サラブレッドに生まれ変わったので、最速を目指します   作:Budge

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やれることやったらスプリンターズステークス並の大ボリュームに!

いやー、資料が少なすぎてこの時代の出走馬たちが強かったのか弱かったのかすら分からないけれど、強く書く分には問題ないやろ!→イマココ って感じです。

今回もセキトの激闘を楽しんでいただければ幸いです。



香港国際競走 その2

第3回 香港短途錦標(香港スプリント)(G2)

 

 

XX01年 12月16日

芝1000m 沙田 天候 晴 馬場状態 firm

 

枠番番号 馬     名    性齢鞍  上 斤量

 

1  12 [外]THE TRADER(ザトレイダー)    騙3 K.Derby  57

2  7 [外]KING OF DANES(キングオブデインズ)  牡4 F.Coffee 57

3  6 [外]KENWOOD MELODY(ケンウッドメロディ) 騙6 W.rose   57

4  5 [外]FALVELON(ファルヴェロン)      牡5 D.Olive   57

5  14 [外]NICE ONE CLARE(ナイスワンクレア)   牝5 J.Malta 56

6  1 [外]All Thrills Too(オールスリルズトゥー)    騙4 S.Dry  57

7  11 [外]Solid Contact(ソリッドコンタクト)   騙7 R.wind   57

8  4 (父)ダイタクヤマト  牡7 江戸明   57

9  2 [外]Century Kid(センチュリーキッド)    騙4 J.carrie 57

10  13(父)セキトバクソウオー 牡4 獅童宏明 57

11  3 [外]Cliffhanger(クリフハンガー)     騙4 J.Eagle 57

12  10 [外]Plenty-Plenty(プレンティプレンティ)     騙6 A.street 57

13  9 [外]Nuclear Debate(ニュークリアディベイト)   騙6 G.Steam 57

14  8 [外]Morluc(モーラック)      牡6 R.albert 57

 

 

よう、本番直前、パドックを周回しているセキトバクソウオーだ。

 

いやあ、人気が出ているとは聞いていたけれど、プラカードやら歓声やらあそこまで熱烈な歓迎を受けるとは思わなかった。

 

ここに入ってからしばらく経つし、そろそろステイゴールドの香港ヴァーズも終わる頃・・・と思ったその時、スタンドが大きく沸き上がった。

 

おー、最終直線に入ったか。実況は中国語だし何言ってるかなんてさっぱりだけど、それでも『エクラールかステイゴールドか』っぽい言葉は聞こえた。

 

きっと史実通りにレースが終わったのだろう。

 

そして、次は香港スプリント・・・いよいよ俺の出番となる。

 

「セキト、獅童さんが来るよ」

 

ふと動きを止めた馬口さんに合わせて立ち止まるとそう囁かれて。

 

その言葉通り、待機所からバラバラと14人の騎手が飛び出し、各々の騎乗馬へと向かう中から、見知った顔がやって来た。

 

欧州仕様の香港競馬、今日は獅童さんの被るヘルメットも黒地にピンクの元禄模様をあしらった勝負服仕様だ。

 

「よしよし、今日も落ち着いてるね・・・ん?頭絡が、これは・・・」

 

軽く頭を撫でられていると、獅童さんが俺の頭絡に気がついた。どうだ、朱美ちゃんからのプレゼントだぞ。ふふん。

 

「馬主さんのプレゼントですよ、前のが傷んできたからって」

 

「ほう、やっぱり君は愛されてるんだね・・・よく似合ってるよ」

 

胸を張るように自慢していると、馬口さんが獅童さんにことのあらましを説明してくれた。

 

似合っている、か。当然だろ。他ならぬ俺の馬主サマが選んでくれたんだ。例えまっピンクでも朱美ちゃんが選んでくれたんなら俺は着け通す自信がある。

 

「さて・・・よい、しょ!行くよ、セキト」

 

『おう』

 

いつも通り、左側から飛び込むように背中に乗った獅童さんが、いつものように首の根元をぽんぽん叩く。

 

・・・まさか、もう一度この背に獅童さんを乗せることになるとは思っていなかった。

 

