サラブレッドに生まれ変わったので、最速を目指します   作:Budge

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この時代の競走馬のリハビリの情報が無くて大変でした。

深夜作業していたら一回間違えて投稿してしまうし・・・眠気を押して作業なんてするもんじゃないですね。

皆様も誤爆投稿にはお気をつけ下さい。

それとレース映像が2000年以前の物が少なく2001年以降が多く残っているのってなにかあったんでしょうかね。


奔走、それぞれの年末

天高く馬肥ゆる秋。

 

現代においては秋の穏やかな気候を指す言葉だが、本来は秋になると敵の馬が肥えて力を付ける時期だから攻撃に気をつけろという意味だったらしい。

 

その言葉通り今の世も秋はサラブレッド、特に4歳馬にとっては充実の時を迎える季節。

 

・・・の筈なのにそれを丸々骨折療養で棒に振ったおバカが俺、セキトバクソウオーです。現在は運動制限付きでパドックにて放牧中。

 

セントウルステークス後に骨折が発覚した俺は競馬場から直接育成牧場へと運び込まれ、休養の後に手術を受けた。

 

生まれ故郷は故障した身には遠すぎるし、育成牧場の方が人も設備も揃っているとのことでこちらになったそうだ。

 

まあ骨折と言っても不幸中の幸いで剥離骨折、骨の一部が砕けて欠片が飛んでしまうという軽い骨折だったから手術も関節鏡を入れてそれを取り出すという小規模なやつで済んだ。場所も良かった(?)みたいで比較的短時間で無事終了。

 

びっくりしたのは馬ってこのくらいの手術なら立ったまま部分麻酔でやるんだな。俺はこれが治療だって分かってるから注射も手術も大人しく受けられたけど。

 

処置をしてくれた先生たちが「毎回こういう馬なら楽なんですけどね」と俺の首を何回も叩いてべた褒めしていたから普段は相当苦労してらっしゃるんだろうなぁ・・・。

 

で、その方々によると骨が人を乗せて走れる位に回復するのに大体3、4ヶ月、それから身体を作り直して順調であれば一年以内にはまた復帰できるとのことだった。

 

しかし、今回の骨折の原因は間違いなく完成した・・・いや故障してしまったくらいだし俺にとっては完全だけど不完全なストライド走法だ。

 

あの力尽くで古馬をなぎ倒してしまえるくらいの加速は捨て難いが、その度にこうなってちゃ埒が明かないし、またこんな目に合うなんてまっぴら御免である。

 

『今回は剥離骨折で済んだが、次は・・・ごくり』

 

右脚に巻かれた痛々しい包帯を見て、頭によぎった嫌な想像を首を振ってかき消す。いやいや、覚悟自体は出来ているけどそうならないための対策をこの頭で練るんだろうが。

 

 

骨が治るまでの間、無理のない範疇でストレッチでもするか?それとも今は危険極まりないこの走り方を俺に合うようカスタマイズしていくのか。

 

どっちがより俺にとって良い結果をもたらすのかと草を食みながら悩んでいるが、答えはまだ出ない。

 

悩み続けていると、代わりにふとジュンペーの顔が浮かんできた。今年の初めから落馬の後遺症の治療に専念するため俺の背を降りたきりで、最後に顔を見たのは朝日杯の時。

痛みで意識を失った苦しげな顔だった。

 

忙しく過ごしている時はそんな風に思い返す暇も無かったけれど、こんな事になるなんてな。今や仲良く療養仲間だ・・・なんて冗談すら浮かぶ。

 

今主戦として俺の背に乗っている獅童さんも、クリスタルカップで一回だけ手綱を取った丘本さんもとても馬に優しい人だ。

 

でも俺にとっては相棒って言ったら、ジュンペー一択。そんな彼と半年以上会えていないのが、寂しい。もうじき一年になる。

 

・・・本当に、何をしているのかなぁ。

 

 

『はっ、いかんいかん』

 

ストライド走法の改良について考えていたはずなのに、いつの間にか頭の中身はジュンペーの事へとシフトしていた。

 

彼に、立派な古馬になると誓っておいてコレである。こうなったら色々考えて寂しいのを誤魔化してやる。まずはストライド走法についてのおさらいだ。

 

ストライド走法は、脚のストライド(歩幅)を大きく取ることで、回転数が遅くなりスピードの維持が期待できる走り方。

 

しかしその分地面を強く蹴り込むため脚へのダメージは大きくなり・・・下手を打つと怪我をする。今の俺みたいにな。

 

この脚への負担をどうにかできればいいのだが、負担がかからないよう力を抑えればストライドが狭まり、スピードの維持というメリットを失ってしまう。

 

『んー・・・スピードが維持できないってことは、減速してるってことだよな・・・』

 

ならばその減速をカバーできれば良いのでは?その悩みに応えるのがもう一つの走り方であるピッチ走法。

 

こちらは逆に脚の回転数を上げること・・・つまり小さなストライドを素早く繰り出すことで小回りや加速力を確保できるってのは前に話したよな?

