サラブレッドに生まれ変わったので、最速を目指します   作:Budge

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今回、初めて史実とは異なるレース展開になったのと、史実馬を一頭、悪役?にしてしまっています。

描写等に問題があるようでしたら架空名へと変更いたしますので、ご教授いただければ幸いです。

でもギャ○ップレーサーなんかで誰しも一回はやった事あると思うの。

史実におけるユーワファルコン号の名誉を毀損したり、侮辱するような意図は一切ございません。


瞬走、高松宮記念(後半)

『・・・いよいよ高松宮記念、ファンファーレの演奏です』

 

返し馬を終えた出走馬達が、ゲート裏で輪乗りをする中、高らかに関西G1のファンファーレが鳴り響く。

 

♪♪♪♪ ♪♪ ♪♪ ♪ ♪♪ ♪♪♪♪ー♪ー

 

♪♪♪♪ ♪♪ ♪♪ ♪ ♪♪ ♪♪♪♪ー

 

♪ー♪♪♪ー♪ー ♪ー♪♪♪♪♪♪ ♪ー♪♪♪♪♪♪

 

♪ーー♪ーー♪ー♪ーーー

 

『ウワアアアアアアアアアア!!』

 

一瞬の余韻の後、奏でられた旋律に大歓声があがり中京競馬場はいよいよG1という雰囲気が高まっていた。

 

『中京メインレース、第31回高松宮記念G1芝1200m、ゲートインが始まっています』

 

スタートを間近に控え、各馬がゲートインの体制に移る中、ふとユーワファルコンが手綱を引っ張ってキーゴールドの側へと寄る。

 

『おっと、ユーワファルコンがキーゴールドに寄ったようですが・・・大丈夫ですね。肥畑騎手がなだめます』

 

「おっとっと、ホントにどうしたんだいファルコン」

 

思わぬハプニングにスタンドからどよめきが上がるが、すぐに鞍上の肥畑が体制を立て直して馬を制したことで、それはすぐに収まった。

 

「ほら、列に戻るよ、ファルコン。ファルコン?」

 

『・・・ちょっといいか』

 

『なんだよファルコン、ひっ!?』

 

騎手の呼びかけに耳を貸そうとせず、キーゴールドに話しかけるユーワファルコン。その相手は呼びかけに応えたが、据わった目を見て小さく悲鳴を上げた。

 

『いいか、オレはセキトバクソウオーを勝たせないために走る』

 

『・・・なっ!?』

 

突然の告白に驚くキーゴールドだが、ユーワファルコンの表情は一切動くことなく、彼の意思が本気だと察する。

 

中日スポーツ杯、そして、オーシャンステークスといずれも本気を出していないセキトバクソウオーに敗北を喫したユーワファルコン。

 

なにか一矢報いたいとフラストレーションを貯めていたが、オーシャンステークスでついにまともに走っても勝てないと悟り、絶望した彼の目には燃えてはいけない炎が宿っていた。

 

『・・・本気なんだな?』

 

『ああ』

 

キーゴールドに身を案じる言葉を掛けられても、その決意は揺るがない。

 

『分かったよ。けど、止めるならいつだってできるからな』

 

もはや自分にも、他の誰にもユーワファルコンは止められないだろう。こうなってしまった以上キーゴールドはあえて友を止めるようなことはしない・・・正直、状態を甘く見ていたのもあったのだが。

 

『ありがとう・・・悔いは残さないよう、頑張るよ』

 

そんなキーゴールドの言葉を聞いたユーワファルコンは、裏に燃えたぎるものがあるとは到底思えないほどの笑顔を見せて、自らゲートに収まった。

 

 

『あいつら何を話してたんだ?まあ、正面から跳ね除けるだけだけどな!』

 

そうして、一方的な敵意を向けられているなど知らぬままセキトバクソウオーが。

 

『僕がスプリント界を制覇する!』

 

スプリントG1秋春連覇を狙うダイタクヤマトが。

 

『私がこの大舞台で復活の狼煙を上げる!』

 

鮮烈な復活勝利を目論むブラックホークが。

 

 

『よい、しょ・・・スタートに集中しなくちゃ』

 

そして、最後にテネシーガールが、ゲートの中に収まって。

 

『・・・枠入りは実にスムーズ、最後に18番テネシーガール収まって体制完了』

 

あとはゲートが開かれるのを、待つばかり。

 

 

 

『第31回高松宮記念、グレード1競走・・・スタートしました!ポーンと出たユーワファルコン!』

 

