初恋未満の淡い想いの物語

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アストルム内でのお話です
突貫工事なので粗さは勘弁


あなたに捧ぐ17本

 

明日後は我が家が取引先としてお世話になっているサレンディア救護院のギルドマスター、サレンさんの誕生日。

 

彼女は僕より1つ年上でしかないのだが、サレンディア救護院という孤児の扶養施設を経営している。

1度顔を合わせたくらいでそう大きな関わりがあるわけではないが、社会勉強という名目で同席することになった僕の父とサレンさんとの商談で聞いた言葉。

 

「確かにあたしは若造かもしれない、小娘かもしれない。でもあたしには、世話をするべき子供たちが……大切な家族がいるんです。」

「あたしが何歳でも関係ない、1人の商人として、子供たちに寄り添う者として。あたしは自分の責務を全うしたいんです」

 

彼女を軽視していた父に対する、孤児となった子らへの……自身の子供たちへの愛を感じるその言葉。

それ以来、ふとした時に彼女の顔が思い浮かんでしまう。

 

何をおいても明後日の誕生日、何を用意すればいいのだろうか。

現状僕とサレンさんの関係は仕事上のものですらない。顔を覚えてもらえているかすら怪しいだろう。

となれば残るものはあまり良くないだろうし、花みたいな消え物が良いだろう。

それなら道中に花屋があったはずだし、道すがら買っていくことにしようか。

 

 

「バラを18本、いただけますか?」

 

「……頑張ってくださいね」

 

そんなやり取りをしつつ、花屋を後にする。

後は言葉を添えて渡すだけ、難しいができない事じゃあない。「貴女を支えたいです」「貴女と共に歩ませてください」「貴女の生き方に心打たれました」

色々なセリフが浮かび、その度に消えてゆく。

彼女にもっとも相応しい言葉を見付けるのはなかなかに難しい。自らの学の無さが怨めしい。

 

しかし、気の利いた言葉も思い浮かばないままにサレンディア救護院が見えてくる。庭にいるメイドは……確かスズメさんと言ったかな、サレンさんと話していたのを見た覚えがある。まずは彼女に声をかけるのが一応礼儀というものだろう。

 

「あの……スズメさん、ですよね。サレンさんはお手空きでしょうか。本日が誕生日と聞いたもので、私僭越ながらプレゼントなど用意させていただきまして」

 

「……えぇ。いらっしゃいます」

 

「あー……お邪魔しない方が、ってことですかね」

 

「急ぎのものでなければ、差し出がましい申し出ではございますが私からサレンお嬢様にお渡し致しましょうか」

 

「いや、その必要はないよ。これは……これは、自分で渡さなきゃいけないものだ」

 

「だから………待たせてくれ」

 

 

「分かりました、では椅子と机の方ご用意させていただきますので少々お待ちください」

 

「私のワガママに付き合わせてしまって申し訳ないな、ありがとう」

 

そうして出された椅子に座って待つことになった。添える言葉を考えるための猶予が増えた、とも考えられるが……いや、考えるだけ考えるか。

 

 

数刻の後、サレンさんは現れた。

騎士のような風貌の少年を見送るらしい。

眩しい、笑顔だ。

 

まぁ分かっていたことだ。彼女のあの笑顔、一朝一夕で引き出せるようなものじゃあない。

ただ僕は遅かった、それだけのことだ。

送るはずだったこのバラは……

1本、無駄になってしまったか。

胸に刺しておけば違和感も無いかな。

 

「今日はありがとね、嬉しくて……楽しくて……幸せな時間だったわ」

 

そう言って騎士の少年を見送るサレンさんを見届け、遂に声をかける。

 

「どうも、サレンさん。いつもお世話になっております」

 

「こちらこそ、いつもお世話になっております。直接お話させていただくのは……商談の機会を設けていただいたとき以来ですね」

 

「えぇ、その節は父がご迷惑をおかけしました。……本日、サレンさんが誕生日との噂を耳にしまして。いつもお世話になっているので僭越ながらプレゼントを、なんて思った次第なのですが、お邪魔でしたね」

 

「アイツは……いえ、彼とはそういう関係では」

 

「あぁいえ、とやかく言うつもりはないですよ。プレゼントを渡しに来た取引相手でしかありませんから。……プレゼントにはバラを渡させていただこうと思いまして。あまり本数が多いのは迷惑かな、とも思ったのですが……お許しください」

 

「…………」

 

「僕からはバラを、17本送ることに致します」

 

「胸の、その1本は?」

 

「僕が、持ち帰るべき物です」

胸に秘して、誰にも伝えず。

 

「……そうですか、分かりました」

 

「バラを渡しに来ただけなので、少し早いですが失礼させていただきますね。……この先の取引も、よろしくお願いします」

 

 

自室へと帰り着いた僕は、机上に一輪のバラを据える。

すっかり日の落ちた窓の外から差し込む月の光を受けて輝く一輪のバラが冠する、“一目惚れ”の言葉。

 

持ち帰ったその花と共に、

僕の淡い想いの物語は幕を閉じた。



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