サラブレッドに生まれ変わったので、最速を目指します   作:Budge

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日曜日、またまたテレビで競馬観戦をしていたら、母が直感で決めた人気薄が2着に突っ込んできやがりました・・・ほんと複勝キラーの超能力者としか言いようがない・・・。

そして、作者自身は重賞の勝ち馬よりも、オープンクラスでも活躍できそうなレモンポップに目が行ってしまったのでした。

本編の方は・・・まーたこいつらイチャイチャしてるよ。


妹分がパワフルすぎる件

『はっ、はっ、はっ・・・やっぱり久しぶりだときついな・・・』

 

「うーん、やっぱり動きが重いな・・・春とは別の馬みたいだ」

 

美浦トレセンに戻って、一ヶ月。

 

大の苦手であるプールでのトレーニングを半分溺れながらこなし、なんとか体重を落とした俺は助手さんを背に乗せ、ラストレースの香港スプリントに向けて久しぶりにウッドコースに出て身体に負荷を掛けている。

 

そう、香港。俺としては夏の間はずっと休んでいたし、今年も出走するとなると正直怪しいかと思っていたんだけど。

 

しっかり届きました、招待状。勿論俺宛に。

 

センセイが言うにはどうやら春の実績が評価されたらしいとのことだ。ありがたい限りである。

 

が、しかし、脚のこともあってこうしてしっかりと走ったのなんてジュライカップ以来だからな・・・脚取りは重いし、筋肉もだいぶ落ちちまっている。

 

せっかく手綱を取ってくれている助手さんも首を傾げているし、あんまり状態は良くないってのが現状。それに、今併走している相手っていうのが・・・。

 

 

『こうしてお兄様と一緒に走れるなんて、夢のようですわ!』

 

なんとスーなのである。いや、俺がちゃんとオンオフを切り替えられるって上で、スーも弱いって決まったわけじゃないけどさ。

 

でも・・・デビュー前の新馬とG1馬が並走してるんだよ?当然周りからもあれこれ見られたりする訳で。

 

「おいおい、大丈夫かよ」とか「G1馬と新馬を併せるなんて正気か!?」とか。ほらー、やっぱり色々言われちゃってますよ?太島センセイ。

 

 

まあ、連中の言うとおりG1馬と新馬を併せるって行為が常識破りなのは確かだな。

 

というのも併せ馬ってのは上手くやれば馬の闘争心が引き出される一方で、あまりに実力差のある相手と競り合うと、馬が自信を無くしてその後の戦績はサッパリ・・・なんてことも十分あり得るからだ。

 

かの皇帝様とか、そりゃあもう併せた相手がみんな精神をすり潰されちゃって大変だったとか。

 

それを考慮すると、今の俺とスーの併せ馬は身体の使い方すら分かっていない新米と、しっかりと走れている上に、実績のあるプロを競わせている様なもの。

 

外野としては心配になって一声二声、かけてしまったとしても仕方ないことだろう。

 

「いや、あのオスマンサスだろ、セキトバクソウオーを使うのも納得っちゃ納得だよ」

 

「美浦の問題児、だもんなぁ・・・」

 

とは言え、その心配の内容ってのは必ずしも実力差に注目したものばかりではないようなのが、少々気になってはいた。

 

あの(・・)オスマンサス?問題児?なんのこっちゃと思っていたら・・・調教の中盤になって、俺はそれを目の当たりにすることになる。

 

『うう・・・これが基本なんですの?ちょっと遅いくらいですわね・・・』

 

『ああ、今のペースが15-15ってやつだ。しっかり感覚を覚えておけよ』

 

俺が内、スーが外。楽を覚えないような配置で仲良く並んで走っていると、物足りなさを感じたのかスーがウズウズとし始めた。

 

『了解ですわ・・・でも少し位なら・・・』

 

「!やっぱり来た、でもここで我慢させないと・・・!」

 

『ほら!言ったそばからまたペースが上がってるって!』

 

口で抑えるように指示を飛ばすが、やはり新馬、はやる気持ちを抑えきれないのか段々と脚の回転が速くなって。

 

助手さんが手綱を引っ張っても、それに従う気配はない。って、おいおいおい。

 

『ああもう!どうしてこんなに耐えなければならないんですのー!!』

 

「あぁぁぁっ!駄目だぁぁぁぁ!」

 

最終的には、思い切り駆け出してしまった。遠ざかる芦毛の背中から、鞍上の人の断末魔が虚しく響く。

 

・・・俺なんかより、よっぽどバクシンしてんじゃねーか。漢字じゃなくて、カタカナのバクシン、な。

 

『あーあー・・・』

 

あんな姿を見せられたんだ。俺だって周りのギャラリーと同じく苦笑いするしかない。

 

ご覧の通り、スーの方が走り出すと頑張りすぎてしまうタイプだったようで。当然こんな事をして悪目立ちしない訳がなく、後から聞いた話だと太島厩舎の問題児としてちょっとした話題の的になっているとかなんとか。

 