 

けれどそれはストライドの強みそのものを捨てるということに他ならない。

 

ストライドを生かせばピッチが消え、ピッチを生かせばストライドが消える。そんな相互関係にある2つの走り。

 

堂々巡りを繰り返した挙げ句答えが出ないことに苛ついた俺は、ヤケクソ気味に秋の高い空に叫んだ。

 

『あー!もう!ストライドもピッチも、両方一気に走れたら最強だろうなぁー!!』

 

その自分の一言でピンときた。

 

『あっ』

 

一頭、おったわ。実質ストライドとピッチを同時に繰り出してるバケモノ。

 

『でもなー・・・あいつ、正真正銘100年に一度くらいの天才だからなぁ。俺に真似できるか・・・』

 

そのバケモノとは、近代日本競馬の結晶とまで言われた、二頭目の無敗の三冠馬。

 

そう。

 

ディープインパクトである。

 

 

とあるデータによると、ディープインパクトは優れた心肺と、柔らかい身体が合わさった結果他馬には到底真似できない走りになっていたそう。

 

具体的に言えば、『平均よりも歩幅が大きく、それでいて脚の回転が他馬より速い』という感じ。

 

うん、訳わかんねー。というかそりゃあんなに速い訳ですわ。

 

とにかくその、ストライドピッチとでもいうべきその走りを真似できれば、大きなメリットになるのでは?と思った俺だが、いきなり無理をしてこれ以上身体を痛めるとまずいので最初は小耳に挟んだある噂を試すことに。

 

それは極度に身体の柔らかい馬ってのは、大人になっても後ろ脚で耳の付け根を掻けるというものだ。

 

という訳で俺も後ろ脚耳かきに挑戦!

 

 

『ふっ!この、よっ!はぁ!』

 

ここか?ここか?と左右の後ろ脚を持ち上げ、耳の後ろを掻こうとしたものの。

 

 

『いや、マジ無理・・・なんで掻ける馬がいんの・・・』

 

見事撃沈。疲れて地面に横たわりながらやっぱバケモノはバケモノだと痛感した。というか寧ろやばいくらい脚が上がらなかったんだけど。何?やっぱ俺って体固いの?ひょっとして故障したのってこれも一因?

 

思わぬ弱点を発見したところで、じゃあこの柔軟性ってどうやったら改善するんだ、と思考する。

 

そういえば人間だった頃、柔軟運動ってのがあったな。健康のためとか言ってちょっと囓って、結局三日坊主で辞めてしまったけれど、微かに、なんとなーく覚えてる内容は柔らかくしたいところに少しずつ負荷をかけていく、だったかな?

 

じゃあ運動を・・・って俺骨折してるんだった。あんまり無茶はできないと思いつつ、無理をしない程度になにか体を動かせれば暇つぶしにもなるだろう。

 

考えた末に思いついたのは、その場で脚を高く持ち上げる動き。イメージは陸上のモモ上げや、馬術の馬だ。

 

『よっ、ほっ・・・おぉ、これならいけるな』

 

これならば患部にダメージが行きづらいだろう。

そうやって脚を気遣いながら、放牧地で軽く運動したり、少しでも痛みや違和感を感じたときは休んだりしながら過ごし、年末。

 

 

少しの異常も見逃さないと言わんばかりに慎重に俺の脚に触れていく獣医の先生・・・顔を見たらなんといつぞやの筋井さんだ。ほんとこの人どこにでも現れるな。

 

「だいぶ良さそうですね、これなら調教を始めても大丈夫でしょう」

 

その一言に、固唾を飲んで見守っていた俺もスタッフさんもほっと胸を撫で下ろした。ようやく次の段階に進める。

 

 

右脚をガードしていた包帯が外され、いよいよ放牧地に放たれると、今まで治療の為に抑え込んでいた馬の本能が爆発した。

 

『いよっ・・・しゃああああ!ようやく走れるぜー!』

 

「うわ!っと、セキト!あんまりはしゃぐな!」

 

そうは言われましても。ようやく包帯が外れたのと通常の放牧地に放たれたことが嬉しくて、俺は放牧地を駆け回り、後ろ脚で立ち上がったり、尻っ跳ねをしたりしながらと思う存分久しぶりの自由を楽しんだ。

 

『はぁ、はぁ・・・』

 

そうやって遊んでいたら息が上がって来たな。うん、やっぱ体力も筋肉も落ちてる。しかも今の俺は飼い葉をたらふく食ってプラス何kgかも分からないし、このままレースに出たら1000mすら怪しいかもしれん。

 

でも、毎日欠かさず行っていた柔軟運動もどきは着実に役割を果たしてくれたらしい。脚の運びが前よりも楽になった感じがする。

 

これほどまでとは・・・ストレッチ、本格的に日課に取り入れようかな。

 

 

それからトラックコースを駆け抜けている時なんか、昔お世話になったスタッフさんに「なんだか前より脚の動かし方が上手になってる」なんて言葉を頂いたし、これは復帰早々勝利もあり得るか?

