サラブレッドに生まれ変わったので、最速を目指します 作:Budge
そしてウマ娘のスペシャル番組を視聴したのですが、しっかり見ごたえがあってさすがのNHKでした。
セキトバクソウオーの馬房で、怪しい人物が捕らえられたその明朝。
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仕事場を兼ねている一人の馬主の書斎の電話が、次から次へとひっきりなしに鳴り響いていた。
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数人の秘書たちが休みなく対応するものの、しかし間に合っておらず、とうとう馬主本人が直々に電話を取ると。
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早口で捲し立てるような若い男の声に、馬主は受話器を叩きつけるようにして電話を切る。
この男こそ、セキトバクソウオーに差し向けられた一連の騒動の根源・・・ボスと呼ばれるその人物。
先程も言ったように男は馬主でもあり、今年のロイヤルミーティングに出走馬が出る予定であったのだが・・・運悪くその馬は一月ほど前に故障してしまい、せっかくの機会を棒に振ってしまっていた。
その事に酷く苛ついた馬主の目に映ったのが、他ならぬ島国からいけしゃあしゃあとやってきたセキトバクソウオーだったという訳である。
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馬主が更に高まる苛立ちを隠せないまま声を荒げると、いつの間にやらその背後にトレンチコートを着た茶髪の男が立っていた。
深く被った中折れ帽のせいでその顔を窺うことはできないが、固く結ばれた口元は馬主にとって「良くない結果」を意味している。
それに気がついた馬主が「
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コートの男が淡々とそう告げて、その言葉を聞いた馬主は信じがたいと言った表情をしながら何度も「
しかし、何度同じ質問を投げかけたところでコートの男の返答は「
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再び声を荒らげた馬主に、冷徹な表情のまま男は告げる。
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最早怒鳴り声となっている馬主の声を意にかけることなく、男は至って冷静なトーンのまま次の言葉を紡ぎ出す。
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それを聞いた馬主は、ハッとしたような顔をしたあと、ようやく自分がしでかしたことの大きさに気づいたのか一転して顔を青ざめ、震えだす。
この悪事がバレたということは、遅かれ早かれ有能な警察は馬主の身を確保するため動き出すはずだ。
ましてや、それがロイヤルミーティング・・・全国民が敬愛する女王陛下の庭、アスコット競馬場の祭典に出走する馬の身に降り掛かったことならば、尚更。
最早何を言い訳しようとも、あらゆる手段を用いても逃げられないと察したのか、ゆっくりと崩れ落ちた馬主を見下すように、男は呟いた。
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そのまま事務所を立ち去っていくコートの男。廊下に響くブーツの足音が遠ざかっていく一方で、馬主の耳には微かにサイレンの音が聞こえ始めていた。
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深夜の捕物の末に、ガタイのいい警備員のおっちゃんに捕まって警察送りになる怪しいおっちゃんを見送った次の朝。
ウィリアムセンセイはいつもの固い表情のまま、しかしどこか安心したような様子で俺にそう話しかけてきた。
いや、だから何言われてるかってわからないんですってば。
話の内容をいまいち理解しかねる俺に、馬口さんが改めて日本語で話しかけてくれる。
「君を失格処分にしようとしてた人が逮捕されたってことだよ」
おお!そういうことか!それはよかった!これから先ずっと警戒しなきゃなんねぇのかとヒヤヒヤしてたところだったんだよ。
しっかしイギリスの警察ってのは優秀だなあ。こんなに早く動いてくれるなんて。
良かった良かったとリアクションを取る俺に、ウィリアムセンセイは驚いたような表情をした後更に続けた。
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「・・・警備が強化されるから、安心してトレーニングしてね、だって」
『おぉー、助かるわ。馬口さん、それからウィリアムセンセイも。本当にありがとな』
再びウィリアムセンセイの言葉を翻訳してくれる馬口さん。なるほど、妥当な判断だと思う。
正直これで終わるかどうかは分からんけど・・・そこは今の俺の立場じゃ手が出せない領分だ。イギリスの警察に任せるしかないとして。
陣営の多大なる援助のおかげでようやく体重が戻ってきた俺は、イギリス入りから一週間目にして、ようやく現地の助手を背に調教に臨んでいた。
コースは栗東の坂路に近いとされているサイドヒル、確かに地面にはウッドチップが敷かれていて、日本と似ていると言われても納得がいく。
俺もイギリスに来て初の本格的な調教だと張り切ってそこを駆け上がっていったのだが。
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『ふぃ〜・・・やっぱり、欧州のコースは・・・タフだなあ・・・』
初めてにしては、登りきれただけでも上出来だと助手さんが俺の首筋にぽんと触れる。
うん、欧州のコース、舐めてました。普段使わないような所を使ったせいで脚が疲れてガタガタだあ・・・。
しっかし、前世でも今世でも、あれほどタフだタフだと聞かされてはいたが・・・やっぱり聞くのと自分で経験してみるんじゃ全然違う。そのタフさたるや想像以上、たった一本登りきっただけでこのザマだからな。
走ってみて一番よく分かったのは、地盤の違い。
日本では競走馬がスピードを出しやすいよう、平坦に整地してから土や芝生を敷いているのだが、欧州に関しては下手すりゃ荒れ地だった場所に柵を立て、そこに芝生の種を撒いただけでコースと言い張っていた時代もあったとか。
例えるなら、アスファルトと、山道。どっちのほうが走っていてスピードを出しやすいかって聞かれたらまだアスファルトの方ではなかろうか。
だが・・・欧州のコースってのは後者だ。近年は異常気象に見舞われたり、国際化の波だったり、馬の安全性向上のためだったりで馬場改修が行われたりで幾分か走りやすくはなったらしいが。それも俺にとっては未来の話なんだよなあ。
どこに脚を着いてもボコボコボコボコ、油断すりゃ転んでしまいそうで、脚下の確保が精一杯なんだからスパートなんて騒ぎじゃない。
そんな俺の走りを見ていたのだろう、ウィリアムセンセイが大きなため息をつきながら「...
