サラブレッドに生まれ変わったので、最速を目指します   作:Budge

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いよいよ明日でウマ娘一周年。

いや、正直無礼てましたわ。誰があんなに新規ウマ娘が追加されるなんて想像できるか!

一周年記念ショートアニメの出来も最高、序盤のデコレーション対決ではお互いのセンス爆発で笑わせて貰いましたし、いやー、お腹いっぱいです。



セキトの帰厩、ジュンペーの帰還

「よし、長旅お疲れさん」

 

2月も半ばに差し掛かる頃、十分な休養を取れたと判断された俺は、はるばる新冠から美浦へと輸送されてきた。

 

『はー、疲れた・・・酔わないだけマシだけど』

 

度重なる車酔いの事実から、今回はわざわざ渋滞しにくいコースや時間帯を選んで連れてきてくれたみたいだ。お陰で大分楽だったぜ。

 

俺を馬運車から降ろしてくれたスタッフさんも、俺の様子を見て小さくガッツポーズをしていた。作戦成功ってことか。

 

とは言え北海道から茨城ってのはあまりにも物理的に離れすぎているからな。輸送の疲れ自体は感じているけれど、どうにかなるものだし、流石にこれ以上は贅沢ってもんだろう。

 

 

年が明ける前から数えれば約3ヶ月ぶりのトレセン、懐かしさと感触を確かめるように一歩一歩踏みしめれば、吹き抜ける風は北の大地よりもはるかに色濃い春の気配を含んでいた。

 

『やっぱこっちのほうが暖かいんだなぁ』

 

そのことに驚きつつも、そういえば今年のクラシックはどんな馬が出てきたんだっけとか、強い馬ってのはどんな奴がいたっけと頭を使うが、いまいち思い出せない。

 

えーっと、アドマイヤ・・・何とかってのはいたような気がするんだけど・・・うーん。層が薄いってわけじゃない限り、やっぱり一連の記憶喪失の影響を受けている気がするぞ。

 

 

『・・・あ!先輩!先輩じゃないですか!おかえりなさい!!』

 

考え事に耽りながら厩舎に入ると、マンハッタンカフェが勢いよく出迎えてくれた。

 

こいつと前に顔を合わせたのはスプリンターズステークスの前。ということは。

 

『よ、お互いG1ホースだな。マンハッタンカフェ』

 

馬房に入りながらそう声をかける。

 

俺はそのスプリンターズステークス、そしてマンハッタンカフェは、菊花賞に有馬記念とG1を制覇しているはずだ。

 

やっとのことで後輩より先にG1馬になったかと思ったら、既に勝数で抜かれちゃってんだよな。なんか悔しい。スプリントG1少なすぎ問題。

 

『えへへ・・・いろんなところで僕が最強なんて言われてるみたいなんです。信じらんないですよね・・・?』

 

マンハッタンカフェは俺の言葉に照れたようにそう言った後、続けた。

 

『でも、オペラオーさんを差し切ったんです、責任は取ります』

 

『・・・おお』

 

その姿に若駒だった頃の頼りなさは無く、今や堂々たる古馬としての振る舞いを身に付け、身体はG1馬のオーラを纏っている。

 

思わぬ成長ぶりに目頭が熱くなりそうだが、それは俺が短距離専門で、戦う心配がないから素直に喜べるだけだ。

 

中長距離でこいつと戦わないといけないライバル陣営は今頃顔を青くしていることだろうな。

 

と、その時。

 

『・・・(いた)っ』

 

マンハッタンカフェが、足を痛がる素振りを見せたのだ。

 

『おい、どうしたんだ?』

 

 

『・・・貴様、後輩の異常にも気づかぬとは、案外鈍感なのだな。大分前から、蹄に穴が空いているそうだ』

 

俺の言葉に答えたのは、反対側の馬房から顔を出したイーグルカフェだった。こいつとも随分久しぶりだな。

 

『よう、イーグルカフェ。蹄に穴・・・蟻洞か・・・』

 

そういえばマンハッタンカフェは、後世でも蹄がペッタンコな馬の代表格として名前が上がるくらいだったな、と思い出す。

 

硬いイメージのある蹄だが、馬によっては案外脆いのだ。マンハッタンカフェはそのタイプだった。

 

