サラブレッドに生まれ変わったので、最速を目指します   作:Budge

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前回の通算勝利数の件は、皆様大変お世話になりました。

復帰前と復帰後は合算だとのことで、通算勝利数が31勝以上であるジュンペーはめでたく堂々とG1に舞い戻って来れると判明いたしました!

はぁー・・・裏口騎乗とかになってなくほんと良かった・・・。

そしていよいよ高松宮記念も出走の時を迎えます。VSショウナンカンプの、その結果は如何に!?


コンビ復活!高松宮記念(後半)

『はぁーっ、全くなんなんだよ、あいつら』

 

やあ諸君。高松宮記念の出走が間近に迫ったセキトバクソウオーだ。

 

ジュンペーの緊張を解こうとして、俺が動かずにいればスタンドからの応援で何とかなってくれるんじゃないかって思ってたら罵声をぶっ掛けられたんだけど。

 

いやさぁ、確かに競馬を見に来る人の中には馬券が当たりさえすれば馬の安否なんてどうでもいいって奴もいるって聞いてたよ?

 

騎手も騎手で、あまりにもヤジが酷ければ怒ったっていいと思うんだ、某うるせえ!の人みたいに。

 

まあ、ヤジを飛ばした連中も大方スタンドの遥か上から俺らを見下ろして気が大きくなっただけだろうけどな。

 

それでも、ジュンペーをバカにする言葉は俺が許さねぇ。黙って聞いてりゃ図に乗って来やがったし、ジュンペーのキレかけている声が耳に入った瞬間、代わりに俺がブチ切れた。丁度マジで頭に来てた所だったし。

 

『てめぇらいい加減にしろ!』と過去最大級のボリュームで叫んでやったら、あらまぁ、競馬場が静まり返っちゃったよ。

 

これはやってしまったかと思って、そそくさとスタート地点に向かって走り出したら、何ということでしょう、スタンドからは大喝采が起きた。

 

「いいぞー!」なんてむしろ喜びの声なんかも頂けちゃったりして、悪いことをした訳じゃなかったんだと心底ホッとしたわ。

 

 

・・・というか、一連の出来事でなんだかんだジュンペーの緊張もどこかに吹っ飛んだみたいだし、結果オーライ?とにかく不甲斐ないレースにはならなさそうで一安心。

 

そのままキャンターでスタート地点まで辿り着くと、早速ショウナンカンプが声を掛けてくる。

 

『バクソウオーさん・・・お見事ッス!ああいう奴らはああやって黙らせばいいんスね!さっきニヤニヤしてたのはこれッスか!』

 

どうやら彼もまた、行く先々でヤジに困らされてきたらしい。開口一番こんな発言を聞いてしまったら、『お、おう』としか返せなくて。

 

『よーし!オレもいつか黙らせてやろーっと!』とやたら目を輝かせて張り切っているショウナンカンプ。その姿は100%の純粋さで満ちていた。

 

ああ、関係者の皆さん。彼がレースの度に吠える馬になっちまったら、ホントごめんなさい。

 

「ああ、またバクソウオーに絡んで・・・すみません、ジュンペーさん」

 

「あっ、いえいえ・・・セキトが中京に来てから、何故かショウナンカンプが懐いてるって聞きましたし」

 

「そういえば今日はえらく面白い名前の馬が走っていて・・・」

 

俺たちの背中ではちゃっかり騎手の二人が雑談に花を咲かせてるし、もう滅茶苦茶だよ・・・。

 

 

と、入りすぎていた気合が丁度良く抜けたところでスタンドを大歓声が揺らす・・・って言っても、スタート地点はスタンドの真反対だから、俺たちにはそこまで大きくは聞こえないけどな。マジでありがてえ。

 

ゲートの向こうを見やれば、スターター台が上がりきっている。どうやらファンファーレのようだ。

 

さあ、俺にとっては今年初めて聞くファンファーレ、有り難く拝聴しようじゃねえか。

 

 

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『ウォアアアァァァァ!!』

 

 

 