 

なんてソラを使ってたら背中の人から見せムチ。いやいや、すみません。油断せずに体力づくりに励みますよ。

 

ぐっ、と首と体に力を込めたらムチは視界の端へと引っ込んでいった。走りに集中した事に満足してくれたようだ。

 

このままいけば、春くらいには厩舎に戻れるらしい。地域特有の冷え込む寒さの中、俺は再びターフに舞い戻るべく体力と身体づくりに励む。

 

それに最強の走法・・・仮称をディープ走りとしよう。俺は諦めたわけじゃないからな。いつか、んーと。少なくとも現役中には!身につけてやろうとこっそり誓うのだった。

 

 

 

 

 

「これは・・・かえって良かったかもしれん」

 

所変わって美浦トレセン。太島は引退や出走、入退厩等管理馬の諸々の手続きに追われながらも事務所に届いた封筒の中身を見て、口角を上げた。

 

「おぉい!馬口!お前の担当馬の近況が届いたぞ」

 

「センセイ、本当ですか!」

 

「ああ、これを見てみろ」

 

丁度担当馬のケアを終え、その場を通りかかった馬口を見かけて呼びつけると、封筒から取り出した数枚の中身を渡す。

 

そこには、育成牧場で身体づくりに励むセキトの立ち写真が。そしてもう一枚、スタッフからの手紙が添えられていた。

 

「『秋頃に入厩、手術を行ったセキトバクソウオーですが、回復が思ったより早く、リハビリも順調そのものです。このまま行けば春頃には帰厩できると思います』ですか・・・クラシックまでには会えそうですね」

 

「そうだな、それから立ち姿の方も見てみろ」

 

「はい・・・うわっ、これは!」

 

「遂にだな」

 

セキトの立ち姿は、明らかに以前と比べてキ甲が出てきていた。纏う雰囲気も幼いものから年相応の堂々たるものへと変化しつつあり、関係者からすればいよいよといった感じだ。

 

「夏と比べて腹が気になるが・・・まあそこは絞ればいいだけの話だからな。それよりも本格化していない今までの成績の方が驚きだ」

 

3歳の春にセキトが初めて入厩してきた時、太島が最初に抱いた印象は毛色が赤いなあ、というのと良くなるまでには時間がかかりそう、という事の2つだった。

 

それが新馬を勝ち、オープンを勝ち。

 

さすがにG1にこそ縁がなかったが重賞を3つも獲り。

 

それで本格化していないというのなら一体これからどうなってしまうのか。

 

「十中八九、セキトは来年中にピークを迎える」

 

「センセイ?」

 

太島は独り言を言うように呟いてから、馬口の肩に手を置いた。

 

「馬口。あいつにとって、来年は重要な年になる。お前の経験が生きる時だ・・・セキトを、頼んだぞ」

 

「はい!」

 

太島からの厚い信頼に応えるように、馬口は新人顔負けの、希望に満ちた返事をしたのだった。

 

 

 

 

 

さらに場所を移り、朱美の家にて。

 

「やーっと思いついたー!」

 

こたつの中で歓喜の声を上げ、何やら書類に書いていく朱美。

 

ちなみに実次は外出中である。

 

朱美が無心で向かう紙には、馬名登録申請証の文字と登録番号、そしてジャスミンポイントのXX00の名が。

 

「ふっふっふ、朱美さんから仔馬ちゃんに名前のプレゼントなのだ」

 

丁度時期が近いこともあって、クリスマスに書類を出そうと考えていたのだ。間に合って良かったと笑みを浮かべる。

 

と、そこに郵便のバイクのエンジン音が。

 

「あ、はいはーい!いまーす!」

 

朱美はそのまま玄関に出ると、一通の封筒を受け取った。

 

「えーと、わあ、セキタンの写真だ!」

 

それは太島の元に届いたのと同様の封筒。同時期に出された二通目が、朱美に届いたのだ。

 

「へぇー、セキタン、頑張ってるなぁ・・・」

 

手紙を読み、春頃には復帰できそうと知った朱美は安堵のため息を付きながら、写真をしげしげと見つめる。

 

「来年こそ、短い距離のG1に出れるといいね」

 

その言葉は、自分ではなくセキトの為を思って放たれたもの。

 

かつて父親が幼かった自分を思い、そして今も競走馬の真実を覆い隠している事を朱美は知っている。

 

その表情や、いなくなった馬が戻ってこなかったという事実があるからこそ活躍しなかった、出来なくなった馬の末路を朱美はなんとなくではあるが察した。

 

そして父は言った。特に牡馬はそれが厳しいと。

多くの馬が挫折する中、セキトにはせっかくここまで来たのだから是非ともG1を獲って、自分に何かが起きたとしても天寿まで生き延びて欲しいと言うのが朱美の本音だった。

 

「セキタンはあんなに速いんだもん。きっと勝てるよね・・・」

 

驚異的な末脚で、愛馬が大舞台を先頭で駆け抜ける。そんな夢を描きながら朱美は愛おしそうに写真のセキトの頭を撫でたのだった。

 




次回更新は金曜日の22:00予定です。

番外編の予定ですが、アンケートの結果次第で何を書くか決めようと思っています。
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