サラブレッドに生まれ変わったので、最速を目指します   作:Budge

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書いてて思った、前半と後半の温度差よ。

暗くなりすぎないように配慮したらこうなった(言い訳)。

侵入方法やら実行犯のガバっぷりやらいろいろ気になるとは思いますが、とにかくセキトは怪しい連中をとっちめられるのか。


欧州捕物劇

五月某日。ニューマーケットのとある厩舎の中、それぞれ茶髪と金髪、二人の厩務員が会話をしていた。

 

That se messed up…(あいつはしくじったか・・・)

 

Looks like it(そのようですね)

 

・・・いや、どうやら彼らは本物の厩務員ではないらしい。会話の内容は、調教でもなければレースのことでもない何やら物騒なものであった。

 

何故疑われないのかといえば、ただでさえ厳しく、人の入れ替わりの激しいこの業界だ。新しい顔など珍しくもない。

 

堂々と振る舞い、厩務員同士で会話していると装えば忙しさもあって存外周りの人物は気にしないものである。

 

また、その声自体も馬たちのいななきに打ち消され、外部の人間には決して届かない・・・。人語を介さず、音を隠してくれる馬が住まう厩舎は、彼らが内緒話をするにうってつけであった。

 

So what do you do?(それで、どうする?)

 

どうやらセキトの身に降り掛かった受難そのものであるあの女性について話しているようであったが。

 

He's no good anymore.(あいつはもうダメですね。)Horses will also be wary.(馬も警戒するでしょうし。)Let's arrange another person(他の奴を手配しましょう)

 

わざわざ性別をごまかしてまでの表現、そしてその内容からして、どうやらその未来は決して明るくは無さそうである。

 

その言葉に大きく頷いてから、厩務員然とした茶髪の男は手元の英字新聞に目をやる。

 

Sekito bakuso o(セキトバクソウオー)A red bullet train from Japan(日本からきた赤い超特急、か)…」

 

日本からの刺客、セキトバクソウオーの姿が大きくクローズアップされた新聞を興味深そうに眺めると、もう一人の厩務員を装った金髪男が鼻で笑いながら言った。

 

To be honest, (正直、) I don't think you need to worry too much(それほど気にする必要は無いと思いますが)

 

所詮は島国(アジア)の馬。歴史も強さも我が国には到底及ばないであろう。そう言いたげな言葉に、茶髪の男は一つ頷き、しかし否定する。

 

That's true. (それもそうだ。) But our boss is afraid in the (しかし、私達のボスはその万が一を) unlikely event(恐れている)

 

それを聞いた金髪の男は、困ったように頭を抱え、何がおかしいのか笑い声を上げ。

 

Did the bad habit of the boss!(そうか、ボスの悪い癖が出たか!)

 

そのまま豪快に笑い飛ばす様子を見ながら、茶髪の男は「Close your mouth(その口を閉じろ)」と声の大きさこそ咎めたものの、思い当たる節はあるのかその内容までは否定しない。

 

やがて金髪の男の笑いが収まったのを見計らって、茶髪の男が口を開く。

 

It ’s okay, do it well.(いいから、上手くやれよ)

 

Okay...(わかったよ)

 

金髪の男は、完全には収まらない笑いを縫ってそう返事をすると、茶髪の男から確かに何かの瓶を一つ、受け取ったのだった。

 

そして、茶髪の男は一人つぶやく。

 

When the boss is in a bad mood,(ボスが不機嫌な時に) he comes to this country(この国に来るとは、)That horse has no luck.(あの馬も運がない。)

 

 

そして、時刻は深夜へと移り変わりー。

 

 

 

 

どうも皆さん、こんばんは。セキトバクソウオーです。

 

というわけで。夜のドッキリ、薬漬けヤロー捕獲大作戦一本勝負の時間がやってまいりました。時刻はおそらく深夜2時くらい?

 

このくらいになると普通の馬たちも皆寝静まっていて、昼間の主役たちに変わり沈黙と暗闇がこの場を支配していた。

 

チーチーと鳴く虫たちの声が丁度いいBGMになって、油断すると眠ってしまいそうである。

 

『ふぁぁ・・・眠・・・いやいや寝たらダメだ』

 

生き物として必要な休息を求める身体を昼間の仮眠で誤魔化して、刺客を待ち受ける・・・といえば聞こえはいいが、実際やるのはただの狸寝入り。本当に寝ないように気をつけないと。

 

一応、ウィリアムセンセイもドーピング対策・・・俺を狙ってくる奴らがいないかどうか、すっごく丁寧に警備してくれてるんだけど、やっぱり人間のすることには限界がある。

 

特にこんな深夜なんて、奴さんにとって絶好のチャンスだ。警備員さんも少ないし、人に見られたら困るようなことをするんだから来るならば丁度こんな闇夜に紛れてくるに決まってる。

 

・・・と。早速俺の耳にコソコソとした声が入ってきた。

 

Geez.(ったく。)Why am i doing this…(何でオレがこんなことを・・・)

 

おー、来た来た、来るとは思っていたけど本当においでなすった。声色から察するに男か?チッ。

 

さあ、今日の目的は拉致か薬かはたまた銃か・・・できるなら3つ目は勘弁してほしいところだけど。

 

Nobody wants to do this job.(この仕事を誰もやりたがらないなんてな。)Thanks to that, I have no holidays.(おかげで休日返上だ。)

