サラブレッドに生まれ変わったので、最速を目指します   作:Budge

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読者の皆様、長らくお待たせしてしまい申し訳ありませんでした。

本来ならば木曜の夜に更新できる予定だったのですが、作者が完成寸前の小説を誤って削除するという大チョンボをやらかしてしまい、ほぼ最初から書き直す羽目に・・・。

その結果内容が大幅に変わってしまいましたが、こっちのほうがよりセキトらしい気がするので結果オーライ!




セキトの帰国、そして・・・

昨年の快挙に続けと日本から延べ6頭が3つのレースに挑んだXX02年の香港国際競走。

 

俺こと、セキトバクソウオーが史上初の連覇を達成したというハイライトにばかり話題を引っ張られてしまったが、香港カップではエイシンプレストンが5着、香港マイルではアドマイヤコジーンとトウカイポイントがそれぞれ4着、3着とまずまずの好成績だった。

 

これなら去年より物足りないと言われこそすれども責められるような結果でもないだろう。なにより一頭として欠けることなく香港での戦いを終えた・・・これがなにより重要!結果を残せとかいう外野は黙っとれ!

 

そして、競走馬としての最後の使命を終えた俺は・・・仲間たちと共に、今回も馬口さんに引かれながら、およそ2から3週間ぶりに日本の地を踏んだ。

 

『さて、久しぶりの日本の空気は・・・ッ!?オエッ、ゲホッ!!』

 

「セキト!?」

 

『・・・排気ガスすげぇな・・・流石東京・・・』

 

久しぶりの日本だ。さぞ空気がおいしいことだろうと息を思いっきり吸ったら、全くそんなことはなかった。むしろ排気ガスの臭いが凄まじくて、ちょっとクラっとしたし。

 

うん、まあ・・・そりゃ、後から冷静になってみれば東京なんだからそりゃそうだって話なんだけどさ・・・。どんだけ浮かれてたのよ、俺・・・。

 

 

兎にも角にも、無事に帰国を果たした俺は他の連中と共に空港で数日間を過ごした後、千葉県の競馬学校に設置されている検疫厩舎にて3週間の愉快な軟禁生活を過ごした。

 

今回は道連れになった仲間が多いから、最低限退屈はしないってのがありがたかったなぁ。

 

 

さて、そんな大事な仲間たちも。俺が引退してしまう以上は、馬主さんか牧場が配合しようとしない限り・・・もう二度と会うことはないだろう。

 

特に、アドマイヤコジーン、エイシンプレストン、ショウナンカンプ。牡馬であるこの3頭とは、恐らくここで過ごすのが最後に共にする時間になる。

 

寂しくない、と言ったら嘘になるが、それは、俺たちが経済動物としてこの世に生を受けたその瞬間から定められた宿命の一つ。

 

 

ならば・・・忘れない。

 

話して話して、話しまくって。

 

泣いて笑って、時に怒って。

 

嫌っていうほどお互いの姿と声を、優秀な記憶力を持つ種族だというこの身体の脳に焼き付けて。

 

 

こんな楽しい時間、一生、忘れてやるもんか。

 

 

 

 

そして、楽しい時間というものほどあっという間に過ぎていくものはない。何度も登っては沈む太陽を見送り、年を越し、気がつけば帰国から一月ほどの時が流れていて。

 

アドマイヤコジーン、エイシンプレストン、トウカイポイントと、順々に馬運車が迎えにやってきて・・・気づけば競馬学校の厩舎に残っているのは俺と、ビリーヴちゃんとショウナンカンプの3頭だけだ。

 

そんな折、またしても一台の馬運車が敷地へ入ってくる音が聞こえる。

 

「どうも、お疲れ様です!」

 

「こんにちは、セキトを迎えに来ました!」

 

微かに聞こえたこの声は・・・馬口さんだ!とうとう俺の順番が回ってきたらしい。

 

『なんつーか、色々と世話になったな』

 

今更のような気もするけど、二頭に向かって礼を言う。

 

『いえいえ、こちらこそ。どうかお元気で過ごしてください!』

 

『世話になったのはこっちっス。バクソウオーさん、新しい場所でも元気に過ごしてくださいっス!!』

 

すると、ビリーヴちゃんは丁寧に、ショウナンカンプは元気いっぱいに。それぞれの良さがでた別れの言葉を確かに受け取って。

 

『・・・ん?』

 

それからふと、ショウナンカンプがそわそわと、まだなにか言いたそうにしていることに気がついた。

 

『どうした?ショウナンカンプ』

 

『あ、いや、その・・・』

 

こいつにしては珍しく、もじもじ、うろうろ。いまいち踏ん切りがつかないといった様子で。

 

うし、その背中、ここは先輩が思いっきり押してやろう!

