サラブレッドに生まれ変わったので、最速を目指します   作:Budge

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とうとう作者と接触のある人物にコロナ陽性者が現れてしまい、大事を取って日曜日まで自宅待機することになりました。

やったね、執筆時間が増えるぞ無茶苦茶なことをしたら天罰が下りそうなので素直に大人しくしておきます。

・・・それから。ウマ娘4th横浜公演、ただやるだけじゃないとは思ってましたが、発表内容てんこ盛りの盛り沢山で正直追いついてないです・・・すごしゅぎぃ・・・




ライバルとの再会

「皆!食事の時間ネ!!」

 

『うまーい!!』

 

『・・・これ、ホントに食いもんなんスか?』

 

『私は・・・その、ちょっと遠慮しておきます・・・』

 

香港に到着してから初めての朝。最初の食事は相も変わらずエイシンプレストンが勢いよく頬張る一方で、ショウナンカンプとビリーヴちゃんの口には合わなかったようだ。

 

日本とは味がまるで違う飼い葉にドン引きとまでは行かないまでもすごく困ったような顔をしていたのが印象的だったな。

 

「・・・おいしくなかった?」

 

そしてそれを見て何故か趙センセイがショックを受けたような顔をしていたんだが、その後に溢れた呟きを聞いて納得。

 

「これでもカンプとビリーヴの好きなものとか、嫌なものとかしっかり聞いて作った飼い葉なんだけどネ・・・」って。この飼い葉、あんたのお手製だったんかい。

 

それを臭いを嗅いだだけで拒否されたら・・・そりゃショックだわなぁ。でも、飼い葉がこれしかない以上は慣れてもらわないと陣営は皆困るわけで。どれ、ここは俺も手を貸すとしようか。

 

『なあ、二人とも・・・そのメシ、趙センセイが丹精こめて作ったらしいぞ。せめて一口はどうだ?』

 

『え!?そ、そうなんっスか?』

 

『えっ、そ、それは・・・失礼なことしちゃったなぁ・・・でも・・・』

 

飼い葉を口に運ぶのをためらう2頭に声をかけてやれば、それぞれが驚くような顔を見せた後、もう一度飼い葉に鼻先を近づけて・・・やはり離してしまう。

 

あらら。これはちょっとかかりそうだなぁ。なんて心配もしていたんだが、数日が経つ頃には案外慣れたらしく。

 

間を置きながらなんとか一口、二口・・・を繰り返して完食できるくらいにはなってたから、そこまで馬体とかへの心配は要らないだろう。

 

トウカイポイント?特に気にしてなかったみたいだから、あんまり関係ないんじゃないかな・・・。

 

 

 

 

それはそうと。

 

「んー・・・?身体は、仕上がってきているんだけれどなぁ、まあ仕方ないか、久々だもんな」

 

『ああ・・・悪いな、ジュンペー・・・』

 

レースに向けて一走りしておこうとコースに脚を進め、軽めの調整を終えた俺だったが、どうにもイマイチだ。

 

なんというか・・・身体の方は問題ないんだよ。心配だった屈腱炎もあらゆる手を尽くしたのが幸いしたのかそこまで気にならないし。

 

しかし、気持ちの方がどうにもこうにもならなくて。

 

いや、気合は死ぬほど入れてるんだよ?けれど、自分で「今だ!」って思ったタイミングから、アクセルが聞く瞬間が一瞬ズレるというか。

 

ここまで長い時間レースはともかく、走ること自体から離れた生活をしていたのなんて初めてだから。

 

仕上がるのに時間がかかっているのかもしれないな、なんて思いつつ本番までにちゃんと仕上がってくれるのか・・・我が身のことながら不安になってきた。

 

『気持ちの問題なのか? ・・・ん?』

 

と、馬場の出入り口に見覚えのある馬を見つけて視線を向けていると。

 

『・・・む、あの馬は』

 

「ン?ファル、どうしたノ?」

 

『すまない、知り合いを見つけた』

 

そいつは存在感のある鹿毛の馬で。あちらも俺のことに気がつくと、泰然自若のまま挨拶の言葉を掛けてきた。

 

『久しぶりだな、セキトバ・・・いや。セキトバクソウオーよ』

 

そう、この呼び方。忘れもしない、昨年の香港で激闘を繰り広げたライバルの一頭。

 

『よう・・・ファルヴェロン』

 

最有力候補とされながらも俺の走りに敗れたファルヴェロンだ。一年越しの感動の再会だな。

 

「あれは・・・確か、ファルヴェロンか。セキト、覚えてたのかい?」

 

『ああ』

 