そして、そんな俺の動きの悪さからか日が経つに連れてマスコミの姿も次第に減っていき、いまや残っているのは毛色の珍しさから見学に来る関係者か、物好きな記者のみとなっている。
・・・まあ、変に注目されて四六時中がんじがらめ、飼い葉の時間まで監視付き、なんてよりはやりやすいけどさあ。
こうやって実力が全く注目されないってのも、思えば新馬の時以来だな。マークが外れやすくなって色々とやりやすくはなるけど・・・改めてその状況に置かれてみると、これはこれで寂しいもんなんだなあと思わずにはいられなかった。
それからほぼ毎日、軽く流すようにしながらコースへ出て欧州の走り方を練習していた俺の下に、ようやく待ち人が現れる。
『おっ』
相変わらず調教の疲労で首を項垂れていた俺だったが、その人物らしき足音と声を聞いて、まずは耳が、そしてその後首が持ち上がって。
『あれは・・・間違いねぇ!』
「ちょ、セキト、ちょっと待って、うわー!」
記憶にある通りの姿を遠目にしっかりと捉えると、俺は嬉しさのあまり引き手を持っている馬口さんを忘れてその人物の元へ速歩で突進する。
「ん?あっ、やあセキト・・・ってうわぁ!?」
『ジュンペぇぇぇ!』
調教も終わりヘトヘトに疲れているっていうのに、俺はそんなことも忘れて、盛大な嘶きで目当ての人物・・・ジュンペーとの再会の喜びを表現した。
なんだかその声を聞くのも、随分久しぶりな気がする。離れてたのって実質一週間くらいの筈なのにな。
「よしよし、そんなに僕が恋しかったのか?」
だいぶ手荒い歓迎になってしまったが、ジュンペーは突っ込んでくる俺に動じることなく太い首を抱き止めて、何度も撫でてくれる。
「ははっ、それにしても久しぶりだなあ、こっちはどうだ?」
『ああ、水も飯も美味いし、環境もいい。コースはもうちょっとどうにかしてほしいけどな!』
「いたた・・・セキト、びっくりしたよもう・・・それから、いらっしゃいジュンペー君」
ジュンペーの問いに対してブヒブヒと応えていると、俺に引きずられる格好から立て直した馬口さんが引き手を持ち直して、軽く叱るように俺の肩をぺちんと叩いてからジュンペーに話しかけた。引きずってすまんな、馬口さん。
「あっ、そうだ、馬口さん、大丈夫ですか!」
「なんとかね」
思い出したように馬口さんを心配するジュンペーに、苦笑いしながら答える馬口さん。うん、返答の割には元気そうだな。
「それで、セキトの調子はどうです?」
「うん、いろいろとあったけど概ね順調だよ」
「でしたら・・・」
『あー、こりゃ長くなるな・・・それじゃあ・・・と。どうすりゃ走れるかねぇ』
馬口さんとジュンペーが色々と話をしている中、俺は暇を持て余し、どうせならとどうすれば欧州の馬場に適応できるかと思案する。
・・・まず、多分だけど俺のストライド走法が欧州の馬場と相性が悪いんだよな。さっきも言ったけど地盤自体がガタガタなんだ、脚を着いた位置が窪みだったらそのまま骨折からお陀仏の最悪ルートの可能性すらありえてしまう。
となると、ピッチ走法の方が良いかもしれないな・・・うん、ひとまずそうしよう。
「それじゃあ、また後で」
「あっ、僕はセンセイに挨拶してこないと・・・」
俺が欧州の馬場に適応するため、ピッチ走法を重点的に走ろうと決めたその時。丁度二人の話も終わったようだった。
さあ、本番まであと3週間。どこまでやれるかわからないけれど、やれるだけやってやるさ。
薬物騒動も解決、ジュンペーも無事到着と順調な一方で、セキト自身は欧州適正に黄色信号!?
次の更新日は水曜の予定です。