うん、上手いとも下手とも言えない、無難なファンファーレであったが観客の反応を見るに、その心をがっちり掴むことは出来たようだ。

 

『よーし、今日こそやるぞー!』

 

早速内枠のノボリユキオーが誘導を受け、ゲートに収まっている。

 

『こ、こうなったら!やれるだけやってやる!』

 

『今日も勝って、オレが一番だって見せつけやるぜ!』

 

続くようにしてシャンハイダロン、ショウナンカンプと奇数番の各馬がゲートに順々に収まっていき。

 

「・・・行こうか、セキト」

 

とうとう俺の順番だ。ジュンペーが一言言ったかと思うと獅童さんよりも幾分優しい『前に進め』の命令が脇腹から全身に回って。

 

『おう』

 

俺は、ただそう短く応えて、7番のゲートへと歩みを進める。

 

そして狙ったのかは定かでないが、俺の耳が後ろの扉が締め切られる音と同じタイミングで、ジュンペーが呟いた言葉をも捉える。

 

「ショウナンカンプに付いていくぞ」・・・と。

 

 

 

 

『中京競馬第11レース、春を告げるスプリントG1、第32回高松宮記念の発走時刻が迫ってまいりました!芝1200、今年はフルゲートで争われます』

 

「・・・さて、と」

 

僕は、他の馬が続々とゲート入りするのを横目に見ながら、大きく息を吸っては吐いてを繰り返していた。

 

しかし凄い熱気だな。場内にアナウンサーの声が響き渡るたび、スタンドの高揚が増していくようだ。

 

これが、長らく忘れていたG1という舞台。至高たる者たちが、さらにその上の頂きを目指す最高峰のステージ。

 

「セキト、聞いてくれるかい」

 

ところで、馬が人の言葉を理解するかと言えばそれは正直言って微妙なところだろう。しかし、僕の足下でスタートの時を待つ相棒は違う。

 

そう確信して声をかければ、ほら。『ブルルッ』と返事が返ってきた。

 

「お前が気にしていたショウナンカンプ・・・いろいろ調べたんだけど、僕も正直あの馬は怖い存在だと思う」

 

こうやって僕の思考を話して聞かせている間、彼は身じろぎもせず、黒い真珠のような目をまっすぐにこちらに向けて、話を聞いてくれる。まるで一人の人間のように。

 

「あいつの得意分野は、逃げだ。楽に逃がすとまずい」

 

こちらもその目を見ていると不思議と落ち着く。僕は馬にしては吊り気味な相棒の目を優しく見つめながら小声で今日の作戦を語りかけた。この大きさならば、セキトの耳には届いても他の騎手には届かないだろうから。

 

「だからこそ・・・着いていくよ。どんなにハイペースになろうとも、ね」

 

『・・・ブルルン!』

 

そうしてレースに向けての意向を伝え終わると、セキトは『了解した』と言わんばかりに大きく鼻を鳴らした。

 

『さぁ枠入りもいよいよ最後の一頭、トキオパーフェクトが今、ゲートに向かって・・・収まりました』

 

丁度他の馬のゲート入りも終わったらしい。

 

・・・ここまで本当に色々あったし、長かった。

 

朝日杯で後遺症に襲われ、セキトが助けてくれたと聞かされた時は、本当に騎手として終わったと思ったくらいだった。

 

しかし、よくよく考えてみれば彼と共に、再び大舞台へと臨みたいと願う自分がいて。

 

そこから諦めずに、ひたむきに、ひたすらに頑張って・・・とうとうここまで、戻ってきた。

 

せっかく止まっていた物語が動き出したんだ。その終わりはハッピーエンドであるべきだろう?

 

・・・いや、寧ろ始まりか。僕と、セキトバクソウオーという優駿が駆ける物語の第二幕。その、プロローグの。

 

 

『体制完了、係員が離れます!』

 

さあ・・・行こう!!セキトバクソウオー!

