サラブレッドに生まれ変わったので、最速を目指します   作:Budge

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いよいよウマ娘ユーザーが待っていたであろうあの馬の登場です。
性格面に関してはウィキを見つつ脚色すると、こんな感じかなー、と。


帰厩したらカフェが2頭になっていた

8月上旬。おっさんとセンセイによって、十分に休養出来たと判断された俺は、馬運車に揺られて夏真っ盛りの美浦トレセンへと舞い戻ってきた。

 

真夏と言えどこの時代の関東地方の平均気温は約28℃ぐらいらしい。30℃を超える日が無いわけではないが現代のヒートアイランド現象を経験し、その酷暑を想像していた俺にとっては全然なんともなかったから拍子抜けした。

 

しかし周りの馬はそうもいかないみたいだ。条件戦突破を目指して走り続けている奴や、デビューに向けて鍛錬する新馬の中には馬の夏バテである夏負けの症状に陥っている奴もいる。

 

こんなに涼しいのにバテるものなのかと、それが俺にとっては不思議で仕方なかった。

 

「セキト、よく戻ってきた・・・これは放牧して正解だったな。馬体も戻ったし、ようやく身体が出来てきた」

 

「この一ヶ月でまた随分と成長したねぇ」

 

馬運車から降りた俺を、センセイと馬口さんが迎えてくれた。成長したってことはだんだんキ甲に高さが出てきたってことか。けどセンセイの口ぶりから察するにピークにはまだまだっぽい。

 

 

馬口さんに引かれながら厩舎に向かう中でふと思った。俺のピークっていつになるんだろうな?バクシンオー産駒って早めに仕上がるイメージなんだが俺にその特徴は出てないみたいだし。

 

もっとも、スプリンターとして成長が遅めなのは損ではないんだけれど・・・うぅ、力はあるのにそれを出し切れないのがもどかしい。

 

っと、馬房に入る前にあいつに挨拶しないとな。久しぶりだし。

 

『よう、帰ったぜ』

 

『おお、よくぞ帰還した、バクソウオー』

 

俺の声を聞いたイーグルカフェが、馬房から顔を出して出迎えてくれた。

 

こいつはNHKマイルカップの後、馬主の意向で安田記念に出走した筈だ。史実通りなら古馬の壁に跳ね返され、7番人気とそこまで人気がなかった上海外からの使者に手も足も出ず13着に大敗したんだったな。

 

『どうだ、イーグルカフェ。頭は冷えたか?』

 

そう鎌をかけてみると。

 

『うむ・・・いささか吾輩は調子に乗りすぎていたようだ』

 

馬房に入る俺に語る内容はまた勝利に向かってひたすら努力すべきだな、とすっかりいつも通りだった。あ、これ負けたんだな。

 

勝ち負けを察した俺に、イーグルカフェが少しバツの悪そうな顔をしたが、すぐに持ち直して話題を変えてきた。

 

『それから、空いていた貴様の隣だが・・・ついに入厩してきたぞ、しばらく落ち着かなかった様であるし新馬のようだな』

 

『ホントか!?』

 

その指摘で、俺は空いていた筈の右の馬房に別の馬の気配があることに気づいた。

 

『頼むぞー、気性とか荒くない、とっつきやすい奴で・・・!』

 

何しろどんな馬が、とかどういう癖がある、とかはセンセイからも馬口さんからも全く聞き取れないままだったのだ、祈るような気持ちで呟く。

 

すると、それを聞いたイーグルカフェが困ったような顔で言ってきた。

 

『バクソウオー。その、何だ。そこにいる者は悪い者ではない。のだが・・・』

 

『のだが・・・?』

 

イーグルカフェはそれきり黙ってしまった。言い方が引っかかるが、首を傾げつつもあまり気にしないほうが先入観なく接することが出来るであろうと俺は踏む。

 

新馬には俺から声をかけることにしよう。当たって砕けろだ。

 

右側に首を向け、中を覗き込んだんだが、ありゃ、姿が見えないぞ。隅の方にいるのだろうか?

