サラブレッドに生まれ変わったので、最速を目指します   作:Budge

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・・・おや?セキトの様子が・・・!?

デッデッデッデッ(ry

おめでとう!セキトバクソウオーはセキトブチギレオーに進化した!(テンテンテーン、テテテテテテテーン)

な話、始まります。

そういえば連載一ヶ月、達成してました。


力走するって、こういうことだよな?

超満員のスタンド、湧き上がる大歓声。

 

今、俺はジュンペーを背に、G1レースの直線を駆けている。今日のコースは右回り、初G1勝利も十分あるぞ!

 

「さぁ、行けっ!セキトっ!」

 

放たれたムチが左のトモに当たり、俺は上体を沈めて全力でスパートをかけた。

 

速く、速く。どこまでも駆け抜けていけそうな高揚感と爽快感に包まれながら、俺はゴール目指して走る。

 

これなら、今日の走りならば!ジュンペーとの夢が叶う!そう興奮していた俺だったが。その内、何かがおかしいことに気づいた。

 

『ゴールは、どこだ・・・!?』

 

そうだ、ゴール板が、無い。

 

どこまでも、どこまでも。走っても走っても。果てしなく真っ直ぐな直線しか、ここには存在しない。

 

『どういうことだ・・・ぐぅ!?』

 

それに気がついた瞬間、さっきまでの開放感が嘘のように身体の動きが鈍くなる。

 

『お先!』

 

『遅い遅い!』

 

『やっぱキミには長かったね』

 

息が上がって、滲む視界の中で何頭もの馬の影が俺を抜き去って行って。

 

やがて、先頭を走っていた影がいつの間にか現れたゴールを過ぎた後に立ち止まって、こっちに振り返った。黄色地に黒タスキ、どこかで見たようなメンコを着けている。

 

そして。

 

『お前は、只の馬だ』

 

そう聞こえた瞬間、急に後ろに現れた馬の巨影が、俺を踏み潰した。

 

 

 

 

 

『うわあああああああ!?』

 

 

 

『おい、どうしたんだよセキト!』

 

『はぁ、はぁ・・・ゆ、夢か』

 

 

近くの馬房から俺を心配する声がする・・・そうだ。NHKマイルカップから、もう一週間が過ぎたんだ。

 

『夢?すごい声を出したからなんだと思ったら、お前、うなされてたのか?』

 

『ああ、酷い夢だったよ』

 

俺を気遣ってくれる僚馬にそう答えると何を思ったのか僚馬は食べすぎると悪い夢を見やすいらしいぞとか根も葉も無いようなことを言ってきた。

 

『忠告サンキューな』

 

もう一度寝直そうかとも思ったが、厩舎の入り口が開く音が聞こえた。ああ、もう調教の時間なのか。

 

 

獅童さんが無理をしなかったのが効いたのか俺は案外疲れることなく厩舎に帰ることができ、もう調教を再開している、のだが。

 

NHKマイルカップの直線の光景が、あの日から夢に出てくるんだよ。しかもさっきみたいに悪夢にアレンジされまくってて最悪なやつが。

 

それを見る度飛び起きて、荒い呼吸を整えながら意識がはっきりすると、悔しさが湧き上がる。そしてその感情が俺を坂路へと誘うのだ。

 

 

『うおおおおおお!』

 

「こら!そんなに飛ばしちゃ駄目!」

 

『獅童さん、すまん!でもこうでもしないと強くなれねぇんだよ!』

 

「頼むから!バクソウオー!スピード落として!オーバーペースだよ!」

 

ジュンペーが戻ってくるまでの間の、正式な主戦に決まった獅童さんが手綱を強く引っ張る感覚が伝わってくる。

 

だが残念だったな!と言わんばかりに、俺はお構い無しで坂路を爆走中。心臓が荒れ狂うように拍動しているがこのくらいなんてこと無い。

 

「ああ・・・またオーバーペースのまま登りきっちゃったよ・・・」

 

やがて坂を登り切り、息を整えながらゆっくりとクールダウンするための緩やかな道を下っていくが、すでに俺の意識は次の登坂へと向いている。

 

『はぁ、はぁ・・・よし、次だ』

 

「ちょっと、バクソウオー」

 

そうやってまた坂路の始まりへと行こうとしたところで獅童さんにちょんちょんと手綱を引かれた。む、これは獅童さんが俺に仕込んだ調教終了の合図。正直もうちょいやらせて欲しいが・・・。

 

「これでもう今日は3本目じゃないか!これ以上やったら君の心臓が潰れちゃうよ!」

 

『えっ、もうそんなにやってたのか、痛っ?』

 

