サラブレッドに生まれ変わったので、最速を目指します   作:Budge

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セキトのローテ発表となります!皆様、ご投票ありがとうございました!




競馬のふるさとにて

欧州に着いてから、数日。

 

着いて早々に薬を盛られかけたり、英語を理解出来ないから何をするのかよく分からなかったり、散々なスタートに慌てふためく内に時間だけが忙しく過ぎていった。

 

その間に出走ローテも決定していたようで。まずはロイヤルミーティング初日のキングズスタンドステークス(G2)に出走し、俺の適性を確かめる。

 

ここで良いところなく着外に敗れるようなら日本に帰ってスプリンターズステークスを目指し、掲示板に入れるようならば疲労次第で中3日となるゴールデンジュビリーステークス(G1)か、7月のジュライカップ(G1)に向けて調整となるそうだ。

 

更に言えば2つのG1は状況次第で両方出走するらしいと聞いて、俺には一抹の不安が過ぎる。

 

っていうのも、俺が日本で出走してた時って、一番レース間隔が短かったのが去年のセントウルステークスからスプリンターズステークスの時なんだよな。確か中3週くらい。

 

それがG1っていうレベルの高いレースで、しかも中3日とか・・・日本じゃ到底考えられないローテだよなぁ、ほんと。

 

ここにきて詰まった日程、そして欧州の芝が俺の脚にどんな影響を及ぼすか。

 

それを確かめるためにも、ニューマーケットのコースを走りたいところ・・・ではあったんだけども。

 

 

「セキト、おはよう」

 

『おう・・・って今日も散歩かぁ・・・』

 

結局輸送によって少しアバラが浮くほど馬体重が落ちている、つまり痩せ過ぎと判断された俺は未だニューマーケット自慢の馬場に出ることはなく。

 

体重が戻るまでのメニューとして、厩舎周りでの引き馬が組まれている俺は、今日も今日とてのんびりお散歩のみである。

 

勿論慣れない環境と言うこともあって、相方には馬口さんがぴったり付いてくれているからいきなり拉致られるとかは無いし変に怯えることもないんだけどさぁ。

 

しかし、まあ。今日もあの広いコースを前にして走れないのかとがっくりと肩を落とすと、それが分かったのか馬口さんが「体重が戻るまではねぇ」と首をぽんと撫ぜた。

 

『んー・・・走れねぇのは物足りんが、仕方ねぇよな』

 

「そうそう、セキト。それじゃあ行こうか」

 

納得するしかないかと息を吐いてから前を向いた俺の頭絡に引き手が通されて。今日も晴れたイギリスの空の下に繰り出した。

 

 

 

 

『いやー、やっぱ早めに行こうって言ってくれたセンセイには感謝だな』

 

さっきはため息をついた俺だったけど、やっぱ馬を第一に考えられたニューマーケットの雰囲気は居心地が良くて、さっきまでの気分はどこへやら。上機嫌で厩舎の周りを歩いている。

 

ローテの最終確認の際に聞こえたのだが、俺は当初レースまで半月ほどの期間で遠征する予定だったのそう。だが太島センセイ曰く「あそこの馬場はそんな短期間ではモノにできません」とのことで、更にもう半月ほど早くここに来ることになったのだとか。

 

結局こうなってしまった訳だし、猶予がある分その判断は大正解だったって言えるだろう。まあ、その判断をしたから馬体重が落ちたとも言えるけど。

 

『それにしても、見事だよなぁ・・・』

 

そう呟いて、見上げた先にそびえるはニューマーケット競馬場の滞在厩舎に当たる施設、アビントンプレイス。

 

いかにも欧州といった、重厚なレンガ造りの建造物を中心に整えられた芝生。その真ん中の泉に佇むのは青銅のオブジェ。

 

さらに、敷地内でのルールには驚いた。ここの道路では馬優先のようで、車の方が止まって俺たちを通してくれるんだよ・・・まるで関係ない一般人が。マジでびっくりしたわ。

 

どこかで見た記憶があるんだが驚くべきことにニューマーケットには2500頭もの競走馬がいて、街自体がトレセンの機能を果たしているのだそう。ついでに言うと風見鶏すら風見馬だったし。

 

そんな風見馬がそよかぜにカタカタと揺れる姿を見ていると、ふと競馬という文化はここイギリスで生まれたのだと思い出した。

 

最初は貴族同士の馬自慢、それがいつの間にやらどちらの馬が優れているかの賭けになり、頭数と賞金が増え・・・時代とともに世界中に波及したその文化は、今や多くの人々の胸を焦がし。

 

それに伴って生まれた、サラブレッドという品種もまた、競馬のためだけに生まれた結晶である。

 

ガラスとも揶揄される貧弱な四肢と、そこから繰り出されるあまりにも鮮烈なスピードは、300年の時が過ぎた今でも変わらず、人々を魅了している。

 

