー
母 シアトルフェアー

・被害ポイント
朝日杯出走→除外

・史実解説

1999年、新馬戦でデビューすると共に勝利。
ラベンダー賞(4着)、函館3歳ステークス(6着)を挟んでアイビーステークスを勝利した。
その後京王杯3歳ステークスに出走したが11着に敗れ、本番の朝日杯3歳ステークスでも大差のシンガリ負けに終わる。

4歳以降の勝鞍は1600万下の大原ステークスのみで、最後は地方に移籍したものの勝ち星を積み上げることはなかった。

引退後は乗馬になったという情報がネット掲示板にある。


(追記)
大変失礼いたしました。次回更新は水曜の22:00予定となります。
更新日の書き忘れ、誠に申し訳ございませんでした。
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