『・・・よし!』

 

「ロケットスタート!?これなら前目に・・・ってファルコン!?おい!ファルコン!」

 

 

脳裏に思い描いたプラン通りゲートを抜群のタイミングで飛び出したユーワファルコン。

ちらりと後ろを見やってセキトバクソウオーの位置を確認すると、必死に手綱をしごく鞍上の指示を無視して赤い馬体の隣を目指し、減速していく。

 

『ユーワファルコンは・・・行きません!そのまま下げて、先頭に立ったのはシンボリスウォード、並んでテネシーガール』

 

『ちょ、何あれ!勝つ気あるの!?』

 

『全く同意だ。今までの走りからもあの者はあれだけ良いスタートなら、我らに並びかけると思っていたのだが・・・』

 

かなりの勢いで下がっていくユーワファルコンを見送ったテネシーガールと、シンボリスウォードが疑問の声を上げた。

 

『3番手メジロダーリング、その内にナムラマイカ、その後にダイタクヤマト!ダイタクヤマト5番手です、ユーワファルコンは更に後退!ユーワファルコンずるずる下がっていますが大丈夫か!?』

 

『なかなかいい位置ね・・・って、何あいつ!?』

 

『ひゃあ、ファルコンさん、滅茶苦茶な動きをしてますね・・・!』

 

『へえ、なかなか面白い動きをするね・・・彼はああいうレースをする馬なのかい?』

 

3頭並ぶような体制になっているメジロダーリング、ナムラマイカ、ダイタクヤマトは後ろに吹っ飛んでいくユーワファルコンに、それぞれが抱いた感想を口にした。

 

『まさか!ユーワファルコンさんは先頭を切って、粘り込むスタイルが得意な筈よ、あんなの・・・ただ狂ってしまったか、狙いがあるとしか・・・』

 

ダイタクヤマトの疑問に答えたのは、対戦経験のあるメジロダーリング。

 

彼女のその答えを聞いたダイタクヤマトは、長いキャリアからその挙動の狙いに勘付き、心の中で成程と頷いた。

 

『(あれは、誰か一頭を狙った走りだな。ソイツさえ勝たなければいいっていうヤケクソの極みだけれども・・・さて、ユーワファルコン。どの馬を狙ってるんだい?)』

 

 

『アイツは・・・いた!』

 

ユーワファルコンは、己の手の内を見抜かれてるとは知らず、定めた標的の位置を再確認してにやりと笑う。

 

少し後方、左側に赤い馬体。

 

人参よりも随分と赤いからなんと分かりやすいことだろう。

 

 

『さあ、逆襲の時間だ!』

 

最早、その嘴爪はただ一頭の宿敵にのみ向けられていた。

 

 

『・・・ダイタクヤマトの後ろ、差がなく6番手にキーゴールド、その後ろ中団の一角にブラックホーク。その外回ってセキトバクソウオー、その隣にユーワファルコンがピタリとつけた!』

 

『あ゛!?ユーワファルコン!?なにするんだ、そんなところにいられたら・・・』

 

進出する際に通ろうとしていたコースを塞がれ、狼狽するセキトバクソウオー。

 

しかし、その表情を見たユーワファルコンは、してやったりと言わんばかりに笑みを見せるが、その声には怒気も含まれていた。

 

『抜け出せない、だろ?そうだろな、どんなに強い馬でも、囲まれたら何もできないもんな!』

 

『な!?ど、どうしたんだよお前・・・!?』

 

『(ファルコン・・・!)』

 

そんな戦友の姿に、心を痛めるキーゴールド。確かに最近はセキトバクソウオーの名を耳にするたび苛立っているのは分かっていたが、ここまで溜め込んでいるとは・・・全くの想定外であった。

 

思い出されるのは、オーシャンステークスのレース後にセキトバクソウオーにぶっ千切られた仲間同士ということで仲良くなり、どうやったら自分たちのような格下が有力馬を封じ込めることができるか、という話。

 

 

 

『・・・なぁ、ゴールド。どうやっても、オレたちじゃあ、セキトバクソウオーには勝てないよな』

 

『・・・ああ、すっげえ悔しいけどな』

 

ユーワファルコンにとって、セキトバクソウオーに敗北するのは2回目だった。

一度目こそ1馬身差、なにかの拍子に入れ替わってしまうような着差であったが、セキトの馬体が戻った2回目はムチ無しで完膚なきまでに引き離された。

 