あの時とは違って、俺の背中にいるのはジュンペーだが・・・前もって有力馬たちの情報を調べているのは流石としか言いようがない。俺も相棒として鼻が高いぞ。

 

そして、俺とジュンペーのやりとりに一区切りが付いたのを見て、ファルヴェロンとその背の騎手が口を開く。

 

『昨年はしてやられたが・・・先に言っておこう。今年はお前だけを見て走る。そして、私が勝つのだ』

 

「去年は思い切りやられたネ。でも、今年はどうかナ?」

 

おうおう。早くも勝利宣言とは。しかし、その馬体はツヤツヤ、ピカピカと輝いていて強気な発言に違わぬ仕上がりだ。

 

レース自体はまだまだ先だっていうのに、その声には早くも闘志が溢れ出していて。

 

それに当てられた俺とジュンペーも、負けずに言い返す。

 

『へっ。着いてくるのはお前の勝手だけどもよ・・・お前、差し馬だろう?潰れても知らねーぞ?』

 

「案外、背中の人間が変わったからこそわからないかもしれませんよ?」

 

俺だって本来は差し馬(のはず)だが、レースじゃ逃げに先行、追い込み以外の作戦は成功させて勝利を収めてるんだ。

 

作戦次第でポジションは変幻自在、いざとなればハイペースで先行してすり潰してやる。

 

そう思惑を巡らせていると。思わぬ横槍が突き刺さってきた。

 

『ああッ!!お前はッ!!』

 

『・・・ん?』

 

『む?』

 

遠くの方から聞き覚えがあるような声がして。ファルヴェロン共々そちらに目を向ければ、今度は栗毛の馬が慌てたような様子の騎手を無視してこちらに突っ込むような勢いで走り寄ってくる。

 

あの荒々しくも力強い、荒れ果てた大地も苦にしなさそうな走りは。

 

『・・・よう、コンティネント』

 

コンティネント。欧州の競走馬で・・・こいつも史実では勝っていたG1を俺が横取りした一頭だ。

 

『やっと会えたな真っ赤な島国ヤロー!この間のあれはマグレかなにかであって、オレの方が強いんだからな!』

 

そしてこちらにやってきたかと思えば、コンティネントはいきなり俺に迫るようにしながらそう言ってきた。

 

成程、何かと思えばこいつも俺に宣戦布告をしに来ただけか、そういうことなら・・・大歓迎だ。

 

ファルヴェロンに続いて剥き出しの闘志を浴びたせいか、自然と口角が上がる。

 

『だったらいいことを教えてやるよ。俺は今度のレースを最後に引退する。お前が勝てなかったら・・・俺の勝ち逃げだな』

 

『んはぁっ!?なんだと!!?テメー、勝負から逃げる気か!?』

 

今度のレースが現役最後の出走だと告げれば、コンティネントは面白いくらいに頭に血を登らせていた・・・そういえばこいつ、セン馬だったよな?去勢の意味はあったのだろうか・・・。

 

っと。他馬(ひと)様のことを気にしている場合じゃなくて。

 

『いきなりやってきたかと思えばセキトバクソウオーをバカにして・・・頭に血を登らせて・・・なんなんだお前は・・・』

 

ファルヴェロンが呆れたような、困ったような表情でコンティネントのことを見ていたから一応説明してやらないと。

 

『ファルヴェロン、こいつはコンティネント。欧州の方でちょっとばかしやり合った仲だ』

 

『ほう。遥か欧州の馬とは。遠路はるばる来てくれるのはありがたいな・・・』

 

一見長旅を労うようなファルヴェロンの言葉は、その後にますます勝利の価値が高まるな。と続き。

 

『あ"ぁ"!?』

 

その声をコンティネントの耳はしっかりと捉えていた。途端にその激情は俺からファルヴェロンへと向く。

 

「コンティ!!」

 

「ファル!!ダメ!」

 

その挑発に乗り、ファルヴェロンを睨みつけるコンティネント。お互いの騎手が馬同士の衝突に発展すると予見したのか、慌てて制そうとしている。

 

しかし、俺が見る限りそのギラギラした眼差しはこの場で気に入らない馬に襲いかかるというよりはレースで完膚なきまでに叩き潰してやる。と言わんばかりの闘志に見える。

 

『確か・・・お前はオージーから来た野郎だったな。いいぜ、ギャン泣きさせて帰してやる』

 

『ふむ。そこまで言うのならお前の実力・・・レースで見せてもらおう』

 

そうやって睨み合う2頭に割って入るように、俺も口を挟んで宣言する。

 

『おいおい、お二人さんよ。俺を忘れてもらっちゃあ困るぜ』

 

「セキト・・・?」

 

