サラブレッドに生まれ変わったので、最速を目指します 作:Budge
同時更新の本編も合わせて楽しんでいただければと。
XX02年、ジュライカップ。
重い、あまりに重いその扉を、その馬は半馬身差こじ開けた。
炎のようなその身体に宿すは、燃えたぎる思いか、最速の血か。
史上初、内国産血統による欧州G1制覇。
欧州の直線に吹き抜けた、赤い烈風。
その馬の名は・・・
『セキトバクソウオー』。
最速こそが、最強だ。
次の伝説を見よ。
「・・・というわけで、今日から放映される、できたてほやほやのセキトバクソウオーのCMから番組が始まりましたが」
「ええ。7月8月と、8週に跨いでお送りしてきました特別番組、『忘れられない名馬たち』ですが、最終週はこの時期の活躍と言えば欠かせないこの一頭、セキトバクソウオーの物語をお届けいたします」
とある年の真夏の時分。
競馬を専門に扱うテレビのチャンネルで、セキトバクソウオーの特集が組まれていた。
「今日は
「
蹄鉄をモチーフにした装飾のモニターを中心に、豪華なセットに囲われたスタジオの中心に座するは、この特集の主役を務める二人の司会者。
かつてとある競馬中継番組で肩を並べたこともある二人の起用には、むしろオールドファンのほうが喜んだとか。
両者がともに丁寧な挨拶を終えると、そのままカメラは名馬を語るにふさわしい人物を映したものへと切り替わる。
「さて、本日は特別ゲストとして、かつてセキトバクソウオーの背中に跨がり、現在ではその産駒を管理する立場となった、獅童宏明調教師と、岡田順平調教師のお二方をお招きしております」
「よろしくお願いします」
「お願いします」
司会者二人と比べれば多少なり雑ではあるものの、それでもしっかりとした挨拶を終えると、芦田と名乗った司会者が進行係を務めて話を進めていく。
「今日はお二方にも強く印象を残したと思われるセキトバクソウオーについて、存分に語っていただこうと思うのですが、いかがでしょうか」
そんな芦田の質問に対しては。
「いやー・・・ぼくとしてはね、良いところでジュンペー君に持ってかれちゃったからねぇ、色々言いたいことはあるけれども」
先に獅童が答えたことで、芦田の話が膨らんでいく。
「セキトバクソウオーは自分が育てた、と?」
「まあ、そんなところかな?」
再びの芦田の問いに、獅童は茶化すようにそう答える。
「岡田さんの方はどうでしょう、こう言われてますが」
「事実が事実だけになんにも言えないですね」
一方でジュンペーも獅童に対してどこか思うところはあるようで、苦笑しながらそう答えるのが精一杯であった。
「さて、今日はセキトバクソウオーについての話題として・・・」
ここで、さとうと名乗った女性が口を開き、いつの間にか手に持っていたフリップを立てると。
・世界を制したそのスピードはどこから?血統を完全解剖!
・あの馬は今!北海道で暮らすセキトバクソウオーの現在に迫る!
・がんばれ!セキトバクソウオーの子どもたち!
