サラブレッドに生まれ変わったので、最速を目指します 作:Budge
ど う し て こ う な っ た☆
某遊戯の王だとか闇のゲームとか、全くパクろうとなんかしてなかったのに類似品っぽくなるのはどうしてなん・・・。
『ようやく・・・ようやく会えたなぁ、セキトバクソウオーさんよぉ・・・!』
『・・・』
俺はサラブレッド、セキトバクソウオー。
前のレースでブチ切れて、記憶が飛んだ原因を考えていたらあらビックリ。原因どころか、その元凶の所にまで飛ばされてしまった。
しかもその元凶ってのは・・・目の前で息を荒くし、並々ならぬ闘争心をたぎらせた赤い馬・・・他ならぬ、俺の中にいた、本来の俺自身。
口じゃあこう言っているが、纏うオーラやその血走った目、どう見たって歓迎されているって雰囲気じゃあねぇな。
その荒々しさに圧倒されていると、本来の俺は雰囲気通りに、俺に怒鳴るようにして言う。
『単刀直入に言うぜ!お前とオレと・・・どっちが、『本物』のセキトバクソウオーなのかを賭けて、勝負だ!!』
『はぁ!?』
何を言われるのかと思えば、いきなりそう告げられ、俺はもうどういうことだと頭を抱えたい気分だった。
呆気に取られた俺に対して、本来の俺・・・もう紛らわしいから『オレ』と呼ぶことにしよう。『オレ』は面倒くさそうにしながら再び怒鳴る。
『あ"ぁ!?勝負は勝負だよ!ただし・・・負けた方は消える!!そんな勝負だがなぁ!』
『っ!!?』
おいおいおいおい。今、こいつなんつった。
「負けた方は消える」?それはどういうこっちゃ。
『おい、それはどういうことだ!?』
俺も負けじと声を荒らげて、『オレ』に尋ねると。
『簡単な話だ!お前とオレ!魂が2つあるんだよ!それに対して身体は一つ!!お前が外の世界で気持ちよーく走ってる間に!オレはなぁ、ずーーーっと!!ここにいたんだよ!!』
吐き捨てるように叫ぶ『オレ』。
その言葉に改めて周りを見回してみる。
紛れもない、日本の太島厩舎だ。外からはちゃんと誰かが話しているような音だったり、他の馬のざわめきも聞こえてくる。
けれど。
『あれ・・・?』
その音に騙されていたけれど。しっかりと見渡して、ようやく気づく。
『なぁ、他の馬はいないのか?』
馬が、いない。それどころか、人も。
ここは、俺たち二頭以外には誰もいない、がらんどうの厩舎だった。
『・・・ようやく気づいたか!トロいんだよ!』
その言葉に、『オレ』は呆れるような声で答えた。
・・・何故だろう、と考えて、それらしい理由をようやく見つける。
『オレ』はさっきずっとここにいた、と言っていた。ならば、他の馬とも会ったことがないのでは?
と、気づいたところで、俺は戦慄する。
「ずっとここにいた」。
ずっと、ここに。
・・・どれくらいの間?
少なくとも、俺が生まれてからの間と考えると。
5年間。
・・・5年もの間、この、何もない、何も起きない狭い馬房の中で。何も飲み食いせず。誰とも話すことなく。
こいつは、じっとこの時を待っていたというのだろうか。
『何も無いだろう!?実につまらねぇ世界だろう!?オレは、ずっとここにいた!それがオレにとっての日常だったし、これからもずっとそうなんだと思って過ごしてたんだよ!』
それがある日、突然景色が変わったと『オレ』は言う。
『・・・あのときの感覚は忘れらんねぇよ!いつもと変わらず、ぼーっとしていたと思っていたらいきなり走ってて!脚を動かしたのも!草の臭いを嗅いだのも!オレと同じ生き物がいるって知ったのも!全部初めてだった!!』
・・・多分、キングズスタンドステークスの時のことだろう。
そう思い当たると同時に、記憶がすっぽり抜け落ちていることに対しても不思議と合点がいった。
魂レベルで別の存在なんだ。記憶が別にあったとしても、何も不思議じゃない。
『そりゃあ楽しかったさ!楽しくて楽しくて・・・それが、いきなり走りづらくなって止まったと思ったらここに戻されてた・・・ふざけんなって思わねー奴が、どこにいる!?』
・・・成程。そりゃあふざけるなって話だわな。
ずっとずっと、こんな狭っ苦しくて、何もできない世界に閉じ込められていて、ようやく出してもらえたと思ったらそれは数分間の夢のようなもので。
『不思議だよな?外に出る前はあんなに平気だったのに。戻ってきたら・・・つまんねぇんだよ!誰もいない!何も起きない!走ることすらできねぇ!だから・・・』
オレは、お前を消して外の世界を堂々と歩くんだ!と恐ろしいほどのオーラを放ちながら『オレ』は俺を睨みつける。
・・・正直、背筋がゾッとした。これが、ハングリー精神と言うやつか。明らかに方向性は間違っているけれど。
されど、その覚悟は本物。
ごくり、と生唾を飲んで、次の動きを伺っていると『オレ』は事も無さげに馬房の外へと歩みを進める。
って。
『ちょっと待て!?どうやって外に出た!?』
馬房の入り口って馬栓棒で塞がれてるはずなんだけど!?それをどうやって抜けたんだ!?