これでスピードがあるならそれはそれで良かったんだが、スーの動きはどうにも・・・バネがあるというよりは、バテないことが長所、というような。とにかく短距離には明らかに向いてない馬とのことで、矯正役として俺が選ばれた。

 

その理由としては人間から見ればなぜか・・・まあ、俺からしたらその原因は火を見るよりも明らかなんだが・・・とにかくこうして俺と一緒に居るとスーは途端に大人しくなるからこの際俺をお手本に正しいペースを仕込んでしまおうって作戦らしい。

 

成程、こうして馬房の外で見てみるとスーの馬体はあまり筋肉が付いておらず、胴が長い、明らかなステイヤー体型だ。毛色もそうだし、父親(マックイーン)の影響が強いのかもしれない。

 

・・・レースに出るならば、少なくとも2000mは要る、時代の流れとともに姿を消した純正ステイヤー。

 

それが間近で見たスーの走りから俺が感じた印象だった。

 

 

 

 

『ふぅ、すっきりしましたわ』

 

『はー、はー・・・お疲れ、スー』

 

『お疲れ様、ですわ!』

 

結局そのまま、事あるごとに加速し、先行するスーに必死に追いつきながらペースを監督するというインターバル走じみた調教になってしまったから、俺はもうバテバテだった。

 

それに対して、スーはあれ程の運動量をこなしたにも関わらずさも当然といった顔でけろっとしている・・・間違いなくステイヤーだわこの娘。

 

「せ、セキト、大丈夫?」

 

そんな俺の様子を見て、助手さんが慌てたように声をかけてくる。

 

『ぜはー、ぜはー・・・大丈夫・・・疲れた、だけだ・・・』

 

うん、脚とかに痛みはないし、今日の運動自体が病み上がりには少々ハードだっただけ。

 

なんというか、直接一緒に走ったことでスーはいろいろと課題が見えてきたな。

 

まずは、とにかく。あの暴走をなんとかしないと。

 

『スー、駄目じゃないか・・・背中の人の言うことは、しっかりと、聞かないと』

 

跳ね回って飛び出していきそうな心臓をクールダウンの引き馬で落ち着かせ、息を多く吸ったり吐いたりしながら、スーに注意する。

 

先程の調教での暴走が示した通り、スーは助手さんとの折り合いが全くついていない。このままだとレースはおろか調教一つとっても危険すぎる。

 

他の馬や、人間達の安全のためにも早く直したほうがいい悪癖だ。

 

が。次の瞬間、スーの口から放たれたとんでもない暴論に、俺は目を丸くするしかなかった。

 

『なんでですの?レースというものは最初から最後まで先頭を守り通せば、勝ちになると聞いたのですが?』

 

おい。誰だよスーにダイワスカーレット理論を教えたやつ。しかもなまじ半分は合ってるだけにスーの気性と噛み合って余計ややこしくなってるじゃねーかよ。

 

『それはスタートが上手で、足が速くて、なにより変なことをしててもよっぽどのことがない限り勝てるヤツが言ってることで、普通は言うこと聞かないと勝てないの』

 

そう。なぜ俺がこの考えをダイワスカーレット理論と呼んでいるか・・・それは、理論の内容が偉大な名牝の走りっぷりに由来するからだ。

 

曰く、ゲートが大の嫌いで早く外に出たいからスタートが上手かった。

 

曰く、負けず嫌いの度が過ぎて何がなんでも先頭に行きたがる。

 

曰く、そんな無茶苦茶な走りをしてもそもそものフィジカル面で他の馬に差がありすぎて勝つ。

 

・・・そんな「脳筋パワープレイ」を地で行って12戦すべてで2着以内に収まっているのだから、相当強かったのだろうと言う以外に感想が無い。

 

そして、そんな「天才」ってのは、何千頭に一頭というごくごく一部に限られているから「天才」な訳で。

 

大抵の馬はツインターボみたいなことになるのが関の山だろう。もしくはタケデンノキボー。

 

『でも、それで勝っている方もいると・・・』

 

『いや。普通はそんなことしてたら最初は良くても、ゴールする前に疲れて最下位(シンガリ)になるからな?』

 

考えが間違っていると指摘されたせいか、戸惑うスー。それを制してこのままでは勝つどころかシンガリ負けを連発してもおかしくないと説得を試みる。

 

特に、スーは長距離に向きそうな感じだったから尚更だ。3000m、もしも全く手を抜かずに走りきれる馬がいるというのならそいつはもうサラブレッドじゃねえ、血液の代わりにガソリンが流れているサイボーグか何かだよ。

 

『シンガリ・・・?』

 

『最下位ってこと』

 

おっと、俺としたことが。競馬用語を使ったせいでスーに上手く伝わってなかったようだったから分かりやすいように言い直すと、途端にスーの顔も分かりやすく硬直した。

 

『それって・・・(わたくし)は、今のままではお兄様のお嫁さんにはなれない、ということですの!?』

 

『・・・そうなっちまうなぁ』

 

どうやら本気で脳筋理論が正しいって思っていたらしいな。酷くショックを受けた様子で問いかけてきたスーに、目を閉じてゆっくりと頷くと。

 