これが意味するのは、同じ路線を進む以上、セキトバクソウオーになにか起きない限り自分たちはG1を勝てない、という事実。

 

『・・・いっそ、オレも勝てなくていいから、アイツを勝たせない方法は無いか?』

 

『ファルコン?』

 

『あ、いや、何でもない。忘れてくれ』

 

 

 

・・・思えば、予兆はあった。

 

一頭(ひとり)、ぶつぶつと何かを呟いていたり、やけにゲート練習に気合を入れていたり。

 

どちらも『勝つため』の作戦を立てているのだろうと気にしていなかったが、それが間違いだったのだろうか。

 

まさか、『勝たせないため』の作戦を考えていたとは。しかもユーワファルコン自身の勝ちパターンとはまるでかけ離れた走り・・・入着も見込めない、正に自分諸共憎き宿敵(セキトバクソウオー)を潰すためだけの作戦。

 

復讐鬼と化したサラブレッドとは、こんなにも恐ろしいのかと。キーゴールドは怯えながらもその蛮行を止められなかったことを悔いた。

 

『くそっ!なんだよ!こんなのアリかよ!?』

 

『(っ!どうする、どうする・・・!?)』

 

自分の真後ろでセキトバクソウオーが藻掻く気配を感じる。

 

今、セキトバクソウオーのレースの運命を握るのは間違いなく自分である。このまま動かなければ、ユーワファルコンの作戦通りに彼の馬を勝たせないことも、現実味を帯びてくる。

 

逆に、今内外のどちらかに動けば、その作戦を阻止してユーワファルコンにお前の考えは間違っている、と伝えることだってできるだろう。

 

 

一介のオープン馬にすぎない、キーゴールドに、その判断は荷が重すぎた。

 

 

・・・だが。

 

友が今以上にグチャグチャに崩壊していく、そんな姿はもっと見たくなくて。気がつけば思いの丈を叫んでいた。

 

『ファルコーーン!!そんなことをして!お前が走りたくない場所を走って!そんなレースで、お前は楽しいのかよー!?』

 

『・・・』

 

修羅と化した隼からの言葉はない。

しかし、先端だけが僅かに黒いその茶色い耳が、ぴくん、と確かに揺れていた。

 

 

『ごちゃごちゃっとした馬群の後ろ、10番手はテンパイ、その外ビハインドザマスク。後はワシントンカラー、ダイワカーリアン、その外にタイキトレジャーがいます』

 

『ありゃ?なんだか前が騒がしいですよぉ?』

 

『妨害騒動みたいだよ。自分が勝てないからってヤケになったんじゃない?』

 

『ふぅん。何はともあれ今日は、後ろから行った僕たちに風が吹いてるみたいだね』

 

『へぇ、追い込み有利のG1か、珍しいな。ま、勝つのは俺だけどな!』

 

後方集団は、ユーワファルコンの策略の影響もなく、マイペースでレースを進めることができている。

 

しかし、彼らの後ろに、更に控えた者がいた。

 

『後方から5頭目、トロットスター、その後はビーマイナカヤマ、後はダンツキャスト、最後方にゴールドティアラの体制で、各馬第3コーナーに突入!』

 

「(今日の馬場と展開なら、あるいは・・・!)」

 

『(信じてるよ、蛇井さん!)』

 

後ろも後ろ、スプリント戦において不利とされる追い込みの位置に、一番人気のトロットスターは陣取っていた。

 

 

 

 

 

『・・・!』

 

『ぐぅっ!』

 

・・・俺は一年前のNHKマイルカップであれだけ負けたっていうのに、まだG1を舐めていたようだ。

 

目の前に迫るキーゴールドのケツ。左には早くも進路を確保したダイワカーリアン。そして右には俺を執拗に内側へと押し付けてくるユーワファルコン。

 

時折走りが乱れるくらい強く馬体を押し付けてくる瞬間もあって、かなりキツイ。

 

というか、コイツ。今日は俺の隣に並んでからいきなりブチギレたと思ったら、それから一言も発してないんだが。怖すぎる。

 

「こら!ファルコン!止めなさい!止めろ!」

 

おお、あの肥畑大先生の敬語が崩れるとは。なかなかレアなものを見た。というか口ぶりからして、妨害はユーワファルコンが勝手にやってることか。

 

『(この・・・!コイツさえいなければ出られるのに・・・あっ)』

 

ユーワファルコンの妨害を煩わしいと思いつつ、俺は寧ろ今までのレースが上手く行き過ぎだったんだと気づいた。

 