前走のスプリンターズステークスで最後だろうと。陣営も、そして獅童さん自身もそう思っていなければあんなに鬼気迫った顔はしなかっただろうから。

 

だからこそ。今日の、たった一人の使者からもたらされた『泣きのもう一回』と言わんばかりのチャンスを逃したくはないだろう。今日とて穏やかな顔の下に、どんな心と秘策を潜めているのやら。

 

無論、それは俺だって同じ・・・正直、スプリンターズステークスの時より仕上がりが落ちている気がしないでもないが、それがなんだ。

 

「次のレースの準備が整いました」

 

香港ヴァーズ出走組が引き上げ、馬場の点検が終わったらしい。係員に導かれ、馬場入りした先頭の馬から順番に続々と沙田の芝へと駆け出していく。

 

「さあ、行くよ!」

 

『ああ、まずは香港からだ!』

 

世界への第一歩、まずはこのアジアを制覇するべく、俺も他の奴らに負けじと舞台へ繰り出した。

 

 

 

 

 

「今日の芝はどうだい?セキト」

 

『ん・・・まあ走りやすい方かな』

 

ひとしきり走り終えた後、輪乗りの為ゲート裏へとゆっくり歩きながら向かう。

 

脚元に感じた馬場の手応えは、やや水分を含んだ良馬場、といった感じ。

 

ちらりと掲示板を見ると、馬場状態を表すConditionの欄には、欧州基準で「Firm」の文字。うん、だいたい合ってたな。

 

日本じゃ良・稍重・重・不良の四段階で表されるが、欧州基準だと良馬場に三段階、他も含めると合計8段階もありやがるんだ。

 

しかもある程度湿り気を含んだ状態での競馬を推奨しており、馬場がカッチカチの状態になると水を撒いたり、馬の脚を考慮して開催中止・・・なんてこともあるとか。

 

「セキト?」

 

『っと、悪ぃ悪ぃ!』

 

馬場一つ取っても、日本とはまるで違う表現。やはり世界というのは広いのだと思っていたらいつの間にかぼうっとしていたらしい。

 

獅童さんに声をかけられてようやくハッとすると、俺は気合を入れ直すために首をバタバタと振るってからゆっくりと歩き出した。

 

 

ゲート裏へとたどり着くと、同じレースにでる13頭がそれぞれのルーティーンで高まった気合をさらに高めてより良い結果を得ようと最後の調整を行っている。

 

『・・・やあ、やっと来たね、調子はどうだい?』

 

その中から、返し馬で大分身体がほぐれたのか厩舎にいたときよりは少しリラックスした様子のダイタクヤマトが話しかけてきた。

 

『ああ、問題ないぜ、そっちはどうだ?』

 

『うーん・・・良いって言えばそうだし、駄目って言われてもそうかな』

 

・・・どうやら完全に緊張を取り払うまでには至らなかったらしい。

 

『みんな速そうだよねえ』

 

そう言って他馬を見やるダイタクヤマトは、どことなく競走馬としては物足らず、むしろ穏やかさを纏っている様に見えた。

 

『ダイタクヤマト・・・』

 

『そうだ、セキトバクソウオー。君にはきちんと言っておかないと』

 

一体どうした、何があったんだと問いただす前に、ダイタクヤマトの方からそんな雰囲気の理由を明かしてくれた。

 

『僕、このレースが終わったら引退するんだ・・・種牡馬入りだって。お父さんになるんだよ』

 

『・・・そうか』

 

そういえばステイゴールドには及ばないものの、40戦目の大舞台、この国際競走を最後にダイタクヤマトは引退したんだったな。

 

寂しくなるな、と呟いてやれば『僕なんかより強い子は一杯いるからそんなの感じてる暇なんてないよ』と自虐なのか励ましなのかイマイチわからない言葉が返ってきた。

 

『でも、それもこれも、まずはこのレースを終えてから。今は、真剣勝負だね』

 

しかし、ダイタクヤマトは最後のひと踏ん張りと言わんばかりに深呼吸して。

 

しっかりと開かれた目には、再び闘志が燃え上がっている。

 

そうだ、今日のダイタクヤマトはまだ、競走馬ダイタクヤマトなのだ。

 