と、番組を箇条書きで説明した内容が書かれていた。
「以上の3点に絞ってお送りします、まずは血統を完全解剖、とのことですが・・・」
「父サクラバクシンオーってのがすべての答えでしょ」
番組を進行しようとしたいとうに、いたずらっぽく茶々を入れる獅童。
「獅童さん・・・実はですね、セキトバクソウオーの血統表を調べると、スピードの源はそれだけじゃないって分かったんですよ!」
しかし芦田はそんな発言も気にせず、獅童を巻き込む形で番組の内容を進めていく。
「ぼくらは血統表とかあんまりみないからなぁ」
「あら?そうなんですか、ちょっと意外というか・・・」
しかし、獅童の咄嗟の発言に今度はいとうが反応し。その疑問にはジュンペーが答えを返した。
「ええ、これから乗るって時にこの馬は〇〇の仔だから〜とか〇〇の血があるから〜って考える騎手はそうはいないと思いますよ」
「そうそう、特に一日に8頭とか下手すると10頭とか依頼された時にいちいちそんなことを気にしてたらね、頭が持たないよ」
ジュンペーの意見に、全面的に同意する獅童。
いとうはなるほど、とそんな二人の会話に大きく頷いてから、すかさず芦田に進行を振る。
「それでは芦田さん、セキトバクソウオーの血統の解説、お願いします」
そんないとうからのパスをしっかり受け取った芦田も気を逃すことなく、スタジオのスタッフにモニターの操作を要求する。
「はい、それでは血統表の画像は・・・出ますでしょうか、っと来ましたね。こちらがセキトバクソウオーの血統表となりますが」
すると、「忘れられない名馬たち」のロゴが映されていたモニターがパッと馬の血統表に変わる。
父サクラバクシンオー、母サクラロッチヒメ。それは紛れもなくセキトバクソウオーのものであった。
「やはりスプリンターということで父サクラバクシンオーの名前が目を引きますね」
月並みながら、視聴者の多くが思っているであろう意見を言ういとう。
芦田がそれに答え、ようやく番組の主題の一つであるセキトバクソウオーの血統の秘密を解き明かす段階へと進んでいく。
「ええ。ですが、それ以上にセキトバクソウオーの血統にはですね、インブリード、別名クロスと言われる理論が多分に含まれているんですよ」
「インブリード!強い馬を生み出すために血の近い馬同士で配合することでしたよね?」
いとうがおさらいをする形で尋ねると、芦田も頷いてそれに答えながら、打ち合わせ通りの流れに安堵しつつもしっかりと進行役の務めを果たす。
「ええ、そのとおりです。そしてこのセキトバクソウオー、驚くべきことにアンジェリカという牝馬のインブリードを3×3で持っているんです」
「ええっ、結構濃い・・・」
しかし、打ち合わせとはいえ時間が足りず、細かいところまでは手が回らなかったこともあり。いとうのそのリアクションは素のものであった。
「エルコンドルパサーなどの活躍もあって近年ではあまり珍しくなくなった牝馬のクロスですが、当時としては画期的なものでした。セキトバクソウオーはその時代の最先端を行ったとも言えるんです」
「時代の最先端・・・ですか・・・」
牝馬のクロスの説明に感嘆の声を漏らすいとう。
そこへ畳み掛けるように、芦田は説明を加速させていく。
「しかもこのアンジェリカ、ただの馬じゃあないんです」
「といいますと」
「こちらにフリップをご用意しましたが・・・しっかり映りますかね、大丈夫ですか。では、セキトバクソウオーの身体に色濃く流れるアンジェリカという牝馬の正体・・・それは」
「それは?」
勿体付けるような口ぶりの後、芦田はしっかりと息を吸ってから言った。
「日の丸特攻隊とも称された快速馬サクラシンゲキと、栗毛のテスコボーイの仔は走らないというジンクスを見事破った天皇賞馬、サクラユタカオー兄弟の母親にして、悲劇の二冠馬サクラスターオーの祖母なんです!」
「ええっ!?名馬ばっかりじゃないですか!?」
80年代の競馬を知っている、あるいは学んだならば、知っている名前ばかりが上がるこの血統。いとうはその懐かしい名前の数々に思わず声を上げる。
「そうなんです。セキトバクソウオーはこの内サクラユタカオーの仔であるバクシンオーを父に、スターオーの妹であるロッチヒメを母に持っていますから、もう快速一家としか言いようがないんですね」
セキトバクソウオーの秘密。それは名馬を産んだ名牝のクロスにあり。そう銘打ったラベルが、モニターに大きく現れる。