勿論センセイたちだって蹄鉄やらなんやらで工夫はするものの、レースの度にダメージが入って欠けたり、割れたりを繰り返し・・・最後はご覧の通り、脚や蹄を痛めてしまう。

 

『すみません・・・ちょっと奥で休んできます』

 

やがてマンハッタンカフェは痛みに耐えかねたのか、馬房の奥へと引っ込んでいってしまった。そのまま座り込んだらしく、寝藁を掻き分ける音がする。

 

『相変わらず栄光には遠いが・・・ああいった哀れな同胞を見るたび、吾輩を丈夫な身体でこの世に産み落としてくれた母君には頭が上がらぬ思いだ』

 

痛みに苦しむマンハッタンカフェを、同情するような目で見ながら呟くイーグルカフェ。

 

しかしマンハッタンカフェは大分前から(つめ)を痛めていただと?どういうこっちゃ。

 

『なあ、マンハッタンカフェの脚が悪いのは大分前からって言っていたけどよ、具体的にはどのくらいだ?』

 

『・・・はっきりとは分からぬ。だが、貴様が中山に行く前・・・秋頃には痛がっている姿を時折見かけた』

 

なんてこった。俺が先にG1馬になってやると闘志を燃やしていたその時に、既にマンハッタンカフェは己の身体とも戦い始めていたのか。

 

『・・・の割には俺はマンハッタンカフェが足を痛がる姿なんて見なかったぞ』

 

首を傾げる俺に、イーグルカフェはため息を付きながら言った。

 

『どういう訳か、貴様がマンハッタンカフェと顔を合わせる時は、奴の調子が良い時ばかりであったからな。問題が無いように映ったのであろう』

 

 

成程、たまたまか・・・って、たまたまであってたまるか!

 

恐らくだが、マンハッタンカフェは俺に弱っているところを見せまいとしていたんだろう。

 

俺に心配をかけないためか、大舞台を控えた俺に、余計な気を使わせないためか・・・兎にも角にも、健気なやつだよ、まったく。

 

しかしそれがこうしていよいよ俺の前でも隠せなくなってきたということは、状態は悪化してるってことだ。

 

これが条件馬とかなら間違いなく再起を図るところだろうが、マンハッタンカフェは実力を証明したG1馬だ。最悪の場合このまま引退なんてこともあり得るからな・・・。

 

こいつといられるのもあと少しかもしれない。未だ『痛たたた・・・』と痛みに声を上げるマンハッタンカフェの馬房を見やりながら、俺はそう思うのだった。

 

 

 

 

さて、トレセンに戻ってきてから数日。

 

センセイと朱美ちゃんの電話会談の結果、俺の次走は高松宮記念に定まったそうだ。

 

高松宮記念と言えば昨年はトロットスターにしてやられたからな。奴が出てきたらやり返してやる・・・と思っていたのだけれど。

 

『トロットスターが不調!?』

 

俺はウッドコースで併せ馬をしながら、相手を務めてくれているおっさん(牡 8歳)から、思わぬ情報を入手した。

 

『はぁ、はぁ、間違いないよ・・・一回併せたけれど、同じ馬とは思えなかったなあ・・・ひぃ、それにしても君は速いなぁ、さすがG1馬だぁ、はひー・・・』

 

バテながらも教えてもらえたんだが、どうやらトロットスターはスプリンターズステークス以降一度も勝てていないらしい。

 

何が起きたかなんてのまでは分からないが、奴は今年で6歳、急速に衰えが来たのかもしれないと憶測する。

 

それにしても何で俺がG1を制してるって分かったんだ?

 

『おっさん、ついでに一つ聞くけどよ、何で俺がG1馬だって分かったん、だ!?』

 

『はぁはぁ、それはね、ゼッケンに名前が入るのは、G1を勝った馬だけだからだよ!セキトバクソウオー君ー!』

 

あ、そういえばそうだった。直線に入ったから思わず加速して、おっさんを引き離しながらゴールした俺は、耳に入った声で「G1を制した馬のゼッケンには馬名が入る」ということを思い出した。

 

まったく、最近は物忘れがひどすぎねぇか?健忘症かよ・・・。

 

引き離されながらも律儀に声を張り上げて尋ねたことへの答えを返してくれたおっさんに感謝した。

 

 

『ふー、上がり上がりっと』

 

『先輩!おかえりなさい!』

 