俺自身はそんなに走った感覚はないんだが。そう思ってはいても、確かに脚には問題ないレベルの微かな痛みが走っていてこのままだと大変なことになっていたかもしれない。獅童さんの冷静な判断に感謝しつつ俺は坂路コースを後にする。

 

 

「ただいまーっ、と、アイツはいないんだったな」

 

厩舎に戻ってきても、隣の馬房のG1馬(イーグルカフェ)はいない。レース後にセンセイが馬主さんと話し合った結果、そのまま東京に滞在して安田記念に出ることになったらしい。

 

『次も勝って、優勝の証を増やす』とか浮かれたように言っていたけど、調子に乗りすぎだ。確か史実は・・・うん、またアイツの鼻っ柱が木っ端微塵だな。

 

右隣の馬房は最近新馬が入厩することが決まったらしいが仕上がりが遅れているのかまだ空きっぱなし。どんな奴が来るのやら。 

 

お向かいさんの馬は放牧だ。昼間の内は人間がいて賑やかだからいいけれど、これが夜になるとしんと静まり返って意外と心細くなってしまう。

 

ひょっとしたらこの心細さが悪夢の原因なのかもしれないと思いつつ、逆にその静けさが反省するのにはいい時間になるのではと閃いた。

 

よし。ここは一つ反省会でもしてみようか。

 

・・・その反省会の結果大変なことになってしまったのだが、この時の俺はそんなこと知るわけがなかった。

 

 

 

 

セキトが己を見つめ直そうとするその一方、厩舎の人々はそのセキトのことで頭を悩ませていた。

 

「獅童、セキトがおかしいというのは本当か」

 

太島の問に、獅童はゆっくりと頷いてから話しだした。

 

「はい、レースの後から・・・元々調教も真面目に走る馬だったんですが、ちょっと今日の坂路での走りは、まるで何かに追い立てられてるようでした」

 

その言葉を聞いてふむ、と一息ついてから太島は考察を述べた。

 

「追い立てられる、か。この間のNHKマイルカップが堪えたかもしれん。それにアイツは負けず嫌いだ、負けたくない、と無茶をしてるんだろう」

 

「そうだと思います。バクソウオー、レースでも完全に脚は上がってるのにハミはガッチリと噛んでましたから・・・」

 

「マスコミにこんな写真を撮られたくらいだ。余程悔しかったんだな」

 

獅童がセキトは最後まで諦めてはいなかったと伝えると、太島は懐から1枚の写真を取り出した。

 

「あっ、これ・・・」

 

それは、NHKマイルカップのゴール直後、涙を流すセキトバクソウオーの姿を捉えたもの。

 

「かつて、皇帝と呼ばれたシンボリルドルフも、秋の天皇賞でギャロップダイナに敗れた際、涙を流したというからな」

 

「あのルドルフも泣いたんですね・・・」

 

「ああ、本当に悔し涙かは分からないが、そうだと信じている人は多い」

 

獅童のセリフに同意してから、太島は言った。

 

「アイツは賢い馬だ。恐らく、レースに勝つまで気持ちが収まることはないだろう・・・このままだと調教にも支障が出かねない。来月、もう一度使うぞ」

 

「来月ですか」

 

驚いたような表情を浮かべる獅童。順当ならセキトは立直しを図るためにも放牧に出されると思っていたからだ。

 

「中日スポーツ賞4歳ステークス。1200mだし、今のセキトには色々と丁度いいだろう」

 

太島はガス抜きとして次のレースを使うと獅童に告げた。

 

 

 

そして迎えたレースの日。

 

分厚い雲に覆われた空の下、中京のパドックに姿を現したセキトは前走から−14kgと大幅に馬体を減らし、その心の内で未だ収まらない怒りを燃やしていた。

 

『あんなんで・・・何がG1馬だよ・・・』

 

その対象は、自分。あの日の反省会の末に至った答えは、己の未熟さ。周りの馬に被害が及ばないよう、今すぐにでも滅茶苦茶に暴れてしまいたい本能を必死に抑えている。

 

「バクソウオー・・・」

 

愛馬のあまりの姿に言葉を失う獅童。思わず見つめたセキトの目の中に、炎がギラギラと揺らめいたような気がした。

 

「セキト、お前・・・やはり怒っているのか」

 

太島も、体重については自分が至らなかったと反省しつつ、ふと向けられたその目を見てやはりセキトはただの馬ではないと実感する。

 

「おいおい、あれは酷いな」

 

「アバラが浮いてガリガリじゃねぇか」

 

客席からセキトと陣営にむけてヤジが飛ぶ。NHKマイルカップの敗戦もあいまったその結果、重賞馬にしては評価は低く6番人気。

 

そうやって今日はだめだと先入観に捕らわれていた観客は、スタートから約50秒後、信じられない光景を目にすることになる。

 