 

『スタートしました!』

 

仕組みも知らない金属の仕掛けが動いて視界が開けた瞬間、僕とセキトバクソウオーは、狭いゲートから、外に満ちる光へと飛び出した。

 

 

 

 

『・・・しゃあ!』

 

よしよし、今日も抜群のスタートを決められたぜ!!

 

・・・っとと。今日はショウナンカンプに着いていくんだったな。脚の回転を速くして、馬群に囲まれない内に赤い胴に白一本、これまた縁起が良さそうな紅白の勝負服を探す。

 

『スタートはきれいに揃った!さあ先行争い、ショウナンカンプ、セキトバクソウオー辺りが前に出てきた、内々にシャンハイダロン』

 

「セキト!前に出るぞ!」

 

『居た!』

 

何のことはない、相手は逃げ馬なのだから速度の差で他の馬を振り切ってしまえば目当ての勝負服と鹿毛の馬体が丸見えだ。

 

『・・・あー!?バクソウオーさん!?オレに着いてくる気ッスか!?』

 

そんな折、己をマークする俺の存在に気がついたらしいショウナンカンプが、抗議するような声を上げる。

 

『でも、オレのバクシンパワーは半端じゃねぇ・・・ッスよ!!』

 

しかし相手は生粋の逃げ馬、レースは始まったばかりだというのに更に加速し、ペースを釣り上げていく。というかお前もバクシンするのかよ!親父の遺伝力すげぇな!?

 

『この・・・ッ!』

 

これは俺も負けてられねえ・・・!

 

「セキト、待て!今はここで様子を見よう!」

 

『はっ!?すまねぇな、ジュンペー!』

 

ついついムキになって後を追いそうになるが、ジュンペーに手綱を引っ張られて我に帰る。俺の本領は脚を貯めて直線で解き放つ差し馬。ここで力を暴発させてはなんの意味もないのだ。

 

少しだけ脚の力を緩めて、競り合っていたショウナンカンプを1馬身ほど先に行かせてやる。

 

『ここで引っかからないなんて・・・流石G1馬ッスね・・・』

 

冷静さを取り戻した俺をチラリと見やるショウナンカンプ。年下と思って侮っていたが、なかなかやるじゃねえか。

 

『お褒めに預かりどうも!』

 

まだどこか悔しそうな表情で走っているからここはチャンスかもしれない、と逆に軽口をプレゼントしておいた。

 

 

『シャンハイダロンの外には芦毛の馬体アドマイヤコジーンはここにいる、並ぶようにしてメジロダーリング、先団ややゴチャついているか』

 

『あはぁっ!動く!脚が動く!!今日は行けますでえ!!』

 

後ろの方では芦毛の牡馬・・・アドマイヤコジーンが絶好調であることを主張するかのように唐突に叫ぶ。

 

『アンタ何言ってんのよ!?そんなことしてたら勝てるものも落とすわよ!?』

 

すかさずそれに突っ込むメジロダーリング。いやアンタもそんなに声を張り上げちゃって。特大ブーメランを食らうぞ。

 

『・・・!』

 

内側を追走するシャンハイダロンとか言う奴は、アドマイヤコジーンの言動に気を取られつつも何も言わず体力の温存に務めていた。

 

えーっと、これで俺たちの他にはシャンハイダロン、アドマイヤコジーン、メジロダーリング・・・計5頭でこのレースのペースを作っていく感じになりそうだ。

 

『後は1馬身差ラムジェットシチー、内にテンシノキセキがいます、更にそのうちにトウショウリープ、その外々を回るのはテネシーガールだ』

 

おや、テネシーガールちゃん、あんなところに。今日は逃げないのか。スタートに失敗したんだろうか?と思った俺の頭によぎる、もう一つの可能性。

 

・・・まさかとは思うが、衰えのあまりもう先頭を走る俺達に着いてくる力も無いって言うんじゃない・・・よな?