 

挨拶でもして、早速ご対面と行くか。

 

『よう、そこの新馬さん、よく来たな!』

 

『ひぇっ!?』

 

意を決して、勢いよく声をかけてみると驚いたような声の後にガサガサと音がして、にゅっと出てきた頭は馬体もタテガミも黒一色。更にその額から鼻梁にかけ、流星が走っていた。

 

『(か、かっけぇ・・・!)』

 

なんというか、海外製の高級車的なかっこよさがある。真っ先に思い浮かんだのはベ○ツ。いや、馬だからフェ○ーリか?とにかく男でも惚れてしまいそうなルックスに息を呑む。

 

端的に言えばイケメン。そんな新馬くん?ちゃん?の返答を待っていると。

 

『な、なんですか・・・ボク、その、他の馬とあんまり関わりたくないんです・・・』

 

困ったような表情、そして控えめな声・・・この感じは牡馬か。あんまり乗り気ではなさそうなその態度に、ひょっとして声のかけ方を間違えてしまったかなと思ったその瞬間。

 

『ん・・・あれ?え?』

 

新馬くんの方から急に俺を凝視してきた。先程とは180度違うその反応に俺は少しばかり恐怖を覚え、思わず身を引きつらせる。

 

『な、なんだ、どうした』

 

あくまで先輩として振る舞おうとして、そう声を発すると。

 

『あの時の(ひと)だ!』

 

『へ?』

 

新馬くん?あの時、と言われましても。どの時だったか。悩む俺を、新馬くんは更に捲し立ててきた。

 

『ほら、覚えてないですか!?2年前のセリ!』

 

2年前のセリ?あの時って言ったら周りは知らん馬だらけで、朱美ちゃんと出会った後にじっと俺を見てきた仔馬ちゃんが気になったくらいで・・・って、おい、ちょっと待て。

 

この流星、黒い毛並み。そういえば見覚えがあるぞ。

 

おい、これはひょっとして。まさか・・・。

 

『・・・嘘だろ!?あの時の仔馬ちゃん!?』

 

『ハイッ!そうです、あの時の仔馬です!』

 

なんてこった!この真っ黒なイケメンホースがあの時の仔馬ちゃんだと!なんとまあ立派になりやがって!

 

『マジかよ、すっかり立派になったな!』

 

『バクソウオー、知り合いなのか?』

 

会話が盛り上がりだしたのが気になったのかイーグルカフェが顔を出してきた。

 

『ああ。2年前のセリでちょっとな』

 

『ふむ。セリか。吾輩もそれでこの地に渡ったものだ』

 

そういえばイーグルカフェもアメリカ生まれで日本人馬主が競り落としたから日本に来たんだったな。

北海道から茨城に来るのだって大変なのに、海を渡るとなれば・・・その負担は考えたくもねぇや。

 

『あの・・・先輩?』

 

『先輩!?』

 

イーグルカフェと話していると、今度は新馬くんが声をかけてきた、ってせ、先輩!?

 

『あっ、ダメでした!?だったら別の呼び方を・・・』

 

新馬くん、すまない。拒否の意味じゃなく漫画やアニメの世界でしか聞いたことがないような憧れの呼び名に、感動を覚えただけだから!

 

『いやいやいや、大丈夫!寧ろ全然オーケーだから、な?』

 

『よかった、嫌じゃなかったんですね』

 

俺が好意的な態度を見せると、ホッとした新馬くんはそのまま自己紹介を始めた。

 

『えっと、ボク、マンハッタンカフェと言います。その・・・先輩のお名前は』

 

『俺はセキトバクソウオーだ』

 

『バクソウオー先輩・・・!』

 

名前を聞いただけで目を輝かせる新馬くん、もといマンハッタンカフェ・・・マンハッタンカフェ!?

 

おいおい、マンハッタンカフェって言ったら勝ち上がりは遅れたが菊花賞と有馬記念、そして春の天皇賞を制して更に種牡馬としても実績をあげたスーパーホースじゃねえか!

