サラブレッドに生まれ変わったので、最速を目指します   作:Budge

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今回、いつも以上にやりたい放題になりました。一話で決着のあとまでまとめるつもりが長くなりすぎて分割・・・カオス空間のカオス決着をお楽しみください。


表裏、邂逅す その2

美浦トレセン、芝コース。

 

通常ならほとんど使われないそのコースの上を、瓜二つな赤い馬が二頭、駆け抜けていく。

 

最内を駆ける方は、野性味に溢れた荒々しい走り。

 

その外に取り付いて後を追う方は、洗練された美しい走り。

 

それぞれ異なったフォームで、力強く前へ前へと進む二頭は、今正に己の存在を賭け、争っていた。

 

 

しかしその戦いを見守る者は、誰もいない。

 

そう、ここは本当の美浦ではない。

 

 

彼ら二頭だけが知る世界、彼らだけが知っている戦いなのだ。

 

 

 

 

『くぅっ!』

 

現在、もう一頭の『オレ』と、お互いの存在を賭けたレースをしている俺は、しまった、失敗したと早くも後悔していた。

 

今目の前を走るのは、俺にそっくりなんてもんじゃない。俺そのものの赤い馬体。

 

その走りこそ、イロハもなんも知らねぇ滅茶苦茶なものだったが。それでも『オレ』はスタートと同時に内ラチ沿いにピタリと位置取り、先行したままそのポジションを譲らない。

 

『ヒャッハハハァ!!走れる!走れる!!オレがホントのセキトバクソウオーなんだぁ!!』

 

ご覧の通り、相手はレースもろくに知らない仔馬みてーな奴だ。それがなかなかどうして、流石俺と同じ身体に収まっていた存在というべきか・・・位置取りが上手ぇ。このままだと内外の分俺が不利になる。

 

油断大敵。相手をどこか舐めていた俺は当然面食らったし、この勝負が超スプリント戦である以上、相手のスタミナ切れも狙えない。

 

 

しかし、あいつにはない強みが、俺にはあった。

 

『(まだだ・・・まだ・・・!)』

 

走法チェンジによる、二段ギア。

 

努力の結晶であるそれまでは、流石に真似できないことだろう。

 

第一、第二コーナーを曲がりながら、『オレ』をどう追い抜くかの算段を立てていく。

 

『(スピード自体は、互角なんだよな・・・!)』

 

驚いた・・・というか、冷静に考えればそりゃそうなんだけど。俺と『オレ』の走るスピードは全くの互角であった。

 

となると、無駄に脚を使ったほうが負ける。そんなスタミナの削り合いの勝負になるが。

 

『(あーっ!畜生、先行したかったなぁ!)』

 

それを踏まえても、俺よりも半馬身ほど先を行く『オレ』の姿に思わず舌打ちしそうになる。

 

スタートの時、先頭に行けていたらバテたフリ作戦なり、経済コースなりいろいろと使えていたものをと後悔してももう遅い。

 

今の俺にできるのは、なるべく脚を使わないようにしながら、こいつに置いていかれないようにすることだけだった。

 

俺にとって最良のパターンは、『オレ』がこのまま食らいついてくる俺に苛立ち、スピードを上げること。

 

最悪のパターンは・・・。

 

と、思考したその時。『オレ』の脚の動きが少し緩む。早くもバテたのかと少し期待したが。

 

『ふー、少し疲れてきたぜ、休も休も・・・』

 

ああ。今正に目の前で起きているこれが、最悪のパターン。

 

こいつ、センスだけで「息を入れ」てきやがった!

 

流石俺。というか『オレ』。まともに生まれてさえいれば、相当いい競馬ができていただろうと思うと勿体なさを覚えるレベルだ。

 

 

『(・・・チッ!)』

 

狙い通りには行かなかったが、これもまたレースである。

 

まだまだ向正面、中盤に差し掛かる辺り。俺は次なる作戦を立てるべく思案する。

 

『(それにしても・・・)』

 

『アヒャヒャ!走ってる!!やっぱり走ってるよ!!夢じゃねえ!』

 

ちらりと前の方に目をやると、『オレ』は随分と楽しそうに走っていた。

 

勿論このよく分からん世界に、ずーっと閉じこめられていたのもあるだろう。

 

しかし、それ以上に。

 

走れることそのもの(・・・・・・・・・)への喜びを全身で感じている、そんな雰囲気すら感じて。

 

『(本当にこいつを消して、いいのだろうか?)』

 