 

 

『その後1馬身離れましたサイキョウサンデー、エアトゥーレ、また開きましてリキアイタイカンがいます、その内にゲイリーフラッシュ』

 

『このレース!俺が!勝あぁぁぁつ!!』

 

「こ、こら!サンデー!やめないか!」

 

『ちょ、なんて五月蝿い殿方ですの!?こんな方がよりによって隣なんて・・・悪夢ですわ!勘弁してくださいまし!』

 

「ああもう!こっちまで・・・!」

 

『外の2頭(ふたり)は何をやっているのやら・・・』

 

「・・・流石は大ベテランだな、全く影響は無い、か」

 

溢れる闘志を抑えきれないのか、走りながら雄叫びを上げるサイキョウサンデーと、それに驚くエアトゥーレちゃん、そしてなだめようとする2頭の騎手。

 

さらにはその一連の出来事を冷静に眺めるゲイリーフラッシュと、なにやら中団あたりはカオスなことになっている。

 

ちょっと可哀想でもあるが、今は真剣勝負。ああやって後方勢が勝手に崩れてくれるのなら俺としては大歓迎でしかない。

 

『ここだ、トロットスターはここにいた!中団のやや後ろの辺り!』

 

その時、興奮したようなアワシマさんの声がトロットスターの名を読み上げた。

 

『(トロットスター・・・ああ、そうか)』

 

決して衰えてはいない脚運びに、かつての輝きを取り戻すことに望みをかけ、関係者は6歳馬となった彼の現役を続行するという決断を下した。

 

しかしどうして、その馬体からは昨年のような迫力を感じない。

 

俺は一瞬それを不思議に思ったが、視界の端のトロットスターから、追いきりの日にばったりと出会った時と変わらぬ雰囲気を感じとった瞬間に納得する。

 

『(お前の中で、『競走馬』でいる時間は終わったんだな)』

 

それは、人間のスポーツ選手にも、引退理由としてしばしば挙げられる理由・・・『心身の限界』。端的に言ってしまえば、『競走に向ける気持ちが無くなった』状態。

 

満足感か、何かショックを受けたのか、それともはたまた別の理由なのか。何が起こったのかは彼しか知り得ないが、ああなってしまったならば蘇る可能性は限りなく低い。

 

そんな状態で全力で走らされても、そりゃあ走らないよ。だって、競走する気が無くなっているんだから。

 

 

『半馬身差遅れてトキオパーフェクト、そこから更に1馬身開いてディヴァインライト、後は1馬身差ノボリユキオー』

 

トロットスターの後ろを走るトキオパーフェクトなんて、更に年上の7歳だ。かの黄金世代と同期というのが運の尽きだったか、未だ無冠の大器は、かつて勝てると言われたG1で怪物とまみえ、何を思ったのか。

 

反面、その後ろにつけた同い年の筈のディヴァインライトの方はまだまだやれそうという雰囲気なのが不思議だった。まあ、近い内にトウカイトリックとか、十歳近いのに重賞で好走するようなのがバンバン出てくるからそれに近いものなのか?

 

更に後ろのノボリユキオーもまた、ここまで登ってきた実力は確かなのだろう。しかし、既に走りからは迫力が落ち始めていて、ここから先は大活躍とは行かなさそうだ。

 

 

『最後方追走は今日が引退レース、スティンガー!果たして最後の追い込みは炸裂するか!?』

 

『最後だけど、私の、いつも通りのスタイルで!!』

 

18頭のシンガリを務めるのは、差し脚が自慢のスティンガー。

 

これが引退レースとアナウンスされ少々驚いてしまったが、彼女には、故郷で第二の仕事が待っているんだと納得する。

 

これほど活躍したのだから、その血には相当の価値がある。

 

そのバトンを繁殖牝馬として・・・己の価値を認められた花道で、たくさんの娘息子たちに渡して行くために、彼女は前線を退くのだ。人間で言えば寿退社。

 

ライバルが一頭いなくなってしまうのは寂しいが、その先の道が明るいのならば、俺は喜んで送り出そう。

 

・・・っと!もうコーナーじゃねえか!

