剣ノ杜学園戦記 作:新居浜一辛
〈ライト・インファントリー〉
〈
〈ライト・シューター〉
〈クレリック〉
挨拶代わり、というにはあまりに度を越えた、絵草の『クルセイダー』の爆風に煽られながら、三人の娘たちは活路と進路を開くべく、それぞれの鍵を愛機に入れて回す。
爆撃の中、それに抗する武具が光を放ちながら展開する。そして士羽が『
その隙に、鳴が速者を連発した。
「笑止! 莫迦の一つ覚えかっ!」
〈剣豪〉
絵草は喝破とともに新たに呼び出した剛刀を手に剣閃を飛ばす。
鳴は質より量で、弾幕を厚くしてそれを防ぎつつ、
「行けッ」
と鋭く促し自らの横を歩夢にすり抜けさせた。
それでも防ぎ切ることの出来なかった刃が、歩夢の前途を塞ぐ。
歩夢が騎馬の速さでそれを捌くも、通り過ぎたはずの斬撃は燕が宙を切り返すようにターンし、彼女の背を襲わんとした。
だが、さらにその背を追尾する光線が、叩き落とす。
士羽がその杖より発したものである。学外であるがために自在に砲塔を展開することは出来ないが、それでも単純な出力の迫合いにおいては今の絵草に勝る。
そうして彼女たちに送り出されながら、歩夢は絵草へと迫る。
当然、自身もまたエネルギーとしての刃、デバイス付属の短剣、二種の刃と銃を用いながら、飛来する斬撃を弾いて僅かながらに軌道を逸らす。その間隙をかいくぐり、彼女の足元に達した。
だが、狙いは彼女そのものではない。今のところ。
目的は――その後ろに控える、レンリの身柄。
絵草の隣を素通りし、カラスの球体を抱える。
「取った」
「取ったのではない。取らせたのだ」
が、その目論見もこの武辺の生徒会長には見通されていたらしい。
そして、それは温情がためではない。
腕の塞がった歩夢に、翻った刃が迫る。
しかし……それこそ、歩夢の予測の通りだった。歩夢たちの。
〈ロング・シューター〉
遠間からの一撃が、彼女たちの間を素通りする。
鳴が第二の強矢をつがえて放ち、次いで士羽が雨あられのように追い討ちをかける。
「鳴!」
迎撃に力を割いた間隙に、歩夢はレンリをミドルの高さから、シュートの威力で蹴っ飛ばした。
あー、と間の抜けたそれを、鳴も慣れた扱いで靴底で踏みつけて抑えつける。
だが、奪還された処刑対象に、絵草は執着することはなかった。
いかなる戦略によるものか。自身への有効打を見もせず的確にいなしつつ、歩夢へ明確な殺気をたぎらせて刃を振るう。
〈コサック〉
〈ドルイド〉
容赦なく間合いを伸ばして迫る二つ胴。
寸毫の間合いとタイミングでそれを躱しつつ、二つの駒鍵を装填するや、即座にその内の一つを間髪入れずねじ回す。
〈ドルイド・オルダーチャージ〉
茂り自らの下へと殺到する樹木の群を、絵草は冷ややかに見返した。
「たかが小枝程度で!」
一喝、一閃、両断。
実にシンプルな思考の下に寸断せんとする。否、させはしない。
〈コサック・ジェネラルフロストチャージ〉
という二の矢……否、二の弾丸をその樹木に埋め込み、凍結させた。
より硬く、より鋭く、より長く。
氷樹の剣山がさらに絵草を取り巻き、閉じ込める。
「下らんわ!」
一喝とともに、絵草はその剣圧で薙ぎ払わんとする。
〈エリートスナイパー・プレシジョンチャージ〉
〈クレリック・インペリアルチャージ〉
そのわずかな隙間を蛇行して、二筋の流星がその氷林の内に踊り込む。
跳弾を利用した鮮やかな乱舞が外野の歩夢からも見て取れる。対応に追われ、余裕を失った絵草の姿も。
「成程」
しかし、その虜囚の表情は、口調に焦慮はなく、あくまで冷厳そのものである。
「日陰に住まう小娘どもが、非力を束ねて、工夫を凝らし、急ごしらえの連携をよくやる」
という一応の称賛のもと、彼女は袂から鍵を抜き取った。