 

こっそりと聞き耳を立てている間にも、その足音は厩舎の入り口からこちらへとどんどん近づいてくる。

 

・・・正直、拉致には抵抗すりゃあいいし、薬だって最悪飲んだり食べたりしなきゃいいだけの話だ。

 

けれど、薬を注射器で持ってこられたり、拳銃、特にサイレンサー付きのやつなんて出てきたらもう最悪。一発二発くらい、撃たれる覚悟を決めて脱走するしかない。

 

だが、奴らを捕まえるには、俺を所詮「ただの馬」と侮っている今しかない。

 

だからこそ、ここで待ち構える。

 

 

・・・馬になっている間に、俺も随分と肝が据わったもんだと変に感心していると、とうとう奴さんは俺の馬房の前へと現れた。

 

Hello, cute pony ~♪(こんにちはポニーちゃーん♪)

 

薄目を開けて姿を確認すると、そいつは金髪の男だった。ご丁寧に厩務員みたいな格好までしてやがるし。俺一頭を貶めるためだけに幾らかけてるんだか。

 

というか何だよその猫なで声は!変に背筋がゾワッとしたじゃねえか。多分史上最悪のポニー呼びだろこれ・・・思わず身体が強張るがここは我慢我慢・・・。

 

・・・俺、馬体重は500kg前後あるし、決してポニーじゃあないんだけどな。

 

...Okay, this guy is sleeping.(よし、寝ているみたいだな。)Then let's finish it quickly(だったらさっさと済ませるか)

 

・・・よし、引っかかったな。後は機を伺いながら、馬房の入り口の方へ・・・うん、こうやって・・・。

 

Ta-da!(ジャジャーン!)This ... was it like this(これを・・・こうだったかな)

 

金髪の薬漬けヤローが取り出した小瓶をなにやら夢中でいじっているのを横目に、俺はそろりそろりと馬房の出入り口の前に移動し、前脚を後ろに、後ろ脚を前に出す・・・よくある写真撮影のときのポーズだ。

 

どうだ、これで出入り口を塞いでやった。退路は絶たれたぞ。馬房の窓?あれ鍵が外からしか開かんのよ。

 

因みに金髪ヤローがもってる小瓶は・・・んと、あ、あーせにっく・・・?単語は読めても意味までは知らんわ。

 

Hehe, okay ...!(へへ、よし・・・!)Now I get £ 500...(これで、500ポンドが手に入る)

 

しばらくすることもないから金髪ヤローを眺めていたが、俺が移動していることには全く気がついていないご様子、いやどんだけ夢中なの。

 

しかしこれだけやって500ポンド・・・たしか相場では十万円にも満たない額だった筈。それで人生終わらせようってんだからいい覚悟してるよ、全く。

 

詐欺師といい、転売ヤーといい、こういう連中ってのはつくづくリスクヘッジというものがヘタクソだ。

 

After that, I just go home...(後は家に帰るだけ・・・)Ugh!(うっ)

 

『おいおい。人ん家に入っといて、どこへ行こうってんだ?』

 

Oh, oh? Good morning pony?(あ、あらー。おはようポニーちゃん?)

 

俺の馬体に顔をぶつけたことで、今になって目を覚ましていた事に気がついた金髪ヤローは何やら冗談のようなものを吐いたが、残念なことに俺は何を言ってるかなんて全然わかんねぇ。

 

Hey, I'll ask ... Can you be quiet?(なぁ、頼むよ・・・静かにしてくれない?)And can you go through it?(そしてそこを通してくれないか?)

 

・・・うん、今度こそ何を言われているかはなんとなくわかったけど。それに従う気なんてさらさらないね。だってあなた犯罪者でしょ?

 

俺はわざと金髪ヤローにニヤリと笑いかけてから、息を思い切り吸って周りの連中に助け舟を求めた。

 

『ヘルプミー!ヘルプミー!マイルームインアンノウンマン!!』

 

いななきに込めたのは、知っている単語を並べただけの出来合いの英語だ。

 

しかしそれでもそのニュアンスはばっちり伝わってくれた様で。

 

『な、なんだなんだ!?』

 

『変な奴がいるって!』

 

『変な奴ってどんな奴だよー!?』

 

それに呼応するように、厩舎中の馬が騒ぎ出し。

 

Nooooooo!(やめてーー!)

 

遅れたようにして金髪ヤローの悲鳴が厩舎に轟いたことで、更にその騒ぎは広がっていく。

 

『キャー!変な人がいるー!』 

 

『おまわりさーん!』

 

『誰か警察を呼べー!』

 

あーあ、残念だったな、金髪の兄ちゃんよ。俺が一声上げただけで、今までの苦労が水の泡だ。というかこいつの自爆のような気がしないでもないけど。

 

・・・ん。アレ?今更になって気づいたんだけど。

 

馬同士なら普通に会話できてる?外国語とか関係なし?

 

『マジか・・・馬語は世界共通で馬語なのか・・・』

 

この騒ぎならばすぐに巡回している警備員さんが駆けつけてくれることだろうと安堵しつつ、俺はこの後に及んで発覚した驚愕の事実に驚きを隠せなかったのだった。

 




セキト、深夜の厩舎で防衛成功。

なおこの後逮捕された実行犯から芋づる式に犯人は捕まる模様。

次回更新は月曜日の予定です。
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