サラブレッドに生まれ変わったので、最速を目指します   作:Budge

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UAが・・・5000・・・だと・・・。

期待されても、調べものが忙しくて何も出ないんだよぉ・・・。


名馬か駄馬か、ウマくいくかは神のみぞ知る。

『・・・東京都からお越しの天馬実次様、お買い上げありがとうございます。続きまして上場番号○○○番・・・』

 

あの親子と出会った翌日。俺がセリの会場に姿を見せた瞬間どよめきが起こった。

 

そりゃまあ登録上は普通に鹿毛だったらしいからな。それが赤い馬体で現れたら誰だって驚く。

で、お父さん、実次さんって言うのか。その人が力強く一声入れた。

 

その後物珍しさからかぽちぽちと他の人が声を上げたものの、最後は実次さんが2500万でハンマープライス。うん、安くはないんだろうけど高くもない。

 

というか一歳馬のセリがなんだか低調っぽいな。3〜4頭くらいに一頭は声もかけられないし、4連続主取りなんてのを見たときは震え上がった。

 

というかよくよく聞いていれば亡くなったり引退した筈の種牡馬の子ばっかりで、どうにもおかしいと思っていたら、突然タイムリープという言葉が浮かんで納得。

 

俺、というか同世代の連中もみんな○○の97って呼ばれてたんだよな、これはXX97年生まれの馬ってことなんだろう。

 

ちなみに俺が人間だった時の最後の記憶はXX2X年・・・うん、二十年以上昔だな!今更気にしてもしょうがないけど!

 

天下のセレクトセールと言えど、二十年も前はこんな感じだったんだなぁと思うと切ないような、進歩したと感動するような。

 

 

さて、無事に実次さんにセリ落とされた俺は牧場に帰り、相変わらず仲間と爆走している。

広くなった放牧地での走りはまた格別だ。自然とスピードが乗ってしまう。

 

けれどここで我慢するのも訓練。ぐっとこらえて15-15のペースを意識しながら駆け抜ける・・・あっ、でもスピード上げたい・・・!少しならいいか!ヒャッハー!付いてこれない奴はタイムオーバーだぁ!

 

ちなみに新しい放牧地を歩数で測量したら一辺が50mぐらいの広さだった。ひろーい!

 

でも柵沿いに走り続けるとまたおっさんと財布を泣かせかねないので、ある程度のところで反対側の角を目指して走るようにしてる。右回りと左回りの切り替えもバッチリだ。

 

 

「おーい、会いに来たよー!」

 

おや、この声はあのセリの姉ちゃんか?一度立ち止まって周りを見渡せば、放牧地の横を通る道で、大きく手を振っている。

 

「ひひーん」

 

「あっ!私のこと覚えてくれてたんだね!いい子いい子〜」

 

返事をしながら駆け寄ると、姉ちゃんは俺の頭を撫でてくれる。お、そこそこ、どう頑張っても届かない場所なんだよよく分かってるじゃん、気持ちいいな・・・。

 

「今日はあなたの名前を考えに来たの!パパに聞いたら別に三歳になるまで名前をつけちゃいけないって訳でもないって言うから!」

 

あー、そうだ。セキトって呼ばれてるけれどこれは幼名であって正式な名前じゃなかったな。

正式な名前、つまり競走馬名が決まるのは多くの場合は二歳・・・この時代だったら三歳か。まあ競走に出られる年齢になってからが一般的だ。

 

しかし規定上は血統登録証明が完了していれば馬名を登録できるらしい。俺は当歳の頃とっくに完了済みだ。つまりバッチコイ。

 

「さっき牧場長のおじさんから聞いたよ!走るのが好きなんだって?」

 

走るのが好きと言うよりは走らない馬はそもそも生きられないからなんだけどな。牧場長にはそう映ったのか。

 

「『ここだけの話、セキトの奴は前の放牧地をボコボコにしてもうてん。広くしてやったらますます爆走しとるよ』って」

 

ん?この馴染みの関西弁は・・・まさかあのおっさんか?あのおっさんが?牧場長?まじかよ。

 

「今はセキトって名前なんだね。せっかくだから残したいなあ」

 

俺としてはどんな名前になろうと全力で競技人生、馬生?を全うするつもり・・・やっぱり変な名前は勘弁してほしいや、でも馬の俺は姉ちゃんのセンスにお祈りするしかないってのがツライ。

 

「それからパパがサクラバクシンオーでしょ?あっ、バクシンと爆走って響き似てない?バクソウオー・・・うん、速そう!」

 

お?割とまともな名前に落ち着きそうだ、心配して損したな。

 