さて、今日も気持ちよく走れたなーと。クールダウンを終えて馬房に戻ると、相変わらずマンハッタンカフェが顔を出して出迎えてくれた。

 

だいぶ調子が良さそうだな、と聞いたら獣医の先生が処方してくれた痛み止めがよく効いたらしい。このまま行けば3月の末にはレースに出るそうだ。

 

『俺と同じタイミングか』

 

俺の出る高松宮記念もまた、3月の末に行われるレース。たしかこの時期の中京に長い距離のレースはなかったから、また別の競馬場だろうな。

 

『吾輩も近々マンハッタンカフェと同じ地へ発つらしい』

 

そこに加わってきたイーグルカフェもそう言ってきた。この時期のイーグルカフェはなぁ、とにかく勝ちを求めた結果芝にダートに、距離はスプリントから中距離までいろいろ試しているからはっきり言ってどこに行くのか宛にならねぇ。

 

それにしても俺だけ仲間はずれかよ。まあ、俺が出るのはスプリンターにとっては貴重な、大きなレースだから仕方ないけどな!

 

 

・・・ん?

 

ふと、耳に入った足音に聞き覚えがある気がして顔を上げる。

 

俺自身、この足音をしばらく聞いてなかったようで誰だったかな、と思い出すのに苦労していると。

 

「セキト、久しぶりだね」

 

・・・いや、俺、なんでこいつの足音を忘れてたんだ。

 

待って、待ち続けて、待ち焦がれて。

 

そしてあの日から2年かかって、しかしここに戻ってきてくれた。

 

 

『ジュン、ペー・・・!!』

 

ようやく、本当にようやくだよ。信じて待っていた甲斐があった。

 

その姿を捉えた俺の目は、さぞ輝いていたんだろうな。だって、心臓がこんなに喜びに踊り狂っているのだから。

 

「・・・ただいま」

 

ジュンペーは少々恥ずかしそうに呟いて。

 

『おかえりぃぃぃぃぃ!!』

 

俺は首を振り、前脚を掻いて、思い切り嘶いて盛大に再会を祝う。

 

「ちょ、セキト、嬉しいのはわかるけどさ、あっ、コラ、やめ」

 

少し歩みを進めて、馬房の前まで来てくれたジュンペーに、思い切り頭を擦り付ける。なんだよこのやろ、このやろ、心配させやがって。

 

『少々騒がしいから誰かと思えば・・・これは貴様が若駒のときに手綱を取ったニンゲンか』

 

その騒ぎを聞きつけたのか、ぬっ、と顔を出すイーグルカフェ。流石にこいつの前でジュンペーをすりすりするのは恥ずかしいし、バレたくないので俺はすぐさま表面だけでも取り繕う・・・バレてないよな?

 

『ああ、ジュンペーだよ』

 

『そうか。久方ぶりだな、ニンゲンよ』

 

「あ、イーグルカフェも久しぶり」

 

よかった、バレてなかった。イーグルカフェに気づいたジュンペーは、奴の鼻先にぽんぽんと軽く触れて、再会の挨拶を交わす。

 

てか名前教えてやったのにニンゲンって。さてはこいつ、名前覚える気無いな?

 

『痛っ、先輩ぃ・・・その人、誰ですか・・・?』

 

するとマンハッタンカフェも顔を出して・・・おぉ、久しぶりに人見知り属性を発動させてる。大分マシになったとは言え、やっぱり蹄の痛みは完全に抑えられてるって訳でもないようだな。

 

『そうか、お前はジュンペーに会うのは初めてだよな、俺の騎手だよ』

 

『あれ、先輩の騎手さんは、あのおじさんじゃないんですか?』

 

首を傾げるマンハッタンカフェ。ああ、そりゃそうだ、そう見ちゃうよな。

 

『いや、これには事情があってだな・・・』

 

マンハッタンカフェに、今までの経緯を説明しようとした時だった。

 

「来たな、ジュンペー」

 

「どうもはじめまして、ジュンペー君」

 

俺の背中のイスを争う当事者・・・獅童さんが、太島センセイに連れられて厩舎に入ってきたのだった。




次回、獅童さんとジュンペー、セキトを巡って二人の騎手が大バトル!?と行きたいところですが・・・なかなか内容がまとまらず・・・ひょっとしたら掲示場になるかもしれません
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