 

『中日スポーツ賞4歳ステークス!直線を向いた!マッチレース!今年は2頭のマッチレースになりました!』

 

中京の300mしかない直線に、逃げた2頭の馬が馬体を合わせたまま突入してきた。

 

『ぐぅぅ・・・早く落ちろ!』

 

『僅かに先頭を行くのはユーワファルコンか!』

  

 

13番人気、鹿毛の牡馬ユーワファルコン。

 

 

『落ちねぇよ。千二なら尚更な』

 

『並んで差のない二番手に、セキトバクソウオーだ!』

 

そして、ユーワファルコンにピッタリと張り付くように走る6番人気セキトバクソウオー。

 

後続集団を3馬身突き放したまま、2頭ともまだ脚には余裕がある。

 

「このまま行けば、大荒れになるぞ」

 

ざわめき出した中京競馬場で、誰かがそう呟いた。

 

 

『(正直俺は、自分が許せねぇし、恥ずかしい)』

 

セキトは、走りながら怒ってはいるが同時に段々と冷静にもなっている。

 

ほろ苦い敗戦。その要因を考え、結局自分もかつてのイーグルカフェと同じように、重賞を勝てたのだから次も勝てるだろうとあぐらをかいていたのだと気がついた。

 

その結果がNHKマイルカップ。掲示板に乗れなかったどころか、着外の8着。

 

勿論太島が言っていた様に距離が長いのも敗北の一因ではある。だがそれ以前に、自分は本気で勝とうと努力していただろうか?

 

答えは、否だった。

 

今までは持ち合わせた才能と、運で勝っていただけだ。

自分の努力なんて、まだまだこれっぽっちも勝利に貢献などしていない。

 

そう結論づけたセキトが歯を食いしばって強く馬房の床を踏みつけると、皆が寝静まった夜更けの厩舎に、鈍い蹄の音が響き渡った。

 

幸いにも挫石にはならずに済んだ。

 

 

それからセキトは、ほぼ毎日の様に坂路を激しく駆け上がり続けた。身体を鍛えたかったのでは無く、やりきれない気持ちをどこかで発散したかったのだ。

 

そうやって赤い馬体が幾度となく全速力で坂路を駆け上がる姿はまるで火の玉のようでもあり、或いは暴走した機関車のようでもあり。

 

その甲斐あってか今日のレースまでにはいくらか冷静さを取り戻すことができた。飼い葉が喉を通らなかったのもあって体重は犠牲になったが、レースでそこまで強い相手はいないと聞いてセキト自身はむしろ丁度いいとすら思った。

 

格下相手と言うなら、更に走法チェンジも無しだ。ストライド走法だけで勝ってやる、と今日はコーナーをピッチで走っていない。

 

マイナス(ガレ気味)マイナス(左回り)マイナス(走法縛り)。マイナス要素の三連単なんて上等じゃないか、とようやく怒りを闘志に変えて。

 

『本当に強い(ヤツ)ってのは、こういう時に勝てる奴のことを指すんだよ!』 

 

改めて確認するように叫んでから、ハミを取って加速する。細くなった馬体にスパートは少々堪えたが、この状況でこのレースを落とすようではG1馬になんてなれやしないだろう。

 

 

「やっぱり、君は勝ちたいのか」

 

そんなセキトの手応えをダイレクトに受けた獅童は馬上で呟いた。

NHKマイルカップの時とは比べ物にならないアバラの浮いた馬体を見て、今日は回ってくるだけにしようと決めていた・・・レースが始まるまでは。

 

スタートしても追わずに、馬なりで。そうやって馬に負担がかからないようにした筈なのに、セキトはゲートを出ると先頭を走るユーワファルコンにすーっと並びかけ、その体勢を変えずに走り続けて直線でも全く退かない。

 

全く指示していないのにこの動き、この走り。間違いなくこいつはとんでもなく負けず嫌いで、自分自身でレースを勝とうとしている。

 

「ふふ、まったく、このままじゃぼくはただのお荷物じゃないか、そうだな・・・」

 

確信した獅童は思わず笑ってしまった後、緩めていた手綱をしっかりと握りしめ、少しでも彼の助けになればと扱きだす。

 

「いけーっ!やってやれーっ!!」

 

そう強く言い放つと、セキトの目がちらりとこちらを見やって、『ありがとう』と言っているような、そんな気がした。

 

 

『残り100!ユーワファルコンわずかに先頭か!?並んでセキトバクソウオー!セキトバクソウオーが抜けた!』

 

『くぅ・・・ここまで、か・・・!』

 

残り100mを過ぎて、ずっと馬体を併せていたユーワファルコンが、遂に力尽きる。

 