「調教師のお二方も、ここまでの話を聞いて、いかがでしょうか」
二人が置いていかれていないかの確認も兼ねて、ジュンペーと獅童に声をかけるいとう。
「一頭の牝馬からここまで活躍馬がぽんぽん出てくるってのは珍しいと思いますね」
比較的無難な感想を述べるジュンペーに対し。
「うーん・・・それでも走る馬走らない馬っていうのは血統に関係なくでてくるからねぇ、それにあんまり根を詰め過ぎても面白くない」
獅童はどこまでもマイペースな回答を貫き、スタジオを困惑させる。
「なるほど・・・では、ここからはセキトバクソウオーの血統に隠された、もう一つの秘密を暴いていきます」
「なんと、秘密は一つだけじゃないんですか!?」
しかし最早それに構うこともなく、芦田は解説を続ける姿勢を見せ、いとうがそれに応じる。
「ええ。その秘密を解き明かすためには、もう少し血を遡る必要があります。ちょっと血統表をぐいっといじって・・・はい、セキトバクソウオーの血統表が、父のサクラバクシンオーと、母のサクラロッチヒメのものに変わりましたね」
今度はモニターの画像がサクラバクシンオー、サクラロッチヒメそれぞれの血統表へと変わり、芦田はタッチペンを手に取った。
「はい、それではある馬の名前を探していきますよ。まずはバクシンオーの方から・・・ここ、それからここの2箇所・・・ですね」
芦田がマークした馬の名は
「ナスルーラ、ですか・・・確かセキトのように優れたスピードを伝える血統と聞いたことがあります」
「・・・さっきから聞いてるとジュンペー君、君、随分と血統について勉強したみたいだね?」
知識をどこからか仕入れたのか、先程はあまり血統を気にする騎手はあまりいないと言っておきながらも、そこそこ詳しい面を見せたジュンペーを獅童がからかった。
「いやまあ、セキトの子たちを活躍させてあげたいと思ったら自然と・・・」
「ふふ・・・」
照れくさそうにしながら頭を掻くジュンペーの微笑ましさに、思わずいとうもくすっと笑う。
「んっ、んん!」
そこで芦田が一つ咳払いをして、出演者たちの注目を集めてから次の説明へと進んでいく。
「・・・みなさん、本題に戻りますよ。先程バクシンオーの方はマークしましたから・・・続いてロッチヒメの方ですね。こことここと・・・そしてここにもナスルーラと」
「あら、こっちは3箇所もナスルーラの名前が出ましたね」
「はい、これでセキトバクソウオーは5代前の先祖の内、実に5ヶ所もナスルーラを持っていますね」
「ええ・・・ですが、インブリードというには血が薄いのでは・・・」
ナスルーラが5ヶ所と言えど、その濃度はたったの9.375%・・・インブリードにしては血量が薄いと指摘するいとう。
すると、待ってましたとばかりにに芦田は勢いよく答える。
「そこがキモなんです。先程も言いましたがセキトバクソウオーにはアンジェリカの3×3という強烈なインブリードがかかっていますよね。そして、そのアンジェリカ自身もナスルーラの子孫・・・」
「あっ!ひょっとしてアンジェリカのインブリードが呼び水になってナスルーラのインブリードと同じ効果を引き起こした・・・!?」
流石は競馬番組の元司会者。血統の勉強もしていたらしく、いとうの鋭い指摘に芦田はお手上げと言うような雰囲気を作って言った。
「そういうことですね!いやー言われてしまいました(笑)」
「なるほど・・・!そう見ることもできますね」
血統という新たな側面から見た愛馬の姿に、うんうんと頷くジュンペー。しかし血統をあまり重視しない獅童はそうはいかなかったようで。
「・・・えーっと?」
指折り数えながら頭を掻き、血量を計算しようにも上手くいかない。
「獅童さん、これはここがこうで・・・」
それを見かねたジュンペーが指導に入り、5分ほどのレクチャーによって獅童はようやく話の主題と伝えたかった事柄を理解する。
「ああ、成程、これは凝った話だね」
配合も、計算も。
ようやく理解できたよと朗らかに笑う一方でそんなギャグを飛ばしてスタジオを失笑させる獅童。
「さあ続きまして、あの馬は今!北海道で種牡馬として暮らすセキトバクソウオーの一日を、取材班が追いました―」
そして、番組の内容は2つ目の特集へと移っていく。
書き終わってみて気がつきましたが・・・。
本編より長い・・・だと!?
それはさておき、同時更新の次の話が本編になります。