剣ノ杜学園戦記 作:新居浜一辛
(1)
――二年前。剣ノ杜学園中等部。生徒会室。
いやああああああ、という衣を裂くような悲鳴が狭い室内に轟く。
一敗地に沈んだカードたちが、そんな主の癇癪によって宙を舞う。
「ヒワイ! 卑猥よ、下劣よ! このワタシの『
そう、
ギャーハッハハ! と。
そんな糾弾に合わせてあえて品性下劣な笑声と表情で、会長補佐、楼灯一は煽る。
「最ッ高だね! ガッツリ固めてきたファンデッキの世界観を、オレの機械触手獣洗脳コンボぐっちゃぐちゃにするのはよォ~ッ」
「さっすが先輩、初心者相手にえげつないです! そのままご新規さんの心折って興味なくさせちゃう、コンテンツ戸口を狭める厄介勢って感じのムーブです!」
そうやっておちょくる相手は選んでいる。この程度でへこたれるような女なら、もう少し可愛げがあるだろうに。
「おはようございます」
そこに、業界的挨拶で入室してきたのは、会長の輪王寺九音だった。
「もうちょっと声は抑えてね。防音にも限度はあるから」
とやんわりと、同時に呆れ気味に言いつつ。
「でもちょうど良かった。今日はゲームつながりで、兼ねてから投書のあったジャンルを片づけていこうと思う」
投書、というのは生徒会に対する意見書等のことではなかった。
『現代大衆文化研究推進委員会』。通称ゲンタイケン。
世俗で流行している事物――種々様々なサブカルやオタク文化を体感しようという、貴種の道楽。
もちろん保護者会には教えられないから、生徒間でひそやかに行われている、秘事。生徒会室の防音機構は、そのために設けられたもの、そして楼灯一はその専門家として生徒会にそのポストを設けられて招聘されたといっても過言ではない。
「ズバリ、今流行りのオンラインゲームってやつをさ」
「いや、年から年中流行してるけどな? え、その『今』って二十一世紀全体を指し示すもの?」
「そう、そしてそのサンプルとして……『カルカソンンヌ』を用意しました!」
「おもっくそボードゲームじゃねぇか! それがどこのラインにオンしてんだよ!?」
「え? でもほら、こうして盤上に線路みたいなものが」
「それ言ったらモノポリーも人生ゲームもオンラインじゃッ」
「えー、でもこないだのマリパもネット対戦できますし」
「口を挟むな楓莉ッ、余計にややこしくなる! つかお前わざと言ってんだろ!」
そしてその方面の無知無教養あるいはズレっぶりには、灯一とて皮肉まじりの苦言を零したくなる。
だがそれが、彼らの日常。それが、一抹の夢。
どのみち、高校生活が修了すれば、九音たちにはその先はエリートになるための、一分の隙も無く固められたカリキュラムが待っている。人生のうち、自由に遊ばせてもらえるのは、本当にこの中高の六年間の、ごく限られた時間だけだ。
だがそれだけで、良かった。本人たちも、納得していた。
剣や魔法の世界など、夢と冒険など。
それこそカードゲームのフレーバーテキストや、参考本の間に秘匿するよう押し込められた、ライトノベルの中にしか存在しない。それで、十分だった。
この前後に、あの夜に。
天空を切り裂いて、巨大な剣が降ってくる瞬間までは。
(なんで、こうなっちまったんだ……)
それは、あの夜を知る人間が、あの夜を想うたびに、過らせる問いである。
そしてそこに、理不尽以外の答えはないのだった。