サラブレッドに生まれ変わったので、最速を目指します   作:Budge

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オスマンサスちゃん主役の番外編です。

あれ、花嫁修業・・・どこいった?


【閑話】仔馬ちゃん、初めての昼夜放牧

皆さん、どうも初めまして!

 

あれ?もしかしてお久しぶり、になるのかな?私はジャスミンポイントの、じゃなくって、馬主のお姉さんから、素敵な名前を付けてもらったんだった。

 

私の名前は、オスマンサス。今はお母さんと離れて、同い年の子と一緒に放牧にでています。

 

他の子や偶にキツネさん、タヌキさんもいるから寂しくはないけど・・・やっぱり夜はちょっと怖いかな。だからお日さまがバイバイしそうな時に、頭が半分くらいツルツルしてるおじさんがお家に帰ろうってお迎えに来てくれるとすごくホッとする。

 

あ、そうだ!お兄様っていうのはね、セキトバクソウオーお兄様のこと!赤くて、大きくて、とっても優しい、自慢のお兄様!

 

よく分からないけれど、私と馬主のお姉さんが出会った日から、お兄様と私は家族になったんだって。だから私もお兄様の家族になりたいなって思って、そう呼ぶことにしたの。

 

夏の間、お兄様は私と遊んでくれたんだけど、ある日白くて大きな低い声で唸る生き物の中に入っていったから、私、お兄様が食べられちゃったって泣いちゃった。

 

でも、お母さんに聞いたら『あれは食べられたわけじゃないわよ』って教えてくれたんだ!それでね、よかった、お兄様は無事なんだってすごく安心したの。

 

お母さんもあの生き物の中に入ってここに来たし、私も大きくなったら入らなきゃいけないんだって。『慣れれば怖くないし楽チンよ』って言ってたけれど、私はまだちょっと怖いかな・・・。

 

 

それからお兄様から聞いてはいたけれど、お母さんとお別れになっちゃった。しばらく寂しくて泣いちゃったけれど、それがいけなかったのかなぁ。一緒になった男の子たちから追いかけられたの。

 

私はなんにもしてないよ?だけど向こうの子たちは私が逃げるのが面白いみたい。あんなに追いかけられたら疲れちゃうよ。でも男の子たちに近づかなければいいって分かったから最近は大丈夫!

 

後はね・・・あっ!ツルツルおじさんが来た!この人は生まれたときから私をずっと気にしてくれてるの!他にも何人かお兄さんがいて・・・みんなのご飯を持ってきてくれたみたい。

 

おじさんたちは草の上にご飯を撒いて、なるべく皆が食べられるようにしてくれるの。どうしても力が強い子とか、いばりん坊な子がたくさん食べちゃうんだよね。

 

駆け寄ってきた皆が、ご飯を美味しそうに頬張ってる。そろそろお日さまが沈むから、いつも通り私はお家に帰る時間かなぁ・・・って、あれ?

 

『おじさん!私まだここだよ!ねぇ!』

 

私はお家に帰ろうってツルツルおじさんに近づいたんだけど・・・おじさん、頑張るんやでって私のお鼻を撫でたかと思ったらそのまま帰っちゃった。

 

『おじさーん・・・行っちゃった・・・』

 

私は呆然としたけど、置いていかれちゃったことに気がついて顔も耳も下向きにしょぼんとしちゃう。

 

 

『あらー?チビさん?今日は私達と一緒かな?』

 

そんな私に話しかけてくれたのは、私よりちょっと大きい茶色いお馬さん。私と違ってまだちゃんとした名前はないけれど、ツルツルおじさんや皆は、ローズちゃんって呼んでるの。

 

それとおんなじで、私も馬主のお姉さんに名前をつけてもらう前はチビちゃんって呼ばれてた・・・名前が付いたって言っても皆私のことはチビちゃんのままなんだよね。

 

『ローズちゃん・・・一緒って、皆はお家に帰らないの?』

 

私はてっきり皆も夜になったらお家に帰るんだって思ってたんだけど、違うのかな?

 

『うん、私達はねー、しばらく前からお日さまがバイバイして、またおはようって出てくるまでお家に帰ってないよー』

 

『えっ!?それって・・・夜になってもお家に帰れないってこと!?』

 

『そだよ?』

 

ローズちゃんから聞いた衝撃的な情報に、体がこわばっちゃう。

朝になるまで帰れないって・・・それって、怖ーい夜も、ここにいなきゃいけないってことだよね・・・?