 

気づけば史実G1馬にサンドイッチされた正史に存在しないサラブレッドの俺。あれ、なんだか急にプレッシャーが凄い。

 

『デビューはまだまだ先になりそうなんですけど・・・これからよろしくお願いします』

 

『おう。頑張ろうな』

 

丁寧に挨拶してくれるマンハッタンカフェ。

落ち着いているのはいいんだが、どうにもさっきの言動とか、他馬に対してあまり慣れてないのか?

 

まあ、それに関してはセンセイの仕事の一環だ。どうにかしてくれるだろうと信じて俺は俺自身の調整に打ち込むとしよう。

 

それでも、もしセンセイがマンハッタンカフェの調教やらなんやらを手伝ってほしいというのならその時は全力で応える所存である。

 

 

こうして新しい仲間も迎えて、秋競馬に対しての気持ちが昂ぶってきた俺の次走は・・・セントウルステークスだそうだ。

 

ちょっと入厩から出走までの期間が短すぎないかとも思ったが、むしろこの放牧で俺の馬体重が思ったよりも増えてなかったらしい・・・多分仔馬ちゃんと、サクラシンゲキのせいだな。思い返せばそこまで草食ってないし。

 

無理をしない程度に追って、センセイの計算では3週間もあれば俺はしっかり仕上がるだろう、とのこと。

 

 

『まったく、休養した後に気合い入れんのはそんなに簡単じゃないんだけどな!』

 

「よし、行くよ」

 

獅童さんを背に、レースに向けて入厩後一本目の坂路をストライド走法で力強く駆け上がる。

 

牧場で仕込まれた偉大な大伯父さんの走り。今までの独学によるなんちゃってではなくしっかりとしたストライド走法になったお陰か、スイスイと登って・・・ほら、あっという間に登りきってやったぞ。

 

『一丁あがりっと!』

 

「あれっ、もう駆け上がったのか!?なんだか速かったような・・・?」

 

すると獅童さんがあれっというような顔をして、呟いた。

 

「ひょっとして身体の使い方が上手くなってる?やっぱり放牧って大事だなぁ。これなら次のレースも差しで行けるかも・・・」

 

獅童さんは放牧による成長だと思っているようだな。一応、間違いではない。なんたって放牧期間中に(幽霊に扱かれて)成長した訳だからな。

 

 

それから俺はセンセイの言うとおり「無理をしない」程度に追われて、順調に仕上がり。

 

その一方で、マンハッタンカフェに関しては、調教すればするほど、課題が山の様に見つかったらしい。

 

まず、坂路で緩く追ったら身体が出来ていなかったようで体調を崩した。じゃあそれまではウッドコースで、と走らせたら隣を通過していっただけの他馬にビビってまるで集中していない。ブリンカーも殆ど効果なし。

 

そんな調教とも言えない調教が数日に渡って続いたせいだろうか。

 

 

先輩(ぜんばい)ぃぃ〜!ボク、やっばりダメな(うば)でずぅ〜!!』

 

とうとうある日の晩、マンハッタンカフェは俺に泣きついてきた。

 

『マンハッタンカフェ!?どうしたんだ!?』

 

俺はそれに驚きながらもとりあえず聞く姿勢を取る、マンハッタンカフェは涙が収まらないまま、話を続けた。

 

(はじ)っただけでお腹壊ずじ!今日(ぎょう)(どなり)を通っだだげの(ひど)に!ビッグリじで!全然練習(れんじゅう)にならないじ!』

 

ははあ、こいつ、泣き虫か。まだまだ調教も始まったばかりの新馬だもんな。泣く、喚くなんて位は入厩から間もない新馬としては、当たり前だと思う。

 

『あ゛あ゛ーー!ぐやじいいぃ!』

 

『おっ?』

 

なんだよこいつ。すごいじゃないか。もう悔しいって思えるなんてな。

 

悔しい!ってのは時にエネルギーに化けうる感情だ。まあ、そのエネルギーを貯め過ぎて大爆発した結果無事では済まなかった例、というのも幾つもあるが・・・。

 

少なくとも俺が見てきた新馬が泣く理由ってのは、ホームシックだとか、調教が厳しすぎるといった激変した環境を嘆くものが殆どだった。

 

『なあ、マンハッタンカフェ』

 