 

『なんだよ、こういう時は思い切って言っちまう方がいいぜ?ほらほら』

 

『あっ、でもっ・・・うぅー・・・』

 

『言わないよりは、言って後悔するほうがいいって言うよ!!』

 

悩めるショウナンカンプを、俺に続くようにしてビリーヴちゃんも勇気づける。というか君、仲良くなった同年代にはタメ口なんだな。ずっと敬語ばかり聞いてきたからなんだか新鮮だよ。

 

そうこうしている間にも、馬運車から降りた人物・・・うん、この歩き方、間違いなく馬口さんだ。一歩一歩、しっかりと地面を踏みしめてこちらに近づいてくるのが分かる。

 

彼がここへ到着するという事は、それ即ち時間切れと同意義である訳でして。

 

『あれー、もうじき俺のお迎えが来ちゃうぞー?そうなったら最後、もう二度と会えないぞー?』

 

このままじゃ間に合わなくなる。そう思って、煽りを入れながらショウナンカンプをそそのかした瞬間。

 

『ああもう!!言うっス!!言うっスから!だからその変な喋り方をやめて欲しいっス!キレそうになりますから!!』

 

とうとう辛抱できなくなったらしい彼の馬は、半ばヤケクソのようにそう叫んでから・・・ハッとしたような表情を見せた。どうだ、最早後には退けまい。

 

ある意味ハメられたと気づいた彼は短い間『やりやがったな』とでも言いたげな表情でこちらを睨んでいたが・・・やがて、大きくため息を吐いて、観念したように喋りだす。

 

『・・・そんなに聞きたいのなら・・・言っちゃうっスよ。バクソウオーさん』と勿体ぶったその口から放たれたのは。

 

『アンタが引退しても、これからスプリント戦線を引っ張る馬全員が・・・いや、俺が!バクソウオーさんが霞むくらいに、もっともっと活躍して見せるっス!!・・・ぐああああ!言っちまった!!恥ずかしーーッ!!』

 

そんな長ったらしいセリフを一気に吐き出すように言い切ると、ショウナンカンプは顔を真っ赤にしながら馬房の奥へと引っ込んでしまった。

 

『ショウナンカンプ・・・!』

 

おいおい。まさかこいつからこんな頼もしい言葉が聞ける日がやって来るなんてな。ちょっと、感動してしまったじゃないか。

 

最後こそ締まらなかったが・・・啖呵を切っている間、奴の目はしっかりとこちらを見据えていて。実にいい顔だった。

 

・・・正直、かっこよかったぜ。

 

3月に初めて会ったときには、まだまだ古馬になったばかりのガキンチョって感じだったのに、一年足らずでこうも変わるのか、と馬の成長速度には感心せずにいられない。

 

だが、男同士が友情を感じる反面、同い年のビリーヴちゃんは遠慮というものが無いようで。

 

『おやおや?それを私の前で言っちゃいますかー?』

 

スプリンターズステークスを制した実績・・・暫定ながらも、短距離女王としての立場を活かし、ショウナンカンプを更に弄り倒している。

 

『いやいやいや!違うっスから!・・・ただ、次は負けないっスよ、ビリーヴ!!』

 

ショウナンカンプの方も、馬房に引っ込んだままそう負けじと言い返していて。

 

『・・・!ふふ、負けないよ!』

 

その言葉を聞いたビリーヴちゃんもまた嬉しそうに微笑んでこそいたが・・・その細められた瞳の奥には確かに闘争心の炎が燃えていた。

 