己の存在がかかっているというのに、そんな迷いすら覚え始めたその瞬間、俺たちは第3コーナーに差し掛かった。

 

『このまま、このまま行けば・・・!オレが、オレが『セキトバクソウオー』に、なれる!』

 

その時、ゴール地点が見えてきたことに焦ったか、『オレ』がペースを上げていく。

 

『(これなら・・・!)』

 

それについて行くように、徐々に俺もペースを上げ、絶好の差し切り体制。が。

 

『・・・っ!』

 

 

駄目だ。

 

こいつに勝つということは、こいつを消さなきゃいけないってことだろう。

 

ずっとここにいて、ずっと、独りぼっちで。

 

こいつは一体何をした?

 

 

ただただ、明るい未来を信じて突き抜けようとしているだけの純粋な魂を消すなんて・・・俺には・・・できない!

 

『くっ・・・!』

 

このまま脚を使わずに走れば、『オレ』はこの世界から解放され、外の世界へと飛び出していくことだろう。

 

その代わり、俺という存在は今度こそ消滅するのだろうなという確信と諦めが沸いていて。

 

半馬身だった差が1馬身に開いたその時だった。

 

 

 

 

「セキタン!負けないで!!」

 

『へっ!!?』

 

どこからともなく聞こえる、よく知ったその声。

 

一体どこから、と驚きのあまり辺りを見回せば。

 

『朱美ちゃん・・!?』

 

直線間際のラチの外側から、「朱美ちゃん」が大きな声を張り上げて、俺にエールを送っていた。

 

嗚呼、そうか、そうだった。「俺が望んだことが具現化する」のがこの世界。こういうことが平気で起きるのも、ありえる話だ。

 

俺にとって、大事で大切で、守るべき馬主サマの姿を見せつけられたその瞬間、胸の奥が大きく高鳴った。

 

それだけじゃない。

 

朱美ちゃんは切っ掛けに過ぎず、太島センセイ、薪場のおっちゃん、馬口さん・・・果ては共に走ったサラブレッドたちまで。

 

ラチのカーブにそって次々と、記憶にある限りのありとあらゆる姿を借りて。

 

俺の『生きたい』という意志が負けるな、諦めるなと現れては声を掛けてくる。

 

 

そうだ。俺には、「外の世界で、他ならぬ『俺』を待っている人がいる」。

 

その事実が、『オレ』に屈しかけた心に激励のムチを打つ。

 

『(どうせなら・・・!)』

 

そして、それに応えるようにして極限にまで高まった、勝ちたい、元の世界に帰りたいという思いが、文字通りにこの世界へと溢れ出し。

 

『っ・・・!』

 

その瞬間。地の底から湧き出すような轟音と共に、コースが、風景が、大きくその形と光景を変えていく。

 

流石に大きな変化を呼び起こしたせいだろうか。空間自体が揺れているようだ。

 

『なんだっ!何をしたんだっ!!』

 

『まあ見てなって』

 

急な変化に驚く『オレ』をよそに、俺達から見て左側。その地面を割るようにして巨大な構造物が天に向かってそそり立つ。

 

 

『なっ・・・なんだぁーー!?』

 

それ(・・)を見た『オレ』は驚嘆と、恐怖の入り混じったような声を上げた。それでも走り続けているってのは流石としか言いようがない。

 

すまねぇな。と心の中で謝罪する。お前は見たことがないだろうが、これは俺にとっては最早馴染みの建物なんだ。

 

『どうせなら、特等席で見守ってほしい』という思いから現れたこれは、過去の名馬を見届け、そしてこれからも新たな優駿たちの悲喜を見守り続けるであろう場所。

 

 

超満員の、中山競馬場のスタンドだ。

 

 

その最前列には、勿論朱美ちゃんの姿も・・・って。

 

おいおい。なんでそこにマンハッタンカフェとイーグルカフェまでいるんだよ。ご愛嬌ってやつか?