衰えていようが、実力を発揮できなかろうが、競走馬であるのなら全力で迎え撃たねば失礼千万。

 

『そういうことなら、遠慮は無しだ』

 

お前がいなくなっても、スプリント界の盛り上がりは衰えねえよ、と安心させてやるために。

 

あくまで日本のスプリント王者として、礼儀を持ってお前を蹴散らしてやると闘争心を見せると。

 

『ふふ、ありがとうね』

 

俺のスタンスを理解したか、ダイタクヤマトもまた嬉しそうに微笑んだ。

 

 

「さあ、セキト、行くよ!」

 

『ああ!』

 

発送時刻も間近に迫り、いよいよ枠入り・・・とは言っても香港のゲート入りには順番なんて殆ど無くて、準備が整った奴からバラバラと収まっていく。

 

ここも欧州仕様で、馬番と発走枠は違うし、面倒くさいったらありゃしない。結局獅童さんの先導の元俺が身を収めたのは10番ゲート。

 

気をつけなければならないのはそれぞれ両隣に収まったセンチュリーキッド、クリフハンガーに挟まれるような・・・言うなればサンドイッチ状態になることだ。

 

どちらも実力のある馬のようだし、スプリント戦なら殊更真っ直ぐに走ったほうがいいということはよく分かっているとは思うが、更に内外の奴に押されてってのも十分あり得る。

 

それを避けるためにも、スプリンターズステークスで浮き彫りになったスタートダッシュという課題を解決するための解決策を披露することにしよう。

 

イメージするのは、以前どこかの動画で見た、スタートダッシュが上手い馬の脚元を映した映像。

 

「セキト、これはまた何かする気かな」

 

『さあ、早く開いてくれよ・・・!』

 

最後の一頭がゲートに収まったのを横目に見ながら、獅童さんと俺はお互いに呼吸を合わせ、絶好のタイミングを図っていた。

 

「・・・!」

 

『今だっ!』

 

ゲートの前扉に閉ざされていた視界が開けた瞬間、俺は頭の中のイメージを実行に移す。

 

4つの脚をバラバラに動かしてスタートするのではなく、後ろ側の両の脚を使って地面を蹴り出して。

 

『・・・しゃあっ!』

 

次の瞬間、俺は、先頭の馬に差し迫る勢いでレースをスタートさせていた。

 

 

 

 

その頃、日本のお茶の間に向けて一人のアナウンサーが香港国際競走の実況を託されていた。

 

『さあ、スタートまであと僅か。係員が続々と離れます。枠入りが進んで・・・さあ、確認を・・・スタートしましたッ!!』

 

そんな彼のことなど知らぬと言わんばかりに不意を突く形でゲートが開かれ、一斉に14頭の駿馬たちが遥か先のゴールを目指して駆け出す。

 

『さぁまずは先行争い、外目から前にいきましたのはモーラック、アメリカのモーラックがスーッと上がってまいりました。そしてその内の方からはキングオブデインズ、そして日本のセキトバクソウオーが3、4番手あたり!』

 

しかしそこはプロのアナウンサー。動じることなく立て直して、何事もなかったかのように実況を続けていく。

 

セキトは絶好のスタートから、あえて先頭には立たず、他の2頭に前を譲って走っていた。

 

視界にダイタクヤマトの姿は見当たらず、いつもの走りを捨てて後ろの方にいるのだろうと見当をつけて自分の走りへと集中する。

 

『他の連中には置いていかれたくねぇし、スピード自体は負けてねえ・・・だったら、こうするのが正解だよな?獅童さん!』

 

「! セキト、そうだ。このまま押し切るよ!」

 

答えを求めるように後ろをちらりと見やれば、その視線に気づいたのか獅童は己に言い聞かせるようにそう言って。

 

 

「(・・・押し切る、ネ)」

 

『(短距離の戦いだから、前に行く・・・その考えは悪くない。だが)』

 

そんな獅童を、一人の騎手・・・オリーブ騎手と、彼が跨る駿馬、ファルヴェロンが冷徹な目で見ながら思考し。

 

「『(そんな考えは、我々には通用しない!)』」

 