 

『は、はわわわ・・・怖いよ・・・』

 

『おチビさん、おチビさーん?あらら、固まっちゃった』

 

夜ってクマさんとかシカさんも出てくるし、時々怪我をしちゃうお馬さんもいるって聞いたのに、おじさんはそんなとこに私や皆を置いて行っちゃったの?ちょっとショック。

 

『おじさん・・・信じてたのに酷いよ・・・』

 

『あー、これは・・・ほら、おチビさん。とにかくご飯食べよ?・・・もう殆ど無いけどさ』

 

涙がこぼれちゃった私に、ローズちゃんがそう言ってくれる。振り向くとあんなにあった筈のご飯は食いしん坊の子たちがほとんど食べちゃって、ちょっとだけ残ったご飯を皆で一粒一粒拾ってる。

 

『うん・・・』

 

あ、今ご飯なら脚元に沢山あるじゃないかって思ったでしょ?確かにこの草もご飯なんだけど、でもおじさんが持ってきてくれるつぶつぶのご飯の方がずっと美味しいから人気なんだよ。

 

とぼとぼとご飯の場所に行くと、あれ、今日はチビも一緒か、とか今日は帰らないんだねーって珍しいものを見る感じで言われちゃった。

 

確かに夜もお家に帰らないなんて今日が初めてだから、やめて欲しくても何も言い返せないや。

 

 

美味しいご飯は、ほんのちょっとだけ食べれた。

 

 

 

 

完全にお日さまが山の下にさよならして、いよいよ寒くて、怖い夜がやってくる。

 

赤くなっていた空が青くなって、それから黒くなって。怖くて思わず目を瞑った。きっと開けていたところで何にも見えないから。

 

『おチビさーん、大丈夫だよー』

 

何にも見えない・・・?

 

『なに、ローズちゃ・・・あれ?お目々が見えてる?』

 

ローズちゃんの声で、恐る恐る目を開けると、あれれ、びっくり。お日さまがある時とほとんど変わらないや。

 

『そっか、おチビさん、夜は初めてだから知らなかったんだね。私達の目はね、夜もバッチリ見えるようになってるんだよ』

 

『へぇ!そうなんだ!』

 

ローズちゃんがそう教えてくれた。

 

『それから、夜にしか見えないものもあるよ』

 

『夜にしか?』

 

『上を見てご覧』

 

『上?』

 

言われた通りに上を見ると、そこにはキラキラ光る小さな粒がいっぱい!なんてキレイなんだろう。

 

『キラキラしてる・・・!あれはなあに?』

 

『星、って言うんだよ。あのキラキラの一つ一つは星が燃えている光なんだって』

 

『ほし、かあ・・・』

 

ローズちゃんは、本当に色々なことを知ってる。

まるで大人みたい。

 

そんなことを思いながら空を眺めていたら、キラキラの中から一つの光が、スーッと地面に向かって落ちていった。

 

『あっ!ほしが落ちちゃった!』

 

私が思わずそう言うと、ローズちゃんが面白そうに笑いながらまた一つ教えてくれる。

 

『あはは!おチビさん。面白いねぇ。あれは流れ星っていうんだよ』

 

『流れぼし?』

 

『そう。星から砕けた欠片が、私達の住んでるところに落ちてきて、燃えてなくなってしまうときに放つ光だよ』

 

もえる?なくなる?・・・せっかくキレイなのに、ほしさんは、いなくなっちゃうの?

 

『ほしさん、いなくなっちゃうの?』

 

『そういう決まりなんだ』

 

『そうなんだ・・・』

 

ローズちゃんが教えてくれたんだからホントのことなんだろうけど、なんだか悲しくなってまたしょぼんとしちゃう。

 

『おおっと、おチビさん。流れ星ってね、実は目に見えないくらい小さいんだよ』

 

『そうなの?』

 

うつむいたままの私に、ローズちゃんがまたお話をしてくれる。

 

『うん。そんな誰もわからないような小さな欠片が、思わず見惚れるくらいに強い光を放つんだよ、すごいと思わない?』

 

『うん、すごい!』

 

『だよねぇ。おチビさんもお星さまみたいに輝けるようになるといいね』

 

おほしさまみたいに?それって私の体が光るってこと?想像してみたけどちょっと眩しいだけだと思うな。

 

うんうん、と頷いてからローズちゃんは私の為、ってとっても難しい課題を出してきた。

 

『それからね、おチビさん。私以外にも友達を作らないとだめだよ』

 

私には、ローズちゃん以外に仲のいい子がいない。だからローズちゃん以外の友達もいた方がいいよってことなんだろうけど・・・。

 

『私だって、いつまでも一緒って訳にはいかないからね』

 