全くのノーマークからの、重賞3勝。そこから前哨戦であれだけの勝ち方をしたらそりゃそうだよな。否が応でも俺を意識する陣営だって出てくるだろう。

 

これから先・・・さらなる高みを、実力を身に着けていくに当たって、乗り越えなければならない壁の一つ。それが、こういう執拗についてくる馬。

 

即ち、マークを振り切る方法を見つけなければならない。

 

コイツの動きは俺を妨害するためだけのものだが・・・勝たせない、という点においては百点満点。これも立派な作戦の内だろう。

 

苛立ち始めた俺の脳裏にあるレースが浮かんだ。

 

2000年の、有馬記念。

 

騎手ですら諦めていた絶望の壁に亀裂を見つけ、自ら道を切り開いた覇王の走り。

 

そうだ。ここで大切なのは、焦らないこと。そして・・・チャンスを見逃さないこと。

 

深呼吸をひとつ、ふたつ。

 

・・・一頭くらいなんだ。テイエムオペラオーは10頭以上の包囲網に耐えきって、自ら抜け出したんだぞ。

 

窮屈な馬群に押し込められながら、俺はユーワファルコンへの反撃のチャンスを伺っていた。

 

 

 

 

 

『先頭はメジロダーリングで600を通過!半馬身差の2番手にシンボリスウォード、並ぶようにテネシーガール、インを突いてナムラマイカ!』

 

序盤から先頭で飛ばしていた3頭は、一旦息を入れつつ、有力馬たちの到来を待っていた。

 

『(まだなの・・・!?)』

 

『(まだ来ぬか!)』

 

『(まだ、来ないですね)』

 

 

そして残り500を切って、レースは大きく動き出す。

 

「行くぞ!ヤマトォォォォ!!」

 

『よし!任された!!』

 

ダイタクヤマトが、一気に、動いた。

 

『5番手からダイタクヤマト!!ダイタクヤマト一気に動いていった!中団から前に接近!』

 

『来たわね!』

 

『いざ、勝負也!』

 

『っ、ラスト、スパートっ!』

 

それに合わせるように、3頭も仕掛けて粘り込みを図る。

 

『後はブラックホーク、その後キーゴールド!その間にダイワカーリアンで、セキトバクソウオーは馬群の中!セキトバクソウオー馬群で藻掻いている!それに相変わらずぴったり並んでユーワファルコン!』

 

 

 

 

 

ユーワファルコンは、元々逃げ馬だ。

 

その逃げ馬が、後ろに控えた俺の横にピッタリとくっついていたら・・・勝つことはできないが、直線まで、バテることもない。

 

『・・・ッ!・・・!』

 

こいつも、色々と考えた末の妨害行為なんだろう。

今だって、馬群に苦しむ俺を見て、笑いながら、泣いている。

 

と、顔にぽつりと水滴のようなものが当たる。雨でも降ってきやがったか?

 

だが、雨ならば二粒、三粒と続くはずの冷たさが無く首を傾げると・・・、あぁ、なるほど。

 

水滴の出どころは、キーゴールドだったか。

 

そういえばスタート前にこいつら二頭がなにか話していたなと思い出し、そういうことかと納得した。

 

なにかやってはいけないことをする前に、親族や近い親友にのみ手紙や会話なんかで独白するアレだろう。

 

とすると。

 

・・・ユーワファルコン。お前の作戦、確かに俺にはよく効いたよ。

 

けれど、知ってるか。

 

お前よりも・・・前を走ってる、キーゴールドが大量の涙を流しているんだぜ?

 

 

『うぅっ!えうぅっ!』

 

「ゴールド!?どうした、誰かに馬体を当てられたのか!?」

 

『やっぱり・・・やっぱり駄目だよ、ファルコン!!』

 

「うわっ!」

 

嗚咽を上げるキーゴールドを見守っていると、突然何かを思い立ったように目を見開き、そう叫びながら外側へと斜行してきた・・・っと斜行!?

 

『うわあっ!』

 

『ぬうっ!?』

 

キーゴールドの動きは有力馬数頭を巻き込みつつ馬群をかき乱し、俺の隣にいたはずのユーワファルコンを外へと吹っ飛ばしていた。

 

『あっと、4コーナー手前キーゴールドが外にヨレた!掲示版には審議の青ランプ!』

 

 

「・・・ふぅ、危なかった」

 

『ふぃー、なんだあいつ』

 

第4コーナー、左回り。

 

外へヨレたキーゴールドをなんとか交わし、獅童さんと共に安堵しつつその行く末を見守っていると、ユーワファルコンに何かを囁いた。

 

『!?』

 

すると、ユーワファルコンが急に手応えを無くし、ずるずると後方に下がっていく・・・一体何を吹き込んだんだ?