「そこにセキトをくっつけて・・・セキトバクソウオー!どうだ!」

 

「ぶるるーん」

 

おー。ええんでねえの。

いい意味で溢れ出るスプリンター臭が凄まじい。

同意の意味で鼻を鳴らす。

 

「えへへ、嫌ってわけじゃなさそうだね。それじゃあ早速帰って登録しないと!馬名は早いもの勝ちなんだ!」

 

「それから、パパの知り合いの育成牧場に空きがあるから、近いうちに移動になると思うよ!またね、セキトバクソウオー!」

 

姉ちゃんは嬉しそうに俺の頭を撫でた後、スプリンターの如き速さで車に戻っていった。

って、育成牧場?移動?

 

あー・・・。遂に来たか。薄々察してはいたよ。

 

俺が生まれたマキバファームは生産牧場って言って、繁殖牝馬を飼って仔馬を産んでもらい、その仔馬が大きくなるまで人間に慣らしながら育てる牧場なんだ。

 

それに対して姉ちゃんが言った育成牧場ってのは、その大きくなった仔馬を預かって競走馬へ育て上げる牧場。

 

基本的に生産と育成は別の牧場になるんだが、世の中には両方の機能を兼ね備えた総合牧場ってのもあるんだとか。

 

とは言っても馬自身の身体の成長も重要だし、育成を始める時期を見誤るとケガにつながったり、運が悪いと二度と競馬場の芝を踏めない身体になってしまうこともある。

 

その点俺は・・・この前の体重測定のときは大分平均をオーバーした数値を叩き出してスタッフがあんぐりしてた。俺はびっくりするほど体高が高いってわけでもないからまぁうん・・・身体は資本って言うだろ?駄目?そうですか。

 

嗚呼、グッバイマイカントリー。グッバイマイフレンズ。無病息災。みんな俺がいなくなっても達者で過ごすんだぞ。

 

 

8月某日。

セキトバクソウオー、マキバファームを立つ。

 

それから半年と少しの時が経ちー。

 

 

 

日本に東西2つあるトレーニングセンターの内、東の茨城にある美浦トレセン。育成牧場での鍛錬と、北海道からの長旅を終えた俺は・・・。

 

『うぇー・・・きっついわぁ・・・』

 

「セキタン、大丈夫?」

 

すっかりグロッキーになっていた。通りがかった年上らしき馬が『今年も新しい子が入ってきたかー』とか言ってたからこうなる馬はいるものらしい。

 

セキタンって声をかけてくれたのは馬主である姉ちゃん。朱美ちゃんって名前だってことを最近知った。

それといつの間にかこう呼ばれるようになったけどセキタン・・・石炭かな?

 

道中は渋滞に次ぐ渋滞、それとクラクション。馬の耳には鉄砲か何かにしか聞こえなくて何度飛び上がったことか。競馬場で歓声にビビる馬の気持ちがよく分かったよ。今まで大したことないと思っててすまん。

 

とは言えここはこれから数年間、場合によってはもっと長く世話になる第二の故郷だ。

気合を入れて身体をシャキッとさせ、指示されるままに引かれていけば、とある厩舎の前で立ち止まった。

 

入口の表札はまだ新しく、「太島厩舎」と書かれている。

 

ちなみに俺を引いているスタッフさんは育成牧場の方だ。トレセンに慣れていないのかあちこちキョロキョロして何かを探しているような・・・。

 

「あれ?調教師(センセイ)はどこだ」

 

「あ、あそこに人がいる!」

 

どうやら調教師の方を探しているようだ。それに対して朱美ちゃんが近くで掃除をしてる男性を見つけた。

 

「あの人ならなんか知ってるかも」

 

そう言ってから朱美ちゃんはその人に近付いて尋ねる。

 

「すみません、調教師の太島さんを探しているのですが、どこにいらっしゃるのかご存じありませんか?」

 

すると男性は掃除をしていた手を止め、やさしく微笑みながら言った。

 

「ああどうも。私が調教師の太島(たじま)(のぼる)です。」

 

・・・朱美ちゃん、馬主デビュー早々にやらかしたようだ。




ドラゴンクエスト序曲などで知られ、競馬においてもG1ファンファーレやグレードエクウスマーチなど素晴らしい楽曲を提供してくださった、すぎやまこういち氏が亡くなられました。謹んでお悔やみ申し上げます。

毎日更新が少ししんどいのと2000年前後の競馬を調べるため、 次回更新はちょっと間をおいて月曜の22:00の予定です。

・・・しかし小説って、一日の内少しでも書いてると意外と続くもんなんだなぁ。
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