『そうなの!?』

 

『そりゃそうだよ。私はしばらく離れるから、自分の力で頑張るように!』

 

『うー・・・』

 

そうは言われても・・・。私、友達の作り方なんてわからないし・・・。

困ってウロウロしている内に、いつの間にかローズちゃんともはぐれていて。

 

『あれっ!?ローズちゃん!?どこ!どこにいるのー!?』

 

呼びかけても返事は帰ってこない。

 

それどころか・・・。

 

 

『おっ!?チビスケじゃねーの!今日は家に引っ込んで無かったんだな!』

 

『ぴゃあ!?』

 

私に声をかけてきたのは、あの追いかけてくる男の子だった。後ろに友達・・・?見たことのない子も連れていて、なんだか笑っている。

 

『なー!追いかけると面白い奴ってこいつ?』

 

『なんかちびっこくて弱そーだな!』

 

お友達の子はこんな感じのことを言ってる。これ、まさか一緒に私を追いかける気なの!?

 

あの男の子一頭だけならどうにかなってたけど・・・これじゃあ逃げることも出来ないかな・・・?

 

3頭掛かりで、じりじりと私との距離を詰めてくる。

 

『ほら!早く走れって!ほらほら!』

 

『早く追いかけっこしよーぜー!』

 

『弱いなら弱いなりにオレたちを楽しませろよー!』

 

一歩後ろに下がれば、あの子たちも一歩詰めてきて。気づけば私は放牧地の端っこに追い詰められてた。

 

『や・・・や・・・!』

 

なんだか急にとっても寒くなって、脚が震えて、何も考えられなくなって・・・。

 

『嫌ー!!』

 

気がついたら、私は全速力で走り出していた。

 

『よっしゃ来た!』

 

『追いついてお尻齧っちゃうぞ!』

 

お尻をかじる!?そんなことされたくないよ!

でも私って、みんなと比べて走るの遅いんだよね・・・。

 

だからあの男の子たちに捕まるのも時間の問題?ってことなの。また悲しい気持ちにならなきゃいけないのかなって思ったら、目から涙が溢れてきた。

 

走っても、走っても、走っても。あの子たちは私を追いかけてくるんだから、逃げても意味なんてないのかな。

 

それでも前を向かないと、誰かにぶつかっちゃうかもしれないから。痛いのは誰だって嫌だから頑張って目を開ける。

 

『あれ?』

 

せっかく目を開けたのに、私の周りには誰もいなくて、広々とした場所が広がってた。走ってる内に群れから離れちゃったのかな?私、このままだとあの男の子達にお尻をかじられちゃう。

 

そう思ってまた泣きそうになったとき、隅っこの方にさっきローズちゃんから教えてもらった「ほし」にそっくりなキラキラする何かが見えた。

 

そういえば、ローズちゃんは『流れぼしは誰もわからないくらい小さいのに、強い光を』ーって。

 

そのキラキラした光が、私に勇気をくれた。

 

泣くのはここでお終い。代わりに息を思い切り吸い込んで。

 

 

『誰か!誰か助けて!追いかけられてるの!!』

 

このままずっと追いかけられるなんて、本当に嫌だから助けてって夢中で叫んでた。

 

すると、キラキラしたものがビュン、とすごい速さでこっちに動いてきて。

 

まるで流れぼし。

 

 

 

『ちょっと、あなた達?男子同士で遊ぶのは構いませんけれど、その子・・・嫌がってるではありませんの』

 

キラキラを見送ったら、聞いたことのない声がする。

 

びっくりして立ち止まっちゃった。そのまま後ろを見たら、知らない女の子が私と男の子たちの間に立っていた。

 

あの子、私を男の子たちから守ってくれてるの?

 

『げっ』

 

『おう、なんだよお前は。俺たちはソイツと遊んでるだけだよ』

 

『おい、止めろって』

 

その子を見た男の子たち、二頭はなんだか怖がってる感じだけど、一頭はそのまま女の子に向かっていく。

 

『止めろってなんだよ、ちょっとたてがみや尻尾が目立つくらいの、たかが牝馬だろ?』

 

『あら、でしたらこれはどう、かしら!』

 

『ぶぇっ!?』

 

えっ!?怖がっていない男の子に近づいたと思ったら、後ろ脚でその子を蹴飛ばしちゃった!?