 

『んぎぎぎぎぎ!』

 

小回りでただでさえ辛いってのに、さらに苦手な左回りと来ればそりゃあもうこんな声を出したって怒られはしないだろう。

 

「セキト、大丈夫か!?」

 

『んぐぐぐ!』

 

相当の負荷がかかっていることに気づいたのだろう、ジュンペーが俺に声をかけてくれたが返事を返す余裕はない。

 

 

『さあ先頭はショウナンカンプ、ショウナンカンプ先頭で3、4コーナー中間地点!2番手追走はセキトバクソウオー、3番手には先行集団からアドマイヤコジーン上がってきた!』

 

『!』

 

そうこうしている内に、先頭をひた走るショウナンカンプの騎手さんがムチを抜いたのが見えた。

 

『バクシン!?バクシンするのか!?』

 

それを見たショウナンカンプは、なぜかウキウキしたような様子でそのまま最内の経済コースを譲らない。

 

『せっかく調子がええんや、そこのお二人さん、逃さへんで!』

 

後ろからは白い馬体・・・アドマイヤコジーンが一気に位置取りを押し上げてきて、勝負宣言。

 

『生憎だが、差し切らせてやらねえぞ!』

 

『俺もッス!』

 

無論俺も、ショウナンカンプも一着を譲る気はなく3頭でもつれ合うような体制のまま、いよいよ直線へと向かっていく。

 

『ショウナンカンプ!ショウナンカンプが先頭だ!二番手にはセキトバクソウオー!アドマイヤコジーンも連れて上がっていくぞ!残り400を通過!』

 

「さぁ、行くで!」

 

『萩川さん!まだか!?早くバクシンさせてくれよっ!』

 

「セキト!」

 

『おうよ!』

 

最内を通ったショウナンカンプが一歩リードする形になりかけるが、それを俺が許さない。

 

『くっ・・・!これだから小回りは好きやないんや!』

 

「コジ!怯むな!」

 

逆に外目を回ることになったアドマイヤコジーンは、少しだけ俺たちに遅れを取りながらも、すぐさま追いつかんと加速する。

 

『さあショウナンカンプだショウナンカンプだ!二番手にはセキトバクソウオー、リードは半馬身くらいか!少し遅れてアドマイヤコジーンも追い込んできているぞ!?』

 

ここでちらりと後ろを見やる。4番手以下の馬たちは、コーナー出口で急激に巻き上がったペースに置いていかれていた。あの分じゃ今日は勝負にならないだろう。前に取り付いて正解だった。

 

今回の高松宮記念、俺か、ショウナンカンプか、アドマイヤコジーンか。優勝争いは3頭に絞られた。

 

 

『ショウナンカンプ先頭で、直線に入った!セキトバクソウオーが競り合っている!3番手アドマイヤコジーンは少し遅れたか!』

 

『やっぱセキトバクソウオーさんは強ぇっスね!けど、オレだってここまでバクシンパワーを貯めてきたんッスよ、そう簡単には・・・抜かさせねぇッス!!』

 

「はあっ!そうだ、カンプ!伸びろ!どこまでも伸びていけッ!!」

 

直線に入った瞬間、ショウナンカンプは騎手さんが激しく手綱をしごく度に、強烈な伸びを見せる。

 

「っ!負けるな、セキト!」

 

『ああッ!』

 

しかし俺だって負けちゃいねえ。伸びる相手には、それ以上に伸びてやればいいんだ。ショウナンカンプの鼻先より前に出んとして、じりじり、じりじり差を詰めていく。

 

『くっ!・・・ぐぅぅ〜!!認めへん・・・認めへんで!こんなの、認めてたまるかあああっ!!』

 

「はああああ!」

 

俺たちから2馬身ほど遅れる形になったアドマイヤコジーンも、まだ気持ちを切らしていない。鞍上も何発もムチを打って、馬自身もそれに応えようと脚を伸ばしている。

 

だが、生憎だがこの舞台は1200m。本来マイラーであるアドマイヤコジーンには少々忙しかったようだ。

 

 

「抜かせるな、カンプゥゥゥ!!」

 