「だが! 手ぬるい!!」
〈
その駒を武器に換えた彼女は、発破がごとき声をあげた。
手にしたのは中世の競技で用いるような青く輝く馬上槍を無理やり剣の柄に当てはめたような得物である。
だがなお人の半身ほどはあるそれを、軽々と片手で持ち直した彼女は、剛刀との二刀流で構えるや、突き出して挟撃を測った鳴と士羽の射撃を弾き飛ばして霧散させる。怒号とともに、振りかざす。
それは武気の切れ味、という問題ではない。
嵐だ。腕を基点として生じる乱気流が、四方を囲む氷の拘束を抉り取っていく。
とどめとばかりの大振りで、彼女を脅かす攻めも、遮る要害も完全に取り去られた。
が、その間歩夢も無為に傍観していたわけではない。
この女修羅相手には足止めにさえならなかったわずかな時。それを利用して
〈リベリオン〉
〈ヘビー・インファントリー〉
の二つと換装する。
斬り散らされたエネルギーを余さず吸い上げ力に還元した歩夢は
〈ヘビー・インファントリー・ファランクスチャージ〉
と、倍化された力をもって槍衾で畳みかけた。
〈ソードマスター・
〈ランサー・|制圧槍撃〉
――が、二種の秘技を並列して用いることは絵草とて同様だ。
逆手からの居合い斬りによってたやすく弾き返され、反撃の槍撃が人口の土台を抉りながら避ける歩夢を追った。
その間に、槍剣を絵草はぞんざいに擲ち、懐かしくも見覚えがある『ユニット・キー』を鞘に納めた。
〈シーフ〉
多少癖のある、短い曲刀を手にした絵草は、その柄と一体化した鍵を回して釣り竿の要領で振り下ろした。
〈シーフ・
いや、それはまさしく釣りだったのだろう。
ノールックで投げ放たれた輝く放物線が狙ったのは、維ノ里士羽。そのホールダーに装填された、駒。自分たちを現状、この征地絵草と渡り合わせたり得ている制約。
不意を突かれた彼女の手から、『クレリック』が奪われ、グレード制限は解除された。
と同時に、クレイモアが彼女の手へと戻る。それ以外の武器を投げ捨て、究極の一口を、両の手に握る。上天に、砲が満ちる。
「健気な努力も最早品切れだろう。終幕の時だ。……」
何かを言いさしたようだったが、歩夢は口の動きを見ぬままに動いた。絵草に、肉薄した。
「おい、歩夢!」
らしくもない狼狽を見せる鳴の足下、レンリもまた動揺し切った声をあげた。
あれほどの破壊力を持つ覇王の砲撃斬撃、その大元への接近は、すなわち死途であると。
だがしかし、違う。
彼らも、そして直接的に挑んだ白景涼も、そこを見誤ったと思う。
〈ライト・インファントリー〉
〈コサック〉
『ユニット・キー』を再装填した歩夢は、その懐中へと飛び込んだ。横合いに左手に持ち替えた短剣で斬りつけるも、たやすく弾かれる。だがそれで良い。元より、強く握ってはいなかった。この程度の不意打ちで倒せるとも考えていない。
振り切られたその手に、自らの掌を重ね合わせる。指を絡ませる。
――その二つ重ねた手の甲を、歩夢はエネルギーの剣で貫いた。
「貴様……ッ!?」
絵草が痛みと驚きに歯を剥く。
だが、剣を振らない。砲撃は、降っては来ない。
その威があまねく戦場に及ぶ広範囲であるがために。
その力がすべてを破壊に至らしめるがために。
征地絵草は、自分と至近の相手に、『クルセイダー』は使えない。
加減を知らない火力を使えば己をも破滅させるがために。だから、ライカや舵渡に対しては徒手で制圧した。
これこそが、唯一無二、真に彼女を封じる一手だった。
当然、こっちだって痛い。
足だって、『コサック』の特性で互いに凍結させた。
両脚と片腕は自ら封じた。動くのは右手。銃を納め、手を開けて。
「言ったでしょ、『あんたを殴りに来た』って」
そう宣うと同時に、歩夢は絵草の横っ面に拳を叩きつけた。