 

『行けーっ!』

 

『差せーっ!!』

 

『そのままー!!』

 

思わぬおまけに苦笑いしていると、俺たちに向けて人馬入り乱れた大観衆が一斉に沸き立った。

 

『ウワーッ!?なんだ、なんだこの沢山の音はーっ!?耳が!耳がぁーー!!』

 

『(ただの音、か・・・まあ、仕方ねぇことだけどよ・・・!)』

 

いきなり現れたスタンドと大量の人々に驚く『オレ』とは対象的に、俺はその声に胸の奥に沸き立つものを感じていた。

 

そして、思い出す。

 

レースの前、『オレ』と話している中。俺は自分で言っていたじゃないか。

 

『俺の方が、世間一般でいうセキトバクソウオーだ』と。

 

ならば、この大観衆の声にも応えるのが筋ってもんだろう、と自然に笑みが浮かぶ。

 

だが、そのためには、俺一頭(・・・)だけじゃあ力が足りない。

 

 

『相棒』が必要だ。

 

『ふぅ・・・!』

 

このまま呼んだとてきっと応えてくれるであろうが、より万全な態勢で『彼』を迎え入れるため、俺は気持ちを集中させる。

 

『・・・!』

 

その『思い』はまずハミという形から現れた。

 

それを迷うことなくガチリと噛むと、そこから瞬く間に紅白の光が伸びて頭絡と手綱を形作る。

 

背中には濃紺の布地が現れ、すかさずそれを鞍と鐙の重みが背筋へと押し付けて吹き飛ぶのを防ぎ、俺の胴を囲うように現れた光の輪が腹帯となって固定する。

 

そして。そこに刻まれるは、7という数字と、セキトバクソウオーの白い文字。

 

春先、高松宮記念を制した時と全く同じゼッケンが俺の背中に鎮座した。

 

そんな一見すればカラ馬のような状態となった俺を見て、『オレ』は再び驚くような表情を見せ。

 

『な、なんだそれ!!そんなものを背負って・・・走りづらくないのか!?』

 

『ああ、これっぽっちもな!』

 

前方から聞こえた、訳が分からないという混乱のまま叫んだ声に答えてから、俺はいよいよ『彼』を呼ぶ。

 

『生きたい』という思いからスタンドが現れたくらいだ。それ以上に強い願いを抱いた今なら、『彼』だってきっと。

 

この幻のスタンドの何処かにいるであろう、その人物に向けて、俺は思いのままに叫ぶ。

 

『どうせ、そこにいるんだろう!?俺を見てるんだろう!?だったら、力を貸してくれよ!!』

 

そうして吸い込まれていった俺の声に、一瞬スタンドがしんと静まり返って。 

 

 

 

たしかに、誰かが鐙に足をかけた。

 

 

「待たせたね、セキト!」

 

間違えるはずもない、相棒の声が『背中』から聞こえてきて。

 

 

『ワアアアアアアア!!』

 

 

俺の心の高まりに呼応したのか、再び湧き上がる大歓声・・・いや、むしろ、さっき以上か。

 

『待ってたぜっ!!ジュンペー!!』

 

ずしりと背中にかかる重みは、間違いなく彼のもの。

 

その両の手は手綱を掴み、俺の望み通りに前へ進めと激しく扱かれている。

 

一歩、また一歩。

 

直線に入って、ぐんぐんと加速していく俺の脚。

 

やがて前へ行っていたはずの『オレ』にも追いつき、追い越して。

 

『なんでだ!ヘンな格好で!ニンゲンを背負ってるなら!その分オレの方が速いはずなのに!!』

 

追い抜き際、信じられないものを見るような顔で、泣きながら叫ぶ『オレ』が目に入る。

 

ああ、可哀想に。

 

こればかりは、「外の世界」を知らないのだから仕方ない。

 

この人間は、ただの人間じゃあないし、ましてやこの格好は変でもなんでもない。

 

大切な相棒を乗せるための一張羅であり、なにより大事な人に、俺はここにいると知らせるための勇姿なんだ。

 

「いくぞ!セキト!!」

 

ほら。耳をすませば、いつもと同じ。

 

優しくて、強くて、頼りになる、ジュンペーの声がして。

 

『ああ!!』

 

それに応えると、ぱちん!と鞭がトモに入った感覚と音が響き渡り。

 

『おっしゃあああああ!!』

 

そのまま走り方がストライド走法へと変わると、そのスピードは俺と『オレ』を更に引き離していく。

 

『な・・・なんで、なんでだよ・・・なんで、同じ存在の筈のオレが、お前に負けるんだよ・・・!?』

 

刹那、後ろから放たれた、そんな呟きを確かに耳で聞きながら。

 

俺は『オレ』よりも1馬身ほど突き抜けて、赤いポールを駆け抜けた。

 




表セキト、大勝利!希望の未来へレディーゴー!

・・・の前に。次回更新は敗北した裏セキトとのあれこれを書かせていただきます。

ひょっとしたら例外的に土日のどちらかの更新になるかも・・・!?
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