サラブレッドに生まれ変わったので、最速を目指します   作:Budge

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別名、セキトとスーのイチャイチャ回。+αで牧場主と馬主。

作者としてはテンション高めに書いた・・・つもりです。スーとの初めての子供ではしゃぐセキタンを書きたかったんや・・・。


それはそうと、バクシンオーの中の人が休業を発表されましたね。しっかりと心身の疲れを癒やして・・・また、いつになってもいいですから、元気な声を聞かせてもらいたいです。



エピローグ1 家族団欒

『・・・ふぅ』

 

引退から、幾度目かの春。

 

俺は悠々自適な生活を送りながら・・・無事に種牡馬としても活動していた。

 

生を授かった顔も知らない我が子達は、ある者は牧場を、またある者は今頃津々浦々、日本中の競馬場を駆け抜けているんだろうなと思いを馳せつつ、俺は青草を食むのをやめて空を見上げる。

 

・・・え?あれほど心配していた「うまぴょい」。出来たのかって?

 

うん、なんか・・・出来ちゃった。

 

・・・いや、試験種付けを含む最初の数回こそあれ?あれ?ってなったけどさ、もうそれを十回くらいやってると慣れるのな。

 

今じゃ相手として連れてこられた牝馬(女の子)が緊張してたり怖がってるようなら人の手も借りつつそれを落ち着かせて・・・匂いを嗅いでるとカーっとテンションが上がって、気がついたら終わってる感じ。本能ってすげぇ。

 

というか最初のお相手ってサラブレッドじゃないのな。「相手が来た」って言われたときはめっちゃ緊張したけど・・・いざ種付け場の扉をくぐったらそこにいたのが茶色と白の斑毛のおばちゃん馬だったときは唖然としたわ。

 

でも、後から考えれば安全性の問題上そうなるかと納得している面もあって。基本気性の荒いサラブレッドよりも、大人しい乗馬用の品種の方がいいって話なんだろう。

 

周りの話を盗み聞きしたら、おばちゃん馬は近所の乗馬クラブのクォーターホースだったそうで。丁度子供を取りたかったらしい。

 

呆然としながらも、いざ本番と相成った時には四苦八苦しながらも勿論ヤルことはヤッた・・・うん、そういうことの為に来てくれたんだしね。何もせずに帰った帰ったじゃ相手にも失礼だ。

 

因みに賢者タイム中にそのおばちゃんが非常に満足そうな顔をして「アンタ上手ねぇ、これならとってもモテるわよ〜!」なんて言ってくれたけど、残念ながら比較対象となる馬がここにはいないんだよなぁ。

 

というのも・・・俺はスタッド入りをしたのではなく、今時珍しい、完全に個人所有の種牡馬となった様なのだ。

 

しかもその種牡馬としての俺の繋養先というのが、まさかの。

 

『まさか、故郷に帰ってこれるなんてな』

 

馬としての俺の生まれ故郷・・・マキバファームだった。

 

これからは先輩後輩入り乱れて、男社会でムサ苦しい生活の日々、仲のいい馬ができるといいなぁと思いつつも緊張の面持ちで馬運車を降りた時の俺の不安を返してほしい。

 

・・・いや、一旦故郷を離れてしまえば、運が良くても競走馬としてあちこち忙しく移動が続き、運が悪ければ事故や病気、めでたく繁殖入りとなっても、特に種牡馬は大手に持っていかれることが多いこの業界。

 

そんな中で文字通りの帰郷を果たした俺は、どれほどの幸運に恵まれたんだ。本当にこの決定を下した朱美ちゃんには感謝してもしきれないな。

 

しかもなんだかこの放牧地、スペシャル仕様なんだよ。広いし、いつでも厩舎に戻れるし、勿論放牧地に出るのも24時間いつでもフリー。

 

最初はえ、これ、どこのノーザンテースト?って思ったっけ。

 

そう考えると俺の不安と引き換えにしたって多額のお釣りが返ってくるくらいだな。

 

そして、一番驚いたのはアクセスもそこまで良くないはずのこの牧場に、俺の仔が欲しいと花嫁が殺到したこと。

 

その数たるや、50を超えた辺りで心がしんどくなってきたから数えるのを止めてしまい、正確な数は分からないが・・・少なくとも80は超えてたように思う。

 

野生の馬から見たら目玉が飛び出してしまいそうな数字だろう。が、これでも馬飼やらの花形種牡馬に比べれば半数以下。相当大事にしてもらってるんだなと心遣いが伝わってきたものだ。

 

因みに種牡馬としての俺の受胎率はなかなかどうして良好だそうで。確か80%前後とか言ってたかな?

