サラブレッドに生まれ変わったので、最速を目指します   作:Budge

49 / 103
セキトの香港馬名、かなり前からこれにしようと決めてはいたのですが、『赤兎馬』に関しては先客が居たので控えましたw

しっかし真紅(ヴァーミリアン)を赤兎馬にしてしまうとは、香港らしいというかなんというか・・・。

セキトの香港名、もっといいのがあるよ!と言う方はぜひご意見をお聞かせください。

※こっそりセキトの漢字表記を変更いたしました。



香港での日常

香港に着いてから、数日。

 

『・・・ん、やっぱり意外といけるな』

 

俺はここに滞在する間の住居である検疫厩舎で、他の連中と首を並べるようにして飼い葉を食べていた。

 

香港の飼い葉は日本のものと見た目はほとんど変わらないが、若干中身だったり配分が違っているようで、味や風味が違うのが新鮮だ。

 

何というか・・・日本の飼い葉が白いご飯なら、香港のは玄米・・・いや赤飯・・・?

 

とにかく例えるなら『米』っていう一つの食材のジャンルからは逃れられないが、味付けと加える材料、加工が違えば、チャーハンにも餅にもなる・・・的な。

 

まあ、香港の飼い葉も水も、俺的には嫌いじゃない。これが遠征先で、何が気に入らないのか全く水を飲まなくなったりするような馬もいるらしいから俺は苦労しない方だろう。

 

けれども、隣から聞こえる喜びの声は、遠征に強く成功するタイプってのを地で行っている奴もいると教えてくれる。

 

 

『旨っ!なにこれ旨っ!』

 

がっこんがっこんと桶を豪快に揺らしながら、飼い葉にむしゃぶりつくのはエイシンプレストン。

 

どうやら香港の飼い葉がお気に召したらしい。ガサガサ、バリバリと物凄い勢いで中身をたいらげていく。

 

「おぉ〜、いい食いっぷりネ、これなら本番も大丈夫そうネ」

 

白スーツにグラサン、流石に指輪は外していたが相変わらず調教師としてはぶっ飛んだ格好の趙さんがその姿を見て両手放しで喜んでいた。

 

あ、良かった。この人、馬に対する愛情はきちんとある人だ。と安心すると同時。

 

『生まれてから食べてきたご飯の中で、一番旨いよ!もっともっと!』

 

空っぽの桶を見せつけるように、エイシンプレストンがまだ飼い葉を食べたいと前掻きを始める。え、そんなに気に入ったの?

 

「あらら・・・そんなに気に入っちゃった感じ?でも駄目ヨ、レースに出る前にそんなに食べたら太り過ぎになっちゃうヨ」

 

趙さんも俺と同じ意見を持ったらしいが、おかわりの要求はあっさりとあしらった。

 

残念ながら俺たちは競走馬。食べないと体調不良になるとか馬体がガレるとか、よっぽどのことがない限り出された分を食べ終わってしまえば食事の時間はお終いだ。 

 

『うぅ・・・ケチ!』

 

最早要求は通らないと理解したのか、エイシンプレストンは拗ねた子供のように悪態をついてから馬房に引っ込んでしまう。

 

「アイヤー、ご機嫌損ねちゃったネ」

 

趙さんはそれにお手上げポーズをしながら困ったような表情でそう言った。でも顔は笑っているから本当に困っている訳ではなさそうだ。

 

『あまり食べすぎるとこの後の運動がキツイぞ』

 

俺としても、健康という面からエイシンプレストンにはそう正論を言っておいたのだが。

 

『いいもん!ここのご飯が美味しいのがいけないんだ!』

 

と、やはり子どもじみた文句を言って彼はそのままふて寝してしまった。

 

『おいおい・・・ま、俺も残りを食べるとしますか』

 

他の奴らを気にしてばかりで、俺も飼い葉に手を付けないと、食欲がないと判断されて勝手に下げられちまう恐れがあるからな。

 

再び桶に顔を突っ込んで、ボリボリと無心で飼い葉を食い漁る。

 

「・・・キミは何だか上品に食べるネ」

 

そんな俺をじーっと見つめながら、趙さんがそう言ってきた。

 