 

 

「走れ!バクソウオー!!」

 

呆然としていると、獅童さんが俺の右トモにムチを入れた。

 

その衝撃にハッとする。ああ、分かってるさ!走り方をストライド・・・だとまた骨が折れそうだからなんちゃってストライドに切り替えた。

 

『ここからが、真剣勝負だ!!』

 

 

『さあ最終コーナーを回って・・・と、おっと!?ユーワファルコン後退!ユーワファルコンずるずる下がっていく!その隙間を縫ってセキトバクソウオーが進出!ブラックホーク!後方集団からトロットスターも先団に追いついてきたー!!』

 

俺たち有力馬の死闘の予感に中京競馬場のスタンドが、そして空気が、大きく揺れる。

 

 

『直線を向いた!先頭シンボリスウォード!メジロダーリングを交わしてシンボリスウォード!しかし外からダイタクヤマト!ダイタクやって来た!』

 

『くっ、もう、脚が・・・!不覚ッ!』

 

『あら!?もう限界なの?まだまだねぇ!』

 

シンボリスウォードは残していた脚でメジロダーリングを交わしたが、どうやらそれが限界のようだ。それ以上は伸びることもなく、再びメジロダーリングが前に出る。

 

ん、外を通った馬の勢いがいいな!俺もどうせならそっちに行くべきだったか!?

 

『テネシーガール粘っている!その内でメジロダーリングも食い下がっているぞ!しかし中を通ってブラックホークとセキトバクソウオー!!』

 

『む!そなたは何時ぞやの赤き快速馬』

 

『よう、おっさん!久しぶりだな!』

 

俺は、ブラックホークの内側に潜り込み、彼と競り合う形で先頭へと順位を上げていく。

 

『・・・ぉぉぉぉぉ』

 

ん?歓声に混じって、なにか聞こえるような気がする。が、それよりもブラックホークに勝たねば!

 

 

「バク、ソウ、オォォォォ!!」

 

獅童さんのムチに応え、より深く沈み、より長く跳んで遠くの大地を掴もうとする俺の四肢。

 

『おっさん、どけよ!』

 

それなのに、ブラックホークをなかなか抜かせない。これがG1馬、これが日本トップクラスのスプリンター。

 

「ホークゥゥゥゥゥ!!」

 

あちらもまた、鞍上のムチに応えてこれでもかと首を伸ばしてくる。

 

『なんの!そなたのような若造などに、私は負けぬ!』

 

『それは俺より先にゴール板を駆け抜けてから言え!』

 

馬体も口も争って、1馬身でも、半馬身でも、一歩でも・・・相手より先へ!

 

サラブレッドの本能に誘われ、激しく争う俺とブラックホーク。

 

ゴールまで、後100m。僅かに見えた後ろの馬は、引き離されている。

 

『はあああああっ!』

 

『うああああああっ!』

 

最早このレースは、俺たち二頭のデッドヒートか。

 

 

・・・そう思っていたのだが。

 

 

 

 

『うおおおおおおおぉぉぁあああああっ!!』

 

 

 

 

『なんと大外から、大外から、トロットスタァァァーー!!』

 

 

 

 

『何!?』

 

『うぇ!?』

 

半ば悲鳴のような叫び声を上げながら驚異の末脚を繰り出した乱入者が、鬼神の如き勢いで大外を駆け上がって来ていた。

 

あいつ!注意が向き辛い大外から捲ってきやがった!

 

くそっ!あと少しなんだよ!

 

ゴールまで、50mも無いってのに!

 

『トロットスターか!大外トロットスター飛んできた!ブラックホーク、セキトバクソウオーを粘るが外トロットスター!』

 

『負、けて、たまるかあああああああ!』

 

『ぬう!?』

 

俺は咄嗟に足の運びを完全なストライドに変えて、その瞬間確かにブラックホークを抜き去って。

 

『差、し、きるぅぅぅぅぅぅぅ!』

 

大外から迫ってきたトロットスターが、俺の真横に並ぶか並ばないかくらいの位置で、左目にゴール版が映って。

 

 

そして、中京競馬場は、大歓声に包まれた。

 

 

 