 

『あ、そういえば・・・そろそろの筈、なんだけどなぁ』

 

2年目、3年目・・・と年数が経過するにつれ、俺も種付けに慣れたと判断されたのか相手をする頭数も増えてきたけど・・・特に去年はその中に嬉しい相手がいたことを思い出す。

 

『俺と、スーの子供・・・早く生まれねぇかなあ』

 

 

俺の妹分、オスマンサス。

 

大型の馬体、しかも体質が弱いとあって故障しないよう慎重に使われた結果最終戦績は18戦4勝。だが、その内の1勝がなんとG2阪神大賞典という、彼女にとって大きな意味のある勝ち星だった。長距離で少頭数という条件に目をつけたセンセイと朱美ちゃん、そしてその期待に答えたスーの勝利だな。

 

これならば俺と種付けをする、と言ったところで外野が文句を付けられるのは距離適性が迷子ってことぐらいだろう。

 

しかしその勝利から間もなくして脚元がモヤモヤしだし・・・一昨年の末に競走から引退。母としての新たな責務を背負った彼女もまたこの牧場へと帰還を果たし。

 

そして3ヶ月の自称嫁入り修行・・・またの名を繁殖牝馬としての体作りと種付けを経て、スーは見事に俺との仔馬を腹に宿した。

 

幾らかふっくらとしたオスマンサスは、たてがみと尻尾以外が殆ど真っ白になった姿も相まって競走馬の時よりもかなり魅力的に映って・・・正直見違えたっけなぁ。

 

俺の子供たち自体は恐らく既にこの世界に100を超える数が存在しているし、勿論そいつらにも愛情が全く無いってわけじゃあない。

 

けれどやはり、幼い頃から大きくなるまでその成長を見守り、そして今、母となろうとしているオスマンサスとの仔では他の子には申し訳ないとは思いつつも、最初から思い入れのレベルが違う。

 

そして、ついにそれが「そろそろ生まれそうだ」というスタッフの話が聞こえてきたのが数日前。

 

しかし出産というものは基本的には生物学上、メス・・・つまり母親にしか務まらない崇高な任務であり、使命である。

 

何が起きるか分からない。最悪の場合は母子ともに命を落とすことだって十分にありえる。

 

例えその場に何の知識もない父親が居合わせたところで・・・あの手この手で母親を励ます以外にできることは無いだろう。

 

しかも野生じゃあ出産を迎えた牝馬って、一旦群れから離れるらしいし。

 

・・・早い話が、俺があいつの側にいたってお邪魔虫。寧ろ、感染症やらなんやらの関係で我が子を命の危険に晒してしまう可能性すらあるのがまた世知辛い。

 

『あー・・・クソ、クソ、まだか、まだなのか・・・!』

 

早く生まれないかなとあっちにうろうろ、こっちにうろうろ。正に分娩室の前で何もできない父親の気分をこれでもかと味わいながら、今日も今日とて「母子ともに健康」の一報を願っているのである。

 

生まれて来る仔は、勿論元気なのが一番。だが、早く我が子に会いたいと思うのも親心というものだろう。

 

『あ"ぁ"ーっ!!まだかぁーーっ!!』

 

「うわっ、セキト、今日も元気だな!?」

 

・・・たまに待ちきれなくなって放牧地を爆走し、スタッフを驚かせたりもして。

 

ただひたすら、待つしかないというのはここまでもどかしいものなのかと頭を悩ませ続けたのだった。

 

 

 

 

結局、スーが仔馬を産み落とし、外へと出てきたのはそれから2日ほどが経った時のこと。

 

牧場の人も気を使ってくれたのか、母子は俺のいるところからもしっかりと見ることができる位置のパドックに放牧されていて。

 

先に俺の姿を見つけたスーが開口一番『お兄様!私達の愛の結晶が生まれましたわ!!』なんて。勢いよく報告してくれたものだから思わず食べていた青草を吹き出してしまうところだった。

 

いや、身体構造上不可能だし、スーの言っていること自体は何も間違いじゃないんだけど。

 

待ちに待った俺とスーの子・・・正式な名前が与えられるまでは、「オスマンサスの07」と呼ばれるであろうその子馬と対面を果たすべく。スーの声がした方へと向き直ると。

 