『ひぐっ、なんでずがぁ』

 

呼びかけに返ってきたのは相変わらずすすり泣くような声。マンハッタンカフェの感情はまだ収まらないらしい。

 

『お前はすごいよ。最初っからそれが悔しいって分かってるんだから』

 

『ふぇ・・・?』

 

 

俺が入厩したばっかりで、初めての併せ馬をした時の話をしよう。ウッドコースを走って、先行する相手をもう少しで捉えられると言うところでゴールが来てしまった。

 

その時心に吹き出した感情の正体が掴めなくて、俺も今のマンハッタンカフェみたいにちょっと荒れたんだ。

 

しばらくしてその感情は、すっかり忘れていた『悔しい』という思いだとようやく気づいたのだが、同時に人間としては悔しいという感情が死んでいた事に気づいて更に悔しくなったんだよな。

 

 

『悔しい、はエネルギーなんだ』

 

『エネ、ルギー?』

 

隣の馬房から、不思議そうな声色が返ってくる。

 

『ああ。悔しいってのは、次は負けたくない、失敗したくないってことだろ?だから、次はそうなってたまるかって努力できるし、努力するから強くも上手くもなれる』

 

更に言えば、それでも及ばなかった時に折れるのか、また悔しいと努力出来るかは・・・ソイツ次第だ。

 

『えっと・・・悔しい、は強くなれる?ってことですか?』

 

『そういうこと。ま、適度に休まないと行き着く先は故障(パンク)だけどな・・・ってうぉ!?』

 

言い切った俺だったが、いつの間にか馬房から顔を出していたマンハッタンカフェの顔が目の前にあって驚いてしまった。し、締まらねぇ!

 

けれどそのマンハッタンカフェは、俺に対して目を輝かせていた。

 

『先輩・・・カッコいい・・・!』

 

『えぇ・・・』

 

ここまで話しておいて、抱いた感想はそれかい!?まあなんにしても、なんとか元気になったようで良かったよ。

 

『落ち着いたか?』

 

『はい、話を聞いてもらったら、大分スッキリしました!ありがとうございます!』

 

俺の問いかけに元気よく応えてくれるマンハッタンカフェ。うん、大丈夫そうだな。そう判断して俺はおやすみの挨拶をする。

 

『それじゃ、おやすみ』

 

『おやすみなさい!』

 

 

馬房に引っ込み、目を閉じながら俺は思った。願わくば、早くマンハッタンカフェの努力が実りますように。

 

 

 

 

 

翌朝。ウッドコース。既に多くの馬が調教を終え、立ち去ったその場所で漆黒の馬体が躍動する。

 

『悔しいは!強くなれるってことなんだ!どうだぁ!』

 

 

セキトの言葉を胸に、マンハッタンカフェは力強くコースを駆け抜けた。心配だった故に太島と担当の厩務員がコース脇から見守っていたが、他に馬がいなかったのもあって今日はしっかりと集中出来ていたようだ。

 

「他の馬がいない時間を狙っただけあって、やっとまともに走りましたね」

 

その様を見た厩務員が、安堵の声を出した。彼らだってただマンハッタンカフェが戸惑うのを見ているばかりではない。敢えて時間をずらし、馬が少ないこの時間帯を狙ったのだ。

 

「ああ。しかしだ、タイムを見てみろ。これが、初めてまともに走った時計だぞ」

 

隣の太島が手に持っていたストップウォッチを厩務員に見せる。

 

「・・・!これって!?」

 

それを見て驚く厩務員に、太島は頷いてから告げた。

 

「何もなければ、こいつはダービーに出れる馬だ」

 

マンハッタンカフェの終い1ハロンのタイムは、まだ微かにではあるが、確かにこの馬は並の馬ではないとの気配を漂わせていた。

 




高くそびえる摩天楼も、最初は何もない更地である。
誰かが材料を積み上げて初めて摩天楼となるのだ。

なんてね。

という訳でこの小説のマンハッタンカフェは、色々考えた結果半分チケゾーと化しました。
我ながらどうしてこうなった。

次回更新は月曜22:00予定です。
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