サラブレッドに生まれ変わったので、最速を目指します   作:Budge

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ウイニングポスト9 2022が発表されましたね!

魅力的な新要素が盛り沢山ですが、その一つとして馬と馬の絆(対馬関係)が実装されるようで、例としてゴルシが使われていたのに笑いましたし、これはますますウマ娘の二次創作(もちろん健全)も流行るのでは?と期待しております。

因みに今回出てくる施設は、設備と規模に大分チートをかけてあります!


鋭走の先へ

歓喜の京王杯から一週間程が過ぎて。

 

あれだけのレースだったにも関わらず俺の身体に反動は無く。

 

このまま安田記念に出ても勝負になるのではと言う話も持ち上がり、俺自身もひょっとするかも?と思ったのだが・・・。

 

 

「そもそも1400を不安視しなければならない馬が、マイルで勝負になるとは思えません」

 

 

センセイは、ごく冷静に厩舎を訪れた記者にそう答えていた。

 

あー、それは確かにそうだ。

 

「それに、ハイレベルな戦いになったとは言えあくまで京王杯はG2です。本番の安田記念に出たら今日以上の厳しいレースになるでしょう」

 

それもそう。京王杯は京王杯、G1ではなく、その前哨戦に過ぎないレース。そこでこんな勝ち方をしたのだ。

 

もし安田記念に出ても、苦手な距離、コースで、究極仕上げのライバル達に警戒されて持ち味を活かしきれないだろう。

 

ここまで危険な要素が揃っていれば、出走せずともその結果は見えている。

 

次の短距離の大きなレースって言うと、昨年も出走したセントウルステークスか?今の時期からはちょっと間が開いているから、ひょっとしたら放牧とかになるかもしれない。また、里帰りできるかな?

 

では、今後の予定は、と記者さんに尋ねられると、センセイはひとまず美浦に戻しますよ、次のレースは夏か秋になると思います。と返し。

 

これ以上収穫は見込めないと察したのか記者さんは一言か二言、何やらメモに書き込んだ後にありがとうございました、と言って軽く頭を下げてから引き上げていった。

 

今日の記者さんは大きな声を出さないし、写真を撮るときも俺に声をかけてからだったし、とにかく非常に良識的な方だった。

 

だからこそセンセイも気分良く答えていたのだろうし、俺自身知らない人と会ったというのに穏やかな気持ちのままでいられた。

 

できればこういう方に業界で長く生き延びてほしいと思うのだが、現実はネタのニオイに敏感で、しつこくて、ずる賢い奴が一番強い。ハイエナみたいだ。

 

あ、ハイエナに失礼か。

 

やっぱ人間の世界って厳しいね。

 

 

 

 

 

『ただいまー!久しぶりの美浦だー!』

 

まあ、こうして俺は馬運車に揺られ、一年ぶりに美浦の我が家へと帰厩を果たしたのだが。

 

 

『・・・!?』

 

 

そこで遂に奴と再会した。

 

 

隣の馬房から顔を出しているのはごくありふれた鹿毛の馬体だが、その身にまとうオーラが・・・ってあれ、おかしいな。確かに去年より身体は大きくなっているはずなのに、寧ろなんだか小さく感じられるような。

 

『よう、生きてたぜ』

 

とにかく。そいつが馬房から顔を出して俺を出迎えてくれたから俺も挨拶してやるかと声をかけたら、雷にでも打たれたかのようにいきなり動きを止め、目を見開き、鼻の穴だけが呼吸で動いていて。

 

 

『バク、ソウ、オー・・・?』

 

『ただいま、イーグルカフェ』

 

 

そう、奴はイーグルカフェ。

 

俺と同期、同厩、隣同士のG1馬。

 

 

俺の姿を見て完全にフリーズしていたが、そこから数秒経ってようやく奴は言葉にならないような声を出し始めた。

 

『な・・・なな・・・何故、貴様、生きて』

 

おい、動揺しすぎて主人公の始末に失敗した悪の手先みたいになってるじゃないか。

 

『おうよ。脚もちゃんと全部あるし、なんならこの間もレースに出て、勝ってきたぜ?』

 

俺がそう言って、見えるか分からんがわざと故障箇所だった右前脚を上げてみせると。

 

イーグルカフェはわなわなと震えながら、安堵しているのか、怒っているのか分からないような口調で俺を捲し立ててきた。

 

『セキ・・・バクソウオー!貴様!あれほど怪我には気をつけろといったであろう!だが帰りを待っていた吾輩の耳に届いたのは貴様が骨を折ったという一報であったのだぞ!?その時の吾輩の気持ちが分かるか!?』

 

『うおっ!?』

 

『吾輩もようやく最近諦めがついたところだったのだ!それがこうもいけしゃあしゃあと出てくるなど・・・』

 

文句を垂れながらも、その目尻には薄っすらと雫が溜まり、育ちつつあるのが見えた。

 

というか諦めがついた?俺、こいつの中で死んだことになってたの?ってああ。マンハッタンカフェもそんなことを言ってたっけな。

 

 

・・・って!二頭(ふたり)して俺を殺すな!?

