サラブレッドに生まれ変わったので、最速を目指します   作:Budge

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書くことが・・・なーい!!

本当にどうしましょ。とにかくひとまず今年度版のウイニングポストを購入予定ってことでも書いておこう・・・。

そして、どうしましょうなのはセキトの方も・・・。


真夏の霹靂

『・・・ああ、この空気、この風景!!日本よ、俺は帰ってきた!!』

 

7月下旬の北海道。ジュライカップの疲れもすっかり癒えた俺は、香港の時もお世話になった育成牧場で元気に過ごしていた。

 

3週間の検疫明け、ようやく放牧地へと解放されると思っていた俺を待っていたのは、獣医たちの精密検査だった。

 

エコーとレントゲンを中心とした検査に次ぐ検査からのショックウェーブで結局その日は潰れてしまったし。俺、もうそんなに疲れていないんだけどな?

 

その翌日である今日になってようやくパドックへと放たれた俺は、久方ぶりの日本の空気を堪能している。

 

駆け足、砂浴び、大地の感触。どこまでも澄み渡るブルースカイ。全てが楽しすぎてついつい尻っ跳ねまで繰り出してしまったぜ。

 

・・・これで、何故か巻かれている右前脚のバンテージさえなければさらに良かったんだけど。

 

と。

 

『何あのおっさん』

 

『テンションおかしいよね』

 

白い目で俺を見つめる若駒が、2頭。

 

俺も一瞬ぽかんとしてから、いかんいかん、ここは育成牧場だったということを思い出して。

 

『おう、すまねぇな!久しぶりの日本についテンションが上がっちまった』

 

素直にそう謝罪すれば、2頭はお互い驚いたような顔を見せた。

 

『久しぶりの日本って、おっさんどっか行ってたワケ?』

 

『ああ、イギリスってところだ』

 

『んー・・・うちら一回しか移動したことがないからよくワカンネ!ゴメンねオジサン』

 

どこか女子高生味を感じる若駒の一頭がそう謝ってきたが、うん、俺は全然気にしないぞ。

 

 

なんたって、俺はただの馬じゃない。

 

イギリスG1馬、セキトバクソウオーなんだからな!

 

 

・・・でも、おじさん・・・そうか、おじさんかぁ・・・。来年になったら6歳だもんなぁ・・・。

 

仕方ないけれど、おじさん、ちょっとショックだったよ・・・。

 

 

 

 

一方その頃、美浦トレセン。

 

「いや、丁度馬房が空いていてよかったです、家主には申し訳ないですが、あるものは活用しないとですからね」

 

マンハッタンカフェのネームプレートが貼られた馬房に、一頭の新馬が入厩してきた。

 

『ちょっと!どういうことですの!?お兄様の匂いはするのに当の本()がどこにも見当たらないじゃありませんの!!』

 

馬房から顔を出しながら、激しくいななき、前脚を掻くのは彼の馬とは正反対、芦毛に輝く馬体の牝馬。

 

「あっ、スーちゃん、ごめんね!セキタンの話ばっかりしてるからちょっと妬いちゃったかな?」

 

咄嗟にそう謝りながら目の前の芦毛の馬を撫でる人物は他ならぬ朱美で。

 

『んぅ・・・結構なお手前ですわね、じゃなくて!肝心のお兄様はどこですの!?それにもっと武勇伝を聞かせてくださいまし!』

 

「さっきから一体どうしたのスーちゃん!?」

 

「これは・・・むしろ催促では?」

 

朱美の手による超絶テクニックにしばし心地よさそうな表情を見せた芦毛馬であったが、ハッとしたような様子で再び大きく嘶いたのを見た太島が、苦笑いしながら呟いた。

 

『催促なんてそんな卑しいことはいたしませんわ!これは、そう・・・偉大なるお兄様から、成功と失敗を学ぶ為の、学習行為なのです!!』

 

・・・セキトをお兄様と呼び、遠回しにその話を要求するこの芦毛馬。

 