『おらあああぁぁぁ!!』

 

「抜きされっ、セキトォォォ!!」

 

『うらあああぁぁぁ!!』

 

その自慢の末脚も、最速王(サクラバクシンオー)の血を引き、生粋のスプリンターである俺らの最高速には、わずかに届かない。

 

『うせやん・・・アンタら、ホンマに同じ馬かいな・・・』

 

その事実を突きつけられ、少しずつ離されていくたアドマイヤコジーンは、ただただ目を白黒させていて。

 

残り200mを過ぎる直前。

 

『さぁ、頼むぞ。ジュンペー』

 

『萩川さん!今ッスよね!?』

 

俺ら2頭は、ほぼ同時にギアの解放を要求した。

 

そして、俺らに跨がるジュンペー達もまた。

 

「セキト!!」

 

「カンプ!!」

 

まるで話が通じているかのように、ほぼ同時にそれぞれのトモへとムチを打ち込んだ。

 

 

『うっ!?キタキタキターー!!バクシンバクシンバクシーーン!!!』

 

『先頭ショウナンカンプ!何という強さだ!何という粘りだ!』

 

ショウナンカンプは前半あれだけ飛ばしていたっていうのに、バクシンと連呼しながら更なる加速を見せつけてくる。

 

『う、お、りゃあああああああぁぁぁ!!!』

 

『2番手セキトバクソウオーも一歩も退かない!ショウナンカンプに食らいつく!何という根性だ!』

 

俺だって走りを得意の右手前に切り替えて、アンド真のストライド走法を炸裂させてそれに追いすがる。

 

 

「うおおおおおおおっ!!」

 

「はあああああああっ!!」

 

鞍上二人もまた、人であることををかなぐり捨てたような雄叫びを上げながら、互いに譲らない。

 

激しく手綱をしごいて、ムチを打ち込んで、そしてまた手綱をしごいて。

 

『残り100m!!ショウナンカンプか!セキトバクソウオーか!ショウナンカンプかセキトバクソウオーか!!?』

 

『くっ、うぅ、うぐぅぅぅ・・・!!』

 

・・・これほど必死に追い込んで、駆け抜けて。

 

それでもショウナンカンプの首が、俺の先に見えている。

 

このままじゃ、負ける。

 

そう頭に警告が鳴り響いても、これ以上脚を早く回すなんて、俺には不可能だ。

 

ゴール板がせめて、あと100・・・いや、50m先にあったのならば差しきれたのにと諦めかけた瞬間。

 

「セキト・・・っ!一か八かだ!合わせて!!」

 

『ジュンペー!?』

 

首の中腹に、ジュンペーの両手が添えられた。

 

これは・・・もしかして、伝説(?)の・・・。

 

 

「はあっ!」

 

『・・・ッ!』

 

走りに合わせて俺の首が降りる瞬間、ジュンペーの両手が押し込まれ、視界がぐんと下がる。

 

それと同時に、俺の脚はいつもよりも遠くの芝を捉えて・・・確信した。やはり、これはあの名手が使ったという、豪腕だ!

 

一体全体ジュンペーがこの技をどこで覚えたのかなんて俺には分からんが、とにかく、これならば行ける!!

 

『うがあぁぁぁぁ!!』

 

先行するショウナンカンプを、絶対に捉えてやるという意思が、猛獣のような叫びとなって俺の喉を飛び出ていった。

 

『んなぁっ!?』

 

それに驚いたのかショウナンカンプの動きが僅かに鈍って。

 

そのスキを、俺達は逃さない。

 

「『逃して・・・たまるかぁあぁぁぁぁあああ!!』」

 

『ぐ、お、オレだって、負けるかああああああ!!』

 

『ショウナンカンプ!セキトバクソウオー!並んだ!並んだ並んだ並んだーー!!』

 

 

俺とジュンペーの声が重なって、俺とショウナンカンプの馬体が完全に併さったところが、ゴール板であった。

 

 




今回のレースも、史実の映像があったので視聴したのですが、いやー、素晴らしいバクシン的勝利でした。あんなペースで逃げた上に直線でも伸びるって、ありゃあ普通勝てないわ・・・。

・今回の史実馬解説


・ショウナンカンプ 牡 鹿毛
父 サクラバクシンオー
母 ショウナングレイス
母父 ラッキーソブリン


・被害ポイント
高松宮記念1着→???