俺一頭が生まれる前。俺の身に流れる、血統表にその名を刻んだサラブレッドたち。彼らの走ったレースに何頭の馬が居たのか。何人の人が関わっていたのか。

 

馬も、人も、激しく争い、次の世代へとバトンを渡し続けてー。

 

・・・なんというか、壮大すぎて実感が湧かないと思ったところで首をぶるっと振るい、考えをリセットする。

 

俺にだってかつてこの地で争い、繁栄を勝ち取った馬の血が流れているのだと言われても、そんなことは人間サマの勝手な都合でしかないしな。

 

そんな普段は考えもしないようなことを思ったのも、ニューマーケットの空気感のせいかもしれない。

 

とにかく、すべてのスケールが違いすぎる。規模もそうだけど、コースの広さとか、自然の豊かさとか。

 

『んー・・・気持ちいいわ』

 

「セキト、気持ちよさそうだね」

 

そうやっておだやかな場所で、ストレス無く散歩しているお陰だろうか。途中で立ち止まって伸びをするくらいにはいい気分で歩みを進めることが出来ている。

 

だが・・・それ故に気にかかるのが先日のドーピング騒動。アレさえなければ文句なしに最高の環境だって言えたんだけど。

 

『うーん、俺なんかに使うくらいなら本命に盛ればいいものを・・・』

 

ケチを付ける訳じゃないけどさ、下手したら俺は日本にトンボ返りになるどころかドーピング馬の烙印を押され、どこか草葉の陰でひっそりと一生を終えていたかもしれない一件だったからなあ。

 

・・・というかそう考えると怖ぇぇな!?と寒気が尻尾の付け根から首筋の上まで駆け上がる。今更だけど、俺、超ファインプレーだったのでは。

 

勿論このことは即行で海の向こうの太島センセイにも伝えられたし、馬口さんなんか口調こそ変わらないながらも今まで見たことがないくらいの笑顔で「セキトはなーんにも心配しなくていいんだよ」って言ってた。

 

通りがかった金髪のスタッフさんたちがよく平気でいられるな、みたいな顔をしていたけども、うん、お前らは全然分かってない。

 

いや、昨日今日会ったばっかだから仕方ないけどさ。世話をされて四年目にもなった俺には分かるんだよ・・・馬口さんも相当ブチ切れてるって。

 

少なくとも単独で犯人に出会ったら何するかわからないくらいには。

 

いやまあ確かに厩務員生活を長く続けてようやく現れたG1馬で、しかも海外遠征まで経験させちゃったからなぁ、思い入れは相当なレベルになっているんだろう。

 

それが誰かの陰謀でドーピング疑惑をかけられてるんだ、誰だってそーなるし、こうなるに決まってら。

 

『しっかし、俺が狙われるなんてなぁ』

 

視界の隅に入った美しい花壇を見ながら考える。こっちの方では、こういうこともあるよと噂程度には聞いていた・・・聞いていたけど。

 

本当に起こってしまうとは思ってもみなかったってのが本音。それだけ俺が強い馬って警戒されてるってことなんだろうけど、とんだありがた迷惑だよ。

 

しかもまさかあんなかわい子ちゃんをけしかけてくるなんてな、と苦笑いして。油断大敵とは言うけれど、我ながらガードが甘い部分もあったと反省する。

 

それから、こういうネタってのは日欧問わず一日にして千里を駆け巡るらしい。マスコミの間では俺を狙ったのはどこのどいつだとか、いろいろな憶測が飛び交っていた。

 

その中にはなんとまあ、ウィリアムセンセイの自作自演説なんてトンチキ報道もあって。当然本人は声を荒らげて否定してたけどな。

 

 

・・・と。頭に一つの可能性が閃いた。

 

『・・・奴さん、一回で諦めんのか?』

 

相手は女の子を使ってまで俺に警戒心を持たせないくらいだ、再び巧妙な手で俺を薬漬けにしようとしてくるかもしれない。

 

というか、バレなければいいのだ、とそうしてくる可能性の方が高そうな気がする。

 

『ふむふむ、そうとなると・・・』

 

先日のウィリアムセンセイの反応を見る限り、俺の頭がいい馬、という評判はあくまで馬としてというレベルで伝わっているみたいだし、ここはそれを活用してみるとしますか。

 

よし、寝てる間に何されるか分からんままじゃ安心して休むことも出来ねぇし、他ならぬウィリアムセンセイの名誉の為だ。俺が薬漬けヤローをお縄にしてやる!

 

 

『待ってろ、薬漬けヤロー!』

 

「うわッ!?セキト、いきなりどうしたの」

 

『おっとと、すまんすまん』

 

絶対捕まえてやるぞと気合を入れて嘶くと、それに驚いた馬口さんが腰を抜かしたのだった。

 




というわけで、次回薬漬けヤロー大捕物、勃発!?

更新は金曜日の予定です。
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