どんな作戦だろうと、自らの実力ならば正面で打ち負かすことが可能であると結論づけ、セキトの視界には入らない後方から、一気に先頭に立つその瞬間を伺っていた。

 

 

『さぁそしてクリフハンガーも行っています、先頭に立ちましたのはセンチュリーキッド、センチュリーキッドがマイペースで行っています、二番手クリフハンガー』

 

『(ここでオイラが勝てば、あのフェアリーキングプローンさんに並ぶんだ!)』

 

内ラチ沿いをマイペースで逃げるセンチュリーキッドの脳内には、かつてG1を6勝し、その勝ち鞍には日本の安田記念も含まれるフェアリーキングプローンの名前が浮かんでいた。

 

香港スプリントは開設された年にはそのフェアリーキングプローンが制したものの、そのフェアリーキングプローンが翌年に香港マイルに挑んだこともあり、昨年の香港スプリントはこのレースにも出走しているファルヴェロンが勝利。

 

当のフェアリーキングプローンは今年の初めに一度レースを勝利した後、脚部不安でターフを去り。

 

そのバトンを受け継ごうと、センチュリーキッドはこのレースだけは地元勢として負けられないと必勝体制で臨んでいた。

 

 

『(残り700・・・やっぱ早えーな)』

 

一方のセキトは、やはり初めての経験となる1000mのペースに少々戸惑いつつも、オーバーペースとはならずにまずまず順調にレースを進めていた。

 

『(しかし、どうするか・・・このまま行くか、控えるか)』

 

セキトの脳裏に、二択の選択肢が浮かぶ。

 

一つはこのままペースを落とさず、押し切り勝ちを狙う作戦。

 

もう一つは、一旦ペースを落とし、勝負所で再加速、競り合いを制して勝利する作戦。

 

「(・・・セキト。少し、抑えよう)」

 

『お、そうきますか』

 

迷うセキトのハミに、手綱を優しく引っ張られる感覚が伝わってくる。

 

それは、獅童の言葉と同じ。声は無くともそこに込められた意図に従ってセキトは少しスピードを落とし、中段近くまで順位を下げる。

 

「(下がってきタ・・・!?)」

 

『(ほう、あのままでは自壊すると踏んだか)』 

 

その様を見て、オリーブ騎手はやや困惑したもののファルヴェロンの方は納得したように一頭(ひとり)、心の内で呟いた。

 

『500を切って、残り半分!内センチュリーキッド粘っている!内外やや離れていますが先頭はセンチュリーキッド!』

 

「キッド!ほら!行け、行け!」

 

『あと少し!あと少しでオイラも英雄に・・・!』

 

レースも残り半分を切って、未だ先頭を行くセンチュリーキッドは、あと少し、もう少しで一着でゴール出来ると、スパートに備えて加速する。

 

すると、それを切っ掛けに、後ろを追走していた馬たちも前半の貯金を活かすべく手綱が激しく動き出す。

 

「っ、しまった!」

 

『獅童さん、大丈夫だ!このくらい!』

 

しかし、日本では殆ど行われない直線1000mという特異な環境において、獅童は反応するのが一瞬遅れてしまう。

 

その間にセキトよりたった数歩だけ、それでも確実に早く加速を始めた優駿たちが我先にとゴールを目指し、争いを激化させていく。

 

 

「イクヨ!」

 

『ワタシガイチバン!』

 

ファルヴェロンをマークしていたアメリカのモーラックが、差し切りを目論み。

 

 

「フェアリーキングプローンに続け!」

 

『英雄にふさわしいのはこの僕だ!』

 

後方待機策を取った香港のオールスリルズトゥーは後方一気を狙い。

 

 

「今だ!」

 

『いざ参る!』

 

脚を伸ばし始めたオーストリアのファルヴェロンは、馬群を捌くと王者らしくすべてを跳ね除けてみせると馬場の真ん中を選んで。

 

 

「っ・・・!セキト!行けぇ!!」

 

『絶対!負けねぇぞ!・・・はぁっ!』

 

そして、彼らに少し遅れを取りながらも、まだ負けていないとセキトバクソウオーも走りをストライドへと切り替え、加速を始めていた。

 

 

 

 