そう、最早お分かりであろう。この馬こそ遂に競走馬としての入厩を果たした、オスマンサスであった。

 

キン、競走馬としての名をツインクルゴールドという彼女から遅れること3ヶ月。

 

やっと高いレベルでのお嬢様口調と立ち振る舞いを完成させた彼女であったが、美浦トレセンの馬房に入厩するなり落ち着きを無くしたため、様子見という形で太島と、入厩に着いてきた朱美が付き添っているのである。

 

「それにしても、大きくなりましよね、スーちゃん」

 

「ええ、昨年の秋頃に一度見せてもらった時にこうなる()はありましだが、ここまでとは・・・」

 

その芦毛の馬体を見ながら、しみじみと語る二人。

 

実はオスマンサス、2歳の牝馬にも関わらず入厩時の馬体重が500kgオーバーである、とスポーツ新聞の片隅に載るくらいにはちょっとした話題に上っていた。

 

ここから調教を重ねて馬体を絞れば恐らく470から480kgくらいで出走することになるのだが。

 

『早くお兄様を・・・ゴホッ、ゴホッ!・・・失礼いたしましたわ、大丈夫です』

 

環境が変わったせいか落ち着いていた筈の咳を再び発症したオスマンサスに、二人はため息をついた。

 

「しかし困りましたね・・・ただでさえ大型馬なのに、体質も弱いと来た」

 

まずは身体を強くしないといけませんね、と頭に手を当てて困った様子を見せる太島。

 

そう、こうして無事に入厩したとて、その身体の弱さが消えることはない。

 

それどころか、現役中も、そしてその先も。オスマンサスにとって、この問題は一生つきまとうのである。

 

「セキタンは疲れちゃってるみたいだし、スーちゃんはスーちゃんでこれから調教が始まって・・・やっぱり馬主って、大変だあ・・・」

 

2頭の愛馬が抱えるそれぞれのローテに、早くも混乱し始めた朱美は改めて数十頭の馬を一度に所有していた父の偉大さを知り、大きなため息をついたのであった。

 

 

「さて、天馬さん」

 

そんな朱美は太島に声をかけられたことで、身体をぴくりと反応させる。

 

「太島さん?」

 

向き直ったその顔は、これから話し合う内容に心当たりがあるという表情を浮かべていた。

 

不安そうな、しかし迷いのあるようなその様子に、太島は一つ頷いてから朱美に用件を話し始める。

 

「セキトのことなのですが」

 

その声は、今までにないほど真剣なトーンで、良からぬ気配を察した朱美は思わず背を正した。 

 

「まず、筋井さんの話によれば、違和感を感じた右前脚は、故障ではない、そう・・・なのですが」

 

「なのですが・・・?」

 

故障ではない。その言葉に胸をなでおろした朱美。しかし太島の歯切れの悪さに違和感を覚えて、その続きを促す。

 

「・・・。故障寸前、だそうです」

 

「っ・・・!?」

 

一瞬、真実を伝えるかどうか躊躇った太島であったが、まだ短い調教師人生ながらもその老婆心が馬の役に立ったこと等一度もない。

 

これも苦いながら、経験。そう意を決して朱美に事実を伝えると、やはり予想通りうら若き馬主はその思わぬ宣告に戦慄していて。

 

「・・・先に言っておきます。天馬さんにはなんの責任もありません。現場でセキトを見続けてきた我々のミスです」

 

「いえっ、そんな・・・!」

 

朱美に謝罪をしつつ、頭を下げる太島。その姿に朱美はますます狼狽するばかりで。

 

あたふたしながらなにか別の話へと切り替えるべきかと混乱する内に、太島の方からセキトの脚の状態の説明が始まった。

 

「天馬さん、どうか落ち着いて聞いてください。セキトの脚は、屈腱炎を起こしかけています」

 

「屈腱炎・・・!?あ、あの、それって去年あのアグネスタキオンが引退した・・・」

 