やめろ、食い辛い。そう思ったが文句は言わないようにと頑張った俺の意志とは関係なく、耳が後ろに倒れて不快感を示して。

 

「ああっと!?ごめんヨ。邪魔はしないから・・・ネ?」

 

『まったく・・・』

 

すぐ様一歩、二歩後ろに下がって謝る位なら、最初から近づき過ぎなきゃいいのに、と思いながら俺もオーツ麦の一粒さえ残さず飼い葉を平らげたのだった。

 

 

 

 

『・・・っと。へぇ・・・』

 

それから一時間程も経てば、シャティンに着いてから初めての調教が始まった。

 

初めての遠征、初めての競馬場。こうして本番前の貴重な時間に感じたことはすべて無駄にはならないだろう。

 

香港スプリントに出走する俺は芝コースを一周、基本は馬なりで、直線だけ強めといった感じに追い切られたが、いろいろと収穫があった。

 

まず、感じたのは芝の丈の長さ。

日本と比べれば長く、パワーが必要とされそうな感じ。

 

反面パサパサとした地盤はいつでもスパートをかけられそうな位にはしっかりしていて、余程の大雨じゃなければコースのコンディションも良いままで挑めそうだな。

 

「・・・札幌、かな」

 

背中からは、本番で共に挑むこととなったジョッキーの声がした。

 

『ああ、それっぽいな』

 

平坦で、洋芝の札幌競馬場のコースに近いという意見には全くの同意だ。肯定を込めて一つ鳴けば、「まさか、君ともう一度レースに挑めるなんてね」と。

 

喜びの詰まった声と同時に、少しシワが寄った手が首を優しく叩いた。

 

『あんたと挑む最後の大勝負だ。もう一度、頼んだぜ。獅童さん?』

 

そのジョッキーの名は、獅童宏明。

 

ジュンペーが帰ってくるまでの間の、代打騎手で、そして。

 

俺の“第2の相棒”だ。

 

 

 

 

さて、調教も終わり鞍を外してもらったら、引き運動でクールダウンの時間である。

 

『セキトー、どうだったー?』

 

『おーす、デジタル、おつかれー』

 

本番ではどう挑んだものかと考えながら歩いていると、同じように調教を終えて戻ってきたアグネスデジタルが話しかけてきた。

 

アグネスデジタルの呼びかけが親しげだなって?ふふん。飛行機、そして馬運車の中と親睦を深め合った結果、お互いを名前の一部で呼ぶようになったのだ。旅は道連れってな。馬友が出来たぜ。

 

『どうって言われてもな、あんまり日本とかけ離れてるって訳でもないなというか』

 

『・・・だよね!?だったら、よーし。僕にも勝つチャンスはあるぞ!』

 

感じたままを伝えると、何故かアグネスデジタルは張り切りだした。勝つチャンス?なにか作戦でも考えついたのか?

 

『そこまで言うからには作戦でもあんのか?』と尋ねると、アグネスデジタルが返してきた言葉は。

 

 

『うん、ない!』

 

 

あまりに自信満々な顔でそう言うもんだから、俺は思いっきりずっこけた。

 

「セキトッ!?」

 

当然俺を歩かせていた馬口さんが血相を変えて馬体検査を始める。

 

脚元をベタベタ触られながら、あんまり驚かせないでくれよとアグネスデジタルをジト目を意識しながら軽く睨んでやれば、『ごめんごめん』と誤りながらも言葉の真意を説明してくれた。

 

『だってさ、いつもとあまり変わらないなら、“いつも通り”で勝てるんじゃないかなって』

 

勿論全力を出すけれどね、と張り切るアグネスデジタルを見て、ああ、そっか。と変に考え込み、絡んでいた頭の糸が解けていく。

 

 

この時代の香港スプリントは、実はG2だ。

 

それだけでなく、距離やスタート地点さえも現代とは異なり、直線から4コーナー出口を過ぎ、更に右側へと伸びた長い芝コースの果てが今回のスタート地点。

 

そして、その距離は1000m。日本ならば1分を切るようなタイムが当たり前というこの距離で、そもそも作戦を立てようなどという方が間違っている。

 

しかもカーブがあるならともかく、俺が出るレースは直線そのもの。最初から最後まで、出たとこ勝負でヨーイドン。これ以外何がある?