『・・・ッ!!か、可愛・・・ッ!!』

 

なんということでしょう。生まれたばかりでまだまだ足取りもおぼつかない、俺によく似た赤い毛並みで、額には小さな星のある仔馬ちゃんがスーにぴったりと寄り添っていた。

 

今までこの世界に沢山の仔を送り出してきたとはいえ、しっかり面と向かって我が子に会うのはこれが初めてだったりする。

 

というのもマキバファームには俺の近親も多いからな、血の閉塞って問題を考えるとどうしても外部の牝馬への種付けが中心になる。

 

だが・・・しかし・・・。

 

『かーわいいなぁ〜・・・』

 

生まれたばかりの仔馬というものはかわいい。例え成長してどんなに人の手を煩わせる気性難になろうとも、今だけは皆揃ってかわいい仔馬ちゃんなのだ。

 

そしてそんなただでさえかわいい生き物が、俺の遺伝子を受け継いだ存在として目の前にいる。

 

その事実だけで、俺はもうこの仔馬ちゃんにデレデレだった。こんな可愛い子に会えるってんなら・・・よーし、パパは毎年だって頑張っちゃうぞ。ママの体調次第でもあるけど。

 

 

それにしてもスーの仔馬ちゃん・・・毛色は俺に似たのか。だがあのくりくりとした目や、やや細身な体型は仔馬の時のスーにそっくりだ。

 

・・・まさか、性格までそっくりってことはないよな?と、ふと浮かんだまだ見ぬ将来への危惧を振り払う。それは人間様の仕事と都合であって、まだこの子には関係のないこと。

 

せっかく母子ともに無事なんだ。今は、ただただ、その生誕を喜ぼう。

 

『可愛らしいでしょう?さて、お兄様?私とあなたの愛の結晶であるこの仔が、牡馬(男の子)か、牝馬(女の子)か・・・見事、当ててみてくださいまし?』

 

仔馬ちゃんのあまりの可愛さに見惚れていると、いたずらっぽく笑いながらスーがそう囁いてきた。なるほど、性別を当ててみろと。

 

『おー、面白そうだな?』

 

種付けの相手が来ない限りは他にやることもないからなぁ。たまにはこういうことも悪くないとスーの提案に乗ることにする。

 

どれどれ。こういう時に意外とヒントになるのが顔とか体つきだったりする。仔馬ちゃんをじっと見つめると・・・見知らぬ大人の馬に見られて恥ずかしいのか、それとも怖かったのか、仔馬ちゃんは『まま・・・』と小さく呟いてスーの陰へと隠れてしまった。ああもう、やることなす事全部かわいいな!

 

『あら・・・大丈夫ですわよ。あの(ひと)はあなたのお父様。全然怖くなんてないですし、寧ろ、あなたのことを『かわいい』と・・・大事に、見守ってくださっているのですわ』

 

そんな仔馬ちゃんを、優しく諭すスー。その表情は慈愛に満ちていて・・・ああ、あの力任せだった競走馬からは卒業して、今は立派な母親なんだなと感動を覚える。

 

そして、次の瞬間。

 

『・・・?ぱぱ・・・?』

 

『ッ・・・!!?』

 

仔馬ちゃんの口から小さく放たれた、世の中の全ての父親にとっての核爆弾が、俺の情緒とか、語彙力とか、あらゆるものを吹き飛ばした。

 

音にして、たった二文字。されどその二文字がどれほどの威力を持つのか、子供を持つ親なら簡単に理解してくれることだろう。

 

ああ、我が子が、俺のことを『パパ』と呼んでくれた。今日はなんて素敵な日なんだろう。

 

 

『その通りです、いい子ですわね』

 

『えへへ・・・ぱぱ!ぱぱ!!』

 

スーに肯定されたことが嬉しかったのか、仔馬ちゃんはにこりと笑って・・・無邪気な追撃を加えてくる。

 

『ぐふぅっ・・・!』

 

やめてください、あまりの尊さで死んでしまいます。

 

思わぬ大ダメージを喰らいつつ、仔馬ちゃんを改めて観察すると・・・やっぱり、かわいいという感想しか出てこない。

 

今までこうやって愛でたくても、母馬のガードが固いせいでなかなか長時間見させてもらうってことが叶わなかったんだよなぁ・・・オスマンサス様々だな。

 

『・・・?』

 

『(ぐはぁ・・・!)』

 