『残り300!先頭センチュリーキッド!センチュリーキッド!外からモーラック!その内を突いてファルヴェロンも伸びてきた!』

 

『勝ツノハワタシヨ!』

 

『抜かせん!』

 

『ノー!!コウナッタラ競リ落トシマース!!』

 

大外、一気に脚を伸ばすモーラックに合わせるようにして、ファルヴェロンがラストスパートをかけた。

 

差しつ、差されつ、お互いに全く譲らず、2頭の馬体が重なり合うようにしながら共に伸びるその内側。

 

『おい、俺を忘れてねーか?』

 

「内に一頭・・・炎?」

 

ふと、内側から一頭分。耳に入った足音の正体を確かめようと顔を上げたオリーブ騎手の視界に、赤く揺らめくものが映る。

 

持てる記憶を持ち出して、思わず炎と勘違いしたその正体は。

 

 

「セキトォォォォォォッ!行けえええェェッ!!」

 

 

『うらああああああっ!!』

 

 

赤兎馬の名を持つ、紅蓮の馬だった。

 

ストライド走法によって得られた推進力で、海外の強豪に食らいつくと。

 

パチン、と炎が弾けるような音を響かせた鞍上のムチに応えるように、2頭の真剣勝負に割って入るべくそのスピードを最高点へと高めていく。

 

 

『少し遅れてセキトバクソウオーも伸びてきたァッ!!』

 

初の快挙へと飛躍するセキトの姿に、実況を務めるアナウンサーもいよいよ声を荒げ、レースは最終局面へと向かう。

 

『貴様、日本からきた・・・セキトバといったか!なかなかやるではないか!いざ勝負だ!』

 

ファルヴェロンは、内側から現れたチャレンジャーに少々驚いたような顔をしながらも遂にその強さを認め、正面からの戦いを望む。

 

『セキトバクソウオーだ!それはこっちのセリフだぜ、ファルヴェロン!』

 

セキトもそんな強豪の声に応え、啖呵を切ると同時に、真のストライド走法で残り200mのデスマッチへと臨む。

 

 

『3頭競り合ったままセンチュリーキッドを交わして!先頭僅かにファルヴェロン!内外並んでセキトバクソウオー!モーラック!ファルヴェロン!モーラック!セキトバクソウオー!!』

 

「ハァッ!もう少しで連覇ダ!ファル!踏ん張レ!!」

 

『ぬぉぉぉぉォォォォっ!!』

 

「ハー!モーラック!ココマデ来タカラニハ、優勝トロフィー、持ッテ帰ルヨ!!」

 

『オォォォラァァァァイ!!』

 

「はああああっ!!勝てッ!勝てぇぇぇぇ!!セキトォォォォォォ!!」

 

『分かってらぁぁぁぁぁぁ!!』

 

首の上げ下げ、一歩ごとに激しく入れ替わる順位。3人の騎手と、3頭の馬が息を荒らげ、熾烈に争うその勢いは内で粘り込んでいたセンチュリーキッドをいともたやすく飲み込んだ。

 

 

『は、速・・・』

 

4歳のセン馬にとって、あまりにも遠い、優駿と呼ばれる馬たちの戦いの世界。

 

しかし、ぐっと歯を食いしばるその顔に絶望は無く、きっといつか自分もああなるのだと。早くも決意と希望を燃えたぎらせて、センチュリーキッドは自分を抜き去った3頭を見送った。

 

 

『残り100も無いぞ!?3頭もつれた!3頭もつれた!!』

 

『負け、ねぇ!』

 

『オーゥ!ソレハダメヨ!』

 

内のセキトが一歩抜け出せば、外のモーラックが抜き返し。

 

『勝つのは私だッ!!』

 

それを中のファルヴェロンが差し返して。

 

『いいや、俺だぁッ!!!』

 

更にまたセキトが一歩先へと進もうとする。

 

幾度となくそれを繰り返して、最早どの馬が一着でもおかしくないと。観客達からは香港ヴァーズ以上の大歓声が沸き上がる。

 

しかし。

 

 

『・・・ぐっ』

 

序盤、先行していた分のダメージが、セキトの全身に襲いかかった。

 