『第31回、高松宮記念!今ゴール!大外トロットスター交わしきったかどうか!今年の高松宮記念は大接戦、大接戦です!内側を通った6番セキトバクソウオーか!?大外駆け上がった12番のトロットスターか!?ブラックホークはわずかに及ばず3着か!』

 

 

『はあ、はあ、はあ・・・』

 

「バクソウオー、大丈夫かい?」

 

朦朧としそうな意識を繋ぎ止めて、よろめく脚を制御しながらひたすら酸素を取り入れる。獅童さんが首を叩いてくれたのが分かるが、その感覚すらいつもより鈍い。

 

今まで1200mのレースなら何も喋れなくなるぐらい疲れるなんてなかったのに。なんつー熾烈なレースだ。

 

・・・これが、日本中のスプリンターが喉から手が出るほどタイトルを欲しがるレースなのか、と改めて痛感する。

 

 

スピードを緩めていくと、大外からトロットスターが寄ってきて声をかけて来た。

 

『やあ、君、すっごく速いね』

 

『はぁ、はぁ、どうも・・・』

 

おいおい、トロットスターさんよ。あなた、今しがた俺と同じ距離を走りきった直後ですよね。それでこんな軽口を叩けるなんて、どんだけスタミナがあるんだよ。

 

『いやぁ、後ろから見てたけれど。よくもまああの妨害を耐えきったね』

 

『いや・・・昔ちょっと参考になりそうな展開があったんで・・・』

 

適当にそう答えると、トロットスターは目を輝かせながら迫ってくる。それはもう目がしいたけになりそうなくらいに。

 

『へぇー!興味あるなぁ!今度よかったら聞かせてよ!』

 

『は、はい・・・わかったっすから・・・ちょっと今は休ませてほしいっす・・・』

 

俺の返事を聞いたトロットスターは、『わかったー、じゃあまたねー』と馬場の外側へと離れていった。

 

いやあ、嵐みたいな馬だ・・・同時に、明るくて取っ付き易いやつみたいだけれど。

 

 

クールダウンしながら馬場で待っていると、スタンドから大歓声が上がる。

 

決着がついたのか。

 

さあ、高松宮記念の勝者は、俺か、トロットスターか。

 

掲示版にあがった番号は―。

 




勝負の結末は、如何に。

次回更新は月曜日22:00の予定です。

・今回の被害馬

・ブラックホーク 牡 鹿毛
父 Nureyev
母 シルバーレーン
母父 Silver Hawk


・被害ポイント
高松宮記念2着→3着

ーーーーネタバレ注意ーーーー








・史実戦績
28戦9勝

・主な勝ち鞍
スプリンターズステークス

・史実解説
97年の1月に中山芝1400mの新馬戦でデビューを迎えると、あっさりと勝利。
続くセントポーリア賞も3着と好走。

しかし次走の春菜賞を出走取消、仕切り直して500万下条件のわらび賞で2着を挟み5戦目の八重桜賞で勝ち上がり。

900万下の駒草賞へ出走し2着に入り、宇治川特別4着を挟んで春光賞、ブラッドストーンステークス、ダービー卿チャレンジトロフィーと重賞を含む三連勝。

流石に京王杯スプリングカップは3着、大一番の安田記念は11着に敗れたものの関屋記念2着、オータムハンデキャップ3着と調子を取り戻し、スワンステークスでG2初制覇。

続くマイルチャンピオンシップは3着、次走は最後の12月開催となったスプリンターズステークスで、見事ここでG1初勝利を飾る。

続く阪急杯も連勝するが、高松宮記念は4着。
京王杯スプリングカップは2着、安田記念は9着と春は良いところなく終わった。

セントウルステークスは2着、スプリンターズステークスは3着と相変わらず好走を続けていたが、マイルチャンピオンシップで8着に敗れる。

その後CBC賞、阪急杯、高松宮記念と3戦連続で2着の後、京王杯スプリングカップ3着を挟んで出走した安田記念で勝利し、引退した。

引退後は種牡馬入り。
オーストラリアへのシャトルも行われ、京都牝馬ステークス勝ち馬チェレブリタやキーンランドカップ勝ち馬のクーヴェルチュールの父となったが、G1馬は輩出できなかった。

2015年7月、繋養先の牧場で心臓麻痺にて死亡。
21歳であった。

・代表産駒
チェレブリタ 牝 25戦4勝(母アカプルコ)
勝ち鞍 京都牝馬ステークス

クーヴェルチュール 牝 16戦5勝(母ヒカリクリスタル)
勝ち鞍 キーンランドカップ バーデンバーデンカップ(OP)
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