早くもライバル心を燃やすショウナンカンプと、それに負けず劣らず、笑顔の裏に見え隠れしているビリーヴちゃん・・・って。おーおー、見事にアオハルしてますなぁ。引退が決まっているオジンにとっては眩しいことこの上ないぜ。

 

 

・・・でも。この青臭いくらいの眩しさが。

 

その輝きを目の当たりにした人々の心を焼き焦がして。

 

きっと次の時代の「競馬」を作っていくんだろうなあ、と。

 

「セキト、迎えに来たよ!」

 

そう思ったのと、馬口さんが厩舎に到着したのは、ほぼ同じタイミングだった。

 

 

 

 

『いい奴らだったなぁ・・・』

 

馬運車に揺られ、馬にとっては程よい寒さの空気に微睡みながら、俺は共に遠征に臨んだ仲間たちを思い返す。

 

検疫のために厩舎に監禁されて、狭っ苦しいストールへ監禁されて、レースが終わったらまた監禁に耐えて・・・考えてみたら監禁されてばっかだな俺ら!?

 

『まあ、それも全部終わったこと・・・か』

 

しかし、苦しかったことも、辛かったことも。生きて、生きて、遥か彼方へ過ぎ去ってしまえば全部思い出に変わっていく。

 

・・・そういえば、去年は一緒だったけれど今年はいなかったアグネスデジタルは何をしているんだろう、と話題に上がったことがあった。

 

幸いなことにエイシンプレストンが半年くらい前に香港で一緒のレースに出ていて、帰国した後にヘトヘトになってしまっていたからしっかり休ませるって話になっていたと関係者の話を聞いていたそう。故障とかがなければ今年も走らせたいところだろう。

 

昨年は一緒だったと言えばステイゴールドやダイタクヤマトもそうだ。今年、いや、年を跨いだから去年か。種牡馬入りしていて・・・もうちょっと経てば子どもたちが生まれて父親になる。

 

・・・そういや種牡馬入りするのはアドマイヤコジーンもそうだったな。帰国した後「ウチもオトンになるんや〜」って何度も自慢げに話していたからすっかり刷り込まれちまった。

 

そして、新しい馬生のスタートを切るのは・・・俺も同じ。

 

この馬運車がどこに向かっているかは知らないが、たどり着いた場所こそ俺の終の棲家となるところなのだろう。

 

あんまりおかしい奴がいない場所だといいな、とか、気の合う奴がいればいいな、とか色々考えているうちに、エンジンが止まった。

 

『・・・随分早いな?』

 

うーん、競馬学校を出てから・・・体感では一時間も経っていないはず。休憩するにしたってもう少し距離を走るだろう。

 

「はい、着いたよー」

 

異様に早い停車に首を傾げる間もなく、後ろの扉が開かれ、馬口さんが引き綱を無口に取り付ける。

 

ありゃ、やっぱり到着なのか。

 

・・・ってことは。ここが、お世話になる場所なのかと気を引き締めた。

 

北海道じゃないのが残念だけど、十年、二十年・・・ひょっとしたら、三十年。俺を養ってくれる場所に足を踏み入れるのだ。失礼の無い様にしなければ。

 

「・・・よし、行くよ!」

 

『おう!』

 

準備が整い、動く前に呼びかけてくれた馬口さんの声に威勢よく応えてから、鋼鉄のタラップを一歩一歩、慎重に降りる。

 

そして、完全に外へと降り立った後・・・ブルブルと首を振るい、自分を落ち着かせ。

 

『さあ、ここは・・・!?』

 

ゆっくりと周りを見渡して・・・唖然とした。

 

『おい、おいおいおい・・・ここ・・・』

 

だって、屈腱炎のこともあるし、てっきり牧場に行くんだとばかり思っていたのに。

 

 

『中山じゃねーかぁぁぁァァ!!』

 

 

眼の前に広がっていた光景・・・それは、数々の大レースが開かれる舞台にして、俺が初めてG1を獲った思い出深い地・・・中山競馬場、その滞在厩舎だった。

 




意外ッ!それは中山ッ!!

そこで待っていた予想外の再会!

セキトの大事な後輩だというその馬は、一体何ハッタンカフェだと言うのだろうか・・・!?


次回は案外と早く仕上がるかもしれません(赤予告)
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