急に重くなる脚。少しずつ離れていくファルヴェロンと、モーラック。

 

『セキトバクソウオー、苦しいか!がんばれ!がんばれセキトバクソウオー!!あと少しだ!セキトバクソウオー!!セキトバクソウオーピンチ!!』

 

日本の実況すらそんなセキトバクソウオーの背中を押そうと、最早実況をそっちのけでひたすらその名前を連呼する。

 

『(ジャパーンノウマ・・・!ツヨカッタネ・・・!)』

 

『(相当の強さを持っていたが・・・ここまでか・・・!)』

 

下がりはじめたセキトバクソウオーを見る2頭の目は、ここまでの強さを持ちながら、自分たちという存在がいたせいで栄冠を取り逃すことへの哀れみにすら思えた。

 

 

『(なんつー強さだよ・・・!)』

 

そのセキトは、酸欠で朦朧とする意識の中、自分が真のストライドを繰り出して尚食らいつき、引き離さんとする2頭に感服する。

 

これが、世界。

 

己が父の背中と共に、超えてゆかねばならぬもの。

 

あと一歩。そしてその一歩が、果てしなく遠い。

 

これが、幾度となく日本馬が阻まれてきた、香港スプリントの壁。

 

 

『・・・負けて』

 

それがどうした。とセキトは奮起する。

 

『負けてたまるか・・・』

 

 

そんな壁など、ぶち抜けばいい。壊せばいい。

 

史実を辿るなら、史上初の歓喜は十数年後、龍王を名乗る者によって、成し遂げられることだろう。

 

だが、そんな遅れは、スプリンターとして。

 

最速を名乗る者として、許せない。

 

 

『負けて・・・たまるかああああぁぁぁァァァ!!』

 

 

その為に自分はここにいると言わんばかりに、セキトは、さらなる飛躍を見せる。

 

「セキトっ・・・これはッ!?」

 

獅童すら驚嘆するそれは今年の春、京王杯のラストで見せた異次元の加速と同じ類の走り。

 

「嘘・・・じゃないよね、はは、あはは・・・!」

 

手綱から伝わる手応えは一杯、限界そのもの。

 

しかし、現実に走るセキトはそれさえ振り切って、外の2頭を交わしさろうと更に伸びる。

 

その事実に、己の理解を超えて走るセキトに、獅童は笑う他ない。

 

 

『・・・なんだと!?』

 

『ホワーット!!?』

 

完全に落ちたと思ったセキトバクソウオーの急襲は、モーラックは勿論ファルヴェロンも、完全に不意を突かれる格好となり。

 

『あああああああアアアアァァァァッ!!』

 

『ヒェ!?』

 

『むぅ!?』

 

滅茶苦茶な叫びを上げながら突進するように、正に爆走するセキトの姿を見た2頭は、身体の芯から湧き上がる恐怖を覚える。

 

 

『後ろから来ている存在は、本当に同族なのか?』という、生き物としての本能から生まれた恐れを。

 

 

『セキトバクソウオー伸びる!セキトバクソウオーがもう一度伸びた!届くか!届け!届け!!あと少しだ!もうひと踏ん張りだ!』

 

恐怖は身体を強張らせ、パフォーマンスを阻害する。

 

それは競走馬とて例外ではなく、ましてや国際競走という大舞台、些細な出来事一つで結果が大きく動くレースにおいては殊更だった。

 

『うおおおおぉぉぁぁぁぁァァァッ!!』

 

身体中の酸素を使い果たすように叫びながら、『ストライド走法でありながら回転の早い』走りを繰り出したセキトは。

 

『ファルヴェロンか!モーラックか!セキトバクソウオーか!?僅かに・・・僅かに、セキトバクソウオォォォーーー!!』

 

きっかり短頭差だけ、いの一番にゴール板を駆け抜けたのだった。

 




・今回の史実被害馬


FALVELON(ファルヴェロン) 牡 鹿毛
父 Alannon
母 Devil's Zephyr
母父 Zephry Zing


・被害ポイント
香港スプリント連覇→二着


・史実戦績
37戦15勝


・主な勝ち鞍
BTCドゥームベン10000(G1)2回
BTCカールトンC(G2)
など


・史実解説

※読者様の協力によって完全版の成績を発見いたしました。ご協力感謝いたします!

