剣ノ杜学園戦記 作:新居浜一辛
学園祭、二日目。
一日目をつつがなく終えた『多治比衣更捜索隊』は、ついに総本山たる西棟にその範囲を広げる。
この日ばかりは阿漕な『関所』も流石にそのスイッチが切られ、本棟からの通行が容易になっている。
準備の際もかなり活気と商魂に満ちた様子だったが、熱量がまるで異なる。世界からして、入れ違ってしまったようだ。
並ぶブースは本格的なもの。本物を一から作ったとさえ想われるような衣装や出し物の精緻さ、さながら大学教授がTV番組用に用意したかのような、好奇心を刺激するようなエンタメ性に富んだ研究発表。パントマイムじみた芸当を披露する客引き。二日目ともなれば生徒たちの体力や馴れから、どうしても初日とは熱意が削げてしまうことがあるようだが、それを感じさせない活気に満ちている。
ありとあらゆる技術や創意工夫を凝らしている。本棟とはレベルが違う。確実に勝ちを、取りに来ていた。
「すごい……」
思わず歩夢も嘆を発した。
世界だ。生徒たちが生み出すあらゆる世界観、自由な視点が、来客を歓待し、金を生み出すという目的がために相諮らずして集合し、組み合わさり、一つの銀河を創り出している。
そう、そこはまるで……
「駅からちょっと離れたところにある、おっきめのイオンみたいだ……」
「歩夢! ……もっといろんなところに行って、表現力を磨こうなっ」
このボキャブラリーの貧困さは、ひとえに劣悪な家庭環境がため、社会経験の乏しさがため。
それを想えば、涙せざるをえないレンリであった。
「やれやれ、お祭りだってのを鑑みても、小うるさい人たちで」
と横合いから悪態をついていたのは、通路口で待ち受けていたらしい多治比三竹だった。
「そういうお前も、ずいぶんな浮かれようで」
皮肉を言った的場鳴も、昨日と同様に客寄せを兼ねたチャイナ服なのだが、それと対する多治比の末妹も、紺色を基調とした、軍服とも警官ともつかない、ミニスカートの腕章と制服姿だ。
「失礼な。こうして身を引き締めてるのが見て分かりません?」
と軽く彼女は憤ってから、
「皆が骨休みの時にこそ粉骨砕身。ハメを外す時こそ我が身を引き締める。これが商売の鉄則ですから。厄介ごとは愚姉のことばかりとも限りませんので」
と悩ましげに嘆く。
歩夢と同学年ということもあって、その容姿こそ可憐なものだが、愚痴めいた嘆息をするその背には物々しい護衛らしき男子が同じような意匠の腕章と制服を着て整列している。
そしてその中心で、和装をしている一人の男子生徒が組み伏せられていた。
「たとえば、前日まで何の届出もしてないのに、いざ当日になって版権物のコスプレだとか展開し出す大馬鹿者とかね……連れて行け」
「サー、イエッサー」
「俺は市松模様の半纏を着て人間対吸血鬼のミュージカルカフェを開いていただけだ! 額の痣はたまたま昨日天ぷらを揚げていた時に火傷しただけなんだ! それの何が悪い! 何を嗤う!?」
一転して声を低め、上背は自分よりも遥かに勝る男たちに命じると、男子生徒は引き摺られていった。
「炭治郎のカッコしたヤツが炭治郎みたいな声で炭治郎みたいな口調と表情で炭治郎ならまず絶対に言わない弁解しながら引きずられていく……」
「個人レベルの露店でやるならしょっ引かれる覚悟でどうぞご勝手にってなるんですけど、さすがに学校の看板背負ってる行事ではねぇ」
「で、ああ言うのはさて置くとしても、本命は?」
「もし来てたら『こんな浮かれよう』じゃ済まないことないですか?」
おそらくは意図的に。
カンに障るような物言いで、三竹は鳴に返した。
ロックピックで氷を砕くような音で、鳴のヒールが鳴った。
「一応、火の粉のかからないよう、手は打ってありますけども」
そんなことはお構いなしのどこ吹く風。他人事のようにぼやく三竹の横で、メロディが突如として鳴り始めた。
おそらく何かしらの特撮番組の挿入歌らしい、ハイテンポな音調の呼び出し音。
レンリは、一瞬自分のものから発せられたものかと思ってその身をまさぐったが、それは右向こうの、士羽の端末の音だった。
「もしもし」
と平坦な声で通話に応じた彼女は、二、三言相手と交わした後、そのまま切ってしまった。
何事かと訝る皆の前で、
「ライカ・ステイレットからでした。今、彼のいる南洋分校に、多治比衣更らしきレギオンが現れたようだ、と」
氷の女は、なんてこともないような語調で、平然と宣ったのだった。