俺は普段ならこういった(いさか)いには近づかないからな。背中のジュンペーが困惑しているのが伝わってくるが、これだけ言わせてほしいんだ。

 

 

『勝つのは・・・俺だ!!』

 

 

そう宣言したところで、がちんと歯車が噛み合うような感覚があって、はたと気がついた。

 

それは、さっき・・・いや。帰厩してから、ずっとどこかギアの入りが悪かった原因。

 

『(・・・!そうか、そういうことだったのか!俺はなんつーバカだ!)』

 

いざ気がついてしまえば・・・俺はバカだとしか言いようがない。

 

 

まさか、ラストということに気を取られすぎて・・・。

 

 

とっくに『やりきった』気になっていたなんて。

 

 

最後、最後とは言われていたってレースはこれからなんだ。それだというのにこんな心持ちでいたのならば・・・そりゃあ、仕上がる訳なんて、無いわな。

 

そんな自分の甘さも切り捨てる勢いで、もう一度声を張り上げた。

 

『せっかくのG1なんだ・・・お前らにはやらねぇ!勝って終わってやる!』

 

・・・ああ。やっぱりそういうことだったか。ぎり、と奥歯を噛み締め、闘志を込めて放った俺の声には、G1を制したあの日のような力強さがある。

 

燃え盛る炎のような、激しさが。

 

「・・・!」

 

そのエネルギーは手綱を通じてジュンペーにも、確かに届いたようで。

 

「(ひょっとしたら・・・ひょっとするかも、しれない・・・!)」

 

そろそろ行こうか、と2頭から離れるようそっと促してきたジュンペーの表情は。先程とは違い、何か手応えを掴んだようなものへと変わっていた。

 

 

そんな今日の調教を終えて出口へと向かうセキトバクソウオーの後ろ姿を何気なく見送っていたファルヴェロンは、目を見開き。

 

『これは・・・少しばかり失敗したかもしれないな』

 

そう呟いた。

 

 

 

 

 

『・・・バクソウオーさん。いい顔になったっスね』

 

『ん?急にどうしたんだ?』

 

その夜。馬である俺たちでももうじき本格的に眠りこける時間が差し迫っている中で、ショウナンカンプがそう話しかけてきた。

 

『あ、いや。朝まではなんだか『負けても仕方ないか』ーみたいな感じの顔だったんスけど、それが今日のトレーニングから帰ってきたら急に『絶対負けるもんか』って顔になったというか』

 

『・・・そうか』

 

言われてみれば、俺の中の臆病さをどんなに押しつぶして、気合を入れようとしていても・・・脚の事は変わらないし、どこかに『負けても仕方ない』って考えがあったのかもしれない。

 

それが、戦ってきたライバルと、その闘志に触れて・・・競走馬としての基本である『何が何でも負けてたまるか』って気持ちを取り戻して。

 

ジュンペーが感じたのは、その辺の変化なのかもしれない、そう思いつつショウナンカンプの話を聞き続けていると。

 

『・・・正直、バクソウオーさんが引退するって聞いたとき、オレ、心配だったんスよ』

 

その内容は、一転して彼の内心の吐露へと変わっていく。

 

『どうしてだ?』

 

話の内容に対して純粋にそう思ったから、理由を尋ねてみると。

 

『だって、バクソウオーさんに久しぶりに会えたと思ったら・・・まるで、『やれることは全部やった』って満足してるみたいに見えて・・・あの、高松宮記念の時みたいにガツガツしてるバクソウオーさんじゃなかったっていうか・・・』

 

『全部出し尽くして、やりきったように見えたってことか』

 

『・・・そうっスね』

 

想像以上にしっかりとした答えが返ってきたことに驚きつつも、確かにそうだったと苦笑するしかない。

 

だからこそ、あのライバル2頭には感謝しないと。

 

競走馬としての俺を・・・レースに向かう気持ちを、蘇らせてくれたのだから。

 

そして。

 

『・・・でも。今のバクソウオーさんは。今のバクソウオーさんなら・・・オレも、遠慮なく戦えるッス!』

 

俺をもう一度、しっかりと見据えたショウナンカンプの表情が、心配そうなものから、『絶対に負けない』というライバルへと向けるものへと変わっていく。

 

俺は、正直それが嬉しかった。

 

だって・・・半年程レースに出ていない俺を、力が残っているかどうかなんてまるで分からない俺を・・・超えるべき壁として見てくれているのだから!

 

『・・・ああ、望むところだ!』

 

そんな後輩からの挑戦状を正面から受け取って。

 

 

俺はなんだか、競走馬として必要な最後のピースを見つけた気がした。




セキト、完全復活!

最終レースに向けて闘志を燃やします。

次回更新は金曜日の予定です。
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