オーストラリアに所属し、2002年の6月まで走り抜いた牡馬。


98年の10月、イーグルファーム競馬場のリステッド競走でデビューし、見事勝利で飾る。続く2歳牡馬、セン馬限定のハンデキャップ競走も勝利し、2歳シーズンを無敗で終えた。

年が明け、2月のハンデキャップ競走を始動戦に選ぶとここでも勝利。続く3月のQLTYも勝利し、無敗記録を伸ばしていく。

ここで間隔を空け、次走は9月のクラス6レースに出走。またしても勝利を収め、次の3歳牡馬、セン馬限定ハンデキャップ競走でも勝利する。

次なるレースは7戦目にしての重賞初挑戦となるシーバスリーガルトロフィー(G3)。ここでも見事勝利し、重賞ウイナーへと成長した。

しかし、次のライトニングステークス(G1)では日本にも遠征してきたテスタロッサの2着と遂に無敗記録が途絶える。

続くオークレイプレート(G1)でも快速馬スポーツに破れ2着。更に出走したニューマーケットハンデキャップ(G1)でもミスマニーペニーの3着と善戦はするものの勝ちきれないでいた。

間を空けて出走したカールトンカップ(G2)では見事勝利、勢いのまま大舞台のドゥームベン10000(G1)に出走したが、ここでは3着に終わる。続くストラドブロークスハンデキャップ(OP)では5着。

ここで4ヶ月ほどの休養を挟み、スキラッチステークス(G2)に出走するとなんと勝利。続くシュウェップスステークス(G2)でも勝利し連勝を飾る。

続くサリンジャーステークス(G2)ではどうしたことか10着と大敗し、一ヶ月程の間隔を開けて解説2年目の香港スプリント(G3)に出走。ここでアメリカのモーラックを下し海外所属馬として初の勝利を飾ると、次は地元のザ・ギャラクシー(G1)に出走するもここでは9着に敗れる。

次走はT.J.スミスステークス(G1)に出走したが、センチュリーキッド、スピニングヒルに敗れ3着に終わる。
その後に出走したのは昨年3着に終わったドゥームベン10000(G1)。ここではスピニングヒルを抜き返して見事に優勝を飾った。

3ヶ月の休養の後マニカトステークス(G1)に出走したが、ピアヴォニック、名牝サンラインに敗れ3着。
ここから更に2ヶ月近く開けて出走したスキラッチステークス(G2)でもまたしても3着。

しかし続くエミレーツクラシック(G1)ではベルデュジュールの2着と健闘し、一月空けた2回目の香港スプリント(G2)では見事勝利、史上初の連覇を達成する。

4ヶ月近く開けての復帰戦、T.J.スミスステークス(G1)では、流石に8着に破れたが、次走のB.T.Cカップ(G1)では2着と衰えていないことを証明し、次に出走したドゥームベン10000(G1)では完全復活し優勝、連覇を達成する。

しかし、ストラドブロークスハンデキャップ(OP)2着、スキラッチステークス(G2)2着、シュウェップスステークス(G2)5着、エミレーツクラシック(G1)2着、三連覇をかけた香港スプリント(G1)も2着と歯がゆい競馬が続く。

次走ビルアダムスステークス(OP?情報求む)では7着、その次のオーストラリアステークス(G1)でも4着と遂に「終わった」としか思えない中、陣営はウィンダムエステートカップ(G2)に出走。

ここで復活の勝利を飾ったが、次走ドゥームベン10000(G1)では6着、更にストラドブロークスハンデキャップ(OP)では9着と、陣営もこの馬が燃え尽きたと判断したのかここで引退の決断が下され、種牡馬入りとなった。

しかし、長期間に渡り活躍を続けた本馬の強さは残念ながら遺伝しなかったようで、代表産駒はG3勝ちが最高のウォーキングオアダンシングと少々寂しい結果に終わっている。


・代表産駒

Walking Or Dancing 牡 (母Young Vic) 種牡馬
海外11戦3勝 主な勝鞍 ニューマーケットハンデ(G3)
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