 

『きゃあっ!?』

 

私はもう、びっくりして変な声が出ちゃう。

 

『な、なんだよ。牝馬のくせに・・・』

 

あ、蹴られた男の子はそこまで痛がってないから本気で蹴ってないね・・・ちょっと安心。

 

『バカ!この馬はな、数か月前に俺たち牡馬全員をノした、キンさんだぞ!お前も一撃KOされたの覚えてないのか!?』

 

『うぇ!?あのキンさん!?』

 

『ああそうだよ!どうもすみませんっした!』

 

『た、退却ー!』

 

あれ?なんだかよく分からないけれど・・・男の子たちが、逃げていく?

あの女の子、強いんだなぁ・・・。

 

 

『さて、と。お怪我はありませんこと?』

 

その女の子が、何でもなさげに私に話しかけてきたから、更にびっくり。

 

『え、う、うん!大丈夫!』

 

『良かったですわ。まったく、あの男子たちにも困ったものですわね・・・あなたも嫌なら嫌と一撃かましておやりなさい』

 

『えーと、その・・・ごめんなさい?』

 

いちげき?って、さっきのキックのことかな?あれをやったら男の子たちが追いかけないでくれるなら、私、がんばる。

 

『はぁ、こういう時は謝るのではなく、お礼を言うものでしてよ?』

 

『じゃあありがとう?』

 

『その・・・あなた、少し変わってますわね』

 

キラキラの子が困ったようにそう言ってきた。変わってるって言われても。なにか変なのかなぁ・・・でも私は私だもん。

 

・・・あ、そうだ!

 

ローズちゃんの課題を思い出した私は、思い切ってその子に話しかけた。

 

『ね、ねぇ!君はなんていう名前なの?』

 

(わたくし)の名前、ですか?世話を焼いて下さるおじ様たちからはキン、と呼ばれておりますけども』

 

キンちゃんって言うんだ。しっかり見るとたてがみとしっぽがキラキラ、お日さまの色をしててとってもキレイ!さっきのはキンちゃんだったんだね。

 

『私はチビ、じゃなかった。オスマンサスっていうの!キンちゃん、よかったらさっきのすごいキックと・・・その喋り方、教えて!』

 

『えっ!?喋り方も・・・?べ、別に構いませんけど・・・』

 

やった、おねがいできた!それに大人の女性は、喋り方にも気を使うって、お母さんが前に言ってたの。

 

キンちゃんの喋り方、お姫様みたいですごく可愛くてかっこいいから、もし出来るようになったら・・・お母さんも喜んでくれるよね?

 

『えへへ、ありがとう!』

 

私がキンちゃんにお礼を言ったとき、遠くの山から光が見えた。

 

『わあ、何?眩しい・・・!』

 

『朝、ですわね。太陽が登ってきたのですわ』

 

『朝・・・?じゃあ、おはようだね、キンちゃん』

 

『あら、そうですわね。おはようございます、オスマンサスさん・・・ふふっ』

 

『えへへっ』

 

ただ朝のおはようを言い合っただけなのに、なんだかとっても楽しくて。おじさんがお迎えに来るまで、私はずっとキンちゃんとお話ししてた。

 

そのことを、お家でお隣どうしのローズちゃんに伝えたらとっても喜んでくれたの。

 

その時に知ったんだけれど、この朝は特別な朝で、お日さまをハツヒノデ、一日だけガンタン?っていうんだって。

 

私達はハツヒノデがのぼると年をとるって言うから、私は二頭目のお友達ができたその日に一歳のお姉さんになったんだね。

 

もうちょっとで、一回目の本当のお誕生日がやってくる。これからもお兄様の家族になれるよう、頑張るよ!

 

あれ?そういえばキックって、お嫁さんに必要だっけ・・・?

 

・・・まあ、いっか!

 

 

 

 

数日後。

 

飼い葉をやるついでに放牧地の様子を見に来た薪場は、いつぶりかに頭を抱えた。

 

「一人ぼっちやったキンとチビが仲良くしとるのはええんやけど・・・なんで大人しい筈のチビが、キンと同じ様に尻っ跳ねしとるんや」

 

そこにはイタズラで追いかけてこようとする牡馬を後ろ蹴りで撃退し、尾花栗毛の牝馬の元へと駆けたかと思えば仲良く顔を寄せる、ちょっぴり白い毛が増え、たくましくなったオスマンサスの姿があったのだった。

 




次回更新は水曜22:00予定です。

オスマンサス、痴漢撃退キック習得。
自衛は大事。

書くこともないので軽く設定をば。

・ローズちゃん
実は小柄な大人の馬で、リードホース。
身体が小さすぎて競走馬になれなかった。

・キンちゃん
尾花栗毛の女の子。
痴漢撃退キック、言葉使いの師匠。
サッカーボーイ産駒。

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