 

 

『マンハッタンカフェといいお前といい俺を勝手に殺すなよっ!』

 

『一年も顔を見ていなければそうもなろう!』

 

俺の言い分に声を荒げるイーグルカフェ。記憶にある限り奴は冷静な馬の筈。それがここまで感情を顕にするとは。

 

お互いギャースカ言い合っている内に少しずつ頭が冷えてきて。うん、これは大分、というか本当に。

 

 

多分、俺が悪い。

 

あれ程怪我をするな、気をつけろと言われていたにも関わらず無茶をしたのは俺自身だ。

 

それがイーグルカフェの心身を傷つけていたというのなら、誠心誠意謝るのが筋というものだろう。

 

ならば、こうだ!

 

 

『・・・正直すまんかったァ!』

 

思い切り頭を下げると、勢いが良すぎてちょっとくらくらしたが、誠意を伝えるというならばこの位が丁度いい。

 

『なッ!?』

 

その勢いに圧倒されたのか、イーグルカフェの口が止まる。

 

『マジで痛かったし、辛かった!次は気をつける!』

 

頭を下げたまま俺がそう言うと、イーグルカフェは何故だか『な、なんだ。その、謝って欲しかった訳ではなくてだな』と急にもじもじし始め。

 

あれ?そういえば随分前・・・朝日杯の後、倒れた俺を一番心配していたのもこいつだっていうし、ひょっとして。

 

『まさか、お前、寂しかったのか?』

 

そう聞いた瞬間、イーグルカフェの顔は煙が吹き上がるような勢いで赤くなる。え?毛並みで分からない?

 

・・・まあ、これは俺が同じ馬だから分かることであって、ヒトには分からんでしょうな。

 

『ち、ちちち違う!断じてその様な事など!』

 

あ、図星だこれ。普段のイーグルカフェからは想像できないくらい慌てふためいているのが伝わってくる。

 

その様は俺から見ればちょっと面白いが、その原因も俺なのだからあんまりからかい過ぎても可哀想だ。

 

『・・・ま、そういうことにしとくよ。他の連中には言わないからさ』

 

『ふぅ・・・くれぐれも頼んだぞ』

 

俺がそう言うとイーグルカフェはようやく落ち着きを取り戻したようだった。実際この話は他のやつには話さないつもりだ。

 

まあ、今の一連の流れで伝わってるかもしれない分は保証しないがな!

 

 

それから数日。ようやく怪我をする前の関係性を取り戻しつつあったイーグルカフェが馬房から出されていたから、どうしたんだと尋ねれば。

 

彼は自らが栄光を勝ち取った地に赴くのだ、と答えてくれた。

 

栄光を勝ち取った・・・ああ、東京競馬場か。どうやら俺と入れ替わるようにレースに出走するみたいだな。

 

一年ぶりに戦友と再会したと思ったら僅か数日でまたバイバイとは。これも競走馬の宿命ってやつなのか?

 

それはさておき、安田か?と聞けばイーグルカフェは少し顔を歪ませながら『いや、違う』と言った。

 

あれ、こいつほどの有力馬なら安田記念に出るよな?と頭にハテナが浮かんだ後、煌々と光る電球に変わる。

 

・・・そうか。こいつが小さく見えた理由が分かった。この頃のイーグルカフェって、不調だったんだよな。

 

NHKマイルカップを最後に、実に2年もの間。イーグルカフェは勝利の女神にそっぽを向かれてしまうのだ。

 

この時期で東京競馬場ならば、8着に敗れたエプソムカップだろうか?

 

だとすると・・・現在7連敗。そりゃあ悔しいよな。G1馬になったと思ったら、その強さが嘘のように勝てなくなって。

 

マグレだ、まだ走るのかとどれほど後ろ指を指されたのだろう。

 

走るのが辛くなる日だってあったかもしれない。

 

 

けれど、後一年と、1ヶ月。

 

 

そしてその4ヶ月後。

 

 

苦難を乗り越えた先に待ち受けるのは、再びの栄光だ。

 

 

『そっか、がんばれよ』

 

『うむ』

 

「この先」を知る者として。イーグルカフェには無事に史実を完走し、或いはそれより早く、多く。勝利を上げられるようにと、俺はエールを送ったのだった。

 

 

 

 

 

『一体どこへ行くってんだ』

 

後日。イーグルカフェが勝利を求めて藻掻くのと同じように、俺もまた更なる勝利の酔いを求めて、馬運車で運ばれていた。

 

センセイが「徹底的に鍛え上げる」とか「放牧を挟むと緩みそうだから助かった」とか言ってたから放牧じゃあないのは確か。

 

生まれ故郷の仔馬ちゃんや、俺の弟か妹が生まれているかもとか気になっていたし、バカンスもいいなと思っていたからちょっと残念。

 

じゃあ一体何なんだと頭をかしげていると、トレセンを出てあまり・・・一時間するかしないか位で馬運車のエンジンが止まった。

 

最初は休憩かと思ったのだが、前方の座席がバタバタと慌ただしくなってきたからここで降りるのかと理解する。

 

 

馬口さんが引き手を持ったのを確認すると、もう一人のスタッフさんが乗降口を開いた。光が射し、その幅が広がっていく。

 

 

「さぁ、セキト、着いたよ。夏までここで頑張ろうね」

 

『・・・広っろ』

 

拓けた視界に映ったのは競走馬を育て上げる為の施設がこれでもかと揃った、トレセン顔負けの場所。

 

吉里(よしざと)ステーブル。この間一緒に走ったスティンガーをオークスで破ったウメノファイバーや、この時代のダート路線で手堅く活躍しているスマートボーイを育成した牧場である。

 

 

というか、馬口さん、さっき何つった?

 

ここで頑張ろうね?

 

『・・・はっ』

 

まさか!ここまできてようやく、俺の頭の中でセンセイの言葉と、ここに来た目的が繋がって。

 

「どうも!そいつがセキトバクソウオーですか!いい馬体をしてますね!」

 

「あ、こんにちは。ええ、僕が言うのもなんですがいい馬でしょう?これから約3ヶ月、よろしくお願いします」

 

馬口さんと、牧場の代表者的な人の会話で確信した。生まれ故郷でのバカンスなんてとんでもない。そんなこと考えていた俺が馬鹿だったよ。

 

・・・うん。自分で考えてみたって、そりゃあそうだよな。疲労のない馬を放牧したって何の意味もない。

 

「それでは、セキトの事を頼みますよ」

 

終いには馬口さんから代表者らしきおっさんに、俺の引き手が手渡されて。

 

空っぽになった馬運車に乗った馬口さんを見送ったおっさんが、本性を見せた。

 

「・・・ガッハッハ!よく来たなセキトバクソウオー!これから約3か月、みっちりやっていくから、覚悟しろよ?」

 

うわ、こいつ語尾に「!」が付きそうな勢いの時点で怪しいとは思ったけれど、体育会系の暑苦しいタイプだ!

 

『お、お手柔らかにお願いします・・・』

 

他に思うところはあった筈なのに、俺は豪快に笑うおっさんに気圧され、馬房に行くまでの間そう呟くことしか出来なかった。

 

 

 

トレセンとは少し異なった構造の馬房に入ると、すかさず馬栓棒とベニヤ板で出入り口を塞がれる。あ、脱走の話、こちらにもしっかり行ってるんですね。

 

 

「さぁ、次は2歳達の調教を見ないと」

 

やがておっさんは俺を馬房に入れると、そそくさとどこかに行ってしまった。そしてざわつく厩舎内。

 

『あれ?知らない(ひと)だー』

 

『大人の馬がいるー』

 

・・・よくよく見れば、俺の周りは2歳馬だらけじゃないか。まるでいきなり小学校に放り込まれた大人の気分。

 

センセイ。あなたは俺が強くなれると信じてここに送り出したんでしょうけども。果たして本当に効果はあるのでしょうか?

 

『はぁ・・・』

 

何歳ー?とか名前あるのー?など。

 

無邪気な声に囲まれながら、盛大なため息と共に俺の夏季・・・というか初夏?合宿が、幕を開けた。

 




むさ苦しいおっさん、参戦!
いざ、合宿開始です。
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