じっくり穴が空きそうなくらいに仔馬ちゃんをじっと見つめていると、今度は首を傾げちゃって。もう、その仕草もたまんねぇ!父親を萌え殺す気満々だろこの子。

 

・・・というか、ここまで可愛いんだ。これはもう女の子だろうと算段をつける。

 

というのも人間でも赤ちゃんの性別を尋ねる時に「女の子ですか?」と親に尋ね、例え間違えてしまったとしても「かわいいから間違えてしまった」とフォロー出来るという裏技があるんだよ・・・人間の時は一度も使うことがなかったけど。

 

『よし、決めた!』

 

意を決した俺は、スーに仔馬ちゃんの性別を尋ねる。

 

『・・・スー、この子は・・・女の子か?』

 

『女の子、それがお兄様の答えですのね?』

 

『ああ』

 

答えを確認してくるスー。なんだかミ○オネアのようだな・・・勿論、女の子でファイナルアンサーだ。

 

『では発表しますわ、この子の性別は・・・』

 

『・・・!』

 

別に緊張する必要は無いんだが、スーが妙な空気を作り出したせいで身体が強張る。ますますミリ○ネアじゃねーか。

 

『なに、なに?』

 

ほらー、変な空気を察して仔馬ちゃんもオロオロしてるし。スー、勿体ぶってないで早く発表しろよ。

 

そして、そんな「溜め」からの・・・

 

 

『・・・正解ですわ!!』

 

スー自らによる正解発表により、緊張が一気に解放された。

 

『おっしゃ!』

 

あの某百万の名を関したクイズ番組の正解のBGMが頭の中で高らかに流れ、思わず喜びの声を上げる俺。

 

優勝賞金はありません、ですが眩しい家族の笑顔が見られたので俺は大満足です。

 

『ふふ、よく分かりましたわね』

 

スーが優しく微笑みながら言う。いやー、当たってよかったわ・・・仮に外してても怒りはしなかっただろうけど。

 

 

『いやー、あんまりにもかわいいからさ、女の子かなって』

 

『この子の溢れ出すような可愛さが分かるなんて・・・流石はお兄様ですわ』

 

スーが娘に頬ずりしながらそう言うと、その娘は『まま、くすぐったいよー』と、口ではちょっと嫌がりながらも、満更ではないという顔をしていて・・・ああ、なんでこう仔馬って可愛いかな!

 

俺たちから見れば家族団らんのこの光景も、父馬と母馬が別々に暮らしている他の牧場では決してお目にかかれない貴重なもの。そういう点でも・・・俺、恵まれすぎじゃね?

 

仔馬ちゃんの一挙一動に癒やされながら、そんな風にあれこれ色々と考えていると。

 

 

『・・・おっ!』

 

「セキタン!久しぶりー!」

 

「セキト、お前の大事な人が来たでー!」

 

俺の耳が、約一ヶ月ぶりの来訪となった馬主様と、毎日顔を合わせている薪場のおっさんの声を捉えた・・・というか朱美ちゃん、俺に会いたいがあまりに住み慣れた東京から北海道へと移住しやがったし、未だに一ヶ月に一度は会いに来るんだよなぁ・・・まったくこの馬主様は。

 

いや、それだけ愛されてるってことなんだろうし、嬉しいっちゃ嬉しいんだけどさ。

 

因みに牧場を巡って何頭か気に入った俺の子供を買っているそうで。その中にはオープン入りした奴もいるとかなんとか。それがなんとも彼女らしい。

 

とは言え、スーの時以来流石に重賞勝利は遠のいているそう。頼むぞ、顔も知らない息子と娘たち。しっかりと馬主孝行してやってくれ。

 

『おう、朱美ちゃん!とうとう俺とスーの子供が生まれたんだぜ!』

 

いつだって大歓迎だぜと嘶きで返事を返した後・・・伸ばした手に顔を寄せてから『俺の娘を見てやってくれよ』と、指させない代わりに視線で促す。

 

素直な朱美ちゃんはまんまとそれに釣られる形でスー親子の方を見やってくれた。

 

「ん?なに、セキタン?あっちの方・・・って、スーちゃん!?え!?その子・・・もしかして!?」

 

そして、案の定驚きの表情とリアクションを見せてくれて。

 

『あら、朱美さんではありませんか。ほら、ご覧になって?私とお兄様の、自慢の娘ですわ』

 

『ひゃ!』

 