まさかイリュージョン・・・と狼狽える俺に、『オレ』が呆れたような様子で吐き捨てる。
『まさか、まだ気づいてねーのか?ここはなぁ、お前と、オレの心の中なの!だから「こうしたい」って思えばその通りになる訳!』
『ああ・・・』
なるほどなぁ。最早理解できる範疇を飛び越えていて、俺は気の抜けた様な返事しかできなかった。
ものは試しと馬房の入り口を塞ぐ馬栓棒に向け、『外に出たい』と念じれば、まるで最初からそこに障害物など無かったと言わんばかりに馬栓棒はきれいさっぱりと消え去り、入り口が開かれた。
『ええ・・・』
本当に開いちゃったよ。うん、なんだかここでは何が起きてももう驚かない自信が出てきた。
『おい!出られようになったんだろ!?早く行くぞ!』
現実では到底ありえない光景を見て再び呆然とした俺を引っ張るように、『オレ』の威勢のいい声が厩舎に響き渡った。
かくして、俺と『オレ』は馬体を並べて厩舎の外へと繰り出していた。
しかし・・・こうやって見ると、太島厩舎以外にも他の厩舎だったり、洗い場の位置だったり、ちょっとした植え込みだったり・・・隣に『オレ』がいなければ本物と信じてしまうくらいには美浦トレセンそっくりな風景が広がっている。
『思ったとおりだ!やっぱり、新しい場所ができてる!!』
その道中、『オレ』が嬉しそうに呟いた。
『新しい場所?』
『ああ!お前が来るまで、あの建物の外には出られなかった!!お前の記憶でここが広がったんだよ!』
興奮したような様子で言う『オレ』。俺にとってはすっかり見慣れた様々なものが新鮮なのか、ぴょんぴょんと跳ねるように色々なものを見に行くから、なかなか先へと進まない。
まるで仔馬のようなその姿を見ていると、歳の離れた弟ができたようでちょっと楽しくなってしまったが、いやいや、さっきこいつは何を言っていたと首を振ってその考えを振り払う。
・・・だが。
ずっとここに閉じ込められて。
外の世界の楽しさも、厳しさもなんにも知らないまま大きくなって。
そういう意味では、こいつの記憶もほとんどがこの世界の厩舎と同じでがらんどうなんだと。
それだけは、悲しいやつだと心の底から思った。
そうやって歩き続けること二十分ほど。
俺たちは、美浦トレセンの南馬場(を再現した場所)へと到着していた。
『レースの前にはまず準備運動だ!!』とどこから覚えたのか『オレ』が言うから、まずは十分ほど肩慣らし。
『・・・マジで本物そっくりだな・・・』
いや、しかし。相変わらずの再現度だな。ダートコースの油断すると脚を取られそうになる感じとか、ウッドチップの脚抜きの良さとか、一瞬本当に本物かと思った。
適度に汗をかいたところで、『オレ』も準備が整ったらしく『おーい!』と声をかけてくる。
『ここだ、ここ!この前走ったとこに似てるから、ここがいい!』
ラチをすり抜けて『オレ』の元へと向かうと、そこは芝コース。その最終コーナー手前で立ち止まって待っていた。
こりゃあいい。俺も存分に全力を出せそうだ。
『で、だ。どこからどこまで走る?』
『オレ』にそう尋ねると。
『ここから一周して、あそこが目立つからゴール!それでいいか!?』
視線の先には、赤いポール。
ほう、なかなかどうして分かっているじゃないか。あれは現実でもゴールとして使われている場所だ。
『ああ。それでいこう』
特に不都合もないし、スプリンターの俺たちにとって長い距離を走れというのも酷である。
『オレ』の出した条件を承諾すると。
『はぁぁ・・・やっと、やっとこの日が来た・・・!!』
先程までの無邪気な仔馬のような雰囲気から一転。厩舎の中で出会ったときのような、魔王じみたオーラを再び立ち上らせる『オレ』。
それほどまでに、俺に勝ちたいのだろう。
そして、外の世界へと飛び出したいと願っている。
その気迫に、思わず一瞬押されてしまうが。
『負けたほうが消える』と一方的に定められたこのレース。
俺だって、負けたくはない。
一度死んで、生まれ変わって、必死に走り続けて、勝ち上がって・・・G1を勝って。
せっかく、生きられる権利を得たのだ。それを簡単に、はいそうですかと手渡してたまるものか!!
後ろへと引き下がりかけた後ろ脚を踏ん張って、浮いた前脚で力強く地面を叩きつける。
ひとつ、大きく息を吸って。
・・・迷いは消えた。
『・・・勝負だ!』
『ヒャハハハ!!オレが!!オレが本物だアァ!』
タイミングを示し合わせた訳でもないのに、俺と、『オレ』は同時に芝生を蹴り出し、お互いに負けられないレースのスタートを切った。
というわけで、闇のゲー厶ならぬ闇のレースが始まってしまいました。セキトは無事、現実世界に帰れるのか!?
次回更新は金曜日の予定です。