『悪ぃな、先に行かせてもらうぜ!』

 

勝利を目前にしながら下がっていくライバルにそう声をかけると、セキトはそのままゴール板をめがけて走り続ける。

 

『っはぁ、はぁ!やっぱり、ガリガリだと、この距離でもしんどいけど、よ!』

 

『くっ!アイツ、だって、バテてる、筈なのに!』

 

最後は痩せ細った身体故、やはり脚が上がった。それでも前半で後方に付けた差が生き、先にバテたユーワファルコンは勿論、3番手以下も届きそうにない。

 

 

『・・・ったぜおらあああぁぁぁ!』

 

『セキトバクソウオー、1馬身差つけてゴールイン!2着はユーワファルコン。勝ち時計は1分8秒7と出ています、6番人気と13番人気で決まった中日スポーツ賞4歳ステークス、馬連の配当が大変なことになっております!』

 

セキトは、ゴール板をどの馬よりも先に駆け抜けた。

 

 

『やった!やった・・・!』

 

レースで乱れた息を整える。痩せた身体で、左回りの中京で、完全には力を出せない状態で。重賞を勝ったのだ。

 

そしてセキトは今、それによって自信と誇りを確かに取り戻した。

 

「バクソウオー。気は、済んだかい」 

 

獅童が愛馬の首を叩き、労いながら声をかける。ここ数日は呼びかけに対して全く反応を示さなかったが、今、彼を優しく見つめるセキトの目に怒りはもう無い。

 

『獅童さん・・・迷惑をかけてすまなかったな』

 

「うん、もういつも通りだね」

 

『おう』

 

呼びかけに対して、鼻を鳴らして応える赤き勝者に獅童はほっと胸を撫で下ろした。そう、これだ、いつものセキトバクソウオーだ。

 

 

これにて、重賞2勝目。

 

しかしその横顔にあったのは喜びではなく、なにかをやり遂げたような、スッキリとした表情。

 

彼の中から嵐は去り、凪の様に穏やかな澄んだ瞳が、雲を割って空から覗く陽の光を映し。

 

セキトはもう二度と、あの悪夢を見ることはなかった。

 

 

 

 

 

『うごぉ・・・またか・・・力が入らねぇ』

 

その数日後。やはり痩せた馬体でレースを激走したダメージは想像以上に大きく、セキトは最早無視できない程にガレてしまっていた。おまけにまたまたコズミ。

 

太島はそんな、生まれたばかりという訳でもないのにプルプルと震えるセキトを見ながら頭に手を当てて首を横に振ってため息を付いた。

 

「どうしてこうなる・・・」

 

『センセイ、ごめんなさい、無理しました・・・でも笹針は勘弁してぇ』

 

前に休養と称して笹針を打たれ、一ヶ月でスピード復帰させられたこともあったセキトはまたあの痛い思いをしなければならないのかと恐れていた。

 

しかし、意外にも続く太島の言葉は今のセキトにとって正に天国行きのチケットだった。

 

「まあいい、どうせレースが終わったらしっかり放牧に出すつもりだったからな。少し長旅になるが平気だろう」

 

『た、ただの放牧!?助かった!』

 

思わず力が抜けて、へなへなとその場に座ってしまうと、何かあったのかと何人も厩務員が集まってしまって恥ずかしい思いをしたセキトなのであった。

 




現実の季節とは真反対の夏休み編、開幕。
次回更新は月曜22:00予定です。

・今回の主な被害馬

ユーワファルコン 牡 鹿毛

父スターオブコジーン
母ロンバーデル
母父Lombardi

・被害ポイント
中日スポーツ賞4歳ステークス
優勝→2着

・史実戦績
26戦5勝
主な勝鞍
中日スポーツ賞4歳ステークス(G3)

・史実解説
スターオブコジーン譲りの、抜群のスピードを受け継いだスプリンター。デビューから3戦目で初勝利を上げると、一度8着を挟んで500万下も勝利する。
6戦目で中日スポーツ賞4歳ステークスに出走すると、逃げ切って勝利。重賞ウイナーとなる。

しかしその後はCBC賞3着を最後に重賞で入着する事はなくなり、1600万下の新潟日報賞と、OPの福島民友カップの2勝を重ねただけに終わり、03年の霜月ステークスを最後に引退した。

引退後はスピード能力を買われて種牡馬となったが産駒数も少なく、競走馬となったのは5頭だけである。

2010年、心臓麻痺のため死亡。遺された産駒の中から笠松で8勝を上げたインボッカアルーポが現れた。

・代表産駒
インボッカアルーポ 牡(母フィールドアリダー)
 中央2戦0勝 地方(笠松)61戦8勝
主な勝鞍 サラ系B11・C3組
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