それに対して、スーは余裕がある・・・どころかどこか自慢げな様子で、愛娘の尻を押して『ご挨拶しなさい』と促していた。

 

というかスー、ちゃんと朱美ちゃんのことを認識してら。まあ、3年・・・デビュー前も含めれば4年間もトレセンにいた上に、口取りでも顔を合わせているはずだから当たり前っちゃ当たり前か。

 

 

『えっと・・・こん、にちは?』

 

母親に促され、おずおずと朱美ちゃんに近づいて挨拶する娘。

 

「えっと・・・触っても?」

 

思わず出そうになる手を引っ込ませ、そう尋ねる朱美ちゃん。

 

「天馬さんなら構わへんで」

 

「ありがとうございます!」

 

そんな彼女に、薪場のおっさんは笑顔で許可を出した。途端に娘をモフりだす朱美ちゃん。

 

『わ!なになに、くすぐったいよー!』

 

最初こそ何をされているか分からずジタバタと暴れた娘だったが、朱美ちゃんのマジカルハンドが持つテクニックに敵わなかったようで。

 

『はにゃあ・・・』

 

あっという間に溶けおった。地面にころんと寝転んだ娘をさらに愛でていく朱美ちゃんの口から、こちらも蕩けたような声が飛び出した。

 

「うわー、かわいい・・・!セキタンの子供はみーんな可愛い顔をしてるけど・・・スーちゃんの子は特にかわいいね!」

 

流石は我が娘だ。その可愛らしさで早くも馬主様をメロメロにするとは。これは将来有望だな!

 

・・・はい、俺も朱美ちゃんも揃ってただの親バカです、どうもすみません!

 

「こいつの両親は両方天馬さんの馬やったからなぁ・・・そりゃあ思い入れも段違いやろ。ついでに他の仔も見てかんか?」

 

こら、そこ。おっさんもおっさんでチャンスとばかりに営業しないでくれよ。

 

「はあー・・・懐かしいなあ」

 

・・・と。朱美ちゃんが何かを懐かしむような、遠い目をしながら、一歳馬たちが放牧されている場所を見やった。

 

「確かスーちゃんが脱走して・・・セキタンの放牧地にいたんだよね。あの時はここもこんなに広くなくて・・・」

 

「せやな、ホンマセキトのおかげやで」

 

おっさんの言葉で、ああ、そういえばそうだったと昔の牧場を思い出すと、確かにここまでは広くなかった。

 

もう・・・そうだ、7年。7年も前になるのか。なんだか引退してスローライフになったせいか・・・特に最近、時間感覚がアバウトになってきてるんだよな。

 

まだ仔馬だったスーが自分で放牧地を抜け出して、俺のところへと遊びに来て、そこに薪場のおっさんと朱美ちゃんが出くわしたんだっけ。

 

あの時のスーは身体が弱くてさ。生きるか死ぬかの大騒ぎを経て・・・それでもチャンスすら与えられないのはあまりに可哀想だと朱美ちゃんがスーを買い取らなかったら・・・。

 

「あんなに小さかったスーちゃんも、もうお母さんなんだね・・・」

 

『そうですわ、私、立派になりましたのよ!』

 

こうして胸を張るスーも、生まれたばかりの娘も・・・今、俺の目の前に広がっているこんな幸せな光景は見られなかったことだろう。

 

 

それにしても。

 

『広くなったよなぁ・・・』

 

『広くなりましたわねぇ』

 

スーの肯定を受けながら、俺の種付け料が幾らかなんて知らないけど、薪場のおっさんはだいぶ儲けたらしい。今の牧場は、俺が生まれた頃と比べると厩舎とか、放牧地とか・・・色々とキレイになった。

 

そりゃあ大手に比べりゃ見劣りはするかもしれないが、個人でやってる分としちゃ、かなりの規模になりつつあるんじゃないか?

 

それに。

 

『この時間・・・そろそろ・・・おっ、来た来た!』

 

そろそろ来るだろう、と警戒した俺の見立て通り。ちょっと離れた場所から地響きのような音が轟き始めた。

 

「うわっ、びっくりした!」

 

『大丈夫か朱美ちゃん。なーんか、最近またガンガン始まってるんだよな』

 

何も知らない朱美ちゃんを驚かせたのは、体を揺さぶるような・・・いや、実際ちょっと物理的に振動が伝わってくる程には衝撃を含んだ轟音。

 

少し離れた場所に入って、黙々と作業を進める重機がその出処だ。

 

なんか最近になって工事が始まったんだよな。知識はないからよく分からないけれど、放牧地から別の何かを作ろうとしているような・・・?