『いや、いやだ・・・そんなの嫌っ!わたし、お兄様とずっと一緒に居たいのっ!!』

 

「うおっ!?スー!?」

 

混乱した彼女がいきなり厩務員さんを引きずってこちらに来たかと思えば、ぴたりとくっつけた身体を震わせながら、まるで駄々をこねる子供の様にそう言ってきた・・・っておい、喋り方が。思いっきり素が出てるぞ。

 

『せっかく会えたのに!お兄様と離れたくない!』

 

幼いながらも、瞳を潤ませながらそう直球ストレートに伝えてきた言葉は仔馬だった頃と全く変わらなくて、不覚ながらキュンとしてしまったぜ。俺としてはこっちのほうが滅茶苦茶可愛いんだけどなぁ。

 

しかし、スーは見てくれこそ立派になっちゃいるがその中身はまだまだ繊細なお子ちゃまだ。変な気は起こすなよと自戒して、冷静さを取り戻してから涙まで流し始めたスーのたてがみを整えてやりながら宥めにかかる。

 

『おいおい待て待て、今すぐに引き離されるわけじゃないからな、な?』

 

『うぅ・・・あっ!!』

 

「今度はこっち!?」

 

優しくそう言い聞かせれば、少し落ち着いたのか、ちらりと周りを伺って恥ずかしそうに俺から距離を取り、顔を逸らすスー。

 

担当さんよ、かわいい妹分があちこちに振り回してすまないな。

 

しかしその妹分はこちらをちらちらと見ているから、まだなにか用事があるのだろうと待っていると。

 

 

『・・・お兄様、私は、どうしたらいいの?』

 

顔を真っ赤にしたまま、うんと小声でそんなことを尋ねられ。

 

・・・うん、やっぱりかわいい。あ、子供としてってことだぜ?

 

しかし芦毛の馬体も相まって、馬として将来は相当美人の部類に入るんだろうなぁ・・・そんなスーの将来の姿を想起し、思わずニヤけてしまいそうになるのを抑えながら俺は競走馬としての心得を諭す。

 

『いいか。さっきも言ったけど人間の言うことはしっかりと聞かないとだめだ。そうしないとまず勝てないぞ』

 

『はい』

 

どこか照れていたスーの方も俺が真面目に答えを言っていると気づいたのだろう。いつの間にやら真剣な目をして、次は何を、と真っ直ぐに見つめてきている。

 

『スーは特に、長いところを走るようになると思う。だったら尚更言うことを聞けるかどうかってのが重要になってくるんだ』

 

サラブレッドってのは元々短距離レースを走るために作られた品種だから基本的にスタミナはお察しなんだよ。

 

だからこそ、長距離のレースでは「控えろ」とか「我慢しろ」って鞍上の指示に素直に従い、スタミナを温存できる馬が強い。

 

最近の馬だと・・・キタサンブラックがその理想形に近いかな?

 

『でも・・・どうしても、走っていると全力を出したくなってしまうのですわ』

 

俺の言葉に、困ったような様子でそう悩みを打ち明けてきたスー。随分と冷静になったのか口調も元に戻っている。

 

『大丈夫だって。それを何とかするために俺が一緒に走ってるんだ』

 

不安そうな言葉に、俺が後輩なら後輩らしく時にはどんと先輩を頼りなさいと胸を張ってみせると、スーは申し訳無さそうに呟いた。

 

『・・・お兄様、恐らく、ですけど。私、相当御迷惑をおかけしますわ』

 

『いいってことよ。俺だって長く休んでいたからちょっと走り足りないくらいだったしな』

 

売り言葉に買い言葉。スーに言い放ったこの言葉。半分は本当、そしてもう半分は嘘である。

 

今日コース入りして初めて気がついたんだが、相当身体が(なま)ってやがる。

 

その証拠に、新馬であるはずのスーを追いかけるのに時間がかかったし、そもそも脚の負荷を考えたら前みたいに長く脚を使えない。

 

そこに追い打ちをかけてくるのが、かねてよりのスタミナ不足。

 

つまり、現状では加速できないし、脚を持たせることもできない・・・G1どころか、レベルの高いG2でも勝負にならないだろうな。

 

思うように動かない身体は、まるで鉛のようで。

 

高松宮記念とジュライカップは夢か幻かと思うくらいに、半年前の充実ぶりが嘘のようだった。

 

 

・・・件の香港国際競走デーまでは、あと2ヶ月ほど。

 

それまでに前のような身体を取り戻すには、暴走してしまうスーに正面から付き合っていく位のハードなトレーニングが必要だろう。

 

勿論、脚が壊れない程度に。

 

『ちくしょー・・・』

 

もどかしさを覚え、スーに聞かれないくらいの声で悔しさを吐き出した俺は、せめて彼女を正攻法で止められるくらいには身体を戻そうと決意するのだった。

 




セキト、鈍りきった身体と、暴走妹分に向き合う。

次回はいよいよ香港へフライト・・・もそうなんですが、その前にカフェコンビの様子も少し入るかと。

次の更新は、水曜日の予定です。
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