「ええ。その屈腱炎です」

 

屈腱炎。それは屈腱と呼ばれる、人で言うアキレス腱のような場所の筋繊維が一部断裂し、痛みと腫れを伴う競走馬にとっては不治の病と言われる最大の敵。

 

「筋井さんの勧めで北海道の方でエコーを撮ってもらったのですが・・・正直・・・あと一回か・・・多くても2回。走れるかどうかだと思います」

 

セキトの右前脚は、外見こそほとんど変化していなかった。それ故見落とされるところであったが・・・腕利きの筋井がいたのが幸いだった。

 

指先に感じた違和感。それを信じた筋井に勧められたエコー検査によって、予想以上に酷い内部の状況が白日の下に晒される。

 

「なんだこれは・・・!?」

 

それが、受け取ったエコーの写真を見た太島の第一声。

 

かろうじて屈腱は繋がってはいるものの・・・かなりボロボロの状態で、痛みを伴っていてもおかしくはないはず。にも関わらずセキトは育成牧場で元気に走り回ってるという文章を見た時、太島は自分の目を疑った。

 

あるいは。

 

もう一つの可能性にかけて、太島は封筒に記載された番号へと電話を掛ける。

 

「すみません、美浦で調教師をしている太島と・・・ええそうです。セキトバクソウオーの検査結果についてなのですが、エコー写真が、他の馬のものの可能性は?」

 

向こうの人間も太島の事は知っていたようで、なんの問題もなくセキトの検査についての話を進めることができた。

 

彼自身が元気だと言うのなら、送られてきたこの写真こそなにかの間違いなのでは。

 

そう思った太島であったが、期待は相手のため息によってあっさりと裏切られる。

 

『我々もそう思って、何度も撮り直しました。ですが・・・結果は変わらないんです』

 

正直、なぜこれで走れているのか。セキトは痛みを感じていないのか。

 

最早医学的には立証も理解も不可能な現状に、何年も経験を重ねたはずの獣医たちもただただお手上げで、何をしていいのか分からなくなっているようだった。

 

結局その電話では、送られてきたエコー写真はセキトのものに間違いない、というお墨付きを貰っただけであり。

 

「・・・正直、私としてはここで次のステージに送り出すのが、最善手だと思います」

 

太島は、この異常事態に、紛れもなく嘘偽りのない自分の意思を意見する。

 

 

スプリントG1を3勝、うち一回は海外。

 

日本に所属するスプリンターとしては、最早実績は十分なほど挙げている。

 

そして、何より最大の特徴として、父と同じくサンデーサイレンスの血を・・・それどころか、近年日本で爆発的に広まりつつあるヘイルトゥリーズンの血を持っていない。

 

それでいてあのスピード。現段階で引退したとしても人気種牡馬になれるポテンシャルは十分に秘めている。

 

だからこそ、なにかある前に引退させて、五体満足で余生を過ごさせてやるのも立派な選択肢である、と太島は主張する。

 

その声には、あらゆる理由でこの世を去った馬たちを見送ってきた者としての凄みがあって、朱美は思わずたじろいだ。

 

「・・・ちょっと考えさせてください」

 

咄嗟に口をついて出た声は、答えを遅らせるための時間稼ぎに過ぎない。

 

「ええ。時間は沢山ありますから・・・天馬さんも・・・私にも。後悔のない選択をお願いします」 

 

朱美にそう告げる太島の声も、どこか自分の意志だけでは進退を決められない無念さを滲ませているようで。

 

しかし、、いついかなる時に置いても、「馬」の「主」は「馬主」。

 

 

このまま引退か、引退レースに出走するか。

 

 

セキトバクソウオーの進退の手綱は、朱美へと託された。

 




次回更新予定は金曜日。

色々と無茶をしてきたせいか、ついに限界を迎えつつあるセキトの脚。

朱美ちゃんの決断や如何に!?
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