 

「あっ、工事の音かぁ・・・また牧場を広げるんですか?」

 

そんな俺の疑問を代弁するように朱美ちゃんがおっさんに尋ねた。ナイスプレーだ、朱美ちゃん!

 

「いや、放牧地はもう十分なんや。でも土地はあるもんやから・・・ちょいと施設でも造ったろうかな、と」

 

そう答えるおっさん。おいおい。施設って、一体何を作る気なんだよ。

 

「施設・・・?」

 

そう思ったのは朱美ちゃんも同じだったらしい。首を傾げながらおっさんに尋ねると。

 

「あ・・・いや、な。ここまで儲けさせてもろたんや。ええ加減大手に頼りきりじゃ無く、自前の育成施設が欲しくなってもうて・・・」

 

そう返したおっさんの言葉に成程、そういうことだったのかと納得が行った。

 

馬の質が向上した昨今の時代では、血統や入厩後の調教よりも、生まれてから入厩するまでの間・・・つまり早期の調教の質が、競走馬としての高いパフォーマンスに繋がるという傾向が強い。

 

だからこそ、施設が充実している大手の牧場・・・この世界で言う馬飼やらウエストやらの馬ばかりが売れて活躍するっていう、所謂運動会って揶揄される状況にも繋がっちゃってるんだけどな。

 

そういう意味では薪場のおっさんの決断は大正解だ。完成の暁には、きっとこの牧場で生まれた馬たちが活躍する大きな助けとなってくれることだろう。

 

 

「完成したら・・・天馬さんの馬も使ってみぃひんか?」

 

そう考える俺を他所に、そんなことを言い出すおっさん。おいおい、育成の方も始める気か?

 

「いいんですか!?」

 

「せっかく作ったのに入れる馬がいないんじゃ勿体あらへんからな」

 

驚く朱美ちゃんに、そう言ってけらけらと笑う薪場のおっさん。それは確かにそう、宝の持ち腐れってやつだもんなぁ。

 

「っ、と!天馬さん、どうや、オスマンサスの仔は」

 

そこまで話したところで、朱美ちゃんの足下を見て眠りこける俺の娘を見たおっさんは思い出したように作りかけの施設のみならず彼女を売り込み始めた。

 

『相変わらず商魂たくましいなぁ・・・』

 

その姿は俺の初G1制覇となったスプリンターズステークスの時に見せた、「俺の全弟か全妹が生まれる」って関係者に売り込んでた時とまったく変わらなくて思わず苦笑いする。

 

まあ、だからこそこの先の時代もやっていけるだろうと安心できるんだけどな。

 

そのおっさんの口から放たれた言葉に、悩むような顔を見せる朱美ちゃん。

 

「んー・・・欲しい、のが本音ですけど・・・でもセキタンもスーちゃんも活躍した子だから、どうしても高くなっちゃいますよね・・・」

 

あー、それは確かにそうだ。

 

俺はG1馬、スーも重賞馬。そんな組み合わせなら世間一般では十分に良血と言われる範疇だからな・・・ん、あれ?でも。

 

『スーの持ち主って・・・』

 

「天馬さん、何言ってるんや?」

 

俺の頭に浮かんだ疑問への答えを出してくれたのは、呆気にとられたような声を出した薪場のおっさんだった。

 

「へ?」

 

それにつられる様にして気の抜けた声を上げた朱美ちゃんに、おっさんは一つ一つ説明していく。

 

「あのなぁ、天馬さん。スーを持ってるのはあんたやろ。それにセキトと種付けしろって指示をしたのもあんた。それ以前にあんたの馬が産んだ子なんやから、あんたの馬に決まっとるやろがい」

 

呆れたように説明するおっさんの話を聞いていく中で、呆然としていた表情が段々と納得したものへと変わっていって。

 

「そういえばそうだった・・・!」

 

終いにはそう声を漏らした朱美ちゃん。まったく。しっかりしてくれよ。ここ数年、馬の入手先が庭先とセリばっかで忘れてたのか?