・史実戦績
19戦8勝


・主な勝ち鞍
高松宮記念(G1)
スワンステークス(G2)
など



・史実解説
サクラバクシンオー3年目の産駒の一頭。
2001年1月、中山の新馬戦(ダ1800)でデビューするも4番人気の11着に敗れる。

2戦目も同じく中山の新馬戦(ダ1200)に出走すると3着に好走、ここで一旦間隔を明けて6月の東京、3歳未勝利戦(ダ1600)に出走したが6着に敗れた。

4戦目は福島の未勝利戦(ダ1000)に出走し、見事初勝利を飾る。続けて函館の500万下(ダ1000)にも出走、2着に食い込む。 

続く札幌の500万下(ダ1000)では一番人気を裏切り10着と大敗、しかし同条件の500万下(ダ1000)に出走すると、今度は一着でゴールインし、2勝目を上げる。

続く中山、初霜特別(1000万下、ダ1200)でも4番人気を覆して勝利。しかしガーネットステークス(G3 ダ1200)は11着、橿原ステークス(1600万下 ダ1200)は3着ともどかしい競馬が続く。

ここで陣営は初の芝レースとなる京都の山城ステークス(1600万下 芝1200)を選択、これがこの馬にとって大きな転機となる。

ここで後のG1馬ビリーヴと激突し、これに2馬身半つけて快勝すると、つづくオーシャンステークス(OP 芝1200)でも2着に2馬身半差の勝利を収め、そのままの勢いで高松宮記念に出走、前年の覇者トロットスターや復調気配が漂うアドマイヤコジーンら強い馬が揃った中、スタートから先頭を切り、そのまま堂々逃げ切ってみせた。

その後函館スプリントステークス(G3 芝1200)では4着と不可解な敗北を喫するも、スプリンターズステークス(G1 芝1200)ではやはり果敢に先頭を切って3着と健闘した。

次走のスワンステークス(G2 芝1400)を3馬身つけて快勝し、暮れにはビリーヴと共に香港に渡って香港スプリント(G1 芝1000)に出走。しかしファルヴェロンやケープオブグッドホープなど好メンバーがそろった異国の地では実力を発揮しきれなかったのか12着のビリーヴ共々14頭立ての10着と大負けしている。

年が明けての緒戦、阪急杯(G3 芝1200)は快勝したが、連覇のかかった高松宮記念(G1 芝1200)ではビリーヴやサニングデールらに敗れて7着に終わり、結局このレースの後右前浅屈腱炎を発症。引退して種牡馬入りした。


こうして引退後は種牡馬となったショウナンカンプであったが、その種牡馬生活の大半は父サクラバクシンオーの活動時期と重なっていたのが不幸であった。

しかし種付数、産駒の絶対数が少ないながらも初年度からオープン馬を2頭出すなどして、種牡馬としても活躍し、産駒の中からは重賞を勝つものも現れた。

2019年の種付けを最後に種牡馬からも引退、宮崎県で功労馬として余生を送っていたが、2020年、放牧中の事故でこの世を去った。

牝馬の質を考えれば産駒の活躍はかなりのものであり、「父と同等の扱いを受けていればG1馬を輩出していただろう」と語るファンもいるほど。

産駒の中からミキノドラマー(40戦4勝 ルミエールオータムダッシュ(L))が種牡馬入りし、2022年現在もショウナンマッハなど遺された産駒たちが活躍中である。

・代表産駒
ラブカンプー 牝(母ラブハート)
35戦3勝 主な勝鞍 CBC賞(G3)

ショウナンアチーヴ 牡(母ショウナンパントル)
32戦3勝 主な勝鞍 ニュージーランドトロフィー
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