 

ならば下手な小細工などいらない。使えない。ただ、『出走メンバー中一番速い馬』が勝つに決まっている。

 

『・・・そうだな』

 

アグネスデジタルにそう返せば、俺からの肯定が嬉しかったのか、『だよね!?』とテンションの高い返事が返ってきた。

 

 

『おっ、お前ら何駄弁ってんだ?』

 

その声を聞きつけて、調教を終えたばかりのステイゴールドも厩務員さんを引きずるように駆けつけてきた。体中から湯気が立っていてまるで機関車だ。

 

『ひぃえっ!?』

 

相変わらずアグネスデジタルはその姿を見るだけでビビりきっていたが、俺の方はもう全然大丈夫だ。なんだか付き合い方は理解できてきたし。

 

『お疲れ様っす。香港はどうっすか』

 

『おー、何というか・・・日本とあんま変わんねぇな!』

 

パツキンのねーちゃんとかもいるって聞いてたのによ、とさもつまらなさそうにステイゴールドは言う。

 

うーん、そのねーちゃんが見たいならもう一日ほど飛行機に乗ってないとダメだな。

 

あの何も食べられず、何もできないのが丸一日以上・・・うわっ、考えただけで馬体がガレそうだ!

 

『それで・・・手応えは』

 

厩舎で聞いた情報だと、軽く流すだけの調教の予定だったから、それで大丈夫だったのかと言う意味も兼ねて尋ねると。

 

ステイゴールドはニヤリと笑って、自信たっぷりに言った。

 

『十分だ。本番では思いっきり暴れるぜ?』

 

その笑みは実に邪悪なもので、一体何をやらかす気なのかと俺は不安に駆られた。何も知らなかったら絶対悪い意味で捉えてたと思える程にだ。

 

この時ほど史実を知っててよかったことは無かったよ・・・。

 

 

 

 

そうやって、調教終わりに行き会ったり、厩舎の馬房が近い遠征組同士で親睦を深めあって一週間ちょい。

 

いよいよ香港国際競走デーの、本番がやって来た。

 

『いよいよ本番だねー』

 

普段と変わらず、のんびりした様に、しかし確かな気合を秘めた最年長の一頭、大徳大和(ダイタクヤマト)

 

『あん?これから大舞台だってんのにそんなんでいいのかよ』

 

こちらもあまり変わらずいつも通りに荒々しく、そして猛々しく闘争心を湧き上がらせる最年長のもう一角、黄金旅程(ステイゴールド)

 

『いつも通りに、紀伊さんと僕なら勝てる・・・!』

 

やや緊張しているが、実力は十分に出せると言える程度。芝もダートもなんでもござれ。目下三連勝、上昇中の愛麗數碼(アグネスデジタル)

 

『他の誰でもねぇ。今日は、オレが英雄だ』

 

ステイゴールドの抑止が功を奏したか、いつもより落ち着きながらもピリっとした雰囲気を纏い、前奏と同じくもう一発が有り得そうな好仕上がりの禪宗勝者(ゼンノエルシド)

 

『君が英雄なら・・・僕はそこから勝利を奪った盗賊になっちゃうかな』

 

同じく香港マイルに出走するもう一頭、榮進寶蹄(エイシンプレストン)も静かに闘争心を燃やしていて。

 

そして。

 

『全員、悔いが無いよう、思いっ切りやろうぜ!』

 

前走、スプリンターズステークスで悲願のG1馬となった俺こと、赤兎奔王(セキトバクソウオー)も、彼らと同じく香港国際競走の舞台に立つ一頭。

 

 

我ら、チームジャパン。

 

各々が、『負けるはずはない』と自信を持って。

 

それぞれの戦場へ赴く瞬間を、今か今かと待っていた。

 




この年の英雄譚を作った日本の名馬たちも、既にエイシンプレストンとゼンノエルシドしかこの世にいないというやるせなさよ・・・。

それはさておき、作者が遊び倒したいゲームを入手したレースの資料不足の為、次回の更新は一週間程を開けて2月の7日としたいと思います。

日本馬が勝たなかったせいか香港スプリントだけガチで資料が足りないんです、何卒ご理解ください。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。