 

繁殖牝馬の所有権は、大まかに分けて馬主が持つか、牧場が持つかの二つに一つ。

 

前者の場合は馬主が牝馬を預けている牧場に預託料を支払う代わりに、「○○を付けてほしい」とかの指示を出す権利がある状態で、生まれた仔馬も当然馬主のものだ。

 

後者の場合ならば牝馬を養うすべての資金を牧場が捻出しなければならないが・・・牧場側で種付けする馬を選べたり、デキのいい仔馬が生まれたからセリにかけよう、という様な判断が一存で決められるといったメリットもある。

 

まあ、時には腹貸しといって一年限りで他の馬主さんが繁殖牝馬の所有権を売ってもらったり、二人の馬主さんが一頭の繁殖牝馬の権利を同時に持っていて生まれた仔馬を交互に所有したり・・・なんてこともあるけどな。

 

・・・で。朱美ちゃんの場合は間違いなく前者の形でスーを所有している。つまり、何もしなくたって自動的に娘も朱美ちゃんの馬になる・・・という訳でして。

 

「・・・じゃあ、この、かわいい子は・・・もう、あたしのお馬さん、ってこと、ですか?」

 

「せやで、何度も・・・」

 

「・・・やったー!名前!名前考えないと!!」

 

「何度もそう言っとるやないか」、と続きかけたおっさんの言葉を遮るようにして、喜びを爆発させだす朱美ちゃん。

 

「て、天馬さん、またセキトやスーの時と同じように血統名から付ける気かいな」

 

その勢いにたじろぐおっさんを他所に、朱美ちゃんは勢いよく答えた。

 

「はい!だって、馬名は早いもの勝ちですから!」

 

・・・確かに、競走馬の馬名ってのは被りとかが深刻な問題だ。一定の条件を満たせば再び使えるようになるとは言え、馬主にとってオンリーワンの存在である競走馬と全く同じ名前の馬がいた、と言われたら大抵の馬主はいい顔をしないだろう・・・中には「ヒシマサル」っていう特殊な例外もいるけどな。

 

だからこうして、血統登録の時に名前をつけてしまえばそれは馬名のリザーブになるし、今とはルールが違うとは言え、さっき言った「ヒシマサル」の二代目も使った手法だったりもする。

 

「んー、と。この子は・・・あれ?」

 

すっかり眠りこけてしまった俺の娘の顔を優しく撫でながら名前を考えだした朱美ちゃん。慈しむような視線と手付きで娘を愛でていると・・・ふと、あることに気付いたようだった。

 

「なんか、この子。目の周りが白っぽい・・・?」

 

え、それってまさか。

 

「お、気づいたか。そうや」

 

朱美ちゃんの気づきを褒めるようにおっさんがにこりと笑うと。

 

「この仔馬も母親と同じ・・・芦毛馬や」と、確かにそう告げた。

 

な、なんだってー!?

 

馬の目じゃよく分からんかったが、娘は芦毛だったのか!てっきり俺と同じ毛色かと思っていたが・・・そこも母親似だったかぁ。

 

「へぇー!ここから真っ白になっちゃうなんて・・・スーちゃんの時も思ったけど、不思議だなぁ」

 

遺伝子の不思議に目をきらめかせる朱美ちゃん。

 

『あら、私と同じ色・・・でして?お兄様に似たと思ったのですが。朱美さんと同じことを言ってしまいますが・・・本当に不思議ですわね・・・』

 

彼女と同じようにスーも不思議でたまらないらしく、そんなことを言いながら何度も娘と自分の身体を見比べていた。

 

「ま、何にしても、無事に育ってくれへんとな。まずはそこからや」

 

そう話をまとめたおっさんの言葉に、皆が頷いた。

 

生まれてから1日。10日、一ヶ月・・・そして、半年。

 

何事もなく時を刻み、大きくなれば・・・競走馬としての最初の試練が待っている。

 

『半年後・・・スーも、分かってるよな』

 

『ええ・・・この子も大きくなれば私と同じ試練を受けるのですわね』

 

いずれ訪れる、その時。

 

 

まずはそこまで。

 

 

そしてそこから。

 

 

この子は、どんな物語を描いてくれるのだろうか。

 

 

『大きくなるんだぞ』

 

俺は、未だ夢の中にいるかわいい娘を起こさないよう、そっと声を掛けたのだった。






次回、エピローグ第二弾。時間が一気に飛んで、年老いたセキトの日常と「家族」の紹介、そして・・・掲示版回にあったあの事件がいよいよ起こります。

セキトバクソウオー自身の物語も遂にラストへと突入します。最期まで